家庭菜園物語

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豊作

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★ガンジュ視点
 王坂城にて、悠からもらった大豆の収穫結果について報告会が行われることになり、様々地域で試していた収穫量について報告書をまとめて登城することになった。
 城に行くと、熊の宰相サカイが出迎えてくれる。

「忙しい中、呼び立てすまんね」
「お互いに仕事だ、気にすることはない。それに今回のことは重要な案件だ」
「そうだね」

 謁見の間ではなく、円卓が設置された会議室に通されると、既に3人が着席している。
 1人は当然、竜王様である。残りの2人はこの国の4大派閥の長、竜王様の弟であるヒガシ カンタ、カピパラ族のヒラカタ クルーク、竜王様と我々4名が全員揃うことなど、俺が生きている間だけでなく、先代を遡っても記録はないはずだ。

「竜王様、こちらがトヨナカ殿から上がってきた収穫についての報告書と現物になります」
「トヨナカ、これは偽ってないだろうな?」
「はい、偽りなき報告となります」
「これは面白いことになったな。でも、味的には物足りないな」
「ハハッ! 竜王様、この豆はスープなどに入れると旨味も吸ってくれて味も良くなり、かさ増しになりますので腹も膨れる優勝な食材ですよ。過去の文献を見ればまだ加工の余地も残されています。そちらの内容も目下研究中です」

 特徴的な笑方をする、カピパラ族のクルークが率先して話始める。下の領地では試験的に試していた大豆の生育状況も良く、料理都と呼ばれ、過去には竜王様専属の料理人を輩出していた知識も由緒もある一族だ。

「なるほどのう。悠と言ったか? そいつがトヨナカに進めた品というだけはあるな。それにしてもこの収穫量はいかんなー」
「姉上」
「ここでは王と呼べ」

 竜王様は幼い見た目なため、俺よりもデカい彼は弟には見えないが、竜王様その威圧感はまさに姉上そっくりだ。

「失礼いたしました。竜王様、かの者にもっと様々な種を献上させてはいかがでしょうか?」
「お前の考えとしては、更に食材を揃えて、食料面で優位を作り、世界を牛耳るとでも言うのか?」

 ヒガシ殿の物言いは傲慢だ。竜族という個体としての強さがそうさせているのか、そもそもが種は悠の善意でもらった物だ。

「その通りです! 我々竜族こそがこの世界を--」
「--はいはい、お前の意見はわかった。全くもって血の気の多い弟だ。それぞれの意見を聞こうか」

 熊の宰相、サカイが発言を求めて話始める。

「現状で我々の土地だけに食材があることが分かれば、遠からず戦争となってしまう可能性はありますので防衛設備を充実させ、まずば種類を大幅に増やすよりも、安定供給目指し、食材の研究をするべきだと具申します」
「ハハッ! 僕も似たような意見ですが、その研究については是非とも私にさせてください!」

 お前はどう考えると、竜王様に視線を向けられる。

「私はこの結果を世界に知らしめるべきだと思います」
「ここに食材があるとわかれば、多くの国を敵に回すことになるぞ?」
「失礼しました。勿論、前提としては隠すべきことだと考えますが、信頼できる人間には我々は世界のために食材を研究し、この食糧難に向けて行動を起こしていることを話し、軽率な行動を起こさなように情報を共有するべきです。あとは彼の勇者の力を借りられればより、改善は早まると考えます」
「敵に我々の飯を渡すと言うのか!」
「ヒガシ殿、そもそもがこの種を含めて悠の善意でもらったものだ。独占するよりも共有し、この苦難を世界全体で回避することが優先だ。彼もきっとそれを望む」
「カンタ、お前は少し黙っとれ。トヨナカの意見はわかったが、信頼できるねー。まぁ王国ならソードがいるかが、聖国と、あとは帝国か」

 帝国の皇帝は温和な人だと伝え聞く、勇者の派遣もなんとかならないだろうか。聖国については癖のある人間が多い。
 どうしても我々王坂国は外交の面が弱い傾向がある、なんとかできないものかとサカイに視線を向ける。

「トヨナカ殿の方針で進めるのであれば竜王様、私が帝国に直接赴いて話をしてみましょう。帝国には何度か行ったこともありますので、勇者の件はなんとか交渉してみましょう」
「ハハッ、僕は料理や食材の研究ができるならなんでもいいよ!」

 違和感がある。竜王様が抑え役に回っている? いつもなら場を掻き乱して、遊ぶだけ遊んだ後にまとめらる方だ。今日はサカイも随分と負担を軽減されてるのではないだろうか。
 なんだ? 悪寒? いや、恐怖か。下手な事をしたら死んでしまうよな、後ろに何か、誰かがいる。俺の様子を見て悪戯が成功したような笑顔を竜王様が見せる。

 --後ろを振り返ると、壁に寄りかかってエルフが立っていた。曲者? いや、勝てない。竜王様よりも強いかもしれない。
 そんなエルフなんて存在するか? いや、存在する、物語でしか聞いたことがないが、俺は知っている。

「カレン、お前の部下どもはもうちょっと鍛え直した方がいいのではないか?」
「手厳しいですね。気がついた者がいただけで褒めてやって欲しいですよ」

 竜王様以外の全員の顔色が変わった。サカイが一番に立ち上がり、席をエルフの女性に薦める。鷹揚に頷くと、彼女は着席した。

「カンタ、先に行っておくがお前は絶対に動かず、喋るなよ」
「なんだ、弟思いだな」
「これでも肉親ですから、死んでほしくはないですよ」

 手がまだ震えている。たが彼女がそうなのだろうか。

「失礼ですが、貴女は、貴女がさくら様ですか?」
「ああ、そうだよ。私の食い扶持を減らしてくれたガンジュくん」

 あ、気絶しそう。





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