家庭菜園物語

コンビニ

文字の大きさ
上 下
97 / 180
3章

ビクド

しおりを挟む
 お父さんは勇者様と仲良くやっているだろうか。
 休暇の時間が限られているとのことで、薬の完成を見届けて先に出発されてしまった。
 本人的にはもう少し残ってもと言う話もあったが薬も完成し、効果も問題なく確認できたことから、ルイさんがこれ以上の迷惑をかけられないと、後押しをされていた。
 それと同じく、学校への到着が遅れてしまってはと、私も同じように急かされ旅路へと戻ることになった。
 
 ピーちゃんにお願いして、手紙のやり取りをしていたが病についても無事に沈静化されたことは確認できた。死者は何名か出てしまったようだが最小限に抑えられたと感謝の言葉が記されていた。
 実際には勇者様がいなければ薬の作り方もわからなかったし、改めて自分の力不足を痛感した。

 ルイさん達と別れたから2週間、遅れた時間を取り戻すために王坂の首都に寄ることはできなかったが、聖国に入って更に5日、目当ての首都が見えてきた。
 自分がどのような存在か理解はしているつもりなので、幻術で耳などは隠し、人族と変わらないような姿に変えている。
 自分がエルフということが分かれば問題が起きることは重々承知だったけど、それ以上に好奇心が勝ってしまった。 だって、聖国の書物は面白いのだ。
 さくらさんからいただいたお古の漫画と言われる書物、エリゼさんと繰り返し読んだりしたけど、とても面白い書物だった。

 学校に通うために食パンを齧って、ぶつかった相手が運命の相手や、呪いにかかって王子様のキスで目覚めるなど、少しドキドキしてしまうような内容もあった。
 お父さんからお小遣いももらっているので、これを有効活用して新しい書物をゲットするのだ。
 このために宿場町などに立ち寄らず節約だってしたんだもん。

「通ってよし」
「ありがとうございます」

 ショーンさんから事前にいただいていた通行手形のおかげてすんなりと街に入ることができた。
 煌びやかで、石造などの彫刻も多く、華やかな街並みだ。これが首都ビクド、ワクワクしてしまう。
 まずは宿を確保して本屋さんを回ろう。いえ、ショーンさんへの挨拶が先でしょうか? 

「ショーンきゅんの家になんの用なの?」
「いえ、以前にお世話になったことがあったので、挨拶にと思いまして」
「貴女、会員登録はしていて?」
「会員ですか?」
「一般の方なのね、でもショーンきゅんは立場上、簡単にはお会いできなから、名簿に名前を書いて審査と順番待ちが必要なの」
「どのくらい時間がかかるのでしょうか?」
「今で1ヶ月待ちね」

 ショーンきゅんとはどんな愛称なんだろうか。ともかく忙しそうなので改めて手紙だけ出しておこう。

「ソーズ殿にお会いしたい? まずは俺を倒してからにしてもらうか!」
「クックク、この武神会では筋肉こそ正義よ! 小娘、お前の煌めきを見せてみろ」

 あれがお父さんの言う変態さんの集まりなんだろうか、急に服を脱げだなんて!
 思わず殴り飛ばしてしまった。
 2人共に立場上簡単には会えないか。まぁ会えたらいいかなくらいだったし、手紙で立ち寄った感想とまた来ますねと記載しておこう。

 どの宿にしようか、滞在するのも2日だけだし安宿でその分は本に回せばコレクションが増やせるかな。
 お父さんだったら女の子の一人旅なんだから安全を重視しなさいとか言いそうだけど、お父さんの目もないし、油断さえしなければ負けることもそうそうない。

「その宿は女性が1人で泊まるには向かないですよ」

 乳母車を押した、胸の大きな女性。この人は見えているのか?
 私の目の前で立ち止まると片膝をついて、挨拶をしてくれた。

「モモ・サイジョウ様、貴女様に拝謁が恐縮です。私はシオール、ソーズの妻と言えばお分かりいただけますでしょうか?」
「ソーズさんの奥さんなんですか」

 大仰な挨拶はやめてもらうように両手を取って立ち上がってもらう。

「完璧な幻術だと思ったんですけど、上には上がいますね」
「完璧な幻術ですよ。私の目は少し特殊なんです、神の寵愛を受けた目ですから」

 祝福を受けた一族の人ってことなのかな。神様は気まぐれそうだし、気に入った人がいればそんな力を過去に与えているケースもあるのかな。

「そうなんですね、モモと呼んでください。シオールさんとお呼びしても?」
「どうぞ好きに呼んでください。では、私もモモ様と」

 敬称はやめてほしいと言われたが、断固拒否されてしまった。最終的には命令と言ったが泣きそうだったので撤回した。
 シオールさんが是非にということで、家に泊めてもらうことになった。ソーズさんやショーンさんもお世話になったのだから気にしないでと言われ、宿代も浮くのでお邪魔することにした。

 国の最高権力者の夫婦が住むには質素と言ってもいいのではないだろうか、お父さんと住んでいた家と規模的には違いがない。

「我々は神官は国民の寄付で食べさせてもらっている立場ですから、神5になったからと言って贅沢はできません」
「立派な心がけなんですね」
「まぁ全員がそうだって訳でもないのですがね。どうぞ、入ってください」

 家の中はお香の良い香りがする。乳母車から可愛らしい赤ちゃんを抱っこして、リビングのベビーベットに寝せ、お茶の用意をしてくるとリビングに行ってしまった。
 その間に赤ちゃんを見させてもらう。可愛い。獣人とは違った可愛さが人族の子供にもあるなぁ。
 ああ、指を掴んでくれた。ん、手を洗ってなかった! 魔法で浄化だけかけておこう。

「娘の相手をいただいてありがとうございます」
「そんな、私がかまってもらっていただけですよ。可愛いですね」
「ありがとございます」

 シオールさんが出してくれたお茶をいただきはするが、うん、微妙。
 お父さんのご飯などに慣れてしまうと、舌が肥えてしまってダメだ。


 
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

転生した社畜は異世界でも無休で最強へ至る(旧題|剣は光より速い-社畜異世界転生)

丁鹿イノ
ファンタジー
【ファンタジア文庫にて1巻発売中!】 深夜の職場で人生を終えた青桐 恒(25)は、気づいたらファンタジーな異世界に転生していた。 前世の社畜人生のお陰で圧倒的な精神力を持ち、生後から持ち前の社畜精神で頑張りすぎて魔力と気力を異常に成長させてしまう。 そのうち元Sクラス冒険者である両親も自重しなくなり、魔術と剣術もとんでもないことに…… 異世界に転生しても働くのをやめられない! 剣と魔術が存在するファンタジーな異世界で持ち前の社畜精神で努力を積み重ね成り上がっていく、成長物語。 ■カクヨムでも連載中です■ 本作品をお読みいただき、また多く感想をいただき、誠にありがとうございます。 中々お返しできておりませんが、お寄せいただいたコメントは全て拝見し、執筆の糧にしています。 いつもありがとうございます。 ◆ 書籍化に伴いタイトルが変更となりました。 剣は光より速い - 社畜異世界転生 ~社畜は異世界でも無休で最強へ至る~ ↓ 転生した社畜は異世界でも無休で最強へ至る

俺とシロ

マネキネコ
ファンタジー
【完結済】(全面改稿いたしました) 俺とシロの異世界物語 『大好きなご主人様、最後まで守ってあげたかった』 ゲンが飼っていた犬のシロ。生涯を終えてからはゲンの守護霊の一位(いちい)として彼をずっと傍で見守っていた。そんなある日、ゲンは交通事故に遭い亡くなってしまう。そうして、悔いを残したまま役目を終えてしまったシロ。その無垢(むく)で穢(けが)れのない魂を異世界の女神はそっと見つめていた。『聖獣フェンリル』として申し分のない魂。ぜひ、スカウトしようとシロの魂を自分の世界へ呼び寄せた。そして、女神からフェンリルへと転生するようにお願いされたシロであったが。それならば、転生に応じる条件として元の飼い主であったゲンも一緒に転生させて欲しいと女神に願い出たのだった。この世界でなら、また会える、また共に生きていける。そして、『今度こそは、ぜったい最後まで守り抜くんだ!』 シロは決意を固めるのであった。  シロは大好きなご主人様と一緒に、異世界でどんな活躍をしていくのか?

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

俺と幼女とエクスカリバー

鏡紫郎
ファンタジー
憧れた世界で人をやめ、彼女と出会い、そして俺は初めてあたりまえの恋におちた。 見知らぬ少女を助け死んだ俺こと明石徹(アカシトオル)は、中二病をこじらせ意気揚々と異世界転生を果たしたものの、目覚めるとなんと一本の「剣」になっていた。 最初の持ち主に使いものにならないという理由であっさりと捨てられ、途方に暮れる俺の目の前に現れたのは……なんと幼女!? しかもこの幼女俺を復讐のために使うとか言ってるし、でもでも意思疎通ができるのは彼女だけで……一体この先どうなっちゃうの!? 剣になった少年と無口な幼女の冒険譚、ここに開幕

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

ブロック作成スキルで、もふもふスローライフを目指すことにした

うみ
ファンタジー
 もふもふ犬と悪魔少女と共に異世界ジャングルでオートキャンプする!  俺こと日野良介は、異世界のジャングルに転移してしまった。道具も何も持たずに放り出された俺だったが、特殊能力ブロック作成でジャングルの中に安心して住める家を作る。  うっかり拾ってしまった現地人の悪魔っ娘、俺と同時に転移してきたと思われるポチ、喋るの大好き食いしん坊カラスと一緒に、少しずつ手探りで、異世界での生活を充実させていく。  サバイバル生活から楽々スローライフを目指す!   衣食住を充実させるのだ。

処理中です...