家庭菜園物語

コンビニ

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働かない勇気

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「もう! あんたはいつになったら働き始めるの! お母さん、今日こそ許さないからね!」
「急にその口調ななんなのだ」

 この短期間で驚くべきことが2つある。エルフもとい、ニートは1週間も食っちゃ寝を続けたことと、ガーリックポテトの買取価格が下がらないことだ。
 初期こそ、モモも客人なんだろうと遠慮している部分があったが、飯を食ってすぐに寝ようとする姿見る顔が真顔になっていて恐怖を感じる。

「心を守るためには時に逃げる必要もあるんだ。 キリッ」
「おおおい! そんな煽りどこで覚えてきた! 異世界人の夫か!」
「にゃーん」

 流石の姉さんもガチギレ気味だ。働かずもの食うべからずだ。あれ、姉さんって働いて……なんでもないです。はい。
 さくらさんはここに来るまでは、世界各地を転々として魔法や錬金術の研鑽など、研究を独自にしていたらしく、自称とても優秀な人間だと言い張っている。
 働こうと思えば凄い大金を稼げると轟々していたが、さくらさんの持ち物やこの世界の貨幣の買取は出来ないので、ここでお金を稼ぐのであれば現状農作業くらいなものな訳だ。

 俺の現状の目標としては小屋のアップグレード資金の100万円を稼ぐことなので一人分の食事が増えるのは痛い出費なのである。
 家庭菜園については一日あれば耕すことができる範囲だし、水やりについてもモモだけで問題はない。
 
「わかった。少し問いや案を出そうではないか」
「知恵を出してくれる認識でいいんですか?」
「そうだね。これまでの悠の行動や、この庭のシステムについて違和感があったので確認したい」
「どうぞ」
「まずは井戸だ。井戸の水を使用したことはあるのかい?」

 ない。ほぼ初日ホースを導入できたので使う機会はなかった。滑車式で大変だし。

「光熱費については徴収がまだのようだけど、そこそこの広さに水を撒くのはお金がかかるんではないのかい? 節約してるんではないのかな。あとは作物の品質だかな、よく【普通】以上の品質にならないとぼやいていたが、井戸の水など試してみたのかな? あそこに井戸がある理由を考えてみるのも必要だ思うよ」
「にゃーん」
「ちょっと! 姉さんもそれな! じゃないですよ! もっと早く教えてくださいよ!」
「あとは小屋、家のアップグレードについてだね。納屋に斧がったけど、木を集めれば材料費分の割引などはないのかな? それも確認したのかい」

 確かにゲームによって家のアップグレードに材料が必要なパターンはあった。
 
「それに合わせてだけど、近くに小さい滝と川、岩場もあるけど探索してないよね」
「だって、魔物ってのもいるって言ってたじゃないですか」
「ああ、今言った場所は結界の範囲内だよ
「聞いてない!」
「聞かれてないしね」
「にゃーん」

 この辺は一定の範囲に結界があり安全とは聞いてたけど、家の周り畑くらいまでかと思っていた。
 ちなみに結界の中には大福の許可がないと入ることが出来ない場所らしいく、モモを拾ってきたのも結界外からと大福が言っていたらしい。

「それでは頑張ってきたまえ」
「助かりましたけど、手伝ってはくれないんですか」
「働かない勇気だよ」
「今日は夜ご飯抜きにしますね」

 なんか後ろから抗議が聞こえたけど今の俺には何も聞こえない。
 モモも来た当初よりふっくらしてきたが、まだ井戸から水を汲み上げるのは大変だろうし、汲み上げは俺で水やりはモモにやってもらう流れ作業にするか。その前にまずは木だな。

 自然な流れでテケテケと、モモと大福がついてくる。この組み合わせ可愛いしかない。
 小屋裏の納屋から斧を回収するとそのまま一番近い、家裏の森に足を踏み入れる。生きてきた人生で木なんて切ったことはないが、なんとなくネットやテレビで見た記憶だと、片一方に切り口を挿れてあとは反対側を切っていくんだったかな?
  改めてみるとこの森の木は全部ぶっとい。日本で見たことのある木の2倍以上の太はあるんではないだろうか。

「いくぞ。二人とも、離れててな」

 モモたちが後ろに下がったのを見て斧を振りかぶる。
 ガッと斧が木に刺さるが、今度は抜けない。

「ぐぬぬ!」
 
 なんとか、斧を取り外し何度か斧で切り口を広げて見た……が非常に疲れる。鍬で地面を掘り返す比ではない。
 滴り落ちる汗、痛くなってくる腕、昔の木こりの人って凄かったんだな。1時間くらいやって、なんとか3分の1ほど切り込みを入れることが出来た。今度は逆か。

「手こずっているようだな。それと煩くて寝てられんのだけど」
「にゃーん」

 ニートと姉さんが揃ってやってきた。姉さんにいたってはもっと家から離れたとこでやれと文句を言われてしまった。
当然、 姉さんにだけ謝っておく。

「貸してみろ」
「いいっすけど、この木はかなり硬いですよ」

 さくらさんが片手で軽々と斧を握ると、これまた片腕で振り抜く。早すぎてそのスイングを追うことはできなかったが、体がよろけるような突風でスイングしたことだけはわかった。

「この斧は名工の上をいくな。流石は神の所有物だ」
「えっと、木を切ってもらえますか?」
「何を言っているもう切れているぞ」

 漫画で見たことがある。あまりに早く、正確に切られていて、さくらさんが触って初めて木がズレるように倒れた。
 この世界が狂っているのか、さくらさんの戦闘力が狂っているのかわからないが凄いの一言に尽きる。

「これで目的は達成か?」

 さくらさんから斧を受け取って、倒れた木を眺める。もう一度、強く斧を握りしめる。

「切るコツって聞いてもいいですか?」
「なんだ、もっと切ってほしいなら私が切ってやるぞ」
「できることは自分達でやってみたいんです。自分が出来ることを人に手伝ってもらうのはまだわかるんですけど、自分が出来る可能性があることを人任せにするのは違うかなって。完全に無理そうなら手伝ってもらってもいいですか?」
「ふむ。コツと言っても私は魔力で強化して力任せに切っているだけだからな。自分でやるというのであれば試行錯誤して頑張ってみろ」
「にゃーん」

 最後に姉さんにもっと遠いとこでなと、付け加えられた。
 渋々、家とは反対の離れた森に移動する。さっきと同じようにモモと大福は後ろについて来てくれる。

「ご主人様」
「なんだ」
「どうして木を切ってもらわなかったんですか?」

 モモの言葉の中には疑問と不満の声色が2つ混じってるような気がした。あのニートを何故働かせないという意見だ。

「さっき言った通りだよ。ここで生きていく上で必ず誰かが助けてくれるとは限らないから、出来ることは自分でやって覚えたいんだ」

 モモの方へ振り向いて、頭がガシガシと撫でる。

「俺が出来るようになったら今度はモモにも覚えてもらうから、覚悟してご飯をいっぱい食べて大きくなれよ」
「はい!」

 大きくなって斧が振れるようなるかはわからないけど、モモはいつでも俺のことを見て色々なことを覚えようとしてくれている。モモはここにずっといるのかいずれ出ていくのはわからないけど、俺なりに彼女の可能性を広げてあげたいとは思っている。


★★★

「ひー、ひー」
「ご主人様、大丈夫ですか」

 疲労と恐怖で立てない。なんとか木を切り倒せたと思ったら、こっち側に木が倒れてきて間一髪のとこを大福パンチで木を吹き飛ばしてくれた。

「だ、大丈夫だよ」

 もう日が暮れかけている。どんだけ時間かかるんだよ伐採。
 唐突に頭の中で軽快な音楽が鳴り響き、目の前に買い物する時の画面のような半透明のウィンドが開く。
 画面には、【クラフト機能が解放されました】と表示されていた。
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