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第三章 一月、最初の一週間
げんじー、旅に出る
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わし、旅に出る。
唐突だが、旅に出る。
一人旅である。
元々わしは放浪生活が性に合っている。
若い頃は全国各地を巡り武者修行をしていた。
一か所に留まらず、あちこち旅をして回っていたのだ。
そしてある時、今は死んで地獄にいるわしのじじいから道場を継ぐように言われた。
それからは……まぁ色々あった。
桜澄から恭介たちを保護することになったと相談を受け、じじいが遺したこのからくり屋敷に匿うことにした。
そこからは特に話すこともない。
日向が来るまでは六人で、日向が来てからは七人で暮らした。
思えばもう長いこと旅をしていない。
小野寺家問題が解決し、恭介たちは家を離れた。
日向も小学校に通い始めた。
これを機にわしも久々に旅をするのもいいなと思いついたのだ。
いい加減、家内の墓参りにも行かんとな。
もうしばらく行ってない。
怒ってるかな、あいつ。
わしは桜澄とゆずと日向に旅に出る旨を伝えた。
「そうか。分かった」
淡白な弟子だ。
桜澄は短く答えるだけで、何か訊こうともしなかった。
もうちょい寂しそうにしてくれたら可愛げがあるのに。
「留守の間、この家のこと任せるぞ」
「ああ」
可愛げのない弟子は小さく頷いた。
「気をつけてくださいね」
「おう。ありがとなゆず。まぁわしも歳じゃからの。無理するつもりはないぞ」
可愛げのある日向が心配そうにわしを見た。
「げんじー、旅って……マジでゆうてるん?」
「マジでゆうとるぞ」
「どこまで行くん?」
「結構色んなとこ回るつもりじゃ。はっきり予定を決めとるわけじゃないから絶対ではないが、九州くらいまでは行くかもしれんな。もしそうなったら恭介たちの暮らしぶりを見てみるのも面白いかもしれんの。というか普通に気になるし多分行くと思う」
「うげー。福岡まで行くんやったら結構な旅になるやん。しばらく帰って来れんのちゃう?」
「んーそうじゃな。寂しいか?」
日向はムスッとして頬を膨らませた。
「寂しいわ。当たり前やろ。天姉たちもおらんくなってもうたし。家からどんどん人がおらんくなるやん」
「はっはっは! すまんな。愛する妻に線香をあげに行きたいんじゃ」
「え、げんじーって奥さんおったん?」
「言ってなかったかの?」
「聞いてないな。えーそうやったんや。桜澄さんたちは知ってた?」
「ああ」
「お聞きしたことがあります」
そういえば二人には話したことがあった。
「私全然知らんかったで」
「もうずいぶん前に逝ってしまったがの」
「そっか。……どんな人やったん?」
「めちゃかわ女子じゃったよ」
「そ、そうなんや。今はどこにおるん?」
「あいつが眠っとるのは長野じゃな」
「少なくとも長野から福岡までって感じかー。ほんまいつ帰ってくるんやそれ」
「なるべく早く帰ってくるから。いい子で待ってるんじゃぞ」
「ちぇー」
わしが頭をわしゃわしゃすると、日向は諦めたようにため息をついた。
「まぁしゃーないか。げんじーがしたいことを邪魔するわけにもいかんしな。寂しいけど、せっかくやし色んなとこゆっくり見て回って楽しんできてな」
「おう。ありがとう」
そんなわけで。
わし、旅に出る。
唐突だが、旅に出る。
一人旅である。
元々わしは放浪生活が性に合っている。
若い頃は全国各地を巡り武者修行をしていた。
一か所に留まらず、あちこち旅をして回っていたのだ。
そしてある時、今は死んで地獄にいるわしのじじいから道場を継ぐように言われた。
それからは……まぁ色々あった。
桜澄から恭介たちを保護することになったと相談を受け、じじいが遺したこのからくり屋敷に匿うことにした。
そこからは特に話すこともない。
日向が来るまでは六人で、日向が来てからは七人で暮らした。
思えばもう長いこと旅をしていない。
小野寺家問題が解決し、恭介たちは家を離れた。
日向も小学校に通い始めた。
これを機にわしも久々に旅をするのもいいなと思いついたのだ。
いい加減、家内の墓参りにも行かんとな。
もうしばらく行ってない。
怒ってるかな、あいつ。
わしは桜澄とゆずと日向に旅に出る旨を伝えた。
「そうか。分かった」
淡白な弟子だ。
桜澄は短く答えるだけで、何か訊こうともしなかった。
もうちょい寂しそうにしてくれたら可愛げがあるのに。
「留守の間、この家のこと任せるぞ」
「ああ」
可愛げのない弟子は小さく頷いた。
「気をつけてくださいね」
「おう。ありがとなゆず。まぁわしも歳じゃからの。無理するつもりはないぞ」
可愛げのある日向が心配そうにわしを見た。
「げんじー、旅って……マジでゆうてるん?」
「マジでゆうとるぞ」
「どこまで行くん?」
「結構色んなとこ回るつもりじゃ。はっきり予定を決めとるわけじゃないから絶対ではないが、九州くらいまでは行くかもしれんな。もしそうなったら恭介たちの暮らしぶりを見てみるのも面白いかもしれんの。というか普通に気になるし多分行くと思う」
「うげー。福岡まで行くんやったら結構な旅になるやん。しばらく帰って来れんのちゃう?」
「んーそうじゃな。寂しいか?」
日向はムスッとして頬を膨らませた。
「寂しいわ。当たり前やろ。天姉たちもおらんくなってもうたし。家からどんどん人がおらんくなるやん」
「はっはっは! すまんな。愛する妻に線香をあげに行きたいんじゃ」
「え、げんじーって奥さんおったん?」
「言ってなかったかの?」
「聞いてないな。えーそうやったんや。桜澄さんたちは知ってた?」
「ああ」
「お聞きしたことがあります」
そういえば二人には話したことがあった。
「私全然知らんかったで」
「もうずいぶん前に逝ってしまったがの」
「そっか。……どんな人やったん?」
「めちゃかわ女子じゃったよ」
「そ、そうなんや。今はどこにおるん?」
「あいつが眠っとるのは長野じゃな」
「少なくとも長野から福岡までって感じかー。ほんまいつ帰ってくるんやそれ」
「なるべく早く帰ってくるから。いい子で待ってるんじゃぞ」
「ちぇー」
わしが頭をわしゃわしゃすると、日向は諦めたようにため息をついた。
「まぁしゃーないか。げんじーがしたいことを邪魔するわけにもいかんしな。寂しいけど、せっかくやし色んなとこゆっくり見て回って楽しんできてな」
「おう。ありがとう」
そんなわけで。
わし、旅に出る。
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