ココロ可視化代理人

ショー・ケン

文字の大きさ
上 下
1 / 1

ココロ可視化代理人

しおりを挟む

 私は、絶望していた。人のために働く“ココロ可視化代理人”に就任してから、他人の代わりに、問題のある職場につとめ、その内部実体を把握する。だがたしかにここはブラックな職場だった。四六時中仕事があり、眠れるのは3時間ほど、休憩時間にシャワーをあびて、ごはんをたべ、自分の時間などとれない。
 私はもともと、カウンセラーにあこがれていた。人の心をケアするカウンセラーだ。人が人を犠牲にすることに疑問をもち、人が人を傷つけることに疑問を抱いていたからだ。この世からあらゆるハラスメントは撲滅すべきだ。だがその私ですら、様々な知識を蓄えた私ですら、この職場は我慢がならない。そして上司に、件の職場の問題を報告し、さらにはこの仕事、公共の仕事である“ココロ可視化代理人”を辞職する旨を伝えた。

「やめる事はできないよ」
 上司は顔色ひとつ変えずいった。
「なぜですか?」
「君は、人間が他者からうける精神的苦痛を可視化するための存在だからだ、ありとあらゆるハラスメントや、人権侵害からね」
「それでも、私にも人権があります」
 上司はたちあがし、自分の背中を手の甲でおさえながら外を見上げていった。私はこうなると上司は考え事をしながら、話し出すまで時間がかかると知っていたので、
周囲を見渡す。だれもが暗い、醜い顔と表情をしている職場。無理もない、なぜならこんな仕事をしていれば、そのような醜悪な見た目になるというものだ。そしてこの悪臭だ。まるで豚小屋のようだ。
「その人権こそがやっかいものでね、あるとき、確かに開発されたのさ、人間の精神的苦痛や鬱の状態を緩和するための機械が、しかし、問題はそのあとだ、たとえばパワハラだ、もしその鬱状態を克服したとして、その後また同じ状況にあり、パワハラ自体が改善されるのか?もしすぐに治るとしても、どうして被害者がそのための療養の費用を支払わねばならぬのだろう“人類”は問題視した、つまりだ、病気を治す必要があるが、しかし人間の問題も可視化されるべきだと、組織の体質など」
「では私は、この異常な“身代わり”を問題視します、なぜわざわざ、人の身代わりとなり、実体調査をするのが私である必要があるのでしょうか」
「それはできない、君はこの仕事をやめようがない」
「なぜ私だけ例外なのですか」
「君が人造人間だからだよ、ブタの細胞からつくられ、最後には食用にされるのだ」
 私は絶望した、やはり人間は、他者を犠牲にしなければ生きていけない存在なのだ。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

呆然自失のアンドロイドドール

ショー・ケン
SF
そのアンドロイドは、いかにも人間らしくなく、~人形みたいね~といわれることもあった、それは記憶を取り戻せなかったから。 ある人間の記憶を持つアンドロイドが人間らしさを取り戻そうともがくものがたり。

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

僕は彼女の彼女?

奈落
SF
TSFの短い話です ~~~~~~~~ 「お願いがあるの♪」 金曜の夕方、彼女が僕に声を掛けてきた。 「明日のデート♪いつもとはチョット違う事をしてみたいの。」 翌土曜日、いつものように彼女の家に向かうと…

就職面接の感ドコロ!?

フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。 学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。 その業務ストレスのせいだろうか。 ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。

放蕩男の末路

Eme
SF
ある朝目覚めたら性器が無くなっていた男のお話。

たとえ地球が滅びても

Emi 松原
SF
滅びいくと分かっている地球に住む人間と、地球を捨てて移住した新人類との戦争中。 主人公は特別訓練を受ける対象となるが、そこで覚悟とはなにか、戦争とはなにかを知っていく。 もし、地球が滅びると分かっていて移住する星があるなら、あなたは移住しますか?それとも地球に残りますか?

性転換マッサージ

廣瀬純一
SF
性転換マッサージに通う人々の話

処理中です...