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日常編

マリニウムの女神

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【マリニウムの女神】
…と彼女が呼ばれ始めたのは、彼女が巫女として役職を拝命した翌月の事だった。彼女は今までの名を捨て妹の名を受け継ぎ、マリニウム復興の為に人生を尽くし始めたのだ。与えられた自室に戻り一息ついていた時、妹の別れた日を思い出していた

……………………………………………

「ミーコの名はお姉ちゃんに譲るにぇ」

「ありがとう感謝しています。他の国に行っても元気に過ごしてくださいね。健やかな未来を祈っていますね…チュッ♬」
 

ボッチちゃんは、国民全ての負の感情を吸い込みすぎて【でぇたら化】してしまい、人間、魔族関係なく多くの生命を奪ったのち妹のミーコの名を譲られこの地方の人々の支えとなるべく再出発している

その時の、もしかしたら今生の別れになるかも知れない挨拶をした時の事を思い出していた

「コンコン♪…ミーコ様、コチラにいらしゃいましたか?」

「ラデュード。ご苦労さまです…今はまだ頂いた休憩時間だと思いましたけど…何かありましたか?」

ラデュード。この大陸の中央北部にあるクラウン城から西の大山脈を越えた更に西から、冒険者仲間であるプディングと共にやって来た彼

長年パートナーだった彼女は【でぇたら化】したボッチちゃんの最初の犠牲者になってしまった

「お昼休憩の時にすみません。ですが、最近ミーコ様は街の視察で各地を奔放しておられますので、ろくなお休みも取られていません。ましてや怪我人を見たら誰であっても貴女の神通力で治療していますし、内政でもこう働き詰めではお身体が…」

「ですが…私がマリニウムの人々に対してしてしまった事は、名前を変えたところで到底許されるものではありません。多少の激務であっても、この程度で音を上げる訳にはイカないでしょう!」

ミーコは骨の芯まで純粋で優しい性格をしていた。そんな彼女だからこそ、マリニウムの守り神であった自分が逆に多数の人々を死に至らしめた事が許せないようだ

「午後からはロベルト宰相と資金の運用方法を検討せねばなりません。クラウン城やヘルメスの街から頂いた支援金、コレを無駄に浪費する訳にはいかないでしょ?まず何が必要か?何を後回しにするか?慎重に考え国民の助けとなる的確な判断が求められます!」

ボッチちゃんは【でぇたら】の血の呪いから解放されるまでは、世間知らずのお嬢様みたいなものだった

状況と立場が一変してからは、マリニウムの巫女として恥ずべき行動をしないように、忙しい公務の間の僅かな休憩時間さえも勉強にさいていた。当然、彼女の疲労は溜まりっぱなしだ。ラデュードは、そんな彼女の事を心から心配している



【ミーコの部屋】
ラデュードはミーコと同じ部屋で寝泊まりしている。もちろん夫婦でもないし、エッチぃ事をする目的ではないのだが…マリニウムの2大権力者のひとりである彼女を狙う者が現れても全然おかしくないからだ。中には「地方から来た冒険者にすぎない彼と、寝食を共にするのは良くないのでは?」と言う者もいたが、公の場で彼女自らが望んでいる!と宣言した事で、その手の声は沈静化した

2人とも自分の仕事を終え、この部屋に戻って来た時には23時を超えていた。明日も朝8時から仕事をしなくてはならない

2人は今日の出来事を話し合い、軽く雑談も交えて30-40分ほど話した後、眠りについていた

……………………………………………

「んっ!うっ…うあぁ…ごめんなさい、ごめんなさい!わざとでは…わざとではないんです…あぁ…プディングさん…王子様…嫌!食べては…食べたくはないんです…う、うあああっ!…はぁ、はぁ…夢、ですか…」

ミーコは毎日、復旧作業に励む国民をねぎらう為に街に出ては差し入れを手渡してて、激励の言葉を掛けて回っている。その時に国民から…

「ミーコ様!」
「わざわざ有難うございます!」
「ミーコ様の優しさで頑張れます!」
「ミーコ様はこの国の女神様です!」

などと国民から感謝の言葉を浴び続けていた。本来なら人の上に立つ立場の者としては…その笑顔と感謝の言葉は嬉しいハズなのだが…多くの国民の生命を奪い食してしまったミーコには…その事を伏せて巫女の仕事をして感謝の言葉を浴び続けることは、彼女にとっては逆に拷問を受け続けるような毎日だった


「コチラでしたか…」

「ラデュード…」

「眠れないのですか?」

「うっ、うぅぅぅ…ラデュード、私はこれで本当に良いのでしょうか?自分の意思ではなかったとは言え…あれ程の生命を奪い国民を苦しめ死に追いやっておいて…この国の最高責任者の1人だなんて…許されるのでしょうか?」
 

ラデュードがミーコと同じ部屋に住んでいる1番の理由はコレだった。重すぎるプレッシャーと後悔の念に、がんじがらめにされている彼女の精神的な支えを四六時中する必要があるからだ

「ミーコ様…おツラいでしょうが…」

「やめてください!2人の時まで…【様】付けで呼ぶのは勘弁してください!…はぁはぁ…すみません、声を荒らげてしまいました…」

更に彼女は長年寄り添ってくれた世話役の爺やさんまで失っている。そんな彼女は、立場上からくる義務的なパートナーだけでは癒されなかった。親友のように…ともすれば恋人のように支えてくれる者を望んでいる

「ミーコ…俺は…」

「あっ!すみません…私ったらラデュードの優しさに甘えてばかりで…本当に…こんな事では名前を譲ってくれた妹に顔向け出来ませんね……もっとシッカリしなくては……えっ!?」

「俺は…ミーコの事が好きだ。だから、ミーコがひとりで何でもやれる様になっても一緒に居たいんだ!」

ラデュードはミーコを包み込むように背後から抱擁した。突然の行為に思考が止まるミーコ


「で、ですが…私は貴方のパートナーだったプディングさんを……食べてしまった女なのですよ?それでもなお、寄り添い続けてくれるのですか?」

「こうなったのは運命だった…俺はそんな気がしているんだ!魔族との戦争が20年前からいっこうに収まらない故郷に嫌気が差して【ヘルメスの街】へと旅だったあの日から、こうなる運命だったんだって思ってる…そして今俺はミーコの大切な男になって、ミーコの傍に居続けたいんだ。ダメかな?」

「こんな私を好いてくださるのですか?」
 
「あぁ。ミーコはとても可愛いよ。プディングより先に出会ってたら、間違いなく俺はミーコに告白していたよ」

「本当に?……いえ、私の境遇を間近で見ていますから、その…【嘘も方便】とか言う支えとして言ってくれているのですね?」

「馬鹿!…本心だよ。俺と一緒になって欲しいんだ。決して嘘や同情なんかじゃない。俺は今、本気でミーコ…いや、ボッチちゃんに惚れているんだ!」

「ラデュード……ありがとう。嬉しいわ!……あれ?もしかして…「で~」としか言えなかった幼い私に惚れたのですか?え?」

「ちっがーぅ!俺は決して幼女趣味じゃなーい!」

「クスクス…冗談ですよラデュード(笑)」

数奇で運命的な出会いをした2人だったが、クーデターを生き延びた彼らは新たな未来をその手に掴みつつあった



続く
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