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第一章 七人家族
げんじーの弟子
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子供組でトランプをして遊んでいた時、天姉が
「今日は八月十五日だ!」
と言い出した。
「あー。終戦記念日か」
けいが適当に相槌を打った。
「いやそれもあるけども。そっちじゃなくて。機械仕掛けの歌姫文化の方だよ」
「あー。わかる人にはわかるやつか」
けいが適当に相槌を打った。
ギリギリ世代なのだ。
いつ頃のことだったか忘れたけど、勝手に先生の部屋に忍び込んでパソコンを使って楽しんでいた時期があったのだ。
何のことか分からない人は気にしないでくれ。
「今夜はお祝いだ! 踊り明かすぞ!」
天姉は勢いよく立ち上がった。
「いや踊りとか私全然分からんで?」
「安心しろ。ワルツだ」
「余計分からんわ!」
「んじゃ盆踊りでもいいから。よし秘密基地……いや、アジトに行くぞ!」
「ノリノリだな天姉」
けいがそう言って頭を掻きながら立ち上がった。
それからみんなで秘密基地に行った。
夜に訪れるのは昔でさえあまりしなかったので、なんとなく気持ちが浮ついた。
懐中電灯で照らしながら山道を進むのは冒険しているような気分になる。
昼の景色は見慣れているはずなのに、日が落ちると別の場所のように思えるのは不思議だ。
そんなことを考えながら歩いていくと、秘密基地に着いた。
ちなみに天姉とけいが作っていたハンモックは完成していて、近くの木に吊るしてある。
焚き火をするらしいから僕は川で水を汲んできた。
「よし。バケツに水を汲んできたな。ほんじゃ火を起こすぞ!」
天姉はなんかずっとテンションが高い。
ちょっと地面を掘って、その中に松ぼっくりやらその辺の乾燥した枯葉やらを入れて火をつけた。
薪を時々追加したりうちわで扇いだりしてしばらくすると火が安定した。
「薪はどこから持ってきたんですか?」
桜が訊いてきた。
「山で拾った斧で僕が作っといたやつ。薪割りって筋トレになるんだよね」
けいが答えた。
「斧が……落ちてたんですか? それは、事件性があるやつなんじゃ……?」
「大丈夫だって。ちょっと赤黒くなってたけど」
「アウト! アウトですよ!」
「冗談だってば」
けいが苦笑いしながら言った。
「なんか火見てたら落ち着くよな」
日向は屈み込んで焚き火を眺めている。
「そうだねー。音もいいし」
けいが頷いた。
「よし、踊るぞ! 立ち上がれ!」
天姉が元気よく言った。
「はいはい。なんか火の周りで踊るとか部族の儀式みたいだな」
僕がそんなことを言いながら立ち上がると、桜が手を差し出してきた。
「恭介さん。シャルウィーダンス?」
「いいけど僕ワルツとか踊ったことないよ?」
「私がリードしますよ。任せといてください!」
僕と桜はなんちゃってワルツを踊った。
あの自信は何だったのかめちゃくちゃ足踏まれたけど。
日向とけいは盆踊りしてた。
天姉はなぜか腹踊りをしていた。
いつの間にやったのか、腹には変な顔が描かれていた。
でも天姉は鍛えまくっていて、うっすら腹筋が割れているくらいだから見ていて笑えるようなものじゃない。
あれはちょっとぽっちゃりしてるくらいの人がやるから笑えるのだ。
でもずっとドヤ顔でやっているのは少し面白いかもしれない。
その後一時間くらい僕たちは踊り続けた。
なんで一時間もの間踊り続ける羽目になったのかというと、誰も止めるタイミングが分からなかったからだ。
事の発端である天姉は途中何度も
「お腹冷えてきちゃった」
とか言って焚き火にあたっていた。
早朝。
僕とけいが準備運動をしていた時のことだ。
「ごめんください」
誰かが家を訪ねてきたようだ。
こんなことは今までなかった。
この家に間違って迷い込むなんてことは多分あり得ないだろう。
最初からここを目指して来ない限り辿り着くようなことはないはずだ。
道が整備されているわけでもない。
何者だろう。
僕とけいは隠れて様子を窺うことにした。
「おー来たか。上がってくれ」
どうやらげんじーの知り合いみたいだ。
玄関を開け放ったげんじーが訪問者である二人の男を見て嬉しそうに言った。
その時、僕たちの背後から先生が来て言った。
「なにしてるんだお前たち。今日は訓練はないと伝えてなかったか?」
「聞いてないですね。お客さんのことも」
けいが少し嫌味っぽく言った。
「そうだったか。とりあえず俺たちも家に入るぞ」
客はげんじーの弟子だった人たちらしい。
「久しぶりじゃの文弥、風河」
げんじーは二人の顔を交互に見て言った。
「ご無沙汰してます島崎先生」
二人はげんじーに頭を下げた。
「二人とも久しぶりだな」
先生が言った。
「桜澄……お前本当に無事だったんだな。良かった」
この人はマスクをつけている。
暑くないんだろうか。
「桜澄君久しぶり。いや~本当心配してたよ」
こっちの人はヘラヘラしている。
「すまなかったな。心配をかけた」
先生は申し訳なさそうに謝った。
「無事で良かったよ~。あ、その子たちが手紙に書いてた子たちだね。こんにちは。僕は望月文弥といいます。島崎先生の弟子だから君たちの兄弟子になります。よろしくね」
「同じく、早乙女風河だ。よろしく」
「よろしくお願いします」
僕とけいは頭を下げた。
望月さんはニコニコしている。
早乙女さんはマスクをしているが、よく見るとこの人は……どこかで見かけたことがあるのか、何だか見覚えがある。
「早乙女さんのことどこかで見かけたことがある気がします」
僕がそう言うと、げんじーが
「風河はテレビとか出とるからの」
と言った。
「え! 芸能人の方なんですか?」
けいが驚きながら訊いた。
「格闘技をやっている」
早乙女さんは表情を変えることなく答えた。
「風河君有名なんだけどなー。普段あんまりテレビとか見ない感じ?」
望月さんが訊いてきた。
「すみません。うちテレビが無くて」
僕がそう答えると、望月さんは心底驚いた様子だった。
「早速で悪いが、頼めるかの?」
げんじーが二人に向かって言った。
「はい。やりますかね」
望月さんが腕をグイッと伸ばした。
「師匠、俺はあんまり良く分かっていないんだが、今日は何で二人を呼んだんだ?」
先生がげんじーに訊いた。
「けいと恭介の勉強のためじゃ。二人とお前が戦うのを見学させるんじゃよ。なにも本気でやる必要はない。軽くやれ」
「なるほどな。わかった」
それから外に出て、先生と二人の勝負を見学することになった。
ただ向かい合っているだけなのに圧がある。
三人の間には重たい緊張感が走っていた。
勝負は軽く手合わせをした程度だったが、先生は僕たちを相手する時の軽くあしらう感じではなく、ちゃんと戦っていたように見えた。
多分、この二人は僕やけいより強い。
この手合わせはすごく勉強になった。
「すごかったです。いつもより先生の余裕がないように見えました」
僕がそう言っても早乙女さんは
「……そうか」
と短く答えるだけだった。
望月さんは
「ありがと~」
と、にこやかに答えた。
早乙女さんはあまり笑顔を見せないのだろうか。
先生もそんな感じだが、少し違う気がする。
先生より暗い、影のある表情に見えた。
それに手合わせの時も今もずっとマスクをしている。
どう考えても邪魔だと思うけど、なぜ頑なにマスクを外さないのだろう。
それから二人は帰ることになった。
二人とも忙しい合間を縫って来てくれたようだ。
「それじゃ。またね恭介君、けい君」
望月さんはひらひらと手を振りながら帰っていった。
早乙女さんは
「じゃあ、また」
と言って軽く手を上げた。
「はい。また」
「今日はありがとうございました」
僕とけいは手を振って見送った。
とても良い経験だった。
今度は直接手合わせ願おう。
そんなことを考えていた。
次の日、早乙女さんは一人で訪ねてきた。
「今日は八月十五日だ!」
と言い出した。
「あー。終戦記念日か」
けいが適当に相槌を打った。
「いやそれもあるけども。そっちじゃなくて。機械仕掛けの歌姫文化の方だよ」
「あー。わかる人にはわかるやつか」
けいが適当に相槌を打った。
ギリギリ世代なのだ。
いつ頃のことだったか忘れたけど、勝手に先生の部屋に忍び込んでパソコンを使って楽しんでいた時期があったのだ。
何のことか分からない人は気にしないでくれ。
「今夜はお祝いだ! 踊り明かすぞ!」
天姉は勢いよく立ち上がった。
「いや踊りとか私全然分からんで?」
「安心しろ。ワルツだ」
「余計分からんわ!」
「んじゃ盆踊りでもいいから。よし秘密基地……いや、アジトに行くぞ!」
「ノリノリだな天姉」
けいがそう言って頭を掻きながら立ち上がった。
それからみんなで秘密基地に行った。
夜に訪れるのは昔でさえあまりしなかったので、なんとなく気持ちが浮ついた。
懐中電灯で照らしながら山道を進むのは冒険しているような気分になる。
昼の景色は見慣れているはずなのに、日が落ちると別の場所のように思えるのは不思議だ。
そんなことを考えながら歩いていくと、秘密基地に着いた。
ちなみに天姉とけいが作っていたハンモックは完成していて、近くの木に吊るしてある。
焚き火をするらしいから僕は川で水を汲んできた。
「よし。バケツに水を汲んできたな。ほんじゃ火を起こすぞ!」
天姉はなんかずっとテンションが高い。
ちょっと地面を掘って、その中に松ぼっくりやらその辺の乾燥した枯葉やらを入れて火をつけた。
薪を時々追加したりうちわで扇いだりしてしばらくすると火が安定した。
「薪はどこから持ってきたんですか?」
桜が訊いてきた。
「山で拾った斧で僕が作っといたやつ。薪割りって筋トレになるんだよね」
けいが答えた。
「斧が……落ちてたんですか? それは、事件性があるやつなんじゃ……?」
「大丈夫だって。ちょっと赤黒くなってたけど」
「アウト! アウトですよ!」
「冗談だってば」
けいが苦笑いしながら言った。
「なんか火見てたら落ち着くよな」
日向は屈み込んで焚き火を眺めている。
「そうだねー。音もいいし」
けいが頷いた。
「よし、踊るぞ! 立ち上がれ!」
天姉が元気よく言った。
「はいはい。なんか火の周りで踊るとか部族の儀式みたいだな」
僕がそんなことを言いながら立ち上がると、桜が手を差し出してきた。
「恭介さん。シャルウィーダンス?」
「いいけど僕ワルツとか踊ったことないよ?」
「私がリードしますよ。任せといてください!」
僕と桜はなんちゃってワルツを踊った。
あの自信は何だったのかめちゃくちゃ足踏まれたけど。
日向とけいは盆踊りしてた。
天姉はなぜか腹踊りをしていた。
いつの間にやったのか、腹には変な顔が描かれていた。
でも天姉は鍛えまくっていて、うっすら腹筋が割れているくらいだから見ていて笑えるようなものじゃない。
あれはちょっとぽっちゃりしてるくらいの人がやるから笑えるのだ。
でもずっとドヤ顔でやっているのは少し面白いかもしれない。
その後一時間くらい僕たちは踊り続けた。
なんで一時間もの間踊り続ける羽目になったのかというと、誰も止めるタイミングが分からなかったからだ。
事の発端である天姉は途中何度も
「お腹冷えてきちゃった」
とか言って焚き火にあたっていた。
早朝。
僕とけいが準備運動をしていた時のことだ。
「ごめんください」
誰かが家を訪ねてきたようだ。
こんなことは今までなかった。
この家に間違って迷い込むなんてことは多分あり得ないだろう。
最初からここを目指して来ない限り辿り着くようなことはないはずだ。
道が整備されているわけでもない。
何者だろう。
僕とけいは隠れて様子を窺うことにした。
「おー来たか。上がってくれ」
どうやらげんじーの知り合いみたいだ。
玄関を開け放ったげんじーが訪問者である二人の男を見て嬉しそうに言った。
その時、僕たちの背後から先生が来て言った。
「なにしてるんだお前たち。今日は訓練はないと伝えてなかったか?」
「聞いてないですね。お客さんのことも」
けいが少し嫌味っぽく言った。
「そうだったか。とりあえず俺たちも家に入るぞ」
客はげんじーの弟子だった人たちらしい。
「久しぶりじゃの文弥、風河」
げんじーは二人の顔を交互に見て言った。
「ご無沙汰してます島崎先生」
二人はげんじーに頭を下げた。
「二人とも久しぶりだな」
先生が言った。
「桜澄……お前本当に無事だったんだな。良かった」
この人はマスクをつけている。
暑くないんだろうか。
「桜澄君久しぶり。いや~本当心配してたよ」
こっちの人はヘラヘラしている。
「すまなかったな。心配をかけた」
先生は申し訳なさそうに謝った。
「無事で良かったよ~。あ、その子たちが手紙に書いてた子たちだね。こんにちは。僕は望月文弥といいます。島崎先生の弟子だから君たちの兄弟子になります。よろしくね」
「同じく、早乙女風河だ。よろしく」
「よろしくお願いします」
僕とけいは頭を下げた。
望月さんはニコニコしている。
早乙女さんはマスクをしているが、よく見るとこの人は……どこかで見かけたことがあるのか、何だか見覚えがある。
「早乙女さんのことどこかで見かけたことがある気がします」
僕がそう言うと、げんじーが
「風河はテレビとか出とるからの」
と言った。
「え! 芸能人の方なんですか?」
けいが驚きながら訊いた。
「格闘技をやっている」
早乙女さんは表情を変えることなく答えた。
「風河君有名なんだけどなー。普段あんまりテレビとか見ない感じ?」
望月さんが訊いてきた。
「すみません。うちテレビが無くて」
僕がそう答えると、望月さんは心底驚いた様子だった。
「早速で悪いが、頼めるかの?」
げんじーが二人に向かって言った。
「はい。やりますかね」
望月さんが腕をグイッと伸ばした。
「師匠、俺はあんまり良く分かっていないんだが、今日は何で二人を呼んだんだ?」
先生がげんじーに訊いた。
「けいと恭介の勉強のためじゃ。二人とお前が戦うのを見学させるんじゃよ。なにも本気でやる必要はない。軽くやれ」
「なるほどな。わかった」
それから外に出て、先生と二人の勝負を見学することになった。
ただ向かい合っているだけなのに圧がある。
三人の間には重たい緊張感が走っていた。
勝負は軽く手合わせをした程度だったが、先生は僕たちを相手する時の軽くあしらう感じではなく、ちゃんと戦っていたように見えた。
多分、この二人は僕やけいより強い。
この手合わせはすごく勉強になった。
「すごかったです。いつもより先生の余裕がないように見えました」
僕がそう言っても早乙女さんは
「……そうか」
と短く答えるだけだった。
望月さんは
「ありがと~」
と、にこやかに答えた。
早乙女さんはあまり笑顔を見せないのだろうか。
先生もそんな感じだが、少し違う気がする。
先生より暗い、影のある表情に見えた。
それに手合わせの時も今もずっとマスクをしている。
どう考えても邪魔だと思うけど、なぜ頑なにマスクを外さないのだろう。
それから二人は帰ることになった。
二人とも忙しい合間を縫って来てくれたようだ。
「それじゃ。またね恭介君、けい君」
望月さんはひらひらと手を振りながら帰っていった。
早乙女さんは
「じゃあ、また」
と言って軽く手を上げた。
「はい。また」
「今日はありがとうございました」
僕とけいは手を振って見送った。
とても良い経験だった。
今度は直接手合わせ願おう。
そんなことを考えていた。
次の日、早乙女さんは一人で訪ねてきた。
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