家庭菜園物語

コンビニ

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2章

美味いぞ!!

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 妖精王がせかせかと花と畑の間を往復している。
 なんでも花から栄養? みたいな物を分けてもらってそれを畑に振り撒き成長を促すとのことだ。
 本来は人間が花を育てて、ご飯をもらい、その代わりに畑の手伝いをするという、共存関係が成り立っていたというのは、若葉の話だ。

 これで収穫量が激増! と期待していたが若葉だけでは管理できるのが狭い範囲だけとのことで、今回は西瓜の一部を手伝ってもらっている。
 他の西瓜よりも成長が早く、一回り大きい。収穫できたのが6個だけであるが十分な効果ではないだろうか。ゲームで言えば中盤に出てくるお助けキャラ的な立ち位置になるのだろうか。

「にゃーん」
「今は冷やしてるのでもう少し待ってください。姉さんだって美味しい状態で食べたいでしょ」

 最後の西瓜の収穫を終える。もう9月になってしまうなー、ぎりぎり西瓜が収穫できてよかった。
 西瓜を小川に持って行き、冷やしておく。姉さんと一緒に小川横の大石に寝そべる。暖かい、そして横に寝そべる姉さんの背中に鼻を当てて大きく吸い込む。たまらん。

 もうすぐ麦の時期かー、数年で麦の備蓄もあるし、今年はやらなくてもいいかな。でもモモに備蓄は大事と怒られそうだ、何があるかわからない、危機感が足りないと言われてしまいそう。
 我が娘とは思えないほどしっかり育ってくれたよ。

 目の前に鷹みたいな大きな鳥が降り立つ。さくらさんが飼っている鳥さんだ。基本は火の鶏の方が早いので彼にお願いすることが多いが、さくらさん側からの連絡でたまにこの子が来ることがある。
 何度見てもカッコいい。獰猛な顔しているが、優しい一面もあり、体を触っても怒ることはない。鳥系のモフモフもいいよね。

「にゃーん」
「ああ、荷物ですね」

 触ってばかりいないで肝心の荷物を受け取れと怒られた。薄い本? 包みを開けてみると【飛び出せさくら学園!!】とか控えめに言ってセンスのないタイトルの本が入っていた。

「にゃーん」
「学校のパンフですね」

 校舎の写真や施設と先生の紹介が書かれている。
 なになに、王国出身で宮廷薬師として20年務めた。凄そうな人だな、その後に不当逮捕され、思想犯として5年服役して脱走、帝国で農奴となる。書かなくてもいいんじゃないこれ? ヘビーな人生を送ってる先生だな。
 他の面々も似たような重い人生を送ってる人ばかりだ。経歴の重さと満面の笑みの写真のギャップがえげつない。
 学長であるさくらさんのページは3ページにも渡り経歴が書かれている。歴史書みたいになってるんですがこれ。
 
 学校のパンフとは別に手紙が添えられていた。
 要約すると、5月に開校になるがモモは来るんだろうな? 入学金はいらんが酒やつまみは持たせるようにという内容と紹介状と記載された手紙が更に入っていた。

「学校かぁ。来年だもんな」
「にゃーん」
「喜ぶことなんでしょうね」

 冷えたであろう西瓜を片手に姉さんと自宅に戻る。縁側で西瓜を軽く拭いて台所に進むといい匂いがしてくる。

「お父さん、ちゃんと玄関から入って」
「ごめんなさい」

 モモに怒られながら、西瓜をテーブルに置く。キッチンにはエリゼちゃんが立っており、それを監視するフォーメーションでモモが仁王立ちしている。
 今日のお昼はエリゼちゃんがチャレンジしてくれているようだ。

 大鍋の中にはパスタが入っており、フライパンでニンニクや鷹の爪とベーコンを炒めている。
 ペペロンチーノのですか、いいね! 

「パスタが伸びてしまいますよ。手早くです」
「わかってる!」
「エリゼちゃん、ニンニク足りていないよ!」
「「うるさい!」」
「ごめんなさい」

 女子ばかりだと肩身が狭くなっていくよね。
 どれどれ大福と男同士の触れ合いでもするか。テーブルの下でゴロゴロしている大福をもふるが、モモの足元に行ってしまった。裏切り者!

 エリゼちゃん作のペペロンチーノは非常に美味しかった。付け合わせのスープも良かった、モモ先生が監修したとはいえ、上達したなー。
 成長期なのか女子とは思えない大量のパスタを平らげたモモとエリゼちゃんがお昼だし腹八分目とか言っていたのは、若者の恐ろしさを感じた。

「にゃーん」

 お前だって20代だろって? この世界基準で言えばおっさんの部類になってきますよ。

「にゃーん」
「はいはい、西瓜ですね」

 モモも関心があるのか、妖精王印の西瓜を切る様子を台所まで見に来ている。
 まずは半分にするためにざっくりと包丁を入れる。みずみずしいく、綺麗な赤色が姿を現す。
 
「いつもの西瓜よりも綺麗」
「そうだな、若葉効果か」

 モモと切り分けた西瓜を各自に配膳していく。
 姉さんの尻尾が機嫌良さそうにゆっくりと揺れる。大福は激しく揺れている。

「早く食べよう!」

 エリゼちゃんも我慢できなそうだ。

「にゃーん」

 姉さんのいただきますと共に西瓜にかぶり付く。

「--うっまぁ!」
 
 あまりの美味しさに声が出た。皆んな無心で西瓜にかぶりついている。
 美味しいでしょう、そうでしょうと自慢げな妖精王がテーブルの中央に降り立つ。

「若葉、本当に美味いよ!」
「そうでしょうとも!」

 妖精さんすげぇ! これ神様の買取価格どうなるのかな?
 元々が大きめの西瓜だったが、あっという間に1玉が消えてしまった。
 試しに1玉、買取に回して見たが3万円の買取価格だった。西瓜自体が比較的高めの買取価格だけど、恐ろしい高級野菜となってしまった。
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