家庭菜園物語

コンビニ

文字の大きさ
上 下
15 / 180

食いっぱぐれるエルフ

しおりを挟む
 大福が狩ってきてくれた獲物をガンジュさん達が川付近で血抜きしてくれて加工小屋が出来るまでの間、冷やしてくれた獲物を完成後に改めて運んできてくれる。彼らは力があるからいいけど、俺だけではこの先、少し不安があるな。
 
 完成した肉の加工小屋は8畳くらいで、中央に獲物を吊したりする滑車や台が置いてあり、高さもそこそこある。
 床は石のようなコンクリートのような感じで、傾斜ができており排水溝のようなものもある、血を流せる仕組みになっているのだろうか。
 そして壁面には見たことのないような包丁? ナイフ? など解体するための道具が揃っている。これだけでも無駄ではなかった。
 そして解体の機能についてだが、なんと自動で解体してくれる機能はあったのだ。

「米が必要かぁ。1ヶ月に20キロ必要ってこの雇う妖精ってのはどんだけ食うんだよ」
「先ほどの妖精達にも驚いたが、妖精を雇うことも可能なのか。解体は覚えてしまえばそう難しくはないぞ?」

 結果的には自動で解体してくれる機能はあったが妖精を雇い入れる必要があり、お金ではなく米が必要な状況だった。恐らくはその他の施設もそうなんだろう。全員が米ってことはないと思いたい。
 ガンジュさん達の難しくないは少し不安ではあるが、この世界、この土地で生きていくと決めた以上は必須のスキルだと思うし、覚えておいて損は絶対にないだろう。

「そうですね。よろしくお願いします」
「そう緊張するな。最初は誰しも失敗をする」

 ガンジュさんから使用するナイフの違い、刃を入れるポイントなどを教わる。まずは座学でもないけど、基礎的なことを学んだ後で刃を入れていくという手順で進んでいくようだ。
 やって慣れろ! とかいきなり言われなくてよかった。ガンジュさんは見かけ怖い狼男だけど、とても大人で紳士な人であることがわかってきた。
 それとそれと気になることが1つ。モモもずっと俺の横でガンジュさんの解説を聞いているのだ。身長的にも獲物を乗せる台に届かないし、まだ幼いモモに刃を持たせるのも血を見せたりするのも少し抵抗がある。

「それで実際に刃を入れていこう」
「はい、よろしくお願いします。ガンジュ先生」
「お願いします」
「おっと、モモさんや。モモは今日ここまでだ。ここから先は大人の世界だよ」

 モモがとても悲しそうな顔をしている。そんな目で見ないでくれよ。

「わかりました」

 悲しそうな顔はするものの、モモは我儘は言わないいい子なのだ。頭を軽く撫でて、外に出すと獲物のまでナイフを構える。

「余計な口出しかもしれないが、本人にやる気があるのであれば見せてもよかったのではないか? 」
「まずは俺が覚えてゆっくりとモモには教えていこうと思います。モモは過去に辛い経験をしたみたいなので、動物でも血とかはちょっとと思ってしまって」
「そうか……俺にも子供が4人いる。大人が思っている以上に言葉が伝わりにくいものだよ。愛しているなら愛しているとしっかりと言葉にして伝えてやれ。何を考えてるのか聞いてやれ」
「そういうもんなんですか?」
「そういうもんだな。さて余計なことを言ってしまったな、それでは解体を進めていこう」
「はい!」

 初めての解体作業は正直吐きそうになった。普段は切られて綺麗に並べられて肉しか見たことなかったので、動物の中身がこんな風になっているなんて思ってもなかった。これは1回で覚えられる自信がないんだけど。
 結局は中盤くらいまで俺がやって後半はガンジュさんに代わってもらった。 解体するガンジュさんの手捌きは見事なものだ。

「解体するのすげー早いっすね。そう言えばガンジュさん達はなんでこの森に来たんですか?」
「慣れるものだ。我々が森に近づいた理由は大福様に聞いていないのか? 悠や杏殿は大福様を助けるために召喚されたと聞いているが」
「俺は大福と喋れないですよ。ガンジュさん達が嫌でなければ理由聞きたいなって、あとは急ぎの旅でないのなら正直、少し滞在してもらって解体を引き続き教えてもらえないかなっていう下心もあります」
「なるほど。大福様と中良さそうに話しているので、意志の疎通ができているのかと思ったぞ」
「昔から動物と触れる機会が多かったのでなんとなくのやり取りですよ」

 ガンジュさんは器用に捌きながら、俺の話に受け答えをしてくれる。そして次々と部位別に肉が積み上がっていく。職人技ってまさにこれだな。これで専門の肉屋じゃないんだから驚きだよ。

 「そうだな。我々の目的などについては話すことについて構わないとは思っているし、悠が望むのであれば少しの期間なら滞在も可能ではある」
「本当ですか! 食事の用意とかは頑張りますよ!」
「それは楽しみだな。悠はこの世界の住人と会うのは我々が初めてなのか? 我々のことを話すにもどのくらいの理解があるか知りたい」
「いえ、さくらさんっていう長生きなエルフとは会いました。でもあんまりこの世界やこの場所については教えてくれなかったんですよね。次来た時の飯の交渉材料が減るって」

 ガンジュさんがただでさえデカい口を大きく開いて固まってしまう。犬歯すげぇ。

「さくらと名乗るエルフだと……本物なのか」
「本物と偽物がいるんですか?」
「いや、恐れ多くて偽物など名乗ることはできないだろうな。そしてここが神の庭ということを考えれば【国母】がいらっしゃるのも頷ける」
「さくらさんってやっぱり有名なんですか?」
「数々の英雄譚に出てくる伝説上の人物だ。ただ実際に会ったと言われてもこの環境下なら納得できるな」

 ガンジュさんの解体が終わったのか、ナイフを壁にかけ直す。本来であれば研いだりが必要と言っていたが、神の用意した品物と環境なら問題はないのかもしれないと、少し様子見だと言っていた。

「神を信じない者も彼女には恐怖する。目に見えない者よりも目に見える現実の方がよほど怖いからな。歴史を紐解いても辛い思いをされた方だ、だからこそ人と積極的には関わり合いにはならないが敵には絶対にしたくないな」

 俺にはただのぐーたらエルフにしか見えなかったけど。国母っていうのふたつ名もそういえば、世界征服をしたチート勇者の嫁だったんだもんなぁ。考えてみれば元は女王様ってことだもんね。

「ということはだ。俺が悠にこの世界のことを教えることによってさくら様の飯の種が減り、敵対することになる可能性があるかもしれないということだ」
「そんな大袈裟な」

 ガンジュさんの目が本気と書いてマジと言っている。

「わかりました。ガンジュさんに聞いた話分くらいはさくらさんが来てもご飯は出します」
「ついでに俺の名を出さないと誓えるか?」

 心配性だなー。

「わかりました」
「本当だろな。それで悠はこの世界の四大国家の名前くらいは知っているのか?」
「なんか4つ大きな国があることしか知らないです」
「まさかそんな初歩の話まで飯代にしようとしていたのか」

 ガンジュさんが若干呆れている。これはさくらさんと次に会ったら文句を言ってやろう。むしろ飯を減らしてやろう。
 外に出ると地面が露出した場所で、解体していた骨を使ってざっくりと丸を書き始める。
 外で待っていたモモもてけてけと駆け寄ってくる。可愛い。

 ガンジュさんが丸に線を引いていく、これはこの世界の簡単な地図のようなものなんだろう。
 東というか世界の半分くらいの領土を持つ国、南と北そこそこデカい国、西の一部の小さい国、中央に小さい丸が1つ、4つではなく5つの国ができたのですが。

「まずは我々が住み、亜人を中心とした国家で竜王様が支配し、南に位置する王坂国」

 それって大阪ですか? 大阪は西でっせ。そしてドラゴンか。
 名前的には絶対に異世界人が建国に関わっているんだろうな。

「西の小国ではあるが宗教国家として結束力が強い、ビクド聖国」

 宗教国家なのにその名前ってこの世界の神である、ファミレス神と敵対してませんか?

「北の軍事国家、バラン帝国」

 あの聞いたことがあるかも……そうだ! 海鮮の勇者がいるとこだ!

「そして解析の勇者が召喚されている国だな」

 ああ、ニアピンだった。

「一番大きな領土を持っているのが国母さくら様達が建国し、一時は世界を支配していた大国のジャスティス王国」

 ジャ、ジャスティス! チートさんの名前センス厨二すぎませんか?

「そして最後の丸は小さく見えるが世界の中心にあり、大変危険な地域である樹海だが、その更に中心がここだ」
「そんな危険なんですか?」
「正直、大福様なしでは我々も絶対に外に出ることができない」
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

婚約破棄されたので森の奥でカフェを開いてスローライフ

あげは
ファンタジー
「私は、ユミエラとの婚約を破棄する!」 学院卒業記念パーティーで、婚約者である王太子アルフリードに突然婚約破棄された、ユミエラ・フォン・アマリリス公爵令嬢。 家族にも愛されていなかったユミエラは、王太子に婚約破棄されたことで利用価値がなくなったとされ家を勘当されてしまう。 しかし、ユミエラに特に気にした様子はなく、むしろ喜んでいた。 これまでの生活に嫌気が差していたユミエラは、元孤児で転生者の侍女ミシェルだけを連れ、その日のうちに家を出て人のいない森の奥に向かい、森の中でカフェを開くらしい。 「さあ、ミシェル! 念願のスローライフよ! 張り切っていきましょう!」 王都を出るとなぜか国を守護している神獣が待ち構えていた。 どうやら国を捨てユミエラについてくるらしい。 こうしてユミエラは、転生者と神獣という何とも不思議なお供を連れ、優雅なスローライフを楽しむのであった。 一方、ユミエラを追放し、神獣にも見捨てられた王国は、愚かな王太子のせいで混乱に陥るのだった――。 なろう・カクヨムにも投稿

転生したおばあちゃんはチートが欲しい ~この世界が乙女ゲームなのは誰も知らない~

ピエール
ファンタジー
おばあちゃん。 異世界転生しちゃいました。 そういえば、孫が「転生するとチートが貰えるんだよ!」と言ってたけど チート無いみたいだけど? おばあちゃんよく分かんないわぁ。 頭は老人 体は子供 乙女ゲームの世界に紛れ込んだ おばあちゃん。 当然、おばあちゃんはここが乙女ゲームの世界だなんて知りません。 訳が分からないながら、一生懸命歩んで行きます。 おばあちゃん奮闘記です。 果たして、おばあちゃんは断罪イベントを回避できるか? [第1章おばあちゃん編]は文章が拙い為読みづらいかもしれません。 第二章 学園編 始まりました。 いよいよゲームスタートです! [1章]はおばあちゃんの語りと生い立ちが多く、あまり話に動きがありません。 話が動き出す[2章]から読んでも意味が分かると思います。 おばあちゃんの転生後の生活に興味が出てきたら一章を読んでみて下さい。(伏線がありますので) 初投稿です 不慣れですが宜しくお願いします。 最初の頃、不慣れで長文が書けませんでした。 申し訳ございません。 少しづつ修正して纏めていこうと思います。

魔力値1の私が大賢者(仮)を目指すまで

ひーにゃん
ファンタジー
 誰もが魔力をもち魔法が使える世界で、アンナリーナはその力を持たず皆に厭われていた。  運命の【ギフト授与式】がやってきて、これでまともな暮らしが出来るかと思ったのだが……  与えられたギフトは【ギフト】というよくわからないもの。  だが、そのとき思い出した前世の記憶で【ギフト】の使い方を閃いて。  これは少し歪んだ考え方の持ち主、アンナリーナの一風変わった仲間たちとの日常のお話。  冒険を始めるに至って、第1章はアンナリーナのこれからを書くのに外せません。  よろしくお願いします。  この作品は小説家になろう様にも掲載しています。

転生先ではゆっくりと生きたい

ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。 事故で死んだ明彦が出会ったのは…… 転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた 小説家になろうでも連載中です。 なろうの方が話数が多いです。 https://ncode.syosetu.com/n8964gh/

処理中です...