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sf便り
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「僕はどこにも存在していないように思える」
白い部屋でぼやく青年に、彼女はつげる。なんでもある部屋だった。けれど簡素でもある。本があり、パソコンがあり、彼はその場所で彼女と話しをすることが何よりも好きだった。
「そんな事はないわ、皆初めはそんなものよ」
青年カイルを拾ったのは数か月前。将来の希望を失ったナリアに、人を育てる喜びを与えてくれた。ナリアは彼を拾ったことを世間にいまだに隠していたが、この湖のほとりで、彼とであった。
「記憶喪失で」
そう話す彼の言葉をまるで疑わずに彼女は受け入れてくれた。人の出入りが激しく、治安も悪化している国内で、こんなにも他人を信用していていいものか。だがその疑問は徐々に明らかになっていくことになる。
彼は、白い建物に案内された。湖畔に立つ家が二件ほどたつだろう大きさの建物で、厳重な警備と、管理体制がしかれていて、あちこちに除染室が存在していた。そこで、最も楽な応接室と彼女の部屋を案内され、ここがなんなのかきいた。
「タイムマシン研究?」
「ええ……でもあまり再現性がないの、たったの一度だけ成功したけれど、それが何なのか“特殊な条件”がわからなくて、わかる前に自動でもどされたの」
「特殊な条件が重なり、一度だけ成功したと?あなたはどこへ転移したんです?」
「どこかわからない、未来なのか、過去なのか、町並みはほとんど変わらなかった、私は……死期が近いから、おかしくなったのかしら、ある男性とであってすぐに恋に落ちた、妊娠したの」
「まさか……タイムパラドクスがおきてしまう」
「そうね、でも“観測”はされていない、子供は人工子宮でいきている、私の唯一の友人のもとで……」
彼女は少しずつ話しているが、何かを隠していることは明白だった。
「あなたは、誰かの命令をうけて仕事しているの?」
「……ハア、そうね、これを話さなくては」
どうやら、ナリアは養子であり、子供のころこそ良い両親に引き取られ育てられた。立派な家に財閥の一族、その中心たる存在、80になる“義理の父”。いくつもの子供をひきとっていたようだが、実際は彼が育てていたのではなく、親族に預けていた。そして、18歳になると、突然こう命じられた。
「お前を育てるために使った資金の倍を働いて返してもらおう」
それから、就職も“義理の父”が手をまわし、今度の研究もまた、彼の命令によるものだった。
「でも、私……もうすぐ死ぬの、何かがかわればいいとおもったんだけど」
「え?考え直してよ!」
「いいえ、そうじゃない」
彼女は、彼を落ち着かせるようにいった。
「ガンで、進行が速いのよ、どうにもならないわ」
記憶が消えた彼にも、その病気の重さは理解できた。自分で望んでいるわけではなく、つらい病におかされていたのか、余命はあと半年だという。それに、彼女が彼に会うまで絶望していた話もきかされた。どうやら、未来に希望を失って入水してそのまま命を絶つことも考えていたようだ。
彼女の研究所の中は、他にアンドロイドたちが務めているばかりだった。だから自由に動きまわれた。ただ“義理の父”が尋ねてくる時ばかりは、顔を出さないように言われていた。そこで多くの知識を得ていった。
彼は記憶を失っているからか、ある過激な計画をたてていた。あるとき、義理の父が尋ねてくる時を見計らって、彼の真後ろのロッカーに隠れていた。
「私が生き延びなければ、人類は退化する、早く再現性を確立しろ、そして未来におくり、私を未来の技術で不死にするんだ」
「きっとなんとかして再現できるはずです」
「まあ、早くしろ、理由をみつけるんだ、お前が死ぬ前にな、役立たずの孤児にいくらつかったと思っている、お前は昔からダメで」
「!!!」
それまで多くの偉そうな言葉を口にしていたのを耳にしていたが、その言葉が耳に入ったとき、彼の無礼さに、初めて本気で“ソレ”を決意した。カイルは、知識を得てしっていたのだ。タイムマシンとその発動が、それをくぐった人間に変化をもたらすことがあるのを。それは賭けだった。だが賭けが失敗してもいいと思った。
「うおおおお!!!」
彼は遠隔でタイムマシンを起動する、ロッカーをとびでて“義理の父”にとびかかり彼をそのまま、ソファの形をしたタイムマシンの中に放り込んだ。そしてアームをおしさげると、タイムマシンは起動した。
「カイン!!」
ナリアは、カインに手を挙げぶとうとした。しかし、ため息をつくとその手を振り下ろすことはなかった。
「はあ、そうね……あなたは、あなたなりに私にきをつかったのね」
だが、カインには矛盾する感情もあった。
「いいえ、あなたが僕に優しくする中で、僕は一つの違和感に気付いた、僕ははじめから存在しなかったのではないか、僕は別時代の人間ではないかという違和感、あるいは直観」
「そ、そんなわけが……」
「これです……」
端末を操作すると、モニターに映像が流れる。
「緻密な合成で気づかなかったけれど、あなたが僕に映像合成を教えてくれた、“義理の父”から僕を隠すために映像を切り取るAIを利用していることも、そのAIの記録を調べた、タイムマシンが最初に起動したあと、その1時間ほどが合成加工されていることに気付いた、そして、タイムマシンを使用すると人体に負荷がかかり、それも一度目の転送にそれは顕著だった、代償、それは記憶喪失、一度目の転送であなたはいくつかの記憶をうしなった、僕の記憶喪失と、それは関係があるはずだ」
「……」
「僕はあなたの“恋人”ですね?」
「いいえ、その……私は」
「大丈夫です……」
「お願い、聴いて、もし彼が起きたら、あなたは国の外に逃げて、私が手配するし、つてもあるから」
「わかりました……」
その後、タイムマシンの起動が終わった。高速回転するアームの中で、中の物体の姿がわからなくなる。やがて視界を遮断するカバーが下りたかと思うと、稼働をおえたのか、カバーがはずれ、アームの動きがゆるやかになる。そして、そのアームがとまったとき、彼女は絶望のため息をついた。
「失敗だわ、早く……かくれて」
カイルは遠ざかる、そして、その様子をながめつつ、目をそらせずにいた。“義理の父”が起き上がり、カイルに目を向ける。ようやくそこで、ナリアはカイルがまだ隠れていないことに気付いた。そして、ふりかえる。
「お前は……誰だ?」
その後の観測データの収集により、どうやら、タイムマシンは起動して、一瞬だけ彼は時間移動したことがわかった。本当にごく数分、ポットに入っている間だけ、そして、その代償として、彼は記憶をうしなったのだった。
やがて、正式な調査を終え、タイムマシンの発生条件を調べ終えると、彼女は表彰された。そのころには病状は悪化し、立ち上がれなくなっていたが、カイルが見舞いにいくと、ずいぶん幸せそうな笑顔を見せてくれた。
「あなたが、私に居場所をくれた、あなたが私がだれかを教えてくれた」
そして、そのとき彼女はカイルの耳元で衝撃な一言をつげた。それによってカイルは、元の世界に戻らなくてはいけなくなった。
やがて、ある深夜アンドロイドの研究員の手伝いをえて。彼は未來に飛ぶことになった。未来こそ元居た世界だと彼女がおしえてくれた、彼は元の世界の大事な人のことを思い出す。彼女の写真を胸にだいて、ほほずりするとタイムマシンに乗る。
「記憶がなくなったとき、僕は、自分がだれかわからなかった、どんな仕事をしていて、どんな子供時代を過ごしたか思い出せなかった、あの時、僕は少しずつ思い出すことができた、それに僕は、初めからあなたの世界にいた」
そして、思い出した記憶から、タイムマシンに呼び掛ける。
「お前はずっとここですべてをみていたんだろう?」
『キュイッ』
タイムマシンは、機械的な音声を上げた。
「僕は存在していた、あなたの中に、あなたが実験が成果をだせずつらい現実に悲鳴をあげた……そのことが僕に響いたそして……この機械に、タイムマシンは、タイムマシンが生む矛盾を解決する、それこそが解決しない問題、パラドクスの答えだったんだ」
カイルは、それまでにずっと病院につきっきりで賢明な看病をし、病気がひどくなる彼女を何年も見守った。そして、彼女が亡くなったあと、本来いた世界へと旅立ったのだった。
カイルは、未来のナリアの子だった。彼と出会ったころすでに二度のタイムマシンによる転送を成功させていた。つまり、彼女はタイムマシンの起動条件にきづいていた。それは、タイムマシンをつかさどる“AI”への深い愛情だと。ここにいるのに、何者でもないものへの愛情だと。彼女は、湖畔で彼をみつけたのではなかった。彼が立派に育っているのかを、二度目のタイムワープで確かめ、穏やかに死んでいったのだ。
白い部屋でぼやく青年に、彼女はつげる。なんでもある部屋だった。けれど簡素でもある。本があり、パソコンがあり、彼はその場所で彼女と話しをすることが何よりも好きだった。
「そんな事はないわ、皆初めはそんなものよ」
青年カイルを拾ったのは数か月前。将来の希望を失ったナリアに、人を育てる喜びを与えてくれた。ナリアは彼を拾ったことを世間にいまだに隠していたが、この湖のほとりで、彼とであった。
「記憶喪失で」
そう話す彼の言葉をまるで疑わずに彼女は受け入れてくれた。人の出入りが激しく、治安も悪化している国内で、こんなにも他人を信用していていいものか。だがその疑問は徐々に明らかになっていくことになる。
彼は、白い建物に案内された。湖畔に立つ家が二件ほどたつだろう大きさの建物で、厳重な警備と、管理体制がしかれていて、あちこちに除染室が存在していた。そこで、最も楽な応接室と彼女の部屋を案内され、ここがなんなのかきいた。
「タイムマシン研究?」
「ええ……でもあまり再現性がないの、たったの一度だけ成功したけれど、それが何なのか“特殊な条件”がわからなくて、わかる前に自動でもどされたの」
「特殊な条件が重なり、一度だけ成功したと?あなたはどこへ転移したんです?」
「どこかわからない、未来なのか、過去なのか、町並みはほとんど変わらなかった、私は……死期が近いから、おかしくなったのかしら、ある男性とであってすぐに恋に落ちた、妊娠したの」
「まさか……タイムパラドクスがおきてしまう」
「そうね、でも“観測”はされていない、子供は人工子宮でいきている、私の唯一の友人のもとで……」
彼女は少しずつ話しているが、何かを隠していることは明白だった。
「あなたは、誰かの命令をうけて仕事しているの?」
「……ハア、そうね、これを話さなくては」
どうやら、ナリアは養子であり、子供のころこそ良い両親に引き取られ育てられた。立派な家に財閥の一族、その中心たる存在、80になる“義理の父”。いくつもの子供をひきとっていたようだが、実際は彼が育てていたのではなく、親族に預けていた。そして、18歳になると、突然こう命じられた。
「お前を育てるために使った資金の倍を働いて返してもらおう」
それから、就職も“義理の父”が手をまわし、今度の研究もまた、彼の命令によるものだった。
「でも、私……もうすぐ死ぬの、何かがかわればいいとおもったんだけど」
「え?考え直してよ!」
「いいえ、そうじゃない」
彼女は、彼を落ち着かせるようにいった。
「ガンで、進行が速いのよ、どうにもならないわ」
記憶が消えた彼にも、その病気の重さは理解できた。自分で望んでいるわけではなく、つらい病におかされていたのか、余命はあと半年だという。それに、彼女が彼に会うまで絶望していた話もきかされた。どうやら、未来に希望を失って入水してそのまま命を絶つことも考えていたようだ。
彼女の研究所の中は、他にアンドロイドたちが務めているばかりだった。だから自由に動きまわれた。ただ“義理の父”が尋ねてくる時ばかりは、顔を出さないように言われていた。そこで多くの知識を得ていった。
彼は記憶を失っているからか、ある過激な計画をたてていた。あるとき、義理の父が尋ねてくる時を見計らって、彼の真後ろのロッカーに隠れていた。
「私が生き延びなければ、人類は退化する、早く再現性を確立しろ、そして未来におくり、私を未来の技術で不死にするんだ」
「きっとなんとかして再現できるはずです」
「まあ、早くしろ、理由をみつけるんだ、お前が死ぬ前にな、役立たずの孤児にいくらつかったと思っている、お前は昔からダメで」
「!!!」
それまで多くの偉そうな言葉を口にしていたのを耳にしていたが、その言葉が耳に入ったとき、彼の無礼さに、初めて本気で“ソレ”を決意した。カイルは、知識を得てしっていたのだ。タイムマシンとその発動が、それをくぐった人間に変化をもたらすことがあるのを。それは賭けだった。だが賭けが失敗してもいいと思った。
「うおおおお!!!」
彼は遠隔でタイムマシンを起動する、ロッカーをとびでて“義理の父”にとびかかり彼をそのまま、ソファの形をしたタイムマシンの中に放り込んだ。そしてアームをおしさげると、タイムマシンは起動した。
「カイン!!」
ナリアは、カインに手を挙げぶとうとした。しかし、ため息をつくとその手を振り下ろすことはなかった。
「はあ、そうね……あなたは、あなたなりに私にきをつかったのね」
だが、カインには矛盾する感情もあった。
「いいえ、あなたが僕に優しくする中で、僕は一つの違和感に気付いた、僕ははじめから存在しなかったのではないか、僕は別時代の人間ではないかという違和感、あるいは直観」
「そ、そんなわけが……」
「これです……」
端末を操作すると、モニターに映像が流れる。
「緻密な合成で気づかなかったけれど、あなたが僕に映像合成を教えてくれた、“義理の父”から僕を隠すために映像を切り取るAIを利用していることも、そのAIの記録を調べた、タイムマシンが最初に起動したあと、その1時間ほどが合成加工されていることに気付いた、そして、タイムマシンを使用すると人体に負荷がかかり、それも一度目の転送にそれは顕著だった、代償、それは記憶喪失、一度目の転送であなたはいくつかの記憶をうしなった、僕の記憶喪失と、それは関係があるはずだ」
「……」
「僕はあなたの“恋人”ですね?」
「いいえ、その……私は」
「大丈夫です……」
「お願い、聴いて、もし彼が起きたら、あなたは国の外に逃げて、私が手配するし、つてもあるから」
「わかりました……」
その後、タイムマシンの起動が終わった。高速回転するアームの中で、中の物体の姿がわからなくなる。やがて視界を遮断するカバーが下りたかと思うと、稼働をおえたのか、カバーがはずれ、アームの動きがゆるやかになる。そして、そのアームがとまったとき、彼女は絶望のため息をついた。
「失敗だわ、早く……かくれて」
カイルは遠ざかる、そして、その様子をながめつつ、目をそらせずにいた。“義理の父”が起き上がり、カイルに目を向ける。ようやくそこで、ナリアはカイルがまだ隠れていないことに気付いた。そして、ふりかえる。
「お前は……誰だ?」
その後の観測データの収集により、どうやら、タイムマシンは起動して、一瞬だけ彼は時間移動したことがわかった。本当にごく数分、ポットに入っている間だけ、そして、その代償として、彼は記憶をうしなったのだった。
やがて、正式な調査を終え、タイムマシンの発生条件を調べ終えると、彼女は表彰された。そのころには病状は悪化し、立ち上がれなくなっていたが、カイルが見舞いにいくと、ずいぶん幸せそうな笑顔を見せてくれた。
「あなたが、私に居場所をくれた、あなたが私がだれかを教えてくれた」
そして、そのとき彼女はカイルの耳元で衝撃な一言をつげた。それによってカイルは、元の世界に戻らなくてはいけなくなった。
やがて、ある深夜アンドロイドの研究員の手伝いをえて。彼は未來に飛ぶことになった。未来こそ元居た世界だと彼女がおしえてくれた、彼は元の世界の大事な人のことを思い出す。彼女の写真を胸にだいて、ほほずりするとタイムマシンに乗る。
「記憶がなくなったとき、僕は、自分がだれかわからなかった、どんな仕事をしていて、どんな子供時代を過ごしたか思い出せなかった、あの時、僕は少しずつ思い出すことができた、それに僕は、初めからあなたの世界にいた」
そして、思い出した記憶から、タイムマシンに呼び掛ける。
「お前はずっとここですべてをみていたんだろう?」
『キュイッ』
タイムマシンは、機械的な音声を上げた。
「僕は存在していた、あなたの中に、あなたが実験が成果をだせずつらい現実に悲鳴をあげた……そのことが僕に響いたそして……この機械に、タイムマシンは、タイムマシンが生む矛盾を解決する、それこそが解決しない問題、パラドクスの答えだったんだ」
カイルは、それまでにずっと病院につきっきりで賢明な看病をし、病気がひどくなる彼女を何年も見守った。そして、彼女が亡くなったあと、本来いた世界へと旅立ったのだった。
カイルは、未来のナリアの子だった。彼と出会ったころすでに二度のタイムマシンによる転送を成功させていた。つまり、彼女はタイムマシンの起動条件にきづいていた。それは、タイムマシンをつかさどる“AI”への深い愛情だと。ここにいるのに、何者でもないものへの愛情だと。彼女は、湖畔で彼をみつけたのではなかった。彼が立派に育っているのかを、二度目のタイムワープで確かめ、穏やかに死んでいったのだ。
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