アリステール

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少年期~

疑い

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陽が昇り、港町にも活気が出始めるころ、アリシアと宿で少し遅めの朝食を食べながら、昨晩のことを話していた

「これがうまくいけば海運ギルド側と話す場を作れるからね。両親の捜索も進められるよ」
「ありがとう。私も、知ってそうな人に声をかけて手伝うよ」
「いいの?」
「元をたどれば私のことだもん、ダメなわけないよ。それに、海運ギルドって口が堅いから、その情報をもらえるなら私も協力したい」

行き詰っていたところに光明が差したためか、アリシアの表情は昨日と比べて明るく見える
たしかに、冒険者ということを抜きにしても海運ギルドの息がかかっている商店は口が堅い
以前布について手掛かりが得られそうだった商店にせよ、そもそも仕事が海運ギルド内で完結しているため信用の築きようがない
購入する資金だって有限だ。得られるかわからない信用をお金で買えるほど、そこまで潤沢ではない

朝食を終えてから、アリシアに持たせている石に魔力を再充填し、別行動とする
アリシアには町中で、魔獣の・・・カーターさんの情報を集めてもらう。長くこの港町近辺にいたようだし、直接的でなくても噂や伝承などで話が伝わっている可能性がある
もしそうなら説得の材料にも使える。そうでない場合が少し厄介だが、敵意がなければ好意的に話すことは出来たのだ。いざとなれば場を共にして話すことも出来る

自分はといえば、昨晩書きかけのカーターさんの要点をまとめるとともに、それを海運ギルドへ渡すことと話をすることだ
昨晩のカーターさんの言ったことに反論はない。筋は通っているし、守るのもそう難しくないはずだ
むしろこれまでの良好な関係を壊した海運ギルドに疑念を抱いてはいるが、一方の話を鵜呑みにして物事を判断するのは危険だとも考えている

考えられるとすれば、人が増えて漁獲量が足りないとか、販路拡大のために漁獲量を増やしたとか、特定の種類の魚を乱獲したとか、そもそもこの約束を知らないか
その他にも深い理由はあるかもしれないが、それと今の状況を比較してどう判断するかは。結局のところ任せるしかないのが歯がゆい
責めるようなことは言われなかったが、この港町の行く先を決める重要な決定だとも言い換えられる。初めてのことに緊張もするが、抜けが無いように十分に注意する必要がある

昼になる少し前に手紙は完成した。この時間からなら冒険者ギルドも海運ギルドも問題なく営業しているはずだ
直接海運ギルドへ行こうにも、場所も知らないし話し合う約束をしているわけでもない
さらに仲介を挟む形になるが、冒険者ギルドへ行き要件を伝えてもらったほうが良さそうだ

「昨日の依頼の件で、ですか?」
「はい。少々気になることがあったので、出来れば担当の人と話をしたいんです」

お馴染みとなった壮年の男性に話を持ち掛ける

「場所も知らないし、名前ぐらいしかわからないので、伺ったところで迷惑かと思いまして。手紙などをいただければ、それも省けるかと」
「・・・わかりました」

重そうに腰を上げて、港町の地図のようなものを取り出して戻ってくる

「場所はここ、港から北に上がった建物が海運ギルドです。作りはここと似たようなものなので、中に入れば案内がつくはずです。
手紙は・・・特に意味はないと思いますが、私の名前で簡単な紹介状を作ります。少々お待ちください」
「お願いします」

その後10分もかからずに手紙は渡された。前提として両者の関係が劣悪な以上、たしかに意味は薄いかもしれないが、向こうもこちらに依頼を出すほどの状況だ。無下にはされないだろう
教えられた建物は、言われた通り冒険者ギルドと似た外観をしている。入り口上の看板が海運ギルドになっているぐらいしか違いがないように見えるほど
わざわざ冒険者ギルドと分ける意味はあるのだろうか?母集団が違うだけ?地元の仕事として発展させたい?

今更な質問だが、あまり行政に詳しいわけではないので、横に置いておく。まずは目先の問題を解決することが急務だ
入り口と思われるスイングドアを開けて中に入ると、外観だけでなく内装までそっくりだ
向こうとは違い、職員もギルド員と思われる人たちも多数いることが明確な違いだろうか

「ようこそ海運ギルドへ。本日のご用件は?」
「あ、どうも。冒険者ギルドから来ました。手紙はこちらに」

怪訝そうな目で手紙を受け取り、開封して中を見ると、露骨に嫌そうな目をしてこちらを見据える。一押しが必要か

「独自の調査で新たにわかったことがあります。エグバートさんでなくても、話だけまず聞いていただければ構いません」

情報をどう扱うかはそちらに任せる、というニュアンスを暗に伝える。こちらも初めから喧嘩腰で対応しようとは思っていない
最終目標は真実を見極めてよりよい形に押し込むことだ。もちろんカーターさんの言っていていた条件が真実なら、それを叶えるのに尽力するつもりだ

「・・・話だけは伺おう。奥の面談室へ」

巷を騒がせている騒動だけに無下にも出来ないだろうけど、そこまで面倒そうに対応されると協力する気が失せてしまいそうだ
アリシアの件がなかったらここまで協力的に動くこともなかっただろうな、と心の中で説得しつつ、後をついていく
周囲のギルド員や職員たちの目をかわしつつ、応接室のような場所に案内された。ソファに腰かけ、話を始めていく

「改めて、冒険者ギルドから来ました、アリスと言います」
「御託はいい。用件だけ手短に」

・・・坊主憎けりゃ、ではないけど何某を思い出す言葉遣いだなぁ

「分かりました。昨日の調査のあと、独自に調査をしました。原因と思われる魔獣と接触したので、そのお話を」
「ふぅん。で、いつ、どうやってそれを知った?」
「・・・言葉通りの意味ですが?」
「よくいるんだよ。この辺の伝承だか御伽噺だか、知らないやつが振りかざすのはさ」

へぇ、てことはあのカーターさんはそれなりに信じられてきた存在ではあると
若いからさほど重要視していない?それとも鼻で笑い飛ばすほど滑稽な話?まぁ今はその辺はいいか

「そうなんですか。その話は今聞きましたけど、証明は出来ませんね。でも」
「あぁ、もう行っていいよ。耳を傾けたのが馬鹿みたいだ」

もう我慢しなくていいんじゃないかな

「・・・あなたが何を信じていてどう動いているかは興味ありませんが、話を聞かないというのはおよそ原始的であるとしか思えませんね」
「は?」
「都合のいいことばかり聞く耳ならいらないんじゃないですか?」

例え滑稽な笑い話だと笑い飛ばされるならまだしも、ここまで一貫して話を聞かないというのは組織的にもいかがなものか
そしてそれが上だけでなく、顔とも言える受付まで同じなら手に負えない。言葉に煽りは含ませつつ、心は冷静に分析しながら話を続ける

「魔物や魔獣のいる世界ですよ?伝承だからと勝手に下に見て、馬鹿を見てるのは港町全部の人じゃないですか。
少なくともその人たちをまとめている立場にある人間なら、私利私欲だけでなく先を見て行動する必要があると思いますが。いかがでしょう?」
「・・・ガキに言われたところでどうにかなる問題じゃないんだよ。言いたいことは終わりか?ならさっさと帰れ」
「そうして盲目的に自分が上だと信じていることに疑問を投げているんですよ。私の問いの返答は貰えないんですか?」
「はいはいそうですね偉いですね。これでいいか?」
「・・・多少なり論理的に話しているつもりだったのは僕だけでしたか。分かりました、失礼します」

表情はあまり変わっていないが、顔は真っ赤だし手は震えている。今にも殴り掛からんとする体勢はそのままに言葉を発しないのはそうしないように我慢をしているのか
それとも、こちらの隙を窺っているのか

廊下に続く扉に手をかけ外に出ようとした瞬間、やはりと言うべきか、握った拳を頭に叩きつけようと足を踏み出す
それを横目に防御魔法を展開する。外殻を固く、内側を魔力で満たして柔らかく
ゴツッと鈍い音が部屋に響く。殴った手を抑えながら蹲るその姿に目を向ける

「冒険者ギルドとの確執は知りませんし、関与していません。一辺倒に物事を判断して暴力に訴えるのも別に咎めません」

留めようとする声を無視して入り口側に向かって歩を進めていき、受付の並ぶ広間へたどり着く
ギルドの職員たちがこちらを見つけて怪訝そうな顔つきを見せる。先ほど一緒にいた職員はどうしたのか、と問おうとする空気を感じるが、お構いなしに要求を述べる

「先日の調査後、原因と思われる魔獣と会い、話をした。この件の責任者と話がしたい」

その言葉を聞いて、大半は鼻持ちならないような表情をした。少数はなおも怪訝そうな表情を作る職員たちだ。どうも真剣に話を聞いてくれる雰囲気ではなさそうだ

諦めるしかないだろうか。少なくとも夜半の出会いは夢ではないし、カーターさんの言う主張は理に適っていた。同じように理性的に話が出来ればと考えていたが・・・安易だったのだろうか
いや、年齢や身分も関係するのだろうか。特に実績もない、13歳の子供が何を言ったところで、信頼する謂れはない
これまでの出会いが良いものだっただけに、無条件に信じすぎていたのかもしれない。多少なりアリシアの助けになると思い受けた依頼だったが、どうにもこの港町は閉塞的に過ぎる

音も無くなり、こちらへの興味がほとんど薄れたところでその場を去る

さてさて、どうしたものだろうか
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