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第三章 一月、最初の一週間
部活
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放課後になった。
狐酔酒と冬狼崎は部活に行くようだ。
狐酔酒はバスケ部、冬狼崎は柔道部らしい。
けいは校内を散策して部活を見て回るとか言ってた。
どうしようかなー、僕も部活見て回ろうかなと一瞬思ったけど、でもよく考えたら晩飯の用意とかあるし帰らないと。
僕はそう思い直して荷物をまとめていた。
そこに天艶が声をかけてきた。
「佐々木君は部活に興味はないですか?」
「んー。興味はあるんだけど、いっぱいあるからどうしようかなーって迷ってる。そういえば天艶は何部なんだっけ?」
「天文部です」
「へぇー天文部か。普段どんなことしてるの?」
「本来であれば天文に関する学習をしたり天体観測をしたりする部活なんですけど、先輩が引退して部員が私一人になってしまってからは、実質的な活動は部室で読書することになりました」
「そっか。天体観測とかやるんだ」
「一人になってしまったので、多分もうやることはないと思いますけど」
「なんか楽しそうなのにもったいないね」
「まぁ天体観測についてはうちの学校屋上への立ち入りが禁止なので、元々たまにしかできなかったんですけど」
「あ、そういえば屋上は入っちゃ駄目らしいね。それじゃあ前はどこで星を見てたの?」
「合宿に行っていました」
「なるほどね」
「はい」
「んで、声をかけてくれたのは部活の勧誘ってことだよね?」
「はい」
ちょっと意外だな。
天艶は積極的に他人と関わりたがるような性格ではないと僕は思っていた。
出会ったばかりの僕が言うのはおかしいかもしれないけど、天艶らしくない行動だと感じる。
それに気がかりなこともある。
昼休みの後くらいから天艶の態度に若干の変化があったように感じるのだ。
なんというか……少しだけ好意的になった?
視線に熱を感じるというか、僕とけいに対する態度が軟化した気がする。
それまでは僕たちに対して良くも悪くもなんとも思っていなかったのが、まるで珍しいものでも見るような、なんかそんな感じに変わったように思う。
天艶は表情豊かな方ではないから、当たってる自信はあんまりないけど。
更に付け加えるなら、さっきのけいとのやり取りを見る限り天艶は多分勘が鋭い。
僕たちの抱える事情について察している可能性がある、かも……?
いや、流石にないか。
確かに僕は結構間抜けに振る舞っている。
やろうと思えばもっと上手に知ったかぶれるのに、わざと世間に疎いことがバレるような反応をしてみたり。
これには一応理由があるんだけど、まぁそれについては後で説明するとして。
いくら僕がヒントをばら撒くような振る舞いをしているといっても、僕たちの抱える事情はかなり特殊なものであると思う。
余程のことがない限り真相に辿り着くことはないはずだ。
天艶がめちゃくちゃ頭がいいとか、ありえないくらい想像力豊かとかじゃない限りは。
とりあえず今のところは天艶の分析はこのくらいにしておこう。
「天文部かー。ちょっと興味あるな」
「本当ですか?」
天艶は少しだけ嬉しそうな顔をした……ように見えた。
ほんとに天艶は感情が読み取りづらい。
表情がほんの少ししか変わらないからだ。
昨日今日含めて天艶の表情筋が一番活躍したのは、けいのスマホが目の前でぶっ壊れた時だった。
あれ以降天艶の表情にはほとんど変化がない。
「うん。えーっと見学とかやってるの? 体験というか仮入部的な」
「さっき言った通り、今は私がただ部室で読書するだけの部活になっているので、部室の場所を確認するのと部室の中がどんな感じなのか見るくらいしかできることはありません」
「そっか。まぁそれでもいいや。天艶は今から部室に行くの?」
「はい」
「ついてってもいい?」
「もちろんです」
「じゃあ行こうか」
僕は天艶と一緒に天文部の部室に向かった。
ダメ元で誘ってみたら意外にも好感触でびっくりだ。
これはもしかすると忍者を部員に迎え入れることができるかもしれない。
私は残念ながら今までの人生で忍者に出会ったことがなかったので、忍者についてあまり知らない。
だから知りたい。
忍者って普段何してるんだろう。
やっぱり修行してるのかな。
滝行とか?
綱渡りとか?
天井に張り付いたりもするのかもしれない。
水に潜って竹の筒みたいなやつで呼吸したりもするのかも。
クノイチとかもいるのかな。
そういえば小耳に挟んだ話なのだが、二年生にも転校生がやってきたらしい。
とても可愛らしい女性であるようだ。
クラスの男子がうわさしてた。
その人も佐々木君や小野寺君の知り合いだったとしたら……。
クノイチだな。
その人はきっとクノイチだ!
忍者佐々木君を天文部に引き入れることができたら、色々忍者について教えてもらえるかもしれない。
もしかしたら忍者仲間を紹介してもらえるかも。
クノイチさんともお友達になれたりして。
上手くいけば忍者の里に遊びに行くなんてこともあるかもっ!
千載一遇のチャンスである。
逃すわけにはいかない。
私は今までなるべく人と関わらないようにしていた。
気を遣わせてしまうのが嫌だったからだ。
しかしそのスタンスを崩さざるを得ないくらい衝撃的だった。
忍者。
転校生が忍者。
ふふ。
なんか恋人がサンタみたいなノリで言ってるが、これはとんでもないことだ。
転校生が二人も来て、二人とも忍者で、一人は私の隣の席になる確率ってどのくらいだろう。
言うまでもなく私の人生最大の幸運だ。
うっひょーい!
ずっと無表情だけど天艶は今何を考えているのだろう。
部室まで歩きながらちらっと横顔を見てみても、やはり天艶の顔から読み取れることは少ないということが分かるだけだった。
まぁいいや。
っていうかどこまで行くんだろう。
昇降口まで来てしまったけど。
「校舎内に部室があるわけじゃないの?」
僕が訊くと天艶は上靴を脱いで下駄箱に入れ、通学靴を取り出しながら
「はい。あの建物見えますか?」
と言ってグラウンドの横にある建物を指差した。
「あれが部室棟です」
「へぇー」
「この学校には部室棟が四つもあるんですよ」
「そうなの?」
そのことは学校のホームページを見て知ってる。
でももっと詳しいことが聞けるかもしれないし、知らないふりをしてみよう。
あ、これがさっき言ってた僕が間抜けに振る舞う理由の一つでもある。
日向とこんな話をしたことがあるのだ。
「人は教えたがりの生き物やから無知なふりをするってのも使えるかもしれんなー」
「使えるって、どんな場合の話?」
「人に取り入るっていうか懐に入るっていうかそんな時」
「あー」
「なんかあるやん? 人を褒める時のさしすせそみたいなやつ」
「なんだっけそれ。確かさはさすがで、しは知らなかった、すはすごいとか素敵とかなんとか」
「せがセンスあるなで、そがそうなんやー、やったと思うけど。こん中にも無知なふりするんがあるやん?」
「し、そがそうかな」
「おん。そんでもって、このさしすせそってやつも相手を気持ち良くさせてその隙をついて懐に潜り込むためのテクニックなわけやん」
「んー。まぁそうとも言えるのかもしれないけど」
「な。やっぱ無知なふりするってのは人に取り入る手段として有効な気がするわ」
「そっかー」
僕は日向の言ってたことを検証してみようと思ってこんな感じに振る舞っている。
一応他にも理由はあるが、それはまた機会があれば説明する。
かもしれない。
多分。
天艶は何も知らない僕のために説明してくれた。
「まず体育館の横に一つあります。そして今向かっているところは、なんて説明したらいいのかわかりませんけど、上から見たらカクカクしてるアルファベットのJみたいな感じで三棟が集まってるんですよ」
「そうなんだ。なんでそんなに部室棟があるんだろうね」
「部活が多いですからね」
だからって普通四つもあるものだろうか。
んー。
まぁいいや。
この学校でよく分からんことがある度にいちいち考えてたらキリがない。
ここは変な学校なのだ。
細かいことは気にしないことにしよう。
狐酔酒と冬狼崎は部活に行くようだ。
狐酔酒はバスケ部、冬狼崎は柔道部らしい。
けいは校内を散策して部活を見て回るとか言ってた。
どうしようかなー、僕も部活見て回ろうかなと一瞬思ったけど、でもよく考えたら晩飯の用意とかあるし帰らないと。
僕はそう思い直して荷物をまとめていた。
そこに天艶が声をかけてきた。
「佐々木君は部活に興味はないですか?」
「んー。興味はあるんだけど、いっぱいあるからどうしようかなーって迷ってる。そういえば天艶は何部なんだっけ?」
「天文部です」
「へぇー天文部か。普段どんなことしてるの?」
「本来であれば天文に関する学習をしたり天体観測をしたりする部活なんですけど、先輩が引退して部員が私一人になってしまってからは、実質的な活動は部室で読書することになりました」
「そっか。天体観測とかやるんだ」
「一人になってしまったので、多分もうやることはないと思いますけど」
「なんか楽しそうなのにもったいないね」
「まぁ天体観測についてはうちの学校屋上への立ち入りが禁止なので、元々たまにしかできなかったんですけど」
「あ、そういえば屋上は入っちゃ駄目らしいね。それじゃあ前はどこで星を見てたの?」
「合宿に行っていました」
「なるほどね」
「はい」
「んで、声をかけてくれたのは部活の勧誘ってことだよね?」
「はい」
ちょっと意外だな。
天艶は積極的に他人と関わりたがるような性格ではないと僕は思っていた。
出会ったばかりの僕が言うのはおかしいかもしれないけど、天艶らしくない行動だと感じる。
それに気がかりなこともある。
昼休みの後くらいから天艶の態度に若干の変化があったように感じるのだ。
なんというか……少しだけ好意的になった?
視線に熱を感じるというか、僕とけいに対する態度が軟化した気がする。
それまでは僕たちに対して良くも悪くもなんとも思っていなかったのが、まるで珍しいものでも見るような、なんかそんな感じに変わったように思う。
天艶は表情豊かな方ではないから、当たってる自信はあんまりないけど。
更に付け加えるなら、さっきのけいとのやり取りを見る限り天艶は多分勘が鋭い。
僕たちの抱える事情について察している可能性がある、かも……?
いや、流石にないか。
確かに僕は結構間抜けに振る舞っている。
やろうと思えばもっと上手に知ったかぶれるのに、わざと世間に疎いことがバレるような反応をしてみたり。
これには一応理由があるんだけど、まぁそれについては後で説明するとして。
いくら僕がヒントをばら撒くような振る舞いをしているといっても、僕たちの抱える事情はかなり特殊なものであると思う。
余程のことがない限り真相に辿り着くことはないはずだ。
天艶がめちゃくちゃ頭がいいとか、ありえないくらい想像力豊かとかじゃない限りは。
とりあえず今のところは天艶の分析はこのくらいにしておこう。
「天文部かー。ちょっと興味あるな」
「本当ですか?」
天艶は少しだけ嬉しそうな顔をした……ように見えた。
ほんとに天艶は感情が読み取りづらい。
表情がほんの少ししか変わらないからだ。
昨日今日含めて天艶の表情筋が一番活躍したのは、けいのスマホが目の前でぶっ壊れた時だった。
あれ以降天艶の表情にはほとんど変化がない。
「うん。えーっと見学とかやってるの? 体験というか仮入部的な」
「さっき言った通り、今は私がただ部室で読書するだけの部活になっているので、部室の場所を確認するのと部室の中がどんな感じなのか見るくらいしかできることはありません」
「そっか。まぁそれでもいいや。天艶は今から部室に行くの?」
「はい」
「ついてってもいい?」
「もちろんです」
「じゃあ行こうか」
僕は天艶と一緒に天文部の部室に向かった。
ダメ元で誘ってみたら意外にも好感触でびっくりだ。
これはもしかすると忍者を部員に迎え入れることができるかもしれない。
私は残念ながら今までの人生で忍者に出会ったことがなかったので、忍者についてあまり知らない。
だから知りたい。
忍者って普段何してるんだろう。
やっぱり修行してるのかな。
滝行とか?
綱渡りとか?
天井に張り付いたりもするのかもしれない。
水に潜って竹の筒みたいなやつで呼吸したりもするのかも。
クノイチとかもいるのかな。
そういえば小耳に挟んだ話なのだが、二年生にも転校生がやってきたらしい。
とても可愛らしい女性であるようだ。
クラスの男子がうわさしてた。
その人も佐々木君や小野寺君の知り合いだったとしたら……。
クノイチだな。
その人はきっとクノイチだ!
忍者佐々木君を天文部に引き入れることができたら、色々忍者について教えてもらえるかもしれない。
もしかしたら忍者仲間を紹介してもらえるかも。
クノイチさんともお友達になれたりして。
上手くいけば忍者の里に遊びに行くなんてこともあるかもっ!
千載一遇のチャンスである。
逃すわけにはいかない。
私は今までなるべく人と関わらないようにしていた。
気を遣わせてしまうのが嫌だったからだ。
しかしそのスタンスを崩さざるを得ないくらい衝撃的だった。
忍者。
転校生が忍者。
ふふ。
なんか恋人がサンタみたいなノリで言ってるが、これはとんでもないことだ。
転校生が二人も来て、二人とも忍者で、一人は私の隣の席になる確率ってどのくらいだろう。
言うまでもなく私の人生最大の幸運だ。
うっひょーい!
ずっと無表情だけど天艶は今何を考えているのだろう。
部室まで歩きながらちらっと横顔を見てみても、やはり天艶の顔から読み取れることは少ないということが分かるだけだった。
まぁいいや。
っていうかどこまで行くんだろう。
昇降口まで来てしまったけど。
「校舎内に部室があるわけじゃないの?」
僕が訊くと天艶は上靴を脱いで下駄箱に入れ、通学靴を取り出しながら
「はい。あの建物見えますか?」
と言ってグラウンドの横にある建物を指差した。
「あれが部室棟です」
「へぇー」
「この学校には部室棟が四つもあるんですよ」
「そうなの?」
そのことは学校のホームページを見て知ってる。
でももっと詳しいことが聞けるかもしれないし、知らないふりをしてみよう。
あ、これがさっき言ってた僕が間抜けに振る舞う理由の一つでもある。
日向とこんな話をしたことがあるのだ。
「人は教えたがりの生き物やから無知なふりをするってのも使えるかもしれんなー」
「使えるって、どんな場合の話?」
「人に取り入るっていうか懐に入るっていうかそんな時」
「あー」
「なんかあるやん? 人を褒める時のさしすせそみたいなやつ」
「なんだっけそれ。確かさはさすがで、しは知らなかった、すはすごいとか素敵とかなんとか」
「せがセンスあるなで、そがそうなんやー、やったと思うけど。こん中にも無知なふりするんがあるやん?」
「し、そがそうかな」
「おん。そんでもって、このさしすせそってやつも相手を気持ち良くさせてその隙をついて懐に潜り込むためのテクニックなわけやん」
「んー。まぁそうとも言えるのかもしれないけど」
「な。やっぱ無知なふりするってのは人に取り入る手段として有効な気がするわ」
「そっかー」
僕は日向の言ってたことを検証してみようと思ってこんな感じに振る舞っている。
一応他にも理由はあるが、それはまた機会があれば説明する。
かもしれない。
多分。
天艶は何も知らない僕のために説明してくれた。
「まず体育館の横に一つあります。そして今向かっているところは、なんて説明したらいいのかわかりませんけど、上から見たらカクカクしてるアルファベットのJみたいな感じで三棟が集まってるんですよ」
「そうなんだ。なんでそんなに部室棟があるんだろうね」
「部活が多いですからね」
だからって普通四つもあるものだろうか。
んー。
まぁいいや。
この学校でよく分からんことがある度にいちいち考えてたらキリがない。
ここは変な学校なのだ。
細かいことは気にしないことにしよう。
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