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悲しき強盗
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ある都会のアパートに、母子が住んでいた。女手一つで育てた二人の男児は、ようやく成人を迎えようとするときに兄の方が前年に不幸な事件で亡くなった。前年のことだった、家に強盗が入り殺された、その時のことを知るのは弟のみである。
ある日、その弟が家に帰宅すると、母が寝ている時に敷地内に不審な女性の影をみた。ちょうどバイトから帰ってきたところで、女の様子をはたから見て目的を確認しようと尾行する。女は敷地内で石ころをひろうと、自分たちの住む2階の一室へと向かう。
危ない!と思った弟はすぐさま駆け付け、女の手をとった。
「お前はだれだ?」
「私は、霊能力を持つものです」
「何をいってるんだ?」
少しうるさくなったが、たまたま古びたそのアパートの住人はまばらで、住んでいるものが老人ばかりであったために、騒ぎにならず、ただ母親が起きてきて事情を聴いてきた。寒い冬の日だったので、母親は二人を家の中に案内した。
疑いの眼を向ける弟にたじたじになる女。ところどころボロボロの女の服装をみて同情気味の母親。口火を切ったのは母親だった。
「あなたは、どうして私たちの家の前に?その石は何です?」
「あの……その、これは……頭蓋」
言葉に詰まった。何せ彼女はもともと本当に霊能者をしていたが、ある事件を機に辞めた。その霊能力を使ったお祓いによって、一人の依頼者が亡くなったことがあった。誰のせいでもない事故によるものだったが、世間の人はそれを信じてくれるはずもない。
女は少なくとも自分は霊能力を持っていると信じていたが、その時以来その能力の勘も働かなくなり、実際幽霊を見る事もなくなった。だが人生の中でたった一度だけ忘れられない事件があった。
女が霊能力者を始めたての頃だった。ある警察官に依頼をされて霊視することになった。その警察官は数か月前、恋人を殺害されており、その犯人は名前もなき暴漢だとされた。
だが女は、違うと見て取った。女が霊視をはじめると彼の側に彼の恋人らしき人がたっており、仕切りに彼を指さしている。
「あなたには、兄弟がいますか?」
当てずっぽに幽霊の意図を組んでいるとその質問で、男が答えた。
「いえいえ、彼女のほうです、義理の兄が」
幽霊の恋人はぶんぶんと頭を縦にふったので、女はそれから話をひもといていった。どうやら、その義理の兄というのが警察のキャリアであり、その男が怪しい旨を彼に伝えた。その後、数か月後に事件の犯人が明らかになった。実際霊視の通りだった。
その事にかこつけて、話をでっちあげた。
「最近亡くなった方がおられますよね?」
「兄です」
「お兄さんの方が私の夢の中にでてきて、うなされたのです……それで、あなた方、つまり兄弟が喧嘩をして……お金の話でもめて」
「……」
母親が息子を見ると、息子はたじろいでいる様子があった。しめたとおもった。事実であるかどうかは定かではないが、このままこの場を離れようとおもった。
「それでは、これだけ伝えようと思ったので」
立ち上がりその場を離れようとするも、弟の方が彼女の手をつかんでとめた。
「あんたは嘘をついてないかもしれないな、確かに兄は死んでるし……実は兄が俺を殺そうとしたんだ、あいつが俺が貯めたバイト代を盗もうとしてさ」
「ええ?」
霊能者もいたたまれなくなった。まさか、作り話が真相に発展してしまうなんて、しかしこの場合、兄の方にむしろ非があるように思える。
「あ、あの……」
息子は相変わらずその時の出来事を鮮明に話している。最初に事故で兄が階段から足を滑らせて死んで、それを強盗に見せかけたこと。母が泣きながら弟をだきしめている。
いたたまれない感情になった。なぜならこの女は、家にまだ幼い子どもをまたせている。相談できる場所もないし、最近働いているスーパーをくびになったところで、お金に困っていたのだ。だが仕方がない、子供はもうどこか適切な場所に預けよう。そう思い口を開いた。
「すみません、私には能力などないのです、私は本当に強盗に入ろうとしたのです」
「え?」
二人は涙をふいた、そして女の事情を聴くと自分たちに重ねて、さらに涙を流した。やがて落ち着くと、母親のほうはいった。
「あなたが信じずとも、あなたの能力は本物です」
そういって、封筒にいくらかのお金を入れてわたしてきた。
「わずかなものですが、これも何かの縁です」
今度は女が涙をながした。その場をあとにするとき女は、この話は生涯だまっておくことをつげた。
やがて、家にかえったいた母親は、その冬を越すことができた。冬を越すと、女が職を失うきっかけになった流行り病は落ち着いて、また新しい職につくことができたという。
ある日、その弟が家に帰宅すると、母が寝ている時に敷地内に不審な女性の影をみた。ちょうどバイトから帰ってきたところで、女の様子をはたから見て目的を確認しようと尾行する。女は敷地内で石ころをひろうと、自分たちの住む2階の一室へと向かう。
危ない!と思った弟はすぐさま駆け付け、女の手をとった。
「お前はだれだ?」
「私は、霊能力を持つものです」
「何をいってるんだ?」
少しうるさくなったが、たまたま古びたそのアパートの住人はまばらで、住んでいるものが老人ばかりであったために、騒ぎにならず、ただ母親が起きてきて事情を聴いてきた。寒い冬の日だったので、母親は二人を家の中に案内した。
疑いの眼を向ける弟にたじたじになる女。ところどころボロボロの女の服装をみて同情気味の母親。口火を切ったのは母親だった。
「あなたは、どうして私たちの家の前に?その石は何です?」
「あの……その、これは……頭蓋」
言葉に詰まった。何せ彼女はもともと本当に霊能者をしていたが、ある事件を機に辞めた。その霊能力を使ったお祓いによって、一人の依頼者が亡くなったことがあった。誰のせいでもない事故によるものだったが、世間の人はそれを信じてくれるはずもない。
女は少なくとも自分は霊能力を持っていると信じていたが、その時以来その能力の勘も働かなくなり、実際幽霊を見る事もなくなった。だが人生の中でたった一度だけ忘れられない事件があった。
女が霊能力者を始めたての頃だった。ある警察官に依頼をされて霊視することになった。その警察官は数か月前、恋人を殺害されており、その犯人は名前もなき暴漢だとされた。
だが女は、違うと見て取った。女が霊視をはじめると彼の側に彼の恋人らしき人がたっており、仕切りに彼を指さしている。
「あなたには、兄弟がいますか?」
当てずっぽに幽霊の意図を組んでいるとその質問で、男が答えた。
「いえいえ、彼女のほうです、義理の兄が」
幽霊の恋人はぶんぶんと頭を縦にふったので、女はそれから話をひもといていった。どうやら、その義理の兄というのが警察のキャリアであり、その男が怪しい旨を彼に伝えた。その後、数か月後に事件の犯人が明らかになった。実際霊視の通りだった。
その事にかこつけて、話をでっちあげた。
「最近亡くなった方がおられますよね?」
「兄です」
「お兄さんの方が私の夢の中にでてきて、うなされたのです……それで、あなた方、つまり兄弟が喧嘩をして……お金の話でもめて」
「……」
母親が息子を見ると、息子はたじろいでいる様子があった。しめたとおもった。事実であるかどうかは定かではないが、このままこの場を離れようとおもった。
「それでは、これだけ伝えようと思ったので」
立ち上がりその場を離れようとするも、弟の方が彼女の手をつかんでとめた。
「あんたは嘘をついてないかもしれないな、確かに兄は死んでるし……実は兄が俺を殺そうとしたんだ、あいつが俺が貯めたバイト代を盗もうとしてさ」
「ええ?」
霊能者もいたたまれなくなった。まさか、作り話が真相に発展してしまうなんて、しかしこの場合、兄の方にむしろ非があるように思える。
「あ、あの……」
息子は相変わらずその時の出来事を鮮明に話している。最初に事故で兄が階段から足を滑らせて死んで、それを強盗に見せかけたこと。母が泣きながら弟をだきしめている。
いたたまれない感情になった。なぜならこの女は、家にまだ幼い子どもをまたせている。相談できる場所もないし、最近働いているスーパーをくびになったところで、お金に困っていたのだ。だが仕方がない、子供はもうどこか適切な場所に預けよう。そう思い口を開いた。
「すみません、私には能力などないのです、私は本当に強盗に入ろうとしたのです」
「え?」
二人は涙をふいた、そして女の事情を聴くと自分たちに重ねて、さらに涙を流した。やがて落ち着くと、母親のほうはいった。
「あなたが信じずとも、あなたの能力は本物です」
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今度は女が涙をながした。その場をあとにするとき女は、この話は生涯だまっておくことをつげた。
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