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第三章 一月、最初の一週間
おやすみ
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それから僕たちはリビングに通された。
暖かい雰囲気のリビングだった。
照明が暖色系だからそう感じるのだろうか。
他には観葉植物があったり、コタツがあったりする。
そしてテレビがある。
すごい。
テレビがあるぞ。
うちにはテレビがないので、ちょっと驚いてしまった。
「コタツ入っててください。お茶淹れます」
桜はそう言ってキッチンの方に行った。
僕たちは言われた通りにコタツに入った。
ちょっとぬくい。
天姉が幸せそうな顔で顎をテーブルに乗せた。
桜はお茶を運んできてテーブルに並べると、自分もコタツに入った。
「いや~すみませんね。私のために来ていただいて。それと弟も無愛想で申し訳ないです」
「夜中に自分の家に知らん奴が入ってくるってなったら誰でも楽しい気分にはならんでゴザろうよ。それにそこまで無愛想ってほどでもなかったでゴザルよ」
「そう言ってもらえると助かりますけど」
「ってかさ。今まで一回も会わなかったのがすごくない? ちょうど出かけてたとか?」
天姉が桜に訊いた。
「えーっとですね。去年の夏休み中は確か部活の合宿に行ってました。それと、前回皆さんがうちに来た時、オープンスクールの前日に泊まった時ですね。あの時は……なんでしたっけ。多分なんかあって出掛けてたんでしょうけど。結構よく外出する子なので、特に珍しい理由があったわけでもなかったと思います」
「そうなんだ~。なるほどね~」
コタツに入ってまどろんでいるせいか、天姉の話し方がおっとりしている。
「ところで、今日お二人は何をして過ごされてたんですか?」
桜が天姉たちに訊いた。
「拙者はスマホ買ってきたでゴザル」
「私はのんびりしてたよ~。桜たちは二人で何してたの?」
「それは……ふふ。秘密です」
桜は僕の顔をちらりと見てニヤリとすると、無駄に意味ありげな口調で言った。
「えぇー。その感じは絶対なんかあったじゃーん。教えてよ~」
天姉が僕の肩を小突いてきた。
「なんにもなかったよ」
「なんで隠すのさー。教えてよー。恭介のケチ。怒りんぼ。すっとこどっこい」
「なんだとこの昼寝好き人間。天姉なんて昼姉って呼んでやる」
「わー恭介が怒った!」
昼姉は楽しそうに笑った。
それから十分くらい適当に雑談した後、桜が
「じゃあちょっと早いですけど、あんまり遅くなってもあれなのでそろそろお願いしたいです」
と言ったので、僕たちは桜の部屋に移動した。
「片付いてるね~」
天姉が感心したように言った。
「さっき片付けましたからね。普段はもっとハチャメチャになってます」
白い部屋だった。
さっき見た紅葉の部屋と大体同じような広さだが、全然違う部屋に見える。
紅葉の部屋もこの部屋と同じく白い壁に白い天井だったが、カーペットが灰色だった。
対して桜の部屋のカーペットは薄いピンク色だ。
その他にも要所要所にピンク色の物がある。
「ピンクの物が多いでゴザルな」
「私のイメージカラーは桜色ですからね」
ベッドの上にもピンク色の物体が。
イルカのぬいぐるみのようだ。
僕がそれを見ているのに気がついた桜が手に取って見せてくれた。
「昨日洗ったばっかりなのでいい匂いがしますよ」
そう言って鼻先に近づけてきた。
「桜の匂いがする」
「それは……イントネーション的に花の桜のことですよね? 私のことじゃないですよね?」
「もちろん。可愛いねそのぬいぐるみ」
「ありがとうのちゅー」
桜がぬいぐるみの口のところで僕の頬を軽く突いた。
「あ、私パジャマじゃないと寝れないタイプなので着替えますね。すみません、ちょっと出ててもらえます?」
「わかった」
部屋の外に出て少し待機していると、ドアが開いてパジャマを着た桜が顔を覗かせた。
「ちょっとお手洗いに行ってきます」
「いってら」
また少し待って、桜が戻ってきた。
「お待たせしました。それじゃ紅葉を呼びますか」
ということで、桜を眠らせることになった。
紅葉は一応見張り役としてここにいてもらう。
桜が紅葉の方を見て言った。
「恭介さんは何もしないでしょうし、やっぱり見張りなんていらないと思いますけど」
「僕が変な気を起こさないとも限らないからね」
「え、そんな可能性があるんですか?」
「無いとは言わない」
「言わないんかい」
「言わないんでゴザルか……」
天姉とけいが同時にツッコんだ。
桜はニヤニヤしながら頷いた。
「ふむふむ。そうですか。それじゃあ仕方ないです。紅葉、恭介さんが変なことしないようにしっかり見張っててね」
「了解」
紅葉は真顔で短く答えた。
桜がベッドに寝っ転がった。
僕は上から見下ろすようにして桜の顔をじっと見つめた。
桜も真っすぐ見つめ返してくる。
二秒ほどそうした後、僕は右手の人差し指で桜の眉間を軽く突いた。
途端に桜の目が虚ろになり、そしてゆっくりと瞼を閉じた。
「これでよし。終わったよ」
振り返って天姉を見ると、昔を偲ぶような目をしていた。
「なんか懐かしいな。昔、今みたいな感じでけいに寝かしつけてもらってた」
「そうだったでゴザルな。今じゃ一人で寝れるようになって……成長したでゴザルな」
「バカにしてる?」
「滅相もないでゴザル」
「……あの、ちょっといいですか?」
紅葉が僕の方を向いて訊いてきた。
「これっていつ起きるんですか? 恭介さんが起こさない限り起こさないとかだったら困るんですけど」
「あーそれについては大丈夫だよ。普通に目覚ましとかで起きる」
「そうですか」
「一応明日の朝、桜のスマホに電話してみるよ。着信音で起きると思うから」
「すみません。そこまでしてもらって」
「いいよ。それじゃ、そろそろお暇しようかな。夜分遅くに悪かったね」
「いえ、ありがとうございました。試験までの間、よろしくお願いします」
紅葉はペコリと頭を下げた。
「うん。お邪魔しました」
「お邪魔したでゴザルー」
「失礼しましたー」
「はい。気をつけてお帰りください」
紅葉は玄関先でもう一度頭を下げた。
僕たちはまたペタペタと音を立てながら歩いて家に帰った。
暖かい雰囲気のリビングだった。
照明が暖色系だからそう感じるのだろうか。
他には観葉植物があったり、コタツがあったりする。
そしてテレビがある。
すごい。
テレビがあるぞ。
うちにはテレビがないので、ちょっと驚いてしまった。
「コタツ入っててください。お茶淹れます」
桜はそう言ってキッチンの方に行った。
僕たちは言われた通りにコタツに入った。
ちょっとぬくい。
天姉が幸せそうな顔で顎をテーブルに乗せた。
桜はお茶を運んできてテーブルに並べると、自分もコタツに入った。
「いや~すみませんね。私のために来ていただいて。それと弟も無愛想で申し訳ないです」
「夜中に自分の家に知らん奴が入ってくるってなったら誰でも楽しい気分にはならんでゴザろうよ。それにそこまで無愛想ってほどでもなかったでゴザルよ」
「そう言ってもらえると助かりますけど」
「ってかさ。今まで一回も会わなかったのがすごくない? ちょうど出かけてたとか?」
天姉が桜に訊いた。
「えーっとですね。去年の夏休み中は確か部活の合宿に行ってました。それと、前回皆さんがうちに来た時、オープンスクールの前日に泊まった時ですね。あの時は……なんでしたっけ。多分なんかあって出掛けてたんでしょうけど。結構よく外出する子なので、特に珍しい理由があったわけでもなかったと思います」
「そうなんだ~。なるほどね~」
コタツに入ってまどろんでいるせいか、天姉の話し方がおっとりしている。
「ところで、今日お二人は何をして過ごされてたんですか?」
桜が天姉たちに訊いた。
「拙者はスマホ買ってきたでゴザル」
「私はのんびりしてたよ~。桜たちは二人で何してたの?」
「それは……ふふ。秘密です」
桜は僕の顔をちらりと見てニヤリとすると、無駄に意味ありげな口調で言った。
「えぇー。その感じは絶対なんかあったじゃーん。教えてよ~」
天姉が僕の肩を小突いてきた。
「なんにもなかったよ」
「なんで隠すのさー。教えてよー。恭介のケチ。怒りんぼ。すっとこどっこい」
「なんだとこの昼寝好き人間。天姉なんて昼姉って呼んでやる」
「わー恭介が怒った!」
昼姉は楽しそうに笑った。
それから十分くらい適当に雑談した後、桜が
「じゃあちょっと早いですけど、あんまり遅くなってもあれなのでそろそろお願いしたいです」
と言ったので、僕たちは桜の部屋に移動した。
「片付いてるね~」
天姉が感心したように言った。
「さっき片付けましたからね。普段はもっとハチャメチャになってます」
白い部屋だった。
さっき見た紅葉の部屋と大体同じような広さだが、全然違う部屋に見える。
紅葉の部屋もこの部屋と同じく白い壁に白い天井だったが、カーペットが灰色だった。
対して桜の部屋のカーペットは薄いピンク色だ。
その他にも要所要所にピンク色の物がある。
「ピンクの物が多いでゴザルな」
「私のイメージカラーは桜色ですからね」
ベッドの上にもピンク色の物体が。
イルカのぬいぐるみのようだ。
僕がそれを見ているのに気がついた桜が手に取って見せてくれた。
「昨日洗ったばっかりなのでいい匂いがしますよ」
そう言って鼻先に近づけてきた。
「桜の匂いがする」
「それは……イントネーション的に花の桜のことですよね? 私のことじゃないですよね?」
「もちろん。可愛いねそのぬいぐるみ」
「ありがとうのちゅー」
桜がぬいぐるみの口のところで僕の頬を軽く突いた。
「あ、私パジャマじゃないと寝れないタイプなので着替えますね。すみません、ちょっと出ててもらえます?」
「わかった」
部屋の外に出て少し待機していると、ドアが開いてパジャマを着た桜が顔を覗かせた。
「ちょっとお手洗いに行ってきます」
「いってら」
また少し待って、桜が戻ってきた。
「お待たせしました。それじゃ紅葉を呼びますか」
ということで、桜を眠らせることになった。
紅葉は一応見張り役としてここにいてもらう。
桜が紅葉の方を見て言った。
「恭介さんは何もしないでしょうし、やっぱり見張りなんていらないと思いますけど」
「僕が変な気を起こさないとも限らないからね」
「え、そんな可能性があるんですか?」
「無いとは言わない」
「言わないんかい」
「言わないんでゴザルか……」
天姉とけいが同時にツッコんだ。
桜はニヤニヤしながら頷いた。
「ふむふむ。そうですか。それじゃあ仕方ないです。紅葉、恭介さんが変なことしないようにしっかり見張っててね」
「了解」
紅葉は真顔で短く答えた。
桜がベッドに寝っ転がった。
僕は上から見下ろすようにして桜の顔をじっと見つめた。
桜も真っすぐ見つめ返してくる。
二秒ほどそうした後、僕は右手の人差し指で桜の眉間を軽く突いた。
途端に桜の目が虚ろになり、そしてゆっくりと瞼を閉じた。
「これでよし。終わったよ」
振り返って天姉を見ると、昔を偲ぶような目をしていた。
「なんか懐かしいな。昔、今みたいな感じでけいに寝かしつけてもらってた」
「そうだったでゴザルな。今じゃ一人で寝れるようになって……成長したでゴザルな」
「バカにしてる?」
「滅相もないでゴザル」
「……あの、ちょっといいですか?」
紅葉が僕の方を向いて訊いてきた。
「これっていつ起きるんですか? 恭介さんが起こさない限り起こさないとかだったら困るんですけど」
「あーそれについては大丈夫だよ。普通に目覚ましとかで起きる」
「そうですか」
「一応明日の朝、桜のスマホに電話してみるよ。着信音で起きると思うから」
「すみません。そこまでしてもらって」
「いいよ。それじゃ、そろそろお暇しようかな。夜分遅くに悪かったね」
「いえ、ありがとうございました。試験までの間、よろしくお願いします」
紅葉はペコリと頭を下げた。
「うん。お邪魔しました」
「お邪魔したでゴザルー」
「失礼しましたー」
「はい。気をつけてお帰りください」
紅葉は玄関先でもう一度頭を下げた。
僕たちはまたペタペタと音を立てながら歩いて家に帰った。
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