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化け物たちとの遭遇編

初めての窃盗

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【クラウン城大広間】
ファルバァスを撃退した翌日の昼過ぎ。午前中の復旧作業の手伝いを終えたヒイロ達は、食事を済ませた後に大広間に集まっていた

「疲れたぁー…午後も手伝わないと駄目かなぁ…ちょっとツライよぉ…」

地球から帰還した直後にファルバァスとの戦いに巻き込まれ、その驚異が去った後も復興を手伝っているアリスは、いよいよ疲れが溜まってきたようだ

「クラウン周辺の人々が困っているんだから、仕方ないだろ?午後からも頑張ろうぜ!……って言いたいところだが…流石にアリスだけでなく、みんなも疲れが溜まってるよな…」

「わたしとヒイロは武闘会に参加した日に、あんな戦いに巻き込まれて全力で戦った後からの…復旧作業だからね…正直わたし達も疲れたよね」
 

クラウン城で働く人や、その城下町で生活する人達の事を思えば、まだまだ手伝うべきなのだが…流石に全員疲労が溜まってきていた

「コハラコ、食堂行って甘い物、もらってくるの!」

ひとり元気な吸血姫のコハラコは、疲れている全員を気遣いデザートを貰いに食堂に走って行く

「うよっ!?ごめんなノ!」

コハラコが部屋から出ようとした時、入れ替わるように中に入ろうとしていた2人にぶつかりそうになったが、持ち前の身軽さで回避し食堂へ走って行った

「ほっほっほ。流石に疲れておるようじゃな、お前さんたちも」

「アリスお姉様ぁ~!」

入って来たのは、武闘会優勝チームのアテナとエリエスだった。アリスを見付けたエリエスは走り寄り抱きついていた

「え、エリエスさん!?お、お久しぶりぃ…」

「んもぅ!心配しましたのよ!」

一時期天狗になっていた頃、剣技でアリスに敗北してから彼女にだけは、COOLな仮面を外して甘々な顔で甘えるエリエス

「ヴァンパイアの小娘、まだ昼間じゃと言うのに元気じゃのう(笑)」

「自然に産まれたのではなく【賢者の石】で産み出されてますから、創造したオデュッセウス伯爵が、彼女に対してある程度は配慮していたのかも知れませんね」

ヒイロは人づたいに聞いていた話でアテナに回答した

「緋の目族に獣人族、ハイエルフに天使族、そしてヴァンパイア…見事なまでに異種族の集まりじゃというのに、本当に仲の良い事じゃ」
 

「そう言えば昨日キウさんからも言われましたけど、ソレってそんなに珍しい事なんですの?」

奴隷市場などの闇事情には詳しいサーシャだが、逆に一般的な生活の部分では時々情報弱者な一面がある

「そうだね。わたし達もギルドで初めて会った日、拾ってくれたのがヒイロじゃなかったら、どうなってたか分からないよね」

「結局、俺も父親を亡くしたばかりだったからな…異種族だろうと関係なく助け合わなきゃな!」

ヒイロ達は本当に異種族ゆえのいがみ合いは無いが、ソレは特別な存在だと言えた。何故なら、魔界から迷い込んで異種族ゆえの困難に苦しむ4人は今、生命の危機に立たされているのだから



【クラウン北東部渓谷地帯】
「はぁはぁ…」

「湧き水が多いから喉は良いけど…もう丸一日何も食べてないから…空腹感が酷いわね…」

「言うなロロルカ、小さい2人が我慢しているんだぞ」

空腹感に愚痴るロロルカを諌(いさ)めるグルドル。だが、エイナスとシェルハは我慢している。と言うよりも、空腹でしゃべる元気が無くなってきていた

(このままじゃ不味いな。地上で俺たちの言葉を理解出来る種族は居ないだろうから…)
「このままだと野垂れ死ぬな…仕方ない…夜まで身を潜めて暗くなったら、人の少ない民家に行って食べ物を取りに行くか?」

「他人の物を盗んじゃうの?」

打つ手なしなので仕方なく。の選択なのだが、村全員から優しく見守られて育った8歳のシェルハには、窃盗をする事に当然抵抗を覚えた

「この世界では誰も俺たちを助けてくれないんだ。生きる為には仕方がないんだよ。な?シェルハ」

「うん、でも………」

地下深くで生きてきた彼らは陽が当たらないからか?パッと見でも分かるほど、地上の人よりも肌に緑色が濃いので地上人では無いことは一目瞭然だ

どれだけ綺麗事を言っても、食べる手段が無ければ魔獣族の彼らも死を待つ以外に無い。生き延びる為の苦渋の決断だった

「みんな隠れて!」

ロロルカが前方に何かを見つけ、彼女の指示に従い4人は茂みに身を隠した

「人間か!?手押し台車を引いているな…」

「あっ!台車の上を見て!…布で隠してるその下に…食べ物が入った籠(かご)が沢山乗ってるよ」

「………………」

「どうするの?」

グルドルとロロルカは悩んだ
小さな2人の目があるところで、他人の物を盗むだけでも気が引けたのだが…今、目の前に沢山の食料を載せた台車を、ひとりの若い男が引っ張っている

「襲って奪う?」

「えっ!?」

ロロルカの提案に驚くシェルハ
エイナスは考え込んでいる
グルドルは覚悟を決めて話す

「夜中に他人の家に盗みに入っても、どれだけの食料が手に入るか分からん。申し訳ないがあの男の台車には、パッと見でも俺たちが3日くらいは飢えを凌げる食料がある…やるしかないだろう?」

「でも…」

シェルハは分かっているのか?それでも迷っていた

「シェルハ。お兄ちゃんと生き延びるんだ。その為に必要なんだよ。グルドル、あの男の人は襲わないよね?」

「もちろんだ。脅かして荷物を置いて逃げてくれたら、怪我を負わせたりはしない。良いか、お前たちは「良いぞ」と言うまで隠れてろよ。ここは俺が行く」

正直なところ、グルドルもロロルカも生まれてこの方【窃盗】などした事は無い
生きる為、小さな2人の為にも心を鬼にする覚悟を固めた

「……行くぜ」

ひとり離れた茂みに姿を隠して、その時を見計らうグルドルだった



続く
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