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情報マウンター
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ある有名インフルエンサー。SNSや動画などで短い噂話を語り、うんちくなどを紹介する。彼は“インフルエンサーグループ”の一員なのだ。その時代にはインフルエンサーがグループを組んで“界隈”を作るのが当たり前になっていた。
しかし男は妙な違和感を覚えていた。近頃人々に笑われているような錯覚を覚える。確かに男の話は人から教えてもらったものばかりで、あやしいゴシップネタなどもあるのだが、男は疑いはじめる。
“もしや、俺は謝った情報をつかまされているのではないか”
男はもともとうんちくを集めるのが趣味だったし、人のうわさ話を仕入れるのも趣味だった。だがこのグループに入って以降、自分からそれを収集するクセがなくなっていた。というより、グループとの情報共有や話し合いの時間が多く時間があまりないのだ。それがまるで“管理されている”ようで気味が悪かったし、もともとのモチベーションである“うんちくを披露しマウントをとる”ことさえ、“人々にマウントをとれても、彼らにマウントをとれない”のでモチベーションの低下も著しかった。
男は一大決心をきめ、グループを抜けることにした。しかし、普通の仕事に戻るかと思いきや、男はやはり自分に最も合っていると思うその仕事を続けることにした。なにせ金になるうえに“自分はひとより物事をしっている”という優越感がクセになっていた。
しかし男は一人でインフルエンサーをやっているうちに、ある事に気づいた。界隈の情報ネットワークから離れすぎたために、何が流行しているか、何が人気か、何がホットな話題かわからない。需要がわからないのだ。
男は仕方なくまた似た別のグループに入ることにした。というのも、男はそのグループが前々から気になっていたのだ。しかし、あまりに巨大グループであったため一目置かれているし、なかなか新規のインフルエンサーを仲間に入れない事でも有名だった。しかし、すんなりとは入れた。ある程度の時間がすぎ、そのグループに慣れていった男は、ある面と向かった会議の場で界隈についての疑問を口にする。
「前いたグループは、情報マウントをとるやつばっかりで、それだけなら別に俺はよかったんだけど、彼らの情報の正確さを疑うようになってから、自分の喋りや、動画のクオリティが低みにある事に気づいた、もしかして、この界隈はそういう特殊さをもっているのか、他の界隈よりエコーチェンバー化しやすいとか、もともと“他社より情報をもっている事をマウントとる人間”には限界があったのか、このグループではその限界を感じない」
彼がそれを口にすると、突然会議室に静寂が訪れた。突然話をしていたすべてのインフルエンサーがこちらに目を向けた。そして口々に色々なことをいう。
「やはり、仲間に引き入れて正解だった」
「彼の頭脳は、ひときわ優れたものだ」
「彼は次世代の人間だ」
それは徐々にざわめきにかわり、一瞬シーンとした。
そして最もリーダー格の男がいった。
「彼には真相を話そう」
そして、リーダー格の男が告げた事はこうだった。
この“うんちく、小話、情報インフルエンサー”の界隈には“暗黙のカースト”が存在するという。そもそもそのカーストをつくっているのが男が今所属するこのグループだといきなりぶっちゃけた。彼らは彼らの“弱点”を克服したのだという。それは“情報でマウントをとること、優越感に浸ること”一見、語りや動画投稿やSNS運用など、インフルエンサーのモチベーションにつながる非常に重要なことだが、しかし界隈は気づいた。
「人々は事実より面白い話を欲する、それを集めているうちに、我々は事実から遠ざかってしまうことがある、マウントをとっているだけでは、むしろ情報に踊らされるだけだ、人々に情報を流し、その情報がすでにある程度のウソであるのなら、その根っこをつかまなければならない、それが事実であるかは関係なしに」
そして、界隈にグループがいくつも生まれては消えるうちに、彼らは仲間を“利用”しようとかんがえた。彼らはこう考えたのだ。
“仲間には質の悪い情報を与えよう、彼らはマウントをとるのが好きだから、すぐに情報に飛びつくぞ”
そしてその質の悪い情報の中にも、ヒットするネタがあるかもしれない。そういうものは引き上げて利用しようと考えたらしい。そして思惑通りになった。彼らの中ですべてのインフルエンサーグループにカーストが内部設定され、数値化され、共有した。そして彼らに、数値化された情報をもとに質の悪い、事実とは遠い情報を流し、人々に流す情報を見極め制限をくわえ、それがヒットしたかを見極め、最後にすいあげ、カーストが下の彼らよりずっとその情報のソースに詳しい、情報を流した当事者であるこのグループがより深い真相やうんちくを暴露する。
リーダーはいった。
「俺たちは、学んだんだ、ホラ、マウントをとるなんてむなしいことだって、いまや彼らに憧れられるこのグループは、彼らの前ではしったかぶりできる、マウントさえとれれば、彼らは無償で情報を提供するし、自分の弱さをさらけだし続けるのさ、彼らは、マウントさえとれれば情報の正確さはあまりきにしない粗雑さをもっているからね、彼らこそ我々の作り出した情報弱者だ」
男は思った。これは、エコーチェンバーの永久機関だ、と。
しかし男は妙な違和感を覚えていた。近頃人々に笑われているような錯覚を覚える。確かに男の話は人から教えてもらったものばかりで、あやしいゴシップネタなどもあるのだが、男は疑いはじめる。
“もしや、俺は謝った情報をつかまされているのではないか”
男はもともとうんちくを集めるのが趣味だったし、人のうわさ話を仕入れるのも趣味だった。だがこのグループに入って以降、自分からそれを収集するクセがなくなっていた。というより、グループとの情報共有や話し合いの時間が多く時間があまりないのだ。それがまるで“管理されている”ようで気味が悪かったし、もともとのモチベーションである“うんちくを披露しマウントをとる”ことさえ、“人々にマウントをとれても、彼らにマウントをとれない”のでモチベーションの低下も著しかった。
男は一大決心をきめ、グループを抜けることにした。しかし、普通の仕事に戻るかと思いきや、男はやはり自分に最も合っていると思うその仕事を続けることにした。なにせ金になるうえに“自分はひとより物事をしっている”という優越感がクセになっていた。
しかし男は一人でインフルエンサーをやっているうちに、ある事に気づいた。界隈の情報ネットワークから離れすぎたために、何が流行しているか、何が人気か、何がホットな話題かわからない。需要がわからないのだ。
男は仕方なくまた似た別のグループに入ることにした。というのも、男はそのグループが前々から気になっていたのだ。しかし、あまりに巨大グループであったため一目置かれているし、なかなか新規のインフルエンサーを仲間に入れない事でも有名だった。しかし、すんなりとは入れた。ある程度の時間がすぎ、そのグループに慣れていった男は、ある面と向かった会議の場で界隈についての疑問を口にする。
「前いたグループは、情報マウントをとるやつばっかりで、それだけなら別に俺はよかったんだけど、彼らの情報の正確さを疑うようになってから、自分の喋りや、動画のクオリティが低みにある事に気づいた、もしかして、この界隈はそういう特殊さをもっているのか、他の界隈よりエコーチェンバー化しやすいとか、もともと“他社より情報をもっている事をマウントとる人間”には限界があったのか、このグループではその限界を感じない」
彼がそれを口にすると、突然会議室に静寂が訪れた。突然話をしていたすべてのインフルエンサーがこちらに目を向けた。そして口々に色々なことをいう。
「やはり、仲間に引き入れて正解だった」
「彼の頭脳は、ひときわ優れたものだ」
「彼は次世代の人間だ」
それは徐々にざわめきにかわり、一瞬シーンとした。
そして最もリーダー格の男がいった。
「彼には真相を話そう」
そして、リーダー格の男が告げた事はこうだった。
この“うんちく、小話、情報インフルエンサー”の界隈には“暗黙のカースト”が存在するという。そもそもそのカーストをつくっているのが男が今所属するこのグループだといきなりぶっちゃけた。彼らは彼らの“弱点”を克服したのだという。それは“情報でマウントをとること、優越感に浸ること”一見、語りや動画投稿やSNS運用など、インフルエンサーのモチベーションにつながる非常に重要なことだが、しかし界隈は気づいた。
「人々は事実より面白い話を欲する、それを集めているうちに、我々は事実から遠ざかってしまうことがある、マウントをとっているだけでは、むしろ情報に踊らされるだけだ、人々に情報を流し、その情報がすでにある程度のウソであるのなら、その根っこをつかまなければならない、それが事実であるかは関係なしに」
そして、界隈にグループがいくつも生まれては消えるうちに、彼らは仲間を“利用”しようとかんがえた。彼らはこう考えたのだ。
“仲間には質の悪い情報を与えよう、彼らはマウントをとるのが好きだから、すぐに情報に飛びつくぞ”
そしてその質の悪い情報の中にも、ヒットするネタがあるかもしれない。そういうものは引き上げて利用しようと考えたらしい。そして思惑通りになった。彼らの中ですべてのインフルエンサーグループにカーストが内部設定され、数値化され、共有した。そして彼らに、数値化された情報をもとに質の悪い、事実とは遠い情報を流し、人々に流す情報を見極め制限をくわえ、それがヒットしたかを見極め、最後にすいあげ、カーストが下の彼らよりずっとその情報のソースに詳しい、情報を流した当事者であるこのグループがより深い真相やうんちくを暴露する。
リーダーはいった。
「俺たちは、学んだんだ、ホラ、マウントをとるなんてむなしいことだって、いまや彼らに憧れられるこのグループは、彼らの前ではしったかぶりできる、マウントさえとれれば、彼らは無償で情報を提供するし、自分の弱さをさらけだし続けるのさ、彼らは、マウントさえとれれば情報の正確さはあまりきにしない粗雑さをもっているからね、彼らこそ我々の作り出した情報弱者だ」
男は思った。これは、エコーチェンバーの永久機関だ、と。
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