飛ぶ夢

ショー・ケン

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飛ぶ夢

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 Aさんは田舎の村でひどいいじめにあっていた。離島の事で、大人たちは知らんぷりだったし、いじめてくる相手はその村の地主の息子。そんな中、彼をかばってくれた人がいた。同級生のB君だ。内向的なA君とは違い、B君は陽気でサッカー好きな子だった。

 そのB君がいなくなったのは丁度1年前だ。病院に入院して、その後消息不明。はるか昔の事だが、権力者が人を殺してうやむやになったこともある村だ。その後もきっと無事ではないだろうと思えた。

 ある時からAさんは夢を見るようになった。飛び降りの夢だ。中学の旧校舎の屋上から地面に飛び降りる夢、何度も何度も見るし、なぜか既視感がある。校舎の下に誰かがいるのだ。
 来る日も来る日も夢見て眠れなくなった。受験も考えなければいけない中学2年生の事である。成績は日に日に悪くなり、両親と喧嘩。その足で旧校舎に向かった。

 屋上にでて思い出す。ここは“B君が飛び降りた”場所。飛び降りて奇跡的に無事だったB君だが、その後、すぐに病院を脱走したという。その後は行方不明。現場にはB君の血が大量に残されていたが、警察は調べようともしていなかった。
「そうか……そうだよな、俺はずっと目をそらしてきたんだ」
 ふと目を細めて下を見る。B君が手を振っているきがした。あの日ーA君とB君は地主の息子Cに携帯で呼び出された。
「明日の夜8時以降、旧校舎にこい、遅く来たほうは、屋上から飛び降りろ、早く来た方は免除だ」
 そう、あれはB君とAさんの裏切りを期待してのことだった。AさんはすぐにB君に電話をかけ“君が先に”といった。だがB君はいった。
「俺に考えがある、大丈夫だ、君が先にいけ」
 そしてAさんは、あの場所にいった。C君はアリバイ作りのためか、その場所にはいなかった。だがAさんに撮影を命じた。
「やめてくれ!!B君!!」
 無駄だとわかっていても、Aさんは呼びかけた。携帯で電話をとり、罪悪感を感じながら、その時だった。背後から音がした。
「何をしている!!」
 その声に驚いて、A君はその場からたちさった。そのあとこのことは皆がしっている通りだ。

 Aさんは後悔で胸がいっぱいだった。あと一歩踏み出せば。邪魔するものはいない。その一歩を踏み出そうとした瞬間だった。屋上に積み上げられていた机や椅子などといったものの向こうで何か音がした。
《ゴトッ》
 咄嗟に、Aさんは叫んだ。
「B君!!ごめん!!俺だよ!!俺だ!!!本当にごめん!!」
 相手がB君でない事は頭ではわかっていても、あの時の事をあやまりたかった。しかし、机や椅子の上をのぼってこちら側に現れたのは、見覚えのある三つ編みの女性。B君の姉だった。
「A君、どうして?」
「いえ、あなたこそ」
 そして二人は、奇妙に話をかわした。
「私はね、弟がいじめられていることに気づかなかった」
「僕は、C君に怯えていた自分が悲しいです、彼は暴力団の兄がいるといっていたけど、考えてもみればその二週間後に彼は本島でつかまりました、本島で悪さをし手何度もつかまっている人だったんです、もう少し勇気があれば……」
「私たち、一緒、罪人だね」
 お姉さんはかわいらしい顔で笑った。そして二人は、屋上のヘリへ向かう。
「罪と一緒に死にましょう」
「来世は“C”に罰をあたえられるといいですね」
 そういって、とびおりようとしたとき、ふとAさんは奇妙な事に気が付いた。そう、夢のなかで見る景色とは少し違うのだ。そう、そもそも椅子や机なんて以前はなかったはずだ。
「ちょっと気になる事があるんです」
 そういって、ヘリからおりると、椅子や机をどかし、ヘリをみた。差出人の欄そこには、手紙らしきものがあり、そこに“B”君の名前があった。

「Aへ、心配しないでいい」
 その書き出して、こんな内容な事がかかれていた。あの日、Bさんは両親にCに脅されていることをうちあけた。二人は、頭を凝らして考えた。そして、前日に運動場にある仕掛けをしようと考えたのだ。Bさんの両親は、医者に知り合いがいて、怪我はでっちあげようと。
 しかし“しかけ”を準備しようとしたときAさんを見つけ、もしかしたら“C”かもしれない、とあせって咎めた。かけていく姿で違うとわかったが、準備をしなければいけなかった。Bさんは何も知らずにまっていたが周囲をみると、CもAさんもいないことがわかって降りてきた。

 すぐさま“嘘の怪我”をでっちあげ病院に入院。その後、医者の協力のもとに脱走し、今は本島の知り合いで偽名をつかって生活をしているという。
 これを読んだ時、お姉さんは泣いていった。
「お父さんたち……私が弟と喧嘩ばかりしているから、仲が悪いとおもってこのことをしらせなかったんだ、私、もしこのままだったら飛び降りて……私だけ死んでた、でも私、いじめをしっているのに助けられなかったんだから、同罪だ」
 そういった、お姉さんの肩を、Bさんが叩いていった。
「僕は、“同じ夢”をみていました、そしてその“夢”がBが見せているものだとなんとなく思ってこの場所にいた、そしてこの手紙を発見した、これは偶然じゃないでしょう、きっと彼は今も楽しくやっているはずだし、お姉さんの事を心配しているはずですよ」
 そういうと、Aさんもまた元気がわいてきた。


 その後は、Cさんの小さないじめがあったものの、さすがにBさんの失踪によって噂が立ち、本島の警察がたまに調べに来るような事があったのでおとなしくなったのか、悪さをしなくなった。そしてAさんが社会人になったとき、偶然たちよった本屋である“暴露本”をみつけた。
「島でのいじめ」
 という本で、それをよむと、Bさんが実名をだし、Cさんと一族の行いを赤裸々につづっている本だった。AさんはBさんが無事に生き延びていた事を喜び、そして、あの古い風習の残る村に、一筋の光が差し込んだことを喜んだという。




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