SF短編集

ショー・ケン

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人間介入AI

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 情事を発端とした犯罪もしくは冤罪、ハニートラップなどは男女関係に耐えないトラブルで、それは未來においても途絶えることがない。

 きらびやかな裁判所。ここに進歩した未来の社会に完全に適応したような無表情で無気力な、それでいて社会の構成員として有能なサラリーマンBがいた。

 Aは彼の弁護士だった。刑事事件だったが、今回はAIが性交渉の合意に関するトラブルを招いた可能性もあった。事実、こちらには証拠がそろっており、負ける可能性は微々たるものだった。

 だが彼に疑いの眼は向けられた。未来の性交渉は、お互いの合意を確認する前提になっていたが、それでも一般の人々にそれを強要することは難しい、そこでITやAIといった機械的技術によって合意を確認できるようにしたのだ。そんな中、AIさえも騙して強引な性交渉を迫った疑いがある容疑者B。相手は交際中の女性Cである。

 彼は決して罪を認めなかったが、裁判はつづけられた。検察は新しい判例をつくりたいのか躍起になり、IT関係の専門家にも話しを聞き裁判が進められる。

 世間は騒ぎ立てたが、やがて、裁判は恐ろしい結末を迎えた。Cが突然法廷でこんな証言をしたのだ。
「ごめんなさい、私は、私が全て悪いんです」
「いや、そんなことはない、僕が悪かった、僕がこんなものを利用したばかりに」
 嫌疑によるとB個と合意なく強引な交渉をされたとされたC子が、泣いて詫びる。C子はまるで誰かに黙っていることを強要されたかのような証言態度をとり、その正体こそがBのAIなのだという。

 そののち裁判は一時休廷、C子のスマートドローン(現代のスマートフォン)を調査したところAIに不具合が見られた。必要な回路が過剰な計算で焼ききれており、マスコミはこれを“AIもお熱”だなどとバカげた見出しで報じた。

 実際の調査は念入りに行われ、最新鋭の検査機器により検査が行われたが、やがて発見された事実は、C子の証言に即したものだった。性交渉の合意を取ろうとしたところBのAIが“CのAIに恋をして、合意なく彼女(C子のAI)と通信をしたため、バグをおこして、行われるべき合意を破棄して、それをC子のAIが誤解し、強制、脅迫という認識を起こした”というものだった。

 弁護士Aは、彼ら二人の間を取り次いだ。もはや騒ぎたてるのはマスコミと警察だけだった。
「ごめんなさい、ごめんなさい」
「いいんだ」
 裁判が止まっている間にも、C子とBは関係を取り戻した。C子は容姿端麗でグラマラスな体つき。ゴシップは絶えなかった。それでも彼らがお互いをかばい合うし、他に素行の悪いところは見えないので、バカ騒ぎも収まっていった。 

 そして、最後の裁判では何とも奇妙な結末を迎えた。というのはBのAIもまた検査が行われたが、このAIが同様に重要な記録を自分で消却しており、元のデータを知ることができなかったのだ。Bは優れたAI技術者でもあり、C子とBのAIは彼が改良を加えたものだった。それはBの会社も積極的に推奨している行為だった。もとはといえばC子のスマートドローンも、男女の関係になった時にBが彼女に渡した試験用の会社のスマートドローンだったのだ。それらの事実が明らかになっていくと、Bの嫌疑が晴れていき、次第にこの事件は下火になっていった。

 そもそもがこのAIによる性交渉の合意確認自体が、近々に作られた法律によるものだったから物珍しさもあったが、裁判が閉じると人々は静かになって、そんな事は忘れ去ってしまったのだった。

「どうにも、納得がいきませんねえ」
 弁護士Aは、Bと久々の面会をしながら正直な気持ちを伝える。
「どうしてこんなに複雑なことになったんでしょう?人々の中で合意を確かめる方法がないから作られたシステム、そして法律なのに、どうしてあなた達は被害者に?」
「被害者ではないです」
「え?」
「彼女は僕を許してくれたけれど、僕が悪い、いったでしょ、近々昇進なんですよ」
「ああ、そうだった」
 この男はエリートのご子息だそうで、父のコネもありその会社に入社したそうだが、世間の眼は厳しい。決して悪い人間でも、無能でもなく、誰が見ても有能な仕事をする人間という評価を与えられていたが、そうした人間に対する期待というのは、世間とのギャップがあり、未来にはさらにそのギャップが進行していた。
「そうか、つまりこれは……」
「そうです、C子の交渉合意AIに工夫したのは僕なんです、彼女のAIを故障させたふりをして、もともと僕らの関係には色々な人の眼があって、探偵すらついていた、社内にはライバルが多いですから……探偵に尾行されていることを確認すると僕のAIが工夫をして、僕が強引にせまったことにしようと、それにさらに工夫をしたのが彼女です、彼女はライバル企業の社員だったらしく、スパイを頼まれていたようですがそれを無視して本気で僕に恋をして、けれど誤作動をおこした……確かに彼女は彼女で、最悪の状況で記憶を消去するデータを組もうとしていたようですが、それはまだ途中段階でした、あんなに綺麗に記憶が消せるのも不思議だし、僕も彼女も、僕のAIには強引にC子のAIと通信をするシステムはつくってない、それだけは理由がわかりませんね」

 まさに有能な人間がした工夫をAIが読み取り、有能過ぎる働きをした結果、不思議な発展を遂げた事件といえそうだ。
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