血のない家族

夜桜紅葉

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第一章 七人家族

出会い

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 天姉を除く六人でお祭りを回っていると、先生が日向に
「天音から聞いたが、学校に興味があるのか?」
と訊いた。

「ああ。行ったことないしな」
「お前の学力的に行く必要はないんだがな」

「まぁそうかもしれんけど、別に学校って学力だけを身につけるところちゃうやろ」

「それはそうだな。しかし……お前なら分かると思うが」

「うん。難しいよな。わかってる。だからちょっと興味はあるけど、わがまま言うつもりはないで。そこまで行きたいわけでもないし」
「……そうか」

本当は行ってみたいんだろうけどな。

僕たちみたいな環境で育った奴は自分を押し殺すことに慣れてそれが当たり前になってしまっている。

最初から期待しない、希望を持たないことで自分を守ってきたからだ。

日向はがっかりした様子を見せることもなく僕の方を向いた。

「そういやさっき思ってんけど、天姉の笛字って白石なんやな。初めて聞いたかも。今更感すごいけど、みんなの苗字教えてよ」

「確かに普段呼ばないもんね。えーっとねー。先生が小野寺桜澄おのでらさくと、ゆずが市川結輝いちかわゆずき、けいは……けい、げんじーが島崎玄柊しまざきげんと、天姉は白石天音しらいしあまねで僕は佐々木ささき恭介きょうすけだよ。……ほんとに今更感すごいな」

「けいについては触れない。私は気配りできる女なので。なんか自己紹介みたいやな。あーまた学校の話になって申し訳ないけど、もしなんかあって学校に行けるようになったとして、転入するってなったら自己紹介せなアカンよなー」
「確かに」

僕は学校に行ったことがないからあんまり想像つかないけど、多分そういうものだと思うからとりあえず頷いておいた。

「自己紹介かー。……せやなー」
「自分の性格とか名前とか適当に言うだけでしょ」
考え込む日向に、けいが適当なことを言う。

けいも学校に行ったことがないから適切なアドバイスを送るのは難しいのだ。

「……人の幸せは笑顔で祝い、人の不幸はゲラゲラ笑う! 四月生まれで今七歳! エセ関西弁の使い手、坂本日向さかもとひなたです! で、どうやろ」
「リズムいいな」
けいには好感触だったようだ。

「絶対やめとけ。ヤバい奴だと思われるぞ」
僕は一応反対しておくことにした。

「そっかー。……おっ? 花火始まったんちゃう? すごいな。初めて見たわ」
日向が空を見上げた。

「本当だスゲー! 僕も初めて見る!」
けいも興奮した様子で空を見る。

僕たち子供組は小さい頃花火を見に行くような余裕のある生活をしていなかったし、今の家は山奥にあるから花火を見るのは多分みんな初めてだ。

「家が町からちょっと離れてるから機会がないもんね」

僕がそう言うと、けいは
「ちょっとか? お隣さんが存在しないくらい孤立してるじゃん」
「でもあんま人と接触するとリスクがあるからなー」

「それはそうだけれども。んー? だったら洋服を着るべきでは? 和服目立ってたし。変に目立つのも良くないでしょ。ねぇ先生?」

けいの提案に先生は
「すまんが俺は和服でないと落ち着かん。それに武器を隠し持つなら和服の方が楽じゃないか?」
と答えた。

「洋服も工夫次第じゃと思うがの」
「いや、先生もげんじーも当たり前のように言ってるけど、普通武器の隠しやすさで服選ばないでしょ。え? ってか今も武器持ってるんですか?」

「? 当たり前だろ?」
先生は平然と肯定した。

「怖すぎる。……あ、本当に持ってるんですね。すごいな、どっから出してるんですかそれ」
先生は実際に服の至る所から武器を取り出して見せた。
僕は正直ちょっと引いた。

けいが先生の取り出した武器の一つに目をつけた。
「ん? 何これブーメラン?」

「ああ。俺はブーメラン結構得意だ」
僕の脳裏に苦い思い出がよぎった。

「……そういえば昔、僕が木刀で先生がフリスビーで戦ってボ口負けしましたね」

「今じゃ流石にフリスビーで勝つことはできないだろうな」

煽ってるのかこの人。
表情を見る限り、多分真面目に言ってるんだろうけど。

「ブーメランなら勝てますか?」
僕が挑戦的なことを言うと
「さあ。どうだろうな。やってみるか?」
先生はさらっと恐ろしい返しをしてきた。
「嫌です」

昔、先生が小石を投げてきてそれを避ける訓練をしたことがあって、訓練後に後ろの木を見てみたら小石がめり込んでいたことがあった。
先生の遠距離攻撃は怖い。

「それにしても今日は満月やしタイミング良かったなー」
日向が夜空に月を見つけた。

「あ、本当ですね。……月が綺麗ですね、桜澄さん」
ゆずが先生の顔を見ながら言った。

「ああ。月は手が届かないとこにあるからな」
先生は月を見上げながら答えた。

「……そういう意図で言ったわけじゃないにしても少し傷つきますね」
ゆずが拗ねてみせる。
「死んでもいいわと返せば良かったか?」
「……」
ゆずはおもむろにさっき買ったお面を装着した。
「ど、どうした。なぜ般若の面をつける……おい……」

そんな二人を見てげんじーは
「この二人はいつまでも変わらんの一」
と言った。

「お、今の花火デカかったなー」
けいが楽しそうに言う。

「また見に来られたらいいな」
僕は
「そうだね」
と心から同意した。

あー。
花火を見ているとなんだかセンチメンタルな気持ちになるんだな。
勉強になった。

「お? 今の花火ハンバーグに似てね? 丸いとことか」
けいがそんなことを言った。

感傷的になるかどうかは人によるのかもしれないな。

「全部丸いだろ」
相変わらず気の抜けた会話をしながら僕たちは花火を眺め続けた。


 次の日から訓練が始まった。
男組は運動系、女組は勉強系だ。
僕たち男組は砂浜に立っていた。

僕とけいは競泳水着にスイミングキャップにゴーグルと完全に泳ぐ格好をしている。

先生とげんじーは普通に遊ぶ感じの水着にサングラスをかけている。

「まずは準備運動だ。いつも通りストレッチしろ。あと昨日のようなこともあるかもしれないから顔を隠すために一応ゴーグルをつけておけ」
「曇って何も見えなくなる未来しか見えない」
けいがゴーグルをつけながら呟いた。

言われた通りストレッチを終えると先生は
「次は腕立て伏せ五百回、上体起こし五百回、スクワット五百回だ。終わったら走るぞ」
「「はーい」」

腕立てをやるために手をつくと砂浜はとても熱かった。

というかさっきからずっと足の裏が燃えるように熱い。

文句を言っても仕方ないので、とりあえず先生に言われた通りにする。

「~四百九十八、四百九十九、五百! 終わりましたー」
「よし。じゃあ俺の後について来い」
そう言って先生は走り出した。
僕たちもその後に続いて走る。

ゴーグルが曇っていて見にくいが、やっぱりまた目立っている。

海で完全に泳ぐ恰好した奴らがひたすら筋トレしたと思ったら急に走り出したのだ。
そりゃ変な目で見られる。

一応人が少ない感じのところを走っているが、サングラスをかけたいかつい男と、水に入ってもいないのにゴーグルをつけた二人が砂浜を全力疾走している様子を、これまたサングラスをかけたいかついじじいが腕組みして見守っている。

何だこの状況。
見ている人は、いや泳げよと内心ツッコんでいることだろう。

それにしても砂浜は走り辛いな。
砂が熱くなっているのも地味に辛いところだ。
体力には自信があるが、これを長時間はきつい。


 その後、三十分くらい走ってからようやく先生が止まった。

途中ゴーグルが曇りまくり、前が見えなくなってこけまくったが、曇り止めを塗ったからもう大丈夫だ。
何はともあれ準備運動が終わった。

次はいよいよ
「よし泳ぐぞ。とりあえず後についてこい。泳ぎかたは何でも構わん」
先生が海に入っていった。

以前先生に市民プールに連れて行かれて叩き込まれたから泳ぐことはできる。

だが波のないプールと海ではやはり違う。
これは油断したらやばいかもしれない。

それに先生は爆速で泳ぐからついていくのが大変だ。
呼吸をしようと顔を上げるたびに口に水が入りそうになる。
海が嫌いになりそうだ。

先生はバタフライで泳いでいる。
信じられない。
この人どうかしてるんじゃないか?


 二時間後、訓練が終わった。
意味が分からないくらいダルいし眠い。

泳ぎながら寝落ちしそうになった時はもうダメかと思った。

ずっと泳いでいると呼吸の仕方や自分が今何をしているのかさえ忘れ、意識が飛びそうになった。

あー疲れた。
けいはクールダウンだと言って平泳ぎでスイスイ泳いでいる。
体力オバケはどっちだって話だ。

くたくたになってフラフラよろけながら旅館に帰っていると、トイレに行きたくなった。

「ちょっと厠行ってくる。そこの公園」
「厠? ああ便所な。分かった。先帰ってるぞ」


 公園には何故か天姉と見知らぬ男が数人いた。
しかも男たちは天姉に殴りかかっている。

何があったのだろうか。
まぁいいや。
とりあえずトイレに行こう。

……トイレから戻ってもまだやってる。
一応見守っておくか。
いざとなれば男側に加勢しよう。

「ほらほらどうしたのかね。まだ私は拳を握ってすらいないよ?」
天姉が男たちの猛攻をのらりくらりと躱しながら挑発する。

「クソッ!! なんだこいつ!」
攻撃が全然当たらないことに男たちは苛立っているようだ。

「君たちから喧嘩売ってきたんじゃない。ホラホラ頑張れ~。か弱い女の子相手に格好悪いぞ~」
天姉は煽りながら次々に男たちを倒していった。

「う、うわぁ! グハァ!」
天姉が最後の一人を倒した。

「よし! この人で最後っぽいし、全員倒したかな? いや~この人たちが弱いのか私が強いのかよく分からんな。ん? あれ恭介じゃんどうしたの?」
天姉がやっと僕がいることに気づいた。

「こっちのセリフだよ。何? 喧嘩売られたの?」
「そうなの~。ゆずの勉強会が終わったから散歩してたらなんか急に声かけられてね。無視してたら肩掴まれたからチョップしたら喧嘩になっちゃった」

「んーじゃあ天姉が悪いとも言えんか。まぁいいや。そんなことより、とっととずらかろう。ん? えい」

天姉が倒し損ねていた一人が天姉の背後に迫っていたから顔に一撃くれてやった。

「ブへー!」
男は仰向けに倒れた。

「あー! もうなにしてんの~顔蹴ったら可哀想でしょ? あーあ、鼻血出てるじゃんこの人」

「ごめんて。いやでもこの人天姉の髪掴もうとしてたよ」

「そうなの? んー不意打ちであることも考えれば同情の余地はないか。んじゃ手当てはしない! よくやった恭介! ずらかるぞ!」

「切り替え早いな。まぁいいや。そうだね。帰ろうか」


 次の日。
同じ内容の訓練を終え、旅館に戻る途中またしても催した。

「厠」
「おう。先帰ってるぞ」

僕は昨日と同じように公園に向かうことにした。
どうも泳いだ後はトイレに行きたくなってしまう。
体温が下がるからだろうか。

そして公園に着いたのだが、今度は見知らぬ女の子が蹲っていた。
大体僕と同年代くらいだろうか。
足を手で押さえている。

僕は声を掛けてみた。

「どうしたの? 怪我?」
女の子は顔を上げて僕の顔を見た。

「え? あ、はい。滑り台で勢い余って地面に突っ込んで擦りむいたんです。……マヌケだなって思ってますよね。すごく顔に出てますよ」
ジト目で睨んできた。

「ごめん。そんなつもりはなかったんだけど。とりあえず、そこの水飲み場で傷を洗おうか」

「はい。あの、痛いんで肩貸してください。……嫌だなって顔に書いてますよ。分かりやすいですねあなた」
「えー。いいよ」

傷を洗った後、ガーゼを貼ってテープで止めた。

「……いや準備良すぎませんか? え? 普段から医療キット持ち歩いてるんですか? 変わってますね」
「普段から怪我することが結構あるからね。持ち歩いてるんだよ」

先生の訓練はいつ怪我してもおかしくないものばかりなのだ。

「はぁ。てっきり女子力高い感じの人なのかと思いました」
「君もかなり変な人だと思うけどね。間抜けだし」

「おいこら。なんで行動は優しいのにデリカシーがないんですか。まぁでも……手当てしてくれてありがとうございます。……あの、私は水野みずのさくらといいます」
「いや訊いてないけど。なんで急に名乗るの? 怖」

「え!? 今から知り合いになる感じの流れじゃないんですか!? いいからあなたの名前も教えてくださいよ」
「ジョン・スミスだ」
「なるほど。キョンさんとお呼びしますね!」
「もうなんでもいいよ。じゃあね。お大事に」
「え!? 家まで送ってくれるんじゃないんですか!?」
「図々しいな」

「もっとオブラートに包んでくださいよ。いやでも本当に歩けないんですよ。近くまででいいのでおぶってください。……いや、やっぱ肩貸すだけでいいですからその顔やめてください」
どうやら旅館の方向らしいから渋々送ることにした。

立場上、人と関わることはリスキーだからちょっと嫌なんだけどな。
まぁ自分から首突っ込んだことだし自業自得か。

いい事したつもりだったんだけどな。
塞翁が馬ってことか。

……こんなこと言ってたら先生に怒られそうだな。

そんなことを考えていると、変な人が顔を覗き込んできた。

肩を貸しているため、見ようによっては僕がカツアゲされているように映ることもあるかもしれない。

「どんだけ嫌なんですか。顔すごいことになってますよ」
「人の顔色窺うのが上手だね」

「私に皮肉は通じませんよ。フフン」
「憎たらしいな」
「ハハ、褒め言葉として受け取っておきますよ」

「伝わってるのに通じないとか本当厄介だな。君多分高校生くらいだろ? 女子高生ってみんな君みたいに面倒臭い奴ばかりなの?」
「いえ? 私が特別面倒臭いってかんじ~? みたいな?」
「いきなり女子高生っぽくなったな」

「っていうかオブラートに包んでくださいってば。もうデリカシーって呼びますよ。それか矛盾」
「人の呼称とは思えないな。なんで矛盾?」

「優しいのにデリカシーがないからですよ」
「僕は別に優しいわけじゃないしデリカシーはある。単に君のことが苦手なだけ」

「嫌いになりますよそんなこと言ってると」
「脅しになってないよ。そんなの君の勝手だろ」
「もうツンデレだと思うことにします」

「ちくしょう。中々手強いな。全然めげないしょげない挫けない。僕結構酷いこと言ってるよ?」
「私はしたたかな女なんですよ。はっはっは!」
「妖怪みたいだな」
「さ、さすがに失礼じゃないですか?」

「あ、ごめん。そういやどこまで歩くの?」
「ん? あー、この辺で大丈夫です。ありがとうございました」
「じゃあね。気をつけて帰りなよ」
「はい。それではまたお会いしましょう」

変な人は僕に向かって腕が千切れるんじゃないかと心配になるくらい元気よく手を振って帰っていった。

変な子だったな。
しかしあれだけ絡んでくるということは、そういうことかもしれない。
そのうちまた会うことになるかもしれないな。

ってか最後にまた会おうみたいなことを言ってたし。
一応警戒しておこう。


 数日後、帰ることにした僕たちはまたあの女将と対面していた。

「……」
僕たちは黙っていた。
すると女将はフッと口元を緩めた。

「フフ。そんなに警戒なさらないでください。実は、私はもう小野寺家の人間じゃないんですよ」
「……え? えぇ!? 先輩辞めたんですか!?」
ゆずが驚いた。

女将は頷いてから話し始めた。
「そうなの。昔からなんとなくおかしな家だとは思っていたんだけどね。あなたたちのことがあって、辞める決意をしたの。あ、誤解しないでね? あなたたちのせいだとか言っているわけではないのよ。あのことがあってからあの家はいよいよおかしくなって危ないと感じたのよ。私は自分の身を守るために辞めたの。可愛い我が子のためにもね」
ゆずは驚きながらも納得したようだった。

「そうだったんですね。使用人の間でお料理の水野だとかお掃除の水野だとか崇められていた先輩が旅館の女将になっていただなんて。てっきり私たちを捜すために全国に散りばめられた使用人の仮の姿としてやっているのかと思っていました」

女将はなんとも言えない顔をした。
「私にそんな二つ名があったとは……。いやそんなことより。冗談のつもりかもしれないけど、あながち間違いでもないかもしれないわよ。小野寺家の監視の目がどこにあるか分からない。気をつけなさい」

「はい。気をつけます」
ゆずがこくんと頷いた。

「申し訳ないけれど、私はあなたたちの味方をすることはできない。小野寺家を敵に回すことになるからね。でも元同僚のよしみで少しだけ教えてあげる。奥様はともかく旦那様は……言葉を選ばず言うなら、精神的に幼い方だからね。桜澄さんのことは例外的に見逃していたけれど、基本的に人が自分の思い通りにならないのは許せない方だということは知っているでしょう? そして多分今もまだあなたたちに怒っている。見つかったら何をされるか分からない。……これは言うべきか迷うけれど、一応伝えておくわね。その子たち三人の親は……口封じのために殺されているわ」

女将は僕とけいと天姉の方を見て言った。
ということは、確認するまでもないが殺されたというのは僕たちの親だということだ。

……何でだろう。
僕は父と離れることが怖くて、それで先生に反抗したようなこともあったはずだ。
それなのに今、何も感じることができない。

元々父が死んでも悲しめる自信はなかったが、それでも何か思うことがあるだろうと思っていた。

この例えで伝わるかは分からないけど、例えば親友が引っ越すか親友が死ぬか、だったら多分僕は引っ越して会えなくなる方が悲しいと思う。

言ったかもしれないが、僕はどうにもならないことに対する諦めが異常に早い。

だから僕は父の死を知ったというのに
「へぇー」
と気の抜けた声しか出なかった。

「ふーん」
「ほーん」
天姉とけいも同じような反応をした。

その様子を見た女将は酷く辛そうな顔をした。
どうやらこの人も親という立場であるらしいし、何か思うところがあるのだろう。

それにしても……
「すみません。あなたの苗字は水野でいいんですよね? もしかして娘さんって」
僕が女将の水野さんに訊こうとしたその時、
「ただいま帰りました! あれ? 恭介さんお帰りですか? ありゃ。私はただいまであなたはお帰りとは。なんか面白いですね。ハハハ」
やっぱりこの子か。

しかも
「いや、僕の本名知ってるじゃん。やっぱりこっちのこと最初から把握してたな?」

なんか怪しいと思っていたのだ。

「お、気づいてましたか。まぁでもあれはたまたま怪我してたところにあなたが来たんですよ」
「ヘぇー」

「信じてないですね? まぁいいですけど。あ、初めましてみなさん。私はポジティブです! ポジティブが高じてエレベーターに乗っても上にしかいかないくらいです! 名前は水野桜です」
「自己紹介の順番おかしいだろ」

桜はこの場にいる全員を置いていくくらいハイテンションな自己紹介をした。

天姉も
「私はエレベーターに乗って何階ですか? って訊かれた時、何階でもいいですよ!! って答えるような変人です! あ、名前は白石天音」
と自己紹介した。

「気が合いそうですね! イェーイ!」
「イェーイ!」
天姉と桜はハイタッチをした。
変人同士、気が合いそうな二人だ。

そして桜はこんなことを言い出した。
「ところで、今から家にお帰りになるんですよね? もしよろしければお供させてくださいませんか?」
「こら桜! 何を言っているの?」
水野さんが娘を叱る。

「いやー。この通り私は変わり者ですから夏休みを一緒に過ごす友達なんかがいないわけでして。それに恭介さんにお礼もしたいですし」
桜はもじもじしながら言った。
わざとらしい。

「ふーん。ん? どうしたのみんな。なんでニヤニヤしてるの? やめて天姉。つつかないで。っていうかいいんですか? 先生次第だと思いますけど」
「ん。俺は構わん」

「あっさりしてますね。まぁうちじゃ悪さを働くことはできないと思うけど」

「ほーう? そう言われると燃えますね!」
「カリギュラ効果やめろ」

とにかく、桜も一緒に帰ることになった。
「それでは先輩、お元気で」
ゆずが水野さんに頭を下げた。

「結輝もね。みなさん、桜をお願いします」

「ありがとうございました」
最後にみんなで挨拶した。

こうして僕たちは家に帰ることになった。

すごく疲れた。
しばらく筋肉痛に悩まされそうだ。
それにしても色々あった気がする。

いつもは遠出したとしても、ただ訓練をして帰るだけなのに今回は人と関わることが多かった。

でも、改めて互いの気持ちを確かめることができたと思う。

先生が色々悩んでいることはなんとなく気がついていたけど、あんなに詳しく自分のことを話してくれたのは初めてだ。

なんだかんだ結構楽しかったな。
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