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第一章
ギルド長
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ギルドに戻ると、真っ直ぐ受付に行ってマーヤさんに取り次いでもらった。
「どうぞ。ギルド長はギルド長室にいらっしゃいます。勝手に入ってこいとのことです」
受付担当は淡々と告げた。
「ありがとーございまー」
俺は適当に返事してマーヤさんの元へ向かった。
部屋の前に来た俺は軽く三回ノックした。
「入れ」
中から返事があった。
「失礼しまーす」
俺はゆっくりと扉を開けた。
扉を静かに開け閉めしないとマーヤさんが怒るからだ。
部屋の中に入ると、そこにはムスッとした顔のマーヤさんがいた。
そこまで高級ではないものの座り心地がいい椅子に座って、頬杖をついてこちらを見ている。
ギルド長室にはマーヤさんが集めた大量の本がある。
それらはきちんと本棚に並べられ整頓されている。
綺麗好きなマーヤさんがせっせと掃除しているため、本も埃を被ることなく堂々としているように見えた。
もしマーヤさんがあの買い取り屋の惨状を目の当たりにしたら卒倒してしまうのではないだろうか。
「おい。何を突っ立ってるんだ」
マーヤさんの背後にある本棚を眺めながらボーっとそんなことを考えていると、マーヤさんが鋭く声を掛けてきた。
「あーすんません。ボーっとしてました」
俺はマーヤさんの目の前に移動した。
マーヤさんは俺の目をじっと見つめながら言った。
「用件は大体察しが付くが、一応お前の口から聞こう」
「はーい。もう知ってると思いますけど、俺あのパーティーをクビになっちゃったんですよ。なので新しいとこを紹介してほしいなって」
「だろうな。断るが」
「……ん? 断るの?」
「ああ。お断りだ」
「え、なんでですか?」
マーヤさんの表情を見るに冗談ではなさそうだ。
頼めば普通に聞いてくれると思っていた俺にとってこれは想定外の事態だった。
「やむを得ない事情であれば私も協力的だったかもしれんがな。今回の件はお前にも悪いところがある。というか主にお前のせいだろ。自業自得だ。反省して、自分で新しい就職先を探すんだな」
「ちょっと待ってくださいよ! 俺がパーティーをクビになっても仕方ないと言われるような失態を演じましたか?」
「ああ。というか昔からずっと間違いを犯し続けている」
「はぁ? 意味分かんないです。説明してくださいよ!」
マーヤさんは一度顎に手をやって少し黙り込むと、
「……お前は自分がどういう生き方をしてきたか、自分自身でちゃんと分かっているか?」
そう質問してきた。
俺は今こんな質問をしてくる理由が分からなかったが、とりあえず答えることにした。
「えーっと。俺は善人にも悪人にもなりたくないので、人から善人とも悪人とも言われないような生き方をしてきたつもりですけど。適当に善行と悪行を繰り返して生きてきました」
「まさにそれだ。お前のそういう生き方が今回の事態を招いた」
「いや、意味が分からないですって」
「お前はもう大人だろ。何でもかんでも答えを求めるな。自分で考えてみろ」
「考えろったって……」
俯く俺にマーヤさんはフッと頬を緩めて優しく声を掛けてきた。
「まぁお前は人に迷惑をかけることは多いが、それと同じくらい人のために行動できる奴だ。それはお前にとって別になんてことない当たり前のことなのかもしれないが、それによって助けられている人間がいることも事実だ。さっきな、私の元に連絡が来たんだ。ソーヤという男の子とその母親がお前に感謝していたぞ」
「え、そうなの?」
「ああ。シラネって名前にピンときた母親がここに連絡を寄こしてきたらしい。世間では色々言われているから正直酷い人なのかと思っていたが、お前の印象が180度変わった、と母親が言ってたぞ」
マーヤさんは嬉しそうに語った。
「そっすか。別にどうでもいいですけど」
「お前のそういうところは誇ってもいいと思うんだがな。手癖が悪いのが本当に残念だ」
「人なんて所詮自分のためにしか生きられないんだから、自分が幸せになるために行動するのが正解でしょ。俺は自分を満足させるために生きていたいだけです。幸せを望んで何が悪いんですか?」
「まぁ落ち着け。それはお前が今後長い時間をかけて考えていかなくてはならない問題だ。すぐに結論を出そうとせずにじっくり考えろ。答えを早く見つけたいのなら色んな人間と関わって、自分とは違う考え方を知ることだな。そのためにもさっさと新しいパーティーを見つけてこい」
「えぇ……。手配してくれないの? お母さ~ん」
「甘えた声を出すな。ほれ、善は急げだ。今からでも自分を売り込んでこい」
マーヤさんはシッシッと俺を追い払うように手を動かした。
「はぁー。まぁしょうがないか。分かりましたよ。マーヤさんの力は借りないことにしまーす」
「分かったなら行ってこい」
「あ、ちょっと待って」
「なんだ。まだなにかあるのか?」
マーヤさんは眉をひそめた。
「ほい。プレゼント。いつもありがとねマーヤさん」
俺はヒユネリの花をマーヤさんに差し出した。
マーヤさんは目をまん丸にして受け取った。
「え、あ、ありがとう……」
「照れすぎでしょ。顔真っ赤じゃん。そんなウブだと結婚なんかいつになってもできないよ。耐性つけないと」
「う、うるさい! ほっとけ!」
「だから俺が嫁に貰ってやろうかっていつも言ってんのに」
「息子と結婚なんかできるか!」
「ったって血が繋がってるわけでもないんだから別にいいじゃん。あと二年してお互い相手がいなかったらそん時は、ね」
「宣言しよう。私は二年以内に相手を見つける」
「へぇ。そりゃ楽しみだ。頑張ってくださいね~。ほんじゃ、失礼しました~」
「ああ。お前こそ頑張れよ」
俺はギルド長室を後にした。
「どうぞ。ギルド長はギルド長室にいらっしゃいます。勝手に入ってこいとのことです」
受付担当は淡々と告げた。
「ありがとーございまー」
俺は適当に返事してマーヤさんの元へ向かった。
部屋の前に来た俺は軽く三回ノックした。
「入れ」
中から返事があった。
「失礼しまーす」
俺はゆっくりと扉を開けた。
扉を静かに開け閉めしないとマーヤさんが怒るからだ。
部屋の中に入ると、そこにはムスッとした顔のマーヤさんがいた。
そこまで高級ではないものの座り心地がいい椅子に座って、頬杖をついてこちらを見ている。
ギルド長室にはマーヤさんが集めた大量の本がある。
それらはきちんと本棚に並べられ整頓されている。
綺麗好きなマーヤさんがせっせと掃除しているため、本も埃を被ることなく堂々としているように見えた。
もしマーヤさんがあの買い取り屋の惨状を目の当たりにしたら卒倒してしまうのではないだろうか。
「おい。何を突っ立ってるんだ」
マーヤさんの背後にある本棚を眺めながらボーっとそんなことを考えていると、マーヤさんが鋭く声を掛けてきた。
「あーすんません。ボーっとしてました」
俺はマーヤさんの目の前に移動した。
マーヤさんは俺の目をじっと見つめながら言った。
「用件は大体察しが付くが、一応お前の口から聞こう」
「はーい。もう知ってると思いますけど、俺あのパーティーをクビになっちゃったんですよ。なので新しいとこを紹介してほしいなって」
「だろうな。断るが」
「……ん? 断るの?」
「ああ。お断りだ」
「え、なんでですか?」
マーヤさんの表情を見るに冗談ではなさそうだ。
頼めば普通に聞いてくれると思っていた俺にとってこれは想定外の事態だった。
「やむを得ない事情であれば私も協力的だったかもしれんがな。今回の件はお前にも悪いところがある。というか主にお前のせいだろ。自業自得だ。反省して、自分で新しい就職先を探すんだな」
「ちょっと待ってくださいよ! 俺がパーティーをクビになっても仕方ないと言われるような失態を演じましたか?」
「ああ。というか昔からずっと間違いを犯し続けている」
「はぁ? 意味分かんないです。説明してくださいよ!」
マーヤさんは一度顎に手をやって少し黙り込むと、
「……お前は自分がどういう生き方をしてきたか、自分自身でちゃんと分かっているか?」
そう質問してきた。
俺は今こんな質問をしてくる理由が分からなかったが、とりあえず答えることにした。
「えーっと。俺は善人にも悪人にもなりたくないので、人から善人とも悪人とも言われないような生き方をしてきたつもりですけど。適当に善行と悪行を繰り返して生きてきました」
「まさにそれだ。お前のそういう生き方が今回の事態を招いた」
「いや、意味が分からないですって」
「お前はもう大人だろ。何でもかんでも答えを求めるな。自分で考えてみろ」
「考えろったって……」
俯く俺にマーヤさんはフッと頬を緩めて優しく声を掛けてきた。
「まぁお前は人に迷惑をかけることは多いが、それと同じくらい人のために行動できる奴だ。それはお前にとって別になんてことない当たり前のことなのかもしれないが、それによって助けられている人間がいることも事実だ。さっきな、私の元に連絡が来たんだ。ソーヤという男の子とその母親がお前に感謝していたぞ」
「え、そうなの?」
「ああ。シラネって名前にピンときた母親がここに連絡を寄こしてきたらしい。世間では色々言われているから正直酷い人なのかと思っていたが、お前の印象が180度変わった、と母親が言ってたぞ」
マーヤさんは嬉しそうに語った。
「そっすか。別にどうでもいいですけど」
「お前のそういうところは誇ってもいいと思うんだがな。手癖が悪いのが本当に残念だ」
「人なんて所詮自分のためにしか生きられないんだから、自分が幸せになるために行動するのが正解でしょ。俺は自分を満足させるために生きていたいだけです。幸せを望んで何が悪いんですか?」
「まぁ落ち着け。それはお前が今後長い時間をかけて考えていかなくてはならない問題だ。すぐに結論を出そうとせずにじっくり考えろ。答えを早く見つけたいのなら色んな人間と関わって、自分とは違う考え方を知ることだな。そのためにもさっさと新しいパーティーを見つけてこい」
「えぇ……。手配してくれないの? お母さ~ん」
「甘えた声を出すな。ほれ、善は急げだ。今からでも自分を売り込んでこい」
マーヤさんはシッシッと俺を追い払うように手を動かした。
「はぁー。まぁしょうがないか。分かりましたよ。マーヤさんの力は借りないことにしまーす」
「分かったなら行ってこい」
「あ、ちょっと待って」
「なんだ。まだなにかあるのか?」
マーヤさんは眉をひそめた。
「ほい。プレゼント。いつもありがとねマーヤさん」
俺はヒユネリの花をマーヤさんに差し出した。
マーヤさんは目をまん丸にして受け取った。
「え、あ、ありがとう……」
「照れすぎでしょ。顔真っ赤じゃん。そんなウブだと結婚なんかいつになってもできないよ。耐性つけないと」
「う、うるさい! ほっとけ!」
「だから俺が嫁に貰ってやろうかっていつも言ってんのに」
「息子と結婚なんかできるか!」
「ったって血が繋がってるわけでもないんだから別にいいじゃん。あと二年してお互い相手がいなかったらそん時は、ね」
「宣言しよう。私は二年以内に相手を見つける」
「へぇ。そりゃ楽しみだ。頑張ってくださいね~。ほんじゃ、失礼しました~」
「ああ。お前こそ頑張れよ」
俺はギルド長室を後にした。
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