アリステール

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少年期~

第一

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街を出ておよそ3時間。陽は傾き始め、朝に似た寒さが戻ってきていた
歩く身の持つ熱はそれを感じさせないが、一泊しようと予定していた村はもう少し距離がある

初めこそ調子も良く、アリシアとしゃべりながら歩いていたが、疲れからかその数も少なくなり、歩くペースも落ちていた

「アリシア、一回休憩しようか」
「うん。ごめんね、アリスくんだけならもっと行けるのに」
「そんなことないよ。一人で歩くより調子がいいぐらいだ」

村へ続く道中は平原のような景色が続いている。変り映えしない景色でもあるが、周囲の様子はよく見られる
索敵魔法だけに頼らず周囲の警戒もするのは、ゴブリンの集落のときの教訓でもある

近くの岩場の影になっている部分に座り込み、インベントリから水の入った木筒を取り出す
魔法で創った水もそのまま飲むことは出来るが、ほかの人に見られてもいいようにとユフィ先生が教えてくれた知恵だ
もっとも中身は魔法で創った水であり、飲みやすいようにと少し冷やしてもある

食事をとるには早い時分だし、疲れた体を癒すことが先決だ。アリシアほどではないが、自分も疲れているのは同じだ
足をマッサージしたり、軽くストレッチをして固まった筋肉をほぐしていく
アリシアはこちらを不思議そうに見つめていたが、真似をして体をほぐしていた

30分もすれば大分マシになってくる。あまり遅くなってしまうと寝床の確保も出来るか怪しくなってしまう

「そろそろ行こうか」
「うん。なんか、さっきより体が暖かい感じ」

それからは最初のペースを取り戻したように進むことが出来た。劇的な効果というわけではないが、凝り固まった疲労をうまく抜くことは出来たかもしれない
それから1時間も歩けば、目的としていた村が見えてきた
街のように立派な門があるわけではないが、木の柵で作られた簡易的な門が見えてくる
物の出入りがうちの村よりも盛んだろうし、人の出入りも多いからこそだろう。警備体制が整っているというのは中で過ごそうと思えば頼もしい

並んでいる人はおらず、門の傍に立っていた人へ通行の可否を問うと、身分証の提示を求められる。ギルドカードを渡し、何の目的でここに来たかを問われる
先の西の海を目指していると正直に伝える。荷物の検査は、手に持っているものもないためされなかった
収納魔法の可能性等は考慮していないのだろうか。いや、僕たちが例外なだけなのか?
とはいえ悠長に過ごしている余裕はない。個人向けの宿はどこにあるか教えてもらい、その方向へ足を運んでいく
ペースが上がったとはいえ、午後はほとんど歩き通した。夕飯にも、そろそろいい時間だろう

「いらっしゃい。個室大銅貨5枚、二人部屋なら大銅貨8枚だよ」

教えられた宿に入り、宿泊の金額を尋ねるとそう返ってきた。先の行程はまだ続いているが、けちるほど懐は寂しくない

「二部屋で「二人部屋でお願いします」

返事にかぶせられる形でアリシアから驚きの一言が発せられる

「ちょ、ちょっとアリシア。何考えてるの?」
「大丈夫。まだ目的地まで遠いんだし、出来るならお金はあまり使わないようにしないと」
「でも、男と二人部屋って、アリシアはいいの?」
「アリスくんとだったらいいよ?」

そういう一言が男を馬鹿にするんだよっ、と叫びたくなる衝動を抑える

「そ、それでも、きれいな身の内でそんなはしたないこと」
「もう、変なこと言わないでよ。それに、何かするつもり?」
「いや、そうではないけど」
「ならいいじゃない」

結局、押し切られて二人部屋になった。どうにも女性の押しには弱い
アリシアが宿帳の二人部屋の欄に名前を書く。部屋の鍵だと木札のようなものを渡される

「2階の部屋だ。木札に書いてある番号が部屋の前に書いてある。そこを使ってくれ。木札を差し込めば鍵が開く。寝るときなんかは外しておいてくれ」

そっけなく説明されたが、顔はにやけていた宿の亭主だと思われる人物の視線を無視して2階に上がっていく
番号が合う部屋を見つけ中に入ると、靴を脱ぐようなスペースがあり、その先はすぐにベッドが並んでいた。床はほとんど見えないが、小さな荷物ぐらいは置けるだろう
ただ泊まるだけというような風貌で、そういえば食事のこととか何も聞いていなかったことを今になって思い出す
街でとっていた宿では食事が付いていた分割高だったが、当たり前のようにそう思っていたこともあり失念していた

「アリシア、ご飯どうしようか」
「外で食べるとこ探そう。人は多いみたいだから、酒場とかでも食べられるかもしれない」

宿まで歩いてくる間も、荷車を曳いている人や、仕立ても恰幅もいい人が多く見られた。おそらく街での商談を控えている人が多いのだろう
街に近いとはいえこの村まで4時間ほどは歩いたが、逆から行けば最後の中継地点だ。街に入る前に景気づけにお金を落としていく人も多いのだろうか

汗にまみれた服は、アリシアと交互に着替えた。鍵がかかったことを確認して宿を出る。外は街ほどではないが街灯も点在しており、宿場町の様相をしていた
通りを挟んで向かいに並ぶ食事処が見えた。よく見てみれば、こちらには宿の並びが続いている。なるほど、宿と食事は分業しているわけだ

外から様子を見てみるが、夜も更けて中はどこも満席のうえ、お酒が入っているのかかなり騒がしい
食事をするだけと割り切ろうとするが、アリシアはあまり良い表情をしない。仕方なく端の方まで進んでいくと、ほどほどに空いていて静かな店を見つけられた
ちらほらと客は見かけるが雰囲気は悪くなさそうだ。ここにしよう、と頭の高さのスイングドアを開き中に入る

「いらっしゃい。酒はないよ」

飲める年齢に見えるのだろうか。いや、そもそも未成年飲酒禁止とかあるんだろうか?まぁ、飲みたいとは思ったことはないけれど

「二人分の食事を」
「大銅貨2枚だ」

素っ気ないなぁと思ったが、郷に入っては郷に従えだ。ポケットにしまっていた財布代わりの布袋から大銅貨を2枚取り出して渡す
返す手で空いた席を指さされる。あそこに座れと

「なんだか調子狂うね」
「そう?」

席について話しかけるが、アリシアはそう気にしていないようだった。まぁ、最低限でも意図は伝わってるんだから、と納得しておく
明日以降どう進んでいくかを相談しながら料理を待つ。次の中継地点までは今日と同じぐらいの距離をしているが、一日通せば一つ飛ばせる
合計で五つ超えれば目的地だが、急ぎ過ぎても体調面で不安は残る。結局、着実に一つずつ経由し、余裕があればまたその時に考えよう、としたところで料理が運ばれてきた
豆と野菜のスープに硬めのライ麦パン、小さな鳥の姿焼き。銅貨5枚分と思えば十分豪華だ。大雑把な味付けだが、動いた後の身体にはちょうどいい

食事を終えて宿に戻る。相変わらず外の喧騒は続いていたが、部屋に入ればそう気にもならない
宿に言ったら水桶と布を借りることが出来たので、着替えのときと同じように交代で身を清めていく。自分だけは洗浄の魔法を使わせてもらったけれど
アリシアからそれはずるいと言われたが、目隠しでも出来るかは今度試しておこう

ベッドの中に入れば、どちらもすぐに寝入っていた
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