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ハードボイル道
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彼の名はケイン。本名は山田俊朗(ヤマダ トシロウ)、歳は今年で30、身長は170、体重は60と平均的な日本人である彼はハードボイルドを愛し、愛されていると思っている男である。
日が昇る前に起きて、新聞配達をし、帰宅すればジャージからスーツに着替えて、朝日をブラインドカーテン、ケインの心の中の相性は『カシャカシャ』を指で隙間を作ったり、閉じたりして、眩しそうに朝日を眺める。
カシャカシャでハードボイルドを堪能した後は茹で卵だけで簡単な朝食を済ます。当然、朝食の後は酒とタバコである。
しかしタバコは体に合わないため、煙だけが出るジョークグッツを愛用しており、酒も弱いためスキレットの中にはウィスキーではなく麦茶が入っている。
タバコを咥えながら、スキレットを一口含むと、引き出しからリボルー、当然モデルガンを取り出し、なれた手つきで分解すると布で手入れをし始める。
ある程度手入れが終われば、リボルバーをカラカラ回しながら、カチカチして音を楽しむ。
そして昼前には布団に入り、夕刊の配達に備えて眠りにつく。
「……?」
ケインが目を覚ますと、ベットの上ではない見渡す限り何もない草原に寝転んでいた。
ジャージで寝ていたはずが愛用のスーツに革靴、黒手袋にトレンチコートを着ており、使用したことがないアタッシュケースが横に置かれていた。
当然誰しもが夢だと思う内容である。ケインもそれに漏れず夢だと思い、寝転んでまた寝ようとするが目が冴えて眠れず、アタッシュケースを握りしめて歩き始める。
--どれだけ歩いたかはわからない。途中、体が軽いと感じて、走ったり、スキップをしたりしたが信じられないスピードで草原を駆け抜けることができた。
草原だけだった風景が森と、人が歩くであろう道、いわゆる街道を見つけることができた。
街道があるということは街などがその先にあるはずだ、リアルな夢だとは思うが好奇心が勝ったのか、街道を歩き進む。
自然が多い街道をスーツ姿のおっさんが、冬でもないのにトレンチコートを着て歩く姿というのは実にミスマッチではある。
「……暑くはないな」
フル装備のはずが、晴天の中歩いても暑くないことに気が付く。だがそれもまた夢というひと言で完結されてしまう。
森を抜けると遠目に森が見えるものの草原で開けた道が広がっている。吹き抜ける風に心地よさを感じ、小高い丘に移動すると街道を意味深に眺める。
これでカシャカシャでもあれば最高のシチュエーションであると考えていると、目の前にカシャカシャが現れた。
何もない環境でブラインドカーテンが現れる異様な光景ではある。
いつものように、カシャカシャの間に指を差し込み、少し隙間を開けて覗き込む。
不思議と、見える風景が肉眼とは違う。カシャカシャを使用前、使用後では何かが違う、何度かカシャカシャしているとその理由に気が付くことになる。
遠くから馬車が走ってくるが、カシャカシャなしだと遠く確認ができないが、カシャカシャがあると近くで見ているような臨場感があるのだ。そう、カシャカシャを通すことによって遠くの景色を見ることができたのだ。
被写体があることによってカシャカシャの機能に気が付くことができたのはいいが、どうも馬車の様子がおかしい。
馬車の後方には数十のヒャッハーと言い出しそうな、馬に乗った連中が後に続いている。
そのうちの一人が御者に持っていた剣を投げつけると、御者が転げ落ちてしまい。コントロールを失った馬車は転倒してしまう。
転倒した馬車を取り囲むと、中からドレス姿の少女とメイドを引きずり出している。
ケインは自分がハードボイルドであることを忘れ、カシャカシャの前で右往左往している。どうするべきなのか、これは夢だし、ハードボイルドに助けに入るべきか。
ケインが悩んでいる間にメイドの服が破られて、白い肌が一部露わになる。ハードボイルドを一方的に愛しているケインはそれを食い入るように見る。
いかん、いかんとカシャカシャから離れると、閉じろと念じてみる。カシャカシャはケインの前から消え、彼は歩き始める。
「やめて! アイシャ!」
「へっへっへ、お嬢様以外は好きにしていいって言われてるからな! はてさて、何周まで耐えられるかなぁ!」
「いやぁあああ!」
響き渡る乙女の悲鳴と少女の叫びだけが木霊する、彼女達の運命は凄惨なものになると思われたが、一人の男がゆっくりと歩いてくる。
季節が夏だというのに、季節外れなコートを羽織り、キラキラと日差しを反射する鞄のようなもの持つ、怪しい男だ。
違和感は覚えるものの少女は叫んだ。
「助けてください!」
「なんだてめ、このクソ暑い中、変な格好で。俺達は機嫌がいいから見ぐるみ全部置いて行けば今日は見逃してやるぞ」
男は無言で立ち止まり、微動だにしない。
不気味さを感じ、ヒャッハーな連中の一人が切り掛かると、目の前に見たことがない壁が現れる。剣がぶつかり、『カシャカシャ』と音を立てるだけで、壁を貫くことができない。
「こいつ魔術師か! 全員でかかれ」
数十の男達に囲まれているというのに、コートの音は余裕なのか焦る様子を見せず、ゆっくりとした動作でタバコを吸い始めると濃い霧が発生し、その霧が晴れる頃には取り囲んでいた男達が全員寝息を立てて、転がっていた。
「お嬢様!」
メイドがドレスを着た少女に駆け寄りお互いに抱き合う。
「よかった、アイシャ。本当によかった」
依然、その場から動こうとしない、コートの男に2人は恐る恐る近寄る。壁があって顔がよく見えないので、壁の横から覗き込み声をかける。
「危ないとこを助けていただきありがとうございました。よろしければお名前をお伺いしてもよろしいでしょうか」
メイドが少女の前に出て最初に礼をのべる。
「……ケイン」
「ケイン様、私からもお礼を言わせてくださいありがとうございました」
ケインは固まったまま動かない。2人の女性は不思議そうにしているが、メイドの女性の一部が破られ、脇部分から白い肌が露わになっているのだ。
胸などが見えているわけではないが、ハードボイルド、もとい刺激の少ない生活をしてきたケインにとっては写真や画像でもない、生の女性と話すだけでも刺激が強いのに、その一部が破け肌が見えているということは、鼻血が出そうになるくらいの大問題なのだ。
ケインは無言のままメイドに近づくと、トレンチコートを羽織らせ、頷く。
「ケイン様、ありがとうございます」
メイドの顔が赤く高揚する。これがいわゆる吊り橋効果というものかもしれない。
遠くで土煙が舞う。その土煙が徐々に近づいてくるが、先ほどのヒャッハーな連中ではなく、日差しに反射するような磨きあげられた鎧を纏った兵隊達が約30人ほどこちらに近寄ってくる。
直ぐにメイドと少女の2人とケインの前に割って入ると、引き離され、剣を突きつけられる。
「お嬢様、ご無事ですか! 不穏な動きを察知してお迎えに上がりました」
「やめなさい、その方は命の恩人ですよ!」
「こいつが?」
隊長らしき男は剣を下ろすことなく、馬からケインを見下ろす。
ケインは変わらず微動だにしない、実にハードボイルドな所作である。
(なんかよくわかんないけど、斬りかかられて、カシャカシャが守ってくれて、緊張のあまり夢が覚めないかとタバコ吸ってみたら、めちゃめちゃ煙出るし。女の子には20年ぶりくらいに話かけられるし、訳がわからないまま、また剣を突き立てられるしどうなってるの! もう目を覚ましたいの!)
ケインのハードボイル道はまだ始まったばかりだ。
日が昇る前に起きて、新聞配達をし、帰宅すればジャージからスーツに着替えて、朝日をブラインドカーテン、ケインの心の中の相性は『カシャカシャ』を指で隙間を作ったり、閉じたりして、眩しそうに朝日を眺める。
カシャカシャでハードボイルドを堪能した後は茹で卵だけで簡単な朝食を済ます。当然、朝食の後は酒とタバコである。
しかしタバコは体に合わないため、煙だけが出るジョークグッツを愛用しており、酒も弱いためスキレットの中にはウィスキーではなく麦茶が入っている。
タバコを咥えながら、スキレットを一口含むと、引き出しからリボルー、当然モデルガンを取り出し、なれた手つきで分解すると布で手入れをし始める。
ある程度手入れが終われば、リボルバーをカラカラ回しながら、カチカチして音を楽しむ。
そして昼前には布団に入り、夕刊の配達に備えて眠りにつく。
「……?」
ケインが目を覚ますと、ベットの上ではない見渡す限り何もない草原に寝転んでいた。
ジャージで寝ていたはずが愛用のスーツに革靴、黒手袋にトレンチコートを着ており、使用したことがないアタッシュケースが横に置かれていた。
当然誰しもが夢だと思う内容である。ケインもそれに漏れず夢だと思い、寝転んでまた寝ようとするが目が冴えて眠れず、アタッシュケースを握りしめて歩き始める。
--どれだけ歩いたかはわからない。途中、体が軽いと感じて、走ったり、スキップをしたりしたが信じられないスピードで草原を駆け抜けることができた。
草原だけだった風景が森と、人が歩くであろう道、いわゆる街道を見つけることができた。
街道があるということは街などがその先にあるはずだ、リアルな夢だとは思うが好奇心が勝ったのか、街道を歩き進む。
自然が多い街道をスーツ姿のおっさんが、冬でもないのにトレンチコートを着て歩く姿というのは実にミスマッチではある。
「……暑くはないな」
フル装備のはずが、晴天の中歩いても暑くないことに気が付く。だがそれもまた夢というひと言で完結されてしまう。
森を抜けると遠目に森が見えるものの草原で開けた道が広がっている。吹き抜ける風に心地よさを感じ、小高い丘に移動すると街道を意味深に眺める。
これでカシャカシャでもあれば最高のシチュエーションであると考えていると、目の前にカシャカシャが現れた。
何もない環境でブラインドカーテンが現れる異様な光景ではある。
いつものように、カシャカシャの間に指を差し込み、少し隙間を開けて覗き込む。
不思議と、見える風景が肉眼とは違う。カシャカシャを使用前、使用後では何かが違う、何度かカシャカシャしているとその理由に気が付くことになる。
遠くから馬車が走ってくるが、カシャカシャなしだと遠く確認ができないが、カシャカシャがあると近くで見ているような臨場感があるのだ。そう、カシャカシャを通すことによって遠くの景色を見ることができたのだ。
被写体があることによってカシャカシャの機能に気が付くことができたのはいいが、どうも馬車の様子がおかしい。
馬車の後方には数十のヒャッハーと言い出しそうな、馬に乗った連中が後に続いている。
そのうちの一人が御者に持っていた剣を投げつけると、御者が転げ落ちてしまい。コントロールを失った馬車は転倒してしまう。
転倒した馬車を取り囲むと、中からドレス姿の少女とメイドを引きずり出している。
ケインは自分がハードボイルドであることを忘れ、カシャカシャの前で右往左往している。どうするべきなのか、これは夢だし、ハードボイルドに助けに入るべきか。
ケインが悩んでいる間にメイドの服が破られて、白い肌が一部露わになる。ハードボイルドを一方的に愛しているケインはそれを食い入るように見る。
いかん、いかんとカシャカシャから離れると、閉じろと念じてみる。カシャカシャはケインの前から消え、彼は歩き始める。
「やめて! アイシャ!」
「へっへっへ、お嬢様以外は好きにしていいって言われてるからな! はてさて、何周まで耐えられるかなぁ!」
「いやぁあああ!」
響き渡る乙女の悲鳴と少女の叫びだけが木霊する、彼女達の運命は凄惨なものになると思われたが、一人の男がゆっくりと歩いてくる。
季節が夏だというのに、季節外れなコートを羽織り、キラキラと日差しを反射する鞄のようなもの持つ、怪しい男だ。
違和感は覚えるものの少女は叫んだ。
「助けてください!」
「なんだてめ、このクソ暑い中、変な格好で。俺達は機嫌がいいから見ぐるみ全部置いて行けば今日は見逃してやるぞ」
男は無言で立ち止まり、微動だにしない。
不気味さを感じ、ヒャッハーな連中の一人が切り掛かると、目の前に見たことがない壁が現れる。剣がぶつかり、『カシャカシャ』と音を立てるだけで、壁を貫くことができない。
「こいつ魔術師か! 全員でかかれ」
数十の男達に囲まれているというのに、コートの音は余裕なのか焦る様子を見せず、ゆっくりとした動作でタバコを吸い始めると濃い霧が発生し、その霧が晴れる頃には取り囲んでいた男達が全員寝息を立てて、転がっていた。
「お嬢様!」
メイドがドレスを着た少女に駆け寄りお互いに抱き合う。
「よかった、アイシャ。本当によかった」
依然、その場から動こうとしない、コートの男に2人は恐る恐る近寄る。壁があって顔がよく見えないので、壁の横から覗き込み声をかける。
「危ないとこを助けていただきありがとうございました。よろしければお名前をお伺いしてもよろしいでしょうか」
メイドが少女の前に出て最初に礼をのべる。
「……ケイン」
「ケイン様、私からもお礼を言わせてくださいありがとうございました」
ケインは固まったまま動かない。2人の女性は不思議そうにしているが、メイドの女性の一部が破られ、脇部分から白い肌が露わになっているのだ。
胸などが見えているわけではないが、ハードボイルド、もとい刺激の少ない生活をしてきたケインにとっては写真や画像でもない、生の女性と話すだけでも刺激が強いのに、その一部が破け肌が見えているということは、鼻血が出そうになるくらいの大問題なのだ。
ケインは無言のままメイドに近づくと、トレンチコートを羽織らせ、頷く。
「ケイン様、ありがとうございます」
メイドの顔が赤く高揚する。これがいわゆる吊り橋効果というものかもしれない。
遠くで土煙が舞う。その土煙が徐々に近づいてくるが、先ほどのヒャッハーな連中ではなく、日差しに反射するような磨きあげられた鎧を纏った兵隊達が約30人ほどこちらに近寄ってくる。
直ぐにメイドと少女の2人とケインの前に割って入ると、引き離され、剣を突きつけられる。
「お嬢様、ご無事ですか! 不穏な動きを察知してお迎えに上がりました」
「やめなさい、その方は命の恩人ですよ!」
「こいつが?」
隊長らしき男は剣を下ろすことなく、馬からケインを見下ろす。
ケインは変わらず微動だにしない、実にハードボイルドな所作である。
(なんかよくわかんないけど、斬りかかられて、カシャカシャが守ってくれて、緊張のあまり夢が覚めないかとタバコ吸ってみたら、めちゃめちゃ煙出るし。女の子には20年ぶりくらいに話かけられるし、訳がわからないまま、また剣を突き立てられるしどうなってるの! もう目を覚ましたいの!)
ケインのハードボイル道はまだ始まったばかりだ。
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