SF短編集

ショー・ケン

文字の大きさ
上 下
7 / 28

メタバースの別れ

しおりを挟む
 それははじめから現実逃避だったかもしれない。レイはメタバースであった友人にアドバイスを聞いてからすべてが変わった。

 そもそもゲームやら、娯楽、パソコンなどの趣味を通ってこなかった真面目な彼にとって、その体験はとても新鮮だった。現実の重苦しさや現実への過剰なこだわりやプライドを忘れさせてくれたのだ。

 彼が元恋人のストーカーになったのは3年前、不真面目なホストに恋人を取られてから、気がおかしくなってしまったのだ。気づけばつきまとってしつこく接触していた。悪いとわかってもとめられなかった。

 様々な手段を講じてそれをやめようとしたが、最後に手を出したこれがそんなに効果を発揮するとは思わなかった。この3年間のうちに、技術はさらに向上し、映像はさらに美しくなり、あれほどこだわりがつよかった現実よりうつくしく、それでいて粗が目立たなかった。

 人間はどうしたって、生物だ。きにしはじめたら皮膚のしわや皮膚の細かい切れ込みや毛穴だって、生物を感じさせる。化粧だって、それと思えば仮面をつけているようなものじゃないか。そうした少しの落胆も感じさせないほどメタバースは進化した。

 だが、彼は昨今なやんでいた。恋人への思いは完全に断ち切られたように思えたが、しかし、逆に現実への興味を失ってしまった。その間にメタバースであった件の親友は結婚をしてしまい、このメタバースに姿を現すことも少なくなった。

 久しぶりに顔を出したときにそのことをきりだすと、友人はいった。
「完全な別れをつげるべきだね、かつて恋人や現実にそうしたように、メタバースでおおきな決着をつけるんだ、そうすれば気がすむだろう」

 
 そしてレイは決意をする。メタバースの中で元恋人を誘い出した。カフェにむかい、昔話をしたあと、別れ際にじっくり見つめあう。メタバースの中で最初につくったのは彼女だ。そのせいか、画像があらいが彼は気にも留めなかった。これで過去と完全に決別ができる、彼はナイフをとりだした。彼女は想像だにしていなかったのか、彼をじっとみつめるだけだった。
「すまない」
 レイは遠慮もなく彼女をつきさした。彼女は倒れた。そして、彼女はその場に倒れ、こういった。
「私は本物よ、ここは現実よ」
 レイは答えた。
「おかしい、君はボットじゃないのか?」
 レイは自分のつけているヘッドセットにてをかけた。それはただのサングラスのように、外の世界を投影しているだけだった。ようやく気付いた。自分は、知らず知らずまだ彼女に現実であっていて、彼女はいつかの時点で自分を許していたのか、現実と幻想の区別のつかない自分を。
「ど、どうして……君は、数年前病気で死んだはずじゃ」
 止血をするが、刺さった場所がわるいのか、流血はとまらず、かつ彼女はもう息も絶え絶えだった。そしていった。
「それは、メタバースの中であなたの友人がいったことよ……」

 レイの頭の中には、親友の言葉だけがひびいていた。彼を落ち着かせるとき、必ずこういっていたのだ。
「彼女はわすれろ、病気で死んだことにするんだ」










しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【Vtuberさん向け】1人用フリー台本置き場《ネタ系/5分以内》

小熊井つん
大衆娯楽
Vtuberさん向けフリー台本置き場です ◆使用報告等不要ですのでどなたでもご自由にどうぞ ◆コメントで利用報告していただけた場合は聞きに行きます! ◆クレジット表記は任意です ※クレジット表記しない場合はフリー台本であることを明記してください 【ご利用にあたっての注意事項】  ⭕️OK ・収益化済みのチャンネルまたは配信での使用 ※ファンボックスや有料会員限定配信等『金銭の支払いをしないと視聴できないコンテンツ』での使用は不可 ✖️禁止事項 ・二次配布 ・自作発言 ・大幅なセリフ改変 ・こちらの台本を使用したボイスデータの販売

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

恥ずかしい 変身ヒロインになりました、なぜならゼンタイを着ただけのようにしか見えないから!

ジャン・幸田
ファンタジー
ヒーローは、 憧れ かもしれない しかし実際になったのは恥ずかしい格好であった! もしかすると 悪役にしか見えない? 私、越智美佳はゼットダンのメンバーに適性があるという理由で選ばれてしまった。でも、恰好といえばゼンタイ(全身タイツ)を着ているだけにしかみえないわ! 友人の長谷部恵に言わせると「ボディラインが露わだしいやらしいわ! それにゼンタイってボディスーツだけど下着よね。法律違反ではないの?」 そんなこと言われるから誰にも言えないわ! でも、街にいれば出動要請があれば変身しなくてはならないわ! 恥ずかしい!

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

高校生とUFO

廣瀬純一
SF
UFOと遭遇した高校生の男女の体が入れ替わる話

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

体育座りでスカートを汚してしまったあの日々

yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

処理中です...