ホラー短編集

拝み屋の所業

　ある拝み屋の傍で働く女性Bさんは、拝み屋Aさんの仕事に日ごろから違和感があった。依頼者にたった１週間かそこら、パソコンやスマホを触ることを禁じて修行させる。それでほとんどの恨みや妬みを断ち切ることができるという。

　実際、効果があることもあったが、効果がいまいちなこともあった。効果がわるいときは全額返金。しかし、それでもBさんが許せないのは、拝み屋Aさんにほとんど霊能力がないことだった。

　あるときこのことを先輩のCさんに尋ねると、Cさんはうつむきながら、仕事の準備をしながら答えてくれた。
「あの人ねえ、昔騙されてるから」
「騙された？」
「なんでもねえ、昔大人気の拝み屋だったんだけど、ちょうどインターネットが一般家庭に普及し始めたころで、ありもしない噂を流されたそうよ、もともと霊能力はそこまで高くないことを自覚していたんだけどねえ、それでも噂を立てられて経営が傾いて、そこで起死回生の一手を打った。“特定の条件”の依頼を受けるようになったそうよ」
「特定の条件とは？」
「それは、人から嫉妬や恨みを買うような態度の人よ、直接依頼者に言えばもしかしたら解決するかもしれないけれど、生霊などは怖いからね」
　Bさんはうつむいて感がえる。たしかに生霊が恐ろしいとは聞いたことがあった。生きている人が他人に向けて嫉妬したり恨んだりする。そのエネルギー。
「私は先生をある程度信頼しているわ、あなたはあこぎな商売というかもしれないけれど、現代の承認欲求や恨みを買うほとんどの事は、SNSやらスマホでのやり取りでしょ、仕事から離れれば、仕事場での恨みも忘れられる、先生が依頼を受けるほとんどの人は自分が原因で恨みを買ってるけど本人が気づかない、先生は今も優しく、遠回しな言い方でそれを表現しているのよ」
　Bさんは、その後Aさんをよく観察するようになった。たしかに彼女にはほとんど霊的能力はなかったが、時折自分の見立てが違い、変わった依頼者が来るときには、お祓いをしているようだった。彼女がただの詐欺師でないことをしって、Aさんはもうしばらくここで働くことを決めたのだった。