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憎奪戦争編

叶わなかった願いと叶えたい願い

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【城下町の離れの空き家】
ミクイは戦火からエーデを守る為に、人の居なくなった高台にある空き家に彼女を連れて避難していた。その横で己の無力さを嘆いて泣いているエーデ

「くっ…またエーデは大切な時に見ているだけなんて…どうして、どうして…」

エーデは過去にラッセル公爵の騙し討ちにより、両親と館とその使用人のほぼ全てを失っていた。そのラッセル公爵が起こしたクーデターの最中も、彼の乗る神代兵器に手も足も出ず離れた場所から眺めているだけだった。このままラッセル公爵たちが暴れ続けるのかと思われていた時…


【七精守護霊(ハーロウィーン)!!】

「あっ!?あの呪文は!」

「ぎゃあああぁぁぁ!!」

神代兵器の戦いを見守っていると、突然現れた見知らぬ魔法使(リキュール)いがエーデの良く知る超極大呪文により丸焼きにされ、コクピットに居たラッセル公爵は丸焦げになり、それ以降身動きひとつしなくなった

「うっ、ううぅぅ…エーデはまた…またしても大事な時に何も役に立てなかった。またしても見知らぬ女にあの魔法を…それに…両親や館の者たちの仇も討てなかった…エーデは、エーデはぁ!!」
 

またしてもエーデは大事な場面で何も出来ず、別の者に彼女の目的が果たされてしまうのを見守っていただけだった。しかも、またあの呪文による出来事だった

「その悔しさを忘れないで。その想いが、いつかエーデちゃんのチカラになる日が来るからね」

ボロボロ泣き出すエーデの頭に軽く手を置き、優しく慰めるミクイは確信していた。今回の悔しさがエーデを大きく成長させるだろうと

「エーデは…あの呪文をマスターしないとイケナイ…絶対…絶対にぃ!!」

「そっか、うん。良し!もうマリニウムに滞在する理由は無くなったね。帰ろうエーデちゃん。フュールさんの待つ城に!」

「はい…」

(本当はヒイロさんも放ってはおけないけど…三姉妹や聖騎士勇者隊が来たんだから、もう大丈夫よね?後は任せたわ)

エーデはアサシンマスターだけあって視力もズバ抜けて良い。魔人ランドルフ達と退治する三姉妹と聖騎士勇者隊を見付けたので、後のことは彼らに任せて最大の目標であるエーデの護衛を優先し、乱戦状態のマリニウムから退却した



【マリニウム城正門前】
「貴様ーっ!良くも我が父上を殺したなーっ!ぜーったいに許しておけーんっ!!」

父親であるラッセル公爵を目の前で殺されたランバードは、七精守護霊(ハーロウィーン)を放ったリキュールを睨み付けた

「大丈夫ですか?リキュール」

「はぁはぁ…魔法力(チカラ)を使い過ぎたみたい…魔力が枯渇しそうだよ…ぜぇ…はぁ…」

リキュールに近付いてくる古代兵器(パワードスーツ)を身に纏(まと)うランバードと、同じ装備をしている部下3名

もちろん、お嬢様育ちのケチュアにリキュールを守るチカラなどなく、オルガス・シュバッツが妹のチェイムを守りながら間に入るが、流石に1人では勝ち目はないだろう。そんなリキュールに語り掛ける声があった。それは彼女がよく知る懐かしい声だった

「ふふ♪強くなったんだね…見た目はかなり変えたみたいだけど、リキュールなんだろう?」

「カルーアお姉さん!?」

見た目を19歳くらいにまで変化させていたリキュールだが、全く同じ遺伝子を持つカルーアには、彼女がリキュールだとすぐに理解したようだ

「オルガスさん、チェイムちゃん。お久しぶりぃ♪アタシ達も手伝うよぉ!」

「アリスちゃん!それに貴方達まで、助かります」

オルガス達は、かつてイシス防衛戦に参加してくれた三姉妹の事をよく覚えていた。サーシャもチェイムに回復魔法を掛けている。そしてリキュールに歩み寄るカルーア

「ふふ、良い顔をしてるじゃないか…頑張ったんだねリキュール。色々と成長しているのが伺えるよ」

「有難うございます、お姉さん。ケチュアやイシスの人たちに色々な事を教えていただきました。それにしても、5つほど年齢を上げて髪色も変えたのに分かっちゃうんですね……有難うございます、お姉さん…」
 

「いやいや、感じたままを口に出しただけだよ。それに…その姿を見て安心したよ。5つ程だって?そっか、わたしも後5年もすれば身長も胸もそれだけ成長するんだね。良かった、良かった♪」

「まぁ、お姉さんってば胸のサイズをそんなに気にしていたんですね…クスクス。おっかないお姉さんだとばかり思っていたけど、結構可愛いところもあったんですね(笑)」

「女として身体の成長が気になるのは当たり前だよ!やっぱり好きな人には喜んでもらいたいじゃないか…」

「ふふふ♪今ならその気持ち理解できます」

リキュールとカルーアを見守るケチュア
(最近噂の救世主と名高いエルフの少女とリキュールが、姉妹関係だったなんて…でも、年上に見えるリキュールの方が妹なの?どういう事ですの?…あの2人はいったい?)

様々な思考がケチュアの頭の中で渦巻いていた。辺りを見渡すと魔力切れのリキュール、満身創痍のオルガス、疲労の激しいチェイム…それと沢山の様々な種族の死体。それらを見てケチュアは決断をした

「オルガス様!ここが潮時だと思います。私達はイシスに帰還しましょう!」

この4人がマリニウムに来たのは全て、マリニウムの動乱を放ってはおけない。というケチュアの個人的な意見に付き合ってもらっての事だ
彼らを。愛するリキュールを、周りに散乱する死体の仲間入りさせる訳にはイカない!

おそらくラッセル公爵が引き起こしたクーデターは失敗に終わるだろう。残る強敵はランドルフの部隊とランバードの部隊くらいだ
だがそれも、聖騎士勇者隊と城の残存騎士達によって駆逐されるだろう。クーデター側の損耗は、それだけ激しいと理解出来るし、雇ったならず者達は超極大化したボッチちゃんを見た時に、恐怖で既に逃げ出していたからだ

「ラッセル公爵の息子ランバードですね。私(ワタクシ)はクラウン城の専属聖騎士ミャンジャム・イレイユです。友好国であるマリニウムに災いを持ち込んだ罪、私(ワタクシ)が裁かせて頂きます!」

ミャンジャムは聖騎士としての務めを果たす為、ランバードに立ち塞がった!

「クラウンの聖騎士に、イシスの勇者か…確かに手強いが必ず蹴散らして、亡き父上の理想をこの俺が代わって果たするのだァ!」

聖騎士勇者隊はランバード、ランドルフ達と対峙した。立ち去ろうとするリキュール達に、笑顔で手を振るカルーア

「さようなら、わたしの双子リキュール。今度は幸せになるんだよ」

「有難うございます…大好きなお姉様…」

進化型超人類の2人は、最後になるかも知れない言葉を手短に済ませて別れた


【マリニウム城謁見の間】
「何処だ!?何処に居る、ボッチちゃん!」

今にも崩れ落ちそうなマリニウム城の謁見の間に侵入したラデュード。彼は世話役の爺さんと約束している合流地点に、ボッチちゃんを送り届ける為たった1人で崩壊が始まっている謁見の間で、必死になってボッチちゃんを探していた

「くそ!こんなにぐちゃぐちゃになってたら見つからないじゃないか!」

ラデュードの苛立ちも当然だ。先程まで街から離れた離島【フィンフィヨルド】からでさえも目視出来ていた程の大きさだったボッチちゃんなのに、今は小柄な女の子のサイズになっていて崩壊している城の中で1人で見つけるのは至難の業と言えた



続く
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