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第一章

マーヤさん

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 翌日。
俺は朝からギルドにいた。
ここで調査団を待つのだ。

ギルドに来るまでにどっかの誰かからくすねた新聞を読んでいると、ユブメが声を掛けてきた。

「おはようございますシラネさん。今朝はずいぶん早いですね。何かあるんですか?」
「あー。ちょっとね」

どうやら隠しダンジョンが発見されたことは知らないようだ。
新聞にもまだ載ってない。

「いや~ごめんね。せっかく君に紹介してもらったあのパーティー、俺の実力不足で馴染めなかった」

「全然構いませんよ。また紹介します。トウゲン君、謝ってましたよ。失礼な態度を取ってしまったって」

「別にそんなことないけどな。割と良く接してくれたよ。あ、ちょっとごめん。行ってくる」
「え?」

調査団が到着したようだ。
パッと見た感じ十人くらいいる。
それも全員実力者だ。
ギルド内がざわつき始める。

「なんだなんだ?」
「調査団がなんでこんなとこに?」

みんな野次馬根性を発揮して面白がるような目を向けている。

調査団長が身分証を出しながら渋い声で受付のツキヨさんに言った。
「調査団だ。ギルド長に用がある。呼んでくれ」

「はい。ご用件は事前にお伺いしております。ギルド長を呼んで参りますので、少々お待ちください」
ツキヨさんは奥に引っ込んでいった。

その隙に俺は髭面で強面の団長に声を掛けた。
「団長さん。ご無沙汰してまーす」

「ん? お、シラネじゃないか。久しぶりだな~。お前もすっかり大人になったじゃねぇか」
そんな平凡なセリフを吐きながら団長は殴り掛かってきた。

右のストレートを手首を掴んで止めると、団長は豪快に笑い始めた。

「はっはっは! 再会の右ストレートを止められちまった」
「再会の右ストレートってなんだよ」

団長は笑顔を引っ込めて訊いてきた。
「で、何の用だ。俺は今日仕事で来てんだ。お前に構ってる暇はない」

「例のあれ、発見したの俺なんだよ。まぁ正確には俺の同行者だけど」

「はーん。なるほど。だから珍しく怪我人も死傷者もいねぇのか。お前は金に目が眩むようなタイプじゃないしな」

「お、ちょうど金の話になったな。ちょっとあとで相談したいことがあるんだけど」
「金のことで、か? お前は大概金持ってるだろ」

「まぁ色々あってね。詳しくは仕事が終わった後に説明するよ。聞いてくれるかい?」

「んー。聞くくらいなら別にいいが。協力するかは内容次第だぞ?」
「それで充分」

そこにツキヨさんがマーヤさんを連れて戻ってきた。
マーヤさんは俺を見て頷いた。

「よし。ちゃんと来てるな。……私はギルド長のマーヤと申します」
「調査団長のクラーキだ。よろしく」

「よろしくお願いします。現場まではそこのシラネに案内させます」

「ああ分かった。じゃあさっそく案内してもらおうか」
団長は俺の背中をバシッと叩いた。


 ギルドを出て馬車に乗ると、マーヤさんも乗り込んできた。

「え、マーヤさんも来んの?」
「あのダンジョンはうちのギルドの管轄だからな」
「へぇー。ギルド長ってのも大変ですねぇ」

雑に相槌を打ったところで、同じ馬車に乗り合わせた調査団の団員が声を掛けてきた。

「よっ。シラネ」
「ん? おぉイチキじゃん。ごめん。素敵なマーヤさんしか見えてなくて全然気づかなかった」
マーヤさんは俺の横腹を肘で突いてきた。

イチキも知り合いだ。
俺よりいくつか年上で、よく笑う奴。

「ハハハ。相変わらずだなぁ。ってかさっき団長と話してたじゃん? あれなんの話? お前金に困ってんの?」
イチキは無邪気に訊いてきた。

マーヤさんが睨んでくる。
「一体どんな使い方をすればお前が金に困るんだ。言ってみろシラネ」

「いやいや違いますって。金欠ってわけじゃなくて。まぁ団長も交えてあとで説明するから」

「……今の言葉、忘れるなよ。絶対説明してもらうからな」
マーヤさんは恐ろしい形相で詰め寄ってきた。
「しますってば。どんだけ信用無いんだよ俺」


 ダンジョンに到着し、特に何事もなく隠しダンジョンの入り口まで辿り着いた。

「えーっと。ここですねー」
俺は壁に付けていた印を見つけ、そこを押した。
扉が開き、隠しダンジョンが姿を現す。

「おぉー。結構広そうだな。こりゃ数日かかるかも分からん」
団長が扉の奥に顔を突っ込んで言った。

「よし。今日はひとまず軽く様子見だ。そして調査計画を立ててから後日改めて本格的に調査する」

ということで、調査団の皆さんは隠しダンジョンに入っていった。
俺の役目はここで一応終わりだ。

「マーヤさんはどうするの?」
「私は場所を確認するために来ただけだからな。もう仕事は終わった」

「じゃあ調査が終わるまでダンジョンから出て待ってますか」
「そうだな」


 ダンジョンから出て、入り口付近の木に背を預けて座った。
マーヤさんも俺の隣に座った。

「どんくらい時間かかるんですかね~」
「今日は様子見だと言っていたからそんなにはかからないんじゃないか?」

「そっかー。……マーヤさん、ちゃんと結婚相手探してる?」
「……私は忙しいんだ」

「のんびりしてたら二年なんてあっという間に過ぎるよ。あと五年以内とか言い始めてもう三年経ったんだから」
「うるさいな。ほっとけ」
マーヤさんは今28とか29とかそのくらい。

五年くらい前に
「30までにはなんとか相手を見つける」
とか言い出したのだ。

ところで、俺とマーヤさんが出会ったのは俺が10歳の時だったと思う。
だから大体十年前くらい。

その当時、俺はよく孤児院を抜け出して色んなとこに行って色んな悪さをしていた。

ギルドに忍び込んでプリンを貪り食っているところを見つかったというのが出会った経緯だ。

それから俺はよくギルドにプリンを盗み食いに行って、その度にマーヤさんにしばかれた。

そしてある日、突然マーヤさんが孤児院まで来て俺を引き取るとか言い出した。

そういうわけでマーヤさんは俺のお母さんになったのだ。

マーヤさんがなんで俺の里親になったのかは知らない。
怖いから訊きたくない。
それにそんなことは別にどうでもいい。

大事なのはマーヤさんが幸せになることだ。
俺はマーヤさんに幸せになってほしい。

「頑張れよ。マーヤさん」
「ふん。お前こそ、昨日のパーティーには受け入れられなかったんだろう? 私のことより自分の心配をしたらどうだ」

「はいはい。そうですねー。頑張りまーす」
俺は明後日の方向を見ながら相槌を打った。
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