ホラー短編集

ショー・ケン

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神聖なる神

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信仰を愛するか?神を愛するか?
 あるとき、ある宗教の信奉者に天から声がかかった。目を覚ますと男は、その夢の出来事を思い返す。
「信仰を愛するなら、穴をほり、そこに私の石像をおけ、神を愛するのなら、その穴の中で祈りを捧げよ」

 男はその日から、来る日も来る日も、穴を掘った。一週間後、再び男の夢に神はあらわれ、神は問うた。
「お前は、祈ることも、石像をおくこともしなかった、結局お前は信仰を愛したのだな?」
 神の声には怒りがこもっていた。無理もない。この宗教では、信仰そのものを愛することで、没落した宗派がいくつもあったのだ。

 だが、信奉者は答えた。
「いいえ、もしこの啓示が本当ならば、私は喜んで神を愛することを選ぶでしょう、ですが、日ごろから私は兄弟子たちからこうしたからかいを受けているのです、もしかしたら今回のことも夢かもしれない、その場合は、私は信仰を愛するとかたらなければならないのです」
「ならば、その穴をなんと説明する?」
「もし、私が神を愛するといえば、神様ならおわかりでしょう、信仰を伝えることこそが重要ではなくなるのですから、私は、生に縋り付く意味もないのです、あるいはその時私がまだ神を信じず生きながらえるのであれば、彼らに裁かれることもいとわない、あなたが偽物だと確信し、彼らにこれまでのことを語るでしょう、そして彼等は石像をたてるのです」
「ひどい目にあったな」
「いいえ、確かに彼等は私をムチでぶったりしましたが、彼等の態度によって私は信仰そのものを信仰することの愚かさをしったのです、あなたが偽物であろうと悔いはありません」

 そうして、神は関心し、その男にたくさんの資産を与え、男はその国を去った。老いてから男はその話を信頼する弟子に話したが、弟子はその話を誰にも話すことはなかった。男は幾度となく命を失うような事に遭遇したが、その度息を吹き返し、再び日常を生き永らえた。男は寿命を終えるとき、こう弟子にいってきかせた。
「神は死んだ、私は復活しなかった、それでいいのだ、人を縛りつけることが、神への信仰とは違うのだから」
 そうして名もなき信奉者は歴史に名前を刻むことはなかった。
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