SF短編集

デジタルデトックス

「私、しばらくデジタルデトックスするの」
　高飛車なお嬢様がいった。しかし周囲の人間は止めたのだった。
「あなたはインターネットで人気者になった、その人気を手放してまですることではない」
「できるなら休止なんてしない方がいいよ」
　それでもお嬢様は、いってきかなかった。大自然のぬくもりを肌で感じたいという。別荘をかり、そこで１年過ごすというのだ。

「やめといたほうがいいのに」
「僕らはどうせ"この場所"から出られない」
そこは月の第１２コロニー、”問題のある人間”たちを隔離する収容所だった。とはいっても生活は普通そのもの、ただコロニーの外に出られないだけだ。

「優雅な生活、楽しいわ」
「人気者には休日が必要ね」
　半年ほど楽しそうなメールが送られてくるが、そのメールは突然奇妙に変わっていった。
「どうしてだまっていたの？」
「ここは、その場所と変わりなんてしない、ただ周囲をスクリーンに覆われて、自由という映像を映した箱よ」
「私は、私の現実は……こんなんじゃない！」

　それから数か月後、お嬢様はしたいで発見された。お嬢様の本当の顔は芋っぽい素朴すぎる女の子だった。皆がARグラスをつけていたので、その本当の顔はわからなかった。

「普通の女の子じゃないか」
「ひどいな、こんな子がいじめられていたなんて」
「幸せだったのかな？」
「誰かが友達になってあげれれば……」

　そのお嬢様は、インターネットで人気という“夢”をみていた。ARグラスを通じ、そして彼女の端末にあるAIを通じ、それは精神疾患の治療のためで、ここはその保養施設だった。数年前ひどいいじめにあったその人は、いじめの犯人こそが地球で有名なインフルエンサーだった。治療方法として、彼女を”人気者”にしたてあげたのだったが、しかし思わぬ”デトックス”によってそれは失敗したのだった。