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憎奪戦争編

マリニウムの人々

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【マリニウムの城下町】
ヒイロとロベルト、リキュールとケチュアらがマリニウムを目指し出発した翌日。既にマリニウムの城下町に到着し、聞き込みをしているミクイとエーデが居た

「この街は活気があって良いですね♪」

「お嬢さんはドコから来たんだい?ほいよ、熱いから気を付けてな」

「えっと、クラウンとアレクスの中間にある小さな村です。800ゼニーですね…はい1000ゼニーです…ありがとう!」

「そりゃ大変な場所だね!王都クラウンと次期魔王が居るって言う魔族の城との間くらいにある村か?ソコは安全なのかね?…ほい、お釣りの200ゼニーな」

「はい…この前、王都に現れた獣神の被害も大きく生活もままならないので、足を伸ばしてコチラの暮らしはどうかな?って様子を見に来たの…」

エーデはミクイから、怪しまれない会話術をトコトン仕込まれていた。アンデッドの為、精神年齢がまだ12-13の彼女だが…過去に領地を奪ったオヅベルド公爵の動きを知るため、本気で集中してミクイの教えを学んでいた
そして今、軽く日常会話を混じえつつ朝食にと、露天でスナック食品を買っていた

「そりゃー大変だったな。この街に移住した方が良いぜ……と言いたいところだがよ…」

そこまで言うと露天の店主はエーデに顔を近づけ、周りに聞こえないように小声で話してきた。店主の内緒話に耳を傾けるエーデ
その間、ミクイが何していたかと言うと…

「やだぁ!ミクイはまだ二十歳(ハタチ)前ですってば!…年上に見られちゃうのかー…参ったなぁ。自分では若いと思ってたんですけどねぇ(笑)」
 

若い男から何回か声を掛けられているミクイ。ナンパ目的の男にはミクイがすごく良く見えている様だ

(ふむ…探りを入れられている感じじゃ…ないね。怪しまれていない、と…)

いかにも遊び慣れた女のイメージを醸(かも)し出して、街ゆく人々と会話しているミクイだが…そんな風に魅せていても心の中では、自分やエーデがスパイ?か諜報員か?と疑われていないか、周囲への洞察も一切手を抜いていない。恐らく彼女の素性を怪しんでいる者は誰も居ないだろう

その時、少し離れた場所で売店のオジサンから話を聞いていたエーデが大きな声を上げた

「えっ!?ソレ…本当なんですか?……あ、いえ…どの街も何か問題があるのですね。有難うございました。失礼します!」
 

自分の分とミクイの分のサンドイッチを買い終えたエーデは、ミクイに近寄るため駆け出した。その時!

「あでっ!?」

「悪ぃ!急いでるんでな!」

通りの奥から駆けてきた少年がエーデとぶつかり、軽い謝罪をしたあと走り出しミクイの横を素通りしようとした時…

「待ちなよっ!」

「ガシッ!」
自分の横を走り抜けようとした少年の腕を素早く掴んだミクイ。その手を振りほどいて走り続けようとした少年だが…

「ぐっ!?何だよ姉ちゃん?」

特に鍛えた身体には見えないミクイの身体なのだが、少年がチカラを入れて手を動かしても、手首を掴んでいるミクイの手はビクともしなかった

「ミクイさん、どうかしましたか?」

「はぁ……どうかしましたか?…じゃないわよ。買い物くらいシッカリしなさいよね!」

「えっ!?してきましたけど?」

ミクイが何を言っているのか分からないエーデは、キョトンとした顔で首を傾げている
(本当に分かってないのね…やれやれ…)

「アンタ、彼女から奪った物を返しなさい」

「な!?何の事だよ?」

「シラを切っても無駄だっての!ここに隠している財布は誰のかなぁ?」

ミクイが無造作に少年の上着を捲ると、中から小女物のデザインの財布を掴み出した

「あぁ!?エーデの財布だっ!!」

「ミクイのツレから財布を盗むだなんて…アンタ、良い度胸してるねー。痛い目みたいの?ミクイの尋問はキッツイわよ♪」

「ひいっ!?ごめんなさい勘弁して…」

そう言いながら少年はズボンのポケットに手を入れると何かを掴み、出したその手をイッキにミクイへ伸ばす!が…

「ガシッ!!」

少年の手には小型ナイフが握られていて、ミクイの胸を刺す気で伸ばされたが…それすらも事前に分かっていたかの様に軽く掴み取ったミクイ

「ははーん!お説教じゃあ、分からない頭の悪さ。って訳だ…それじゃキツーいお仕置きしないとイケないね!」
 
少年は身動きさえ出来ずに震えている
何故なら、ナイフを持った少年の右手首を掴んでいるミクイのチカラは指がめり込むほど強力で、有無を言わさない迫力で少年を人気の無い路地裏へ連れ込んだ

……………………………………………

「申し訳ないんだけどさ…ミクイ達は目立つ訳にはイカなくてね。運が悪かったと思って諦めてよね…」

少年を見下ろすミクイの目は…人を見る目ではなく、今から始末する対象の害虫を見るような冷徹な眼光だった

「ご、ご…ごめんな…」

「もう何も言わなくて良い!お前はこれからミクイに処分されるだけなんだから」

ミクイの言葉に慈悲の欠片(カケラ)も残されていない事を悟った少年は、恐怖で全身を震わせていた
ミクイはズボンの側面に縫い付けられている小型ポケットから、アサシンダガーを抜き出し静かに手を上げた

「お兄ちゃんを許してあげてっ!」

さっきまでのやり取りを、建物の陰から見つめていた少年より3つくらい年下の少女が、兄を助けるべく飛び出してきた



【マリニウム城謁見の間】
「スティーブ国王。臣下ロベルト、役目を終えただいま戻りました」

「良くぞ戻ったロベルト。そして横に居るのが、お前の話していた鍛冶師だな?」

「お初にお目に掛かります。俺はヘルメスの街で鍛冶師をしていますヒイロ・アルバートと申します。今回はロベルトさんの頼みを聞き、ジョブス王子の為のソードを作らせていただきました!」

玉座に座る国王のスティーブ。その脇に立つジョブス王子。彼らの前に片膝を付いて謁見しているロベルトとヒイロ

「早速ではあるが、ヒイロが作ったソードを見せて欲しい………ふむ、ふむ……おお!コレは素晴らしい!ジョブスよ、握ってみよ」

「はい…では…凄い!重量感はシッカリあるのに、振り回す時には重さが苦にならない!なんと素晴らしいソードなんだ!」

「説明させていただきます。鋼材よりも硬くて刃こぼれしにくいミスリルの上位素材であるハイ・ミスリルを1週間打ち込み続け…本来は魔力付与が出来ないミスリルに、クレリア素材に並びそうな程の魔力付与を可能にしたひと振りで御座います」

どうやら国王スティーブも、王子ジョブスもヒイロが作ったハイミスリル・ソードを凄く気に入った様だ

「コレは間違いなく名品と言えよう。王都クラウンの名工【ヘパイトス】の腕に勝るとも劣らない素晴らしい腕前だな!この出来に見合った褒美を与えよう!ヒイロよ、遠慮なく言うが良い!」

初めて謁見したマリニウム国王スティーブとの対面に、少しの緊張を持っていたヒイロだが…作成したハイミスリル・ソードは高く評価され胸を撫でおらしたヒイロだった



続く
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