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夢忘れ編

天才軍師の罠

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【隠れ家】
林の中に溶け込むように建てられている小さな小屋から、男女の元気な声が漏れていた

「ちっ。なんで俺がこんな男勝りな女を口説き落とさなきゃならねーんだよ。俺は可愛い系の女の方が好きだってのによ…」

「( º言º)なんだと!?てめぇふざけんなよ!俺だっててめぇみたいなお子様なんか眼中に無いってーんだよ!渋イケなオジサマが好みなのによ!」

マーマルの提案で、2日間という時間の中でリュウキを口説き落とす事に、挑むことになったヨシュア。その対象であるリュウキも不満を爆発させている


「リュウキ!!これは僕からの命令だよ!それにコレはキミの為でもあるんだ、取り敢えず努力しなよ…それとヨシュア君。当然キミには断る権利が無いって事は分かってるよね?」

「ちっ、分かってるよ。しゃーねーなぁ」
「マーマルの命令だから仕方なく。だからな!」

「了承したのなら…ヨシュア君。キミにはコレを飲んでもらうよ。もちろん断る権利は無いからね」

「分かってるよ…ゴクン…で、何だよ今のカプセルは?栄養剤みたいなもんか?」

「ニヤっ(笑)」
的外れな予想をしたヨシュアと自分との知能の差に愉悦を感じたマーマルは、彼を嘲笑うかのような目線を送った

「甘いね。キミは僕らの捕虜なんだよ?…ソレは、超小型化したテウの爆弾だよ。キミが彼女から1km以上離れると爆発する…そうだね…大きな山が1つ吹き飛ぶほどの威力が、お腹の中で炸裂すると思えば良いよ(笑)」

「てめぇ!そんなヤバいもんを黙って飲ませるんじゃねーよっ!!」

「安心しなよ。キミがリュウキを口説けるか?のリミットの夜には勝手に溶けて無くなると、テウが言っていたよ」

「本当かよ?…約束守って木っ端微塵なんて絶対に勘弁してくれよ?」

お腹の中に超高火力な爆弾を入れてしまったヨシュアは流石に肝が冷えたらしく、妊婦さんのように慎重にお腹の上に手を置いた

「テウが大事なことで嘘を言ったり、ミスをしたのを僕は見たことが無いから安心しなよ。さぁさ、無駄話ばかりしてると時間は減る一方だよ?」

「ちっ、しゃーねーなぁ…行くぞ男女…」

「誰が男女だ!?ふざけやがってよォ…」

そう言うと2人は隠れ家を出て、周囲の見廻りを兼ねたデートの予行演習みたいな感じで出掛けて行った


「何だかあの2人。似た者同士みたいですねー。もしかすると本当にー、口説かれちゃうかもー?」

自室から出てきたテウが、こっそり様子を見ていたようで、息が合っている2人の漫才のようなトークに笑っている

「…誰かを好きになったり、誰かを守る為に戦う。リュウキがそういう感情を持てれば、彼女は更に強くなれるハズだからね…」

リュウキたちを見送ったマーマルだが、彼女の視線はその2人ではなくお師匠様が帰られていった空の方を見ていた

「シャオシュウ様のお身体が気になりますか?」

「あぁ。いよいよ寿命が近付いているらしいし…身体もあまりよろしくないらしいからね…」
 

「では、このペンダントを届けられてはいかがですかー?さっき言ってた天使族のサーシャって子が入っている宝石をー、ペンダントにしてみましたー。天使族ほどの回復力を持っている子が入ってますからー、身に付けているだけで回復効果は期待できますからー」

「そうか!解放準備の為にこの宝石が必要って訳じゃない、って言ってたね。せめて2日間だけでも、お師匠様を癒してもらうとするか♪」

「それが宜しいかとー。留守番は私たちにお任せくださいー」

「留守は頼んだよ。それじゃ行ってくるよ【浮遊推進(レベチューン)】!」
「ボウッ!!」

お師匠であるシャオシュウの事がかなり気になっていたマーマルが飛び立つ時、いつも以上に気合いが入っていた為に強い空圧が発生し、テウの長い髪やスカートが強くたなびいていた



【山岳地帯の撤退戦】
「くっそー奴らめ、本当にしつこいな!」
「コタージュ様が生きておられれば奴らなど…」

人間側と魔族側の第2軍同士の衝突となった戦い。戦鬼コタージュは天才軍師ホルンの策略に嵌(ハ)められ戦死した。残った兵たちは体勢を立て直す為に、中継拠点へ撤退中なのだが…ホルン率いる第2軍の追撃を振り切れずに少しずつ被害者が増えていた


「むっ!アレか?…人間どもめ、自分達は被害を出さずに少しずつ削る戦法か?中距離を保っての魔法と弓矢攻撃に専念しておるな…このままでは拠点に入るまでに、更に半数くらいがヤラれそうじゃな…」

味方がかなり苦戦しているのを確認したシャオシュウは、飛行魔法の速度を上げ、逃げる味方の軍への追撃を止めない敵の軍の上空に向かった


「敵の増援は来ないか?」
「はい!今のところは…」

「ふむ…ならば引き上げ時か?ホルン様からも餌に獲物が食いつかないようなら、過度な追撃はしないように言われていたしな…」

ホルンやゲイツ達の本体から離された追撃用の第2軍の指揮官と副官が、これ以上の追撃をするか?止めるか?を話し合っていた頃…

「指揮官!南の空より高速接近する影を発見しました!敵の数1であります!」

「なに!?僅か1人で撤退支援が現れただと…」

「いかがいたしましょうか?」

「単身で支援行為だと?…本命かも知れんな…手強いぞ!無理はするな!」

退却する味方の支援をするには、余程の数の戦力で挑まないとイタズラに戦力を消耗するほど危険なのだが…その局面にたった1人で援軍に現れるなど、自分の強さに余程の自信がなければ出来ないことである…つまり、現れたのは猛者(モサ)だと言える!


「このワシが現在な内は…人間どもの好きにはさせんわ!舞い踊れ炎よ!愚かな敵を焼き尽くせ!【絨毯炎舞(メドロフィア)】!」

シャオシュウが杖を振り上げると、超高熱の炎の塊が発生した!その杖を眼下の人間たちに向けて振り下ろすと…超高熱の炎の塊は10数個に分裂し、撤退する味方を追撃している人間たちに降り注いだ!

「ぐわあああ!」
「この憎しみの炎は…憎悪の魔女か!?」
「助けてくれー!身体が燃えちまう!」

シャオシュウの炎魔法に焼かれる人間たちは、悲痛な叫びとともに逃げ惑っていた

「対魔盾隊、先頭に立て!魔女の魔法を阻止しろ!回復師は味方を助けよ………ピイーっ!!」

部下たちに指示を出した指揮官は、懐に入れていた笛を取り出し強く息を吹き大きな音を鳴らした


「何のつもりじゃ?…魔法を打ち消す魔道具でもないようじゃが…戦場で大きな音を立てたところでワシの魔法がどうにか出来る訳が…」

まだ魔族側には、戦闘中に音で合図を送り作戦開始を伝える。という行為は広まっていない。ましてや最古参の魔女シャオシュウは、最近取り入れだしたばかりの作戦に詳しくなかった

「撃て撃てー!」
「コチラも負けるな!」
「魔女を焼き尽くせ!」

「これは!?まさか…罠だと言うのか!?」
「ドババゴォー!!!」

左右の林に潜んでいた人間側の第5軍による魔法攻撃が、一斉に挟み撃ちするように、シャオシュウただ1人に向けて全力発射された


「ドサッ!」
「かはっ…はぁはぁ…対魔対物理を付与したコートが無力化されただと?…おのれぇ人間どもがぁ…」

いかに一般の魔法使い達よりも遥かに高い魔力を有している魔女とは言え、左右20人ずつ計40人以上による魔法の一斉射撃を不意に喰らっては、堪えきれずに墜落してしまったシャオシュウ


「討ち取れー!長年我らを苦しめた【憎悪の魔女】だ!我らの恨みを思い知らせてやれー!」

魔法を撃ち終えた40以上の馬に乗る騎士たちが、ソードを手に取りシャオシュウを囲み込むように接近してきた!

「おのれぇ!ワシの人生はこんな場所で潰えると言うのか?」

結果的に敵の全てを引き付け、味方の撤退を成功させたシャオシュウだが…その代償はとんでもなく高く付いてしまったようだ



続く
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