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バカにしてはならない
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ある殺人事件を捜査していた霊能者。自分の霊能力を信じすぎるあまり、得意げになってメディアでもてはやされた時、幽霊の世界の“ある真実”を話してしまった。それは例えば、霊から聞いた話だが
「この世界の人間は完全に幸福を手に入れられないように出来ている、それは、神が人間をできるだけ自分から遠ざけようとしたために、近づく人間を突き放そうとするのだ」
ということ。霊能者はありとあらゆる人間にその事を伝えようとしたが、それをつられると、幽霊は“人間が完璧を目指してしまい、自分は永遠の輪廻の地獄に閉じ込められる”という。だがおかしな話だ。それならきっと人間はずっと他人を思いやることなどできず、助け合いの中の幸福を知ることもできない。そうしてメディアでそれを話そうとしていた矢先に、彼女は崖から落ちてなくなった。テレビカメラの前だった。
「それはそうですなあ、だが、どうしてこんな所に“出る”んです?」
霊能者の死後10年、そこに立ったのは、この事件の真相を話すように遺書に書き込まれた彼の甥である巡査。巡査は霊が見えるらしい。
「あなたなら、真相を語ってくれるはず、あの時私は、幽霊の言いつけをやぶり人につたえようとした、そこで背後から押し倒され、あの崖からおとされたのよ」
「ああ、あれですなあ」
巡査は崖を見下ろした。すぐ下に渓流が流れ、水しぶきが散る。巡査は彼女を発見したときの悪いイメージが脳裏をよぎった。
「ああ、ああなりたくないですなあ、だから私は、頑張って勉強して警察になったのに、もっとも名誉ある死であればかまわんのです」
「名誉?何が名誉よ、あなたは一切オカルトを信じなかった、けれど実際あったじゃない、私が見えるのだから、すでに名誉を得ている」
「まったく、数奇な運命です、それより叔母さん、私はもっと恐ろしいものに出会ってきましたよ、ここで起きた殺人事件が、警察内部の物事に関わってきていることを、だからそう、いうまでもないでしょう……私が警察内部の権力者に敵視されるのは」
「いったい何をいうの?あなたは何もわかっていないわ、あなたは真相を話せるのよ?この世界の真相を、そして、人間の愚かさを、早く私の果たせなかったことを果たして頂戴」
「私はもうすでに分かっています、人間はあなたのあの時の膨れ上がって変色した死体より痛ましい、自分の不条理を隠すためなら、自分の競争心をあおるためなら、人命など何とも思わないでしょう、ここで起きていた極悪非道の殺人パーティは……」
「まだあきらめないで!」
「いいや、もう私には伝えることはできない、例えばそう、あなたのいうように人間が間違いを犯す存在ならば、それは死者になっても同じことだ、あなたを殺した幽霊と会話をしたけれど、このパーティの主催者だった、殺されたものは、身寄りのない人々だった」
「それなら余計、あなたは命を捨ててでも真相を語る義務がある!」
「そうです、でも、私とあなた通じる因果があるとすれば?正義を貫こうとしたとき、我々があまりに正義を求めるあまりに神の裁きにあい、凶悪な犯罪者が生き延びるとすれば?やはりあなたと私は、同じ目にあうのでしょう、その意味ではもはや、すべては幻だった……今は、涙も流れない」
そういいながらも、彼は確かに涙を流し、帽子をぬいだ。地面にしとしとと水滴がたれた。
「?何をいうの?なんで私と話せるの?やっぱり初めから霊能力者だったの?」
「いいや……」
深くため息をついた。
「やはり僕も、真相にふれてしまったらしい」
「どういう……」
霊能者の肩に水滴が当たる感じがしたが、それはするりとぬけていった。
「すまない、いうよ……私は死んだよ、三日前に」
「え?」
ぽつぽつと降り始めた小雨は、その場に居合わす二つの存在にただ、ほかのいかなる存在に何の真相も伝えることのできない孤独な運命を知らせるだけだった。
「この世界の人間は完全に幸福を手に入れられないように出来ている、それは、神が人間をできるだけ自分から遠ざけようとしたために、近づく人間を突き放そうとするのだ」
ということ。霊能者はありとあらゆる人間にその事を伝えようとしたが、それをつられると、幽霊は“人間が完璧を目指してしまい、自分は永遠の輪廻の地獄に閉じ込められる”という。だがおかしな話だ。それならきっと人間はずっと他人を思いやることなどできず、助け合いの中の幸福を知ることもできない。そうしてメディアでそれを話そうとしていた矢先に、彼女は崖から落ちてなくなった。テレビカメラの前だった。
「それはそうですなあ、だが、どうしてこんな所に“出る”んです?」
霊能者の死後10年、そこに立ったのは、この事件の真相を話すように遺書に書き込まれた彼の甥である巡査。巡査は霊が見えるらしい。
「あなたなら、真相を語ってくれるはず、あの時私は、幽霊の言いつけをやぶり人につたえようとした、そこで背後から押し倒され、あの崖からおとされたのよ」
「ああ、あれですなあ」
巡査は崖を見下ろした。すぐ下に渓流が流れ、水しぶきが散る。巡査は彼女を発見したときの悪いイメージが脳裏をよぎった。
「ああ、ああなりたくないですなあ、だから私は、頑張って勉強して警察になったのに、もっとも名誉ある死であればかまわんのです」
「名誉?何が名誉よ、あなたは一切オカルトを信じなかった、けれど実際あったじゃない、私が見えるのだから、すでに名誉を得ている」
「まったく、数奇な運命です、それより叔母さん、私はもっと恐ろしいものに出会ってきましたよ、ここで起きた殺人事件が、警察内部の物事に関わってきていることを、だからそう、いうまでもないでしょう……私が警察内部の権力者に敵視されるのは」
「いったい何をいうの?あなたは何もわかっていないわ、あなたは真相を話せるのよ?この世界の真相を、そして、人間の愚かさを、早く私の果たせなかったことを果たして頂戴」
「私はもうすでに分かっています、人間はあなたのあの時の膨れ上がって変色した死体より痛ましい、自分の不条理を隠すためなら、自分の競争心をあおるためなら、人命など何とも思わないでしょう、ここで起きていた極悪非道の殺人パーティは……」
「まだあきらめないで!」
「いいや、もう私には伝えることはできない、例えばそう、あなたのいうように人間が間違いを犯す存在ならば、それは死者になっても同じことだ、あなたを殺した幽霊と会話をしたけれど、このパーティの主催者だった、殺されたものは、身寄りのない人々だった」
「それなら余計、あなたは命を捨ててでも真相を語る義務がある!」
「そうです、でも、私とあなた通じる因果があるとすれば?正義を貫こうとしたとき、我々があまりに正義を求めるあまりに神の裁きにあい、凶悪な犯罪者が生き延びるとすれば?やはりあなたと私は、同じ目にあうのでしょう、その意味ではもはや、すべては幻だった……今は、涙も流れない」
そういいながらも、彼は確かに涙を流し、帽子をぬいだ。地面にしとしとと水滴がたれた。
「?何をいうの?なんで私と話せるの?やっぱり初めから霊能力者だったの?」
「いいや……」
深くため息をついた。
「やはり僕も、真相にふれてしまったらしい」
「どういう……」
霊能者の肩に水滴が当たる感じがしたが、それはするりとぬけていった。
「すまない、いうよ……私は死んだよ、三日前に」
「え?」
ぽつぽつと降り始めた小雨は、その場に居合わす二つの存在にただ、ほかのいかなる存在に何の真相も伝えることのできない孤独な運命を知らせるだけだった。
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