血のない家族

夜桜紅葉

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第三章 一月、最初の一週間

妖風緋彗2

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 二度目の登場。
妖風緋彗でございますけれども。
もう名前は覚えていただけましたかね。

密かにメインヒロインの座を狙っているアタシからすると、早く名前を覚えてもらって応援してもらえるとすごくありがたいわけですけれども。

妖風緋彗。
妖風緋彗でございます。
ございますけれども。

さて、前回アタシは小野寺に散々おちょくられたところで終わっていた。
しかし今回はそうはいかない。

舐められっぱなし終わるようなアタシではないのだ。
勝つぞ。


 と、いうことで昼休みになった。
アタシは普通に友達と食べようとしたのだが、小野寺が邪魔してきやがった。

「たまには一緒に食べようでゴザルよ」

たまにはってなんだよ。
お前が転校してきたの二日前じゃねぇか。

そうやってツッコもうとしたところをタイミングの悪いことに友達に目撃されたしまったのだ。

「ふぃ~。こっちのことはお気になさらずごゆっくり~」
とか言ってどこかに行ってしまった。

アタシが唖然としていると、小野寺は勝手にアタシの机に自分の弁当を置き始めた。

「ちょ、勝手に置かないでよ!」
「このくらいでいちいち文句言うなでゴザル。まったく、緋彗殿はケチでゴザルなー」

「誰がケチだ!」
「緋彗殿だって言ってるでゴザろう~?」

小野寺は人差し指でアタシの眉間を突いてきた。

そして
「眉間にしわが寄ってるでゴザルよ~」
と言って眉間のしわを伸ばすように指先でぐりぐりとやってきた。

「やめんかい!」
アタシは小野寺の手を振り払った。

「うげっ。指に化粧がついちまったでゴザル。ふぅー」
自分の指を見た小野寺はそう言って指先に息を吹きかけた。

「うげってなんだ失礼な!」
「はいはい短気は損気短気は損気」
「それめっちゃ腹立つ。……はぁ。もういいわよ」

これ以上言い争っていても時間の無駄だと判断したアタシは弁当を取り出した。

「ちょっと詰めて。アタシのが置けない」
「ほいほい。お、やたらに可愛らしい弁当箱でゴザルな」

「あんたのは木製のなんだ。服だけじゃなくて弁当箱まで和風な感じなのか。徹底してるんだね」
ってか改めてなんでこいつ和服なんて着てるんだ?

「それ、自分で作ってるんでゴザルか?」
「そうよ。悪い?」

「別に悪くないでゴザルよ。おぉ。結構美味そうでゴザルな。一口もらうでゴザル」
小野寺はアタシの弁当から勝手に卵焼きを取った。

「ちょっと! 勝手に取らないでよ!」
「せっひゃのもとっていいへほひゃるよ」

「行儀が悪い。食べながら喋るな。ってか勝手にアタシの卵焼きを食べるな!」

小野寺はもぐもぐと咀嚼して飲み込んでから
「拙者のも取っていいでゴザルよ」
と言い直した。

「いや、別にいらないけど」
「そうでゴザルか? 美味いでゴザルよ」

「あっそ。じゃあ唐揚げもらうわ」

「うわ! 緋彗殿~流石にそれはあんまりでゴザルよ~」
「ふん」

アタシは唐揚げを口の中に放り込んだ。

……。
美味しい。
なんだこれ。
めっちゃ美味しいんだけど。

「どうでゴザル? 美味しいでゴザろう?」
小野寺はニマニマしながら訊いてきた。

「……悔しいけど、美味しい。なんか負けた気分。ムカつく」

「はっはっは! まぁそれ作ったの拙者じゃないでゴザルが」

「あーやっぱり? あんたがこんな美味しいの作れるわけがないって思ったのよね~。料理下手そうだもん」

アタシが挑発するように言うと、小野寺はまた勝手にアタシの弁当からおかずを掠め取った。

アタシもやり返すように小野寺の弁当からおかずを奪い取る。

「緋彗殿は料理上手でゴザルな」
「そ、そう? なんで急に褒めるのよ」

「体に良さそうな味がするでゴザル」
「あ、ありがと」

アタシはなんだか気恥ずかしくなって髪を指先でくるくるした。

「良薬は口に苦しって言うでゴザルからな」
「褒めてないじゃん!?」
「冗談でゴザルってば。普通に美味いでゴザル」

そう言って小野寺はまたアタシの弁当の中身を取ろうとした。

アタシは素早く弁当箱に蓋をして取れないようにした。

しかし、小野寺の箸はミートボールを掴んでいた。

小野寺は目にも留まらぬ早業でアタシの弁当からミートボールをくすねたのだ。

キーッ!

小野寺は勝ち誇ったような笑顔を浮かべている。

許せねぇ……。
ちくしょう。

いや、まだだ。
負けてたまるか!
このミートボールを食べられるわけにはいかない!

アタシは小野寺の左手首を右手でガシッと掴んだ。
ってか関係ないけど、小野寺って左利きなんだな。

ふーん。
いや、ふーんってなんだ。
そんなことはどうでもいい。

小野寺は突然手首を掴まれたことに驚いたようで、口を『お』の形にしている。

アタシは小野寺の左手をこちらに引き寄せようと手前に引っ張る。

アタシのやろうとしていることに気づいた小野寺は対抗するように左腕を自分の方に引き寄せた。

綱引きだ!
負けないぞおぉおおらあぁあ!

アタシは全力で小野寺の左手を引っ張った。

負けてたま、負け、ちょ、待って、こいつ力強っ、やば……!

力では勝てないと悟ったアタシは、咄嗟に小野寺が箸で掴んでいるミートボール目掛けてかぶりつくように身を乗り出した。

あと少しでミートボールに届く……!
やった!
勝ったんだ!

アタシが勝利を確信した瞬間。

小野寺が信じられない速さでミートボールにかじりついた。

アタシからしたら小野寺の顔が一瞬で目の前に現れたように見えるほどだった。

「ひゃぁ……」
アタシはびっくりしすぎて情けない声を出しながら、椅子にすとんと腰を下ろした。

小野寺はもぐもぐと口を動かして、飲み込んだ後、
「ぷっ」
と噴き出した。

「ひゃあって、あっはっは! なんでゴザルかひゃあって。うひゃひゃひゃ!」

「ちょ、ちょっとびっくりしただけよ! 笑うことないでしょ!」

「マジウケるでゴザル」
「ウケるな」

アタシは落ち着くためにお茶を飲もうと思い、水筒を取り出した。

「お、水筒もなんか可愛らしい感じなんでゴザルな」
「うっさい。……ゴクゴク、んぐ!? ゲッホゲホゲホッ!」

最悪だ。
こんな時に限ってむせてしまった。
絶対バカにされる。
ちくしょう。

案の定小野寺は笑い始めた。

「ブハッ! なにしてるんでゴザルか~」

小野寺はそう言って立ち上がると、自分の椅子をアタシの隣に移動させて座り直した。

そしてアタシの背中をさすり始めた。
アタシはそれに驚いて更に咳き込んだ。

「はっはっは。ウケるでゴザル。大丈夫でゴザルか~」

小野寺は楽しそうに笑いながら背中をさすり続けてくる。

この野郎バカにしやがってっ!
いつか絶対顔面に一発入れてやる。

そう決意したアタシだったが、まさかあんなことが起こって小野寺のことを……。

とかなんとか言ってたら、もしかするとメインヒロインになれるかもしれないので、今回も言ってみたアタシだ。
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