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亡国の姫

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 一方、エラグはしばらく呆然としていたが、やがてゆっくりとたちあがり、ぽつりといった。
「帰ろう、やっぱり向いてなかったんだ、他に向いている事があるとも思えないが、ウッ……」
 突然吐き気がこみあげてくる。吐しゃ物を嘔吐した。情けなさで嫌気がさす。何かできると思っていた。きっといい仲間に会えたり、仕事にやりがいをみつけたり。別に魔王を倒す勇者になんてならなくてよかった。自分の目的を強くもち、達成できればそれでいい。

 それは強くなり、自分の姫であるカノンを守り、旅をすること。ぎゅっとこぶしをにぎり顔の前に構えた。想像や理想が頭を駆け巡る。そうだ。ひょっとすると自分は作家の才能があるのかもしれない。また飽きれた妄想に浸っていると、ふと周囲が騒がしい事に気づいた。

「ゴフッ、ゴフゴフッ」
「プゴッ!!プゴッ!!」
 何かに周囲を囲まれている。というより、その波に担がれて移動させられているようだった。それは人並みならぬ、モンスターたちの……。下を見下ろす、小柄な下級ゴブリンたちが自分をそれと気づかずに背負いながら移動している。そこでエラグは理解した。
(俺の荷物に呪文がかかっていなかったのか)
 ふつふつと怒りがこみあげてくる。ドルジの野郎、わざとこうしたのか?たしかに自分の腰に下げたバッグを大事そうに、楽しそうにゴブリン運んでいる。
「フッ、フッ、ゴブッ」
 20体はいるだろうか、冒険者にとって救いなのは、すべてが下級ゴブリンだという事だ。だがエラグにはそれほどその事実は関係がない。
(ど、どうしよう)
 ゴブリンを一度に相手にして勝ったことがあるのは2体まで、そんな彼がこんな大量のゴブリンを相手にできるはずがない。

 しばらくするとゴブリンはある開けた場所にたどり着いた。どうやら休憩所らしい。ドサ、とあろうことか彼の荷物はその中央におかれ、かつわらわらとゴブリンが持ち物を探りまわした。ある青い宝石のようなものを取り出すと嬉しそうに飛び上がっている。
(ああ、あれか、自分には価値のないものだ、爺さんから譲り受けたものだというが、いまいち用途がわからないんだ)

 そこへ今度は、手足と顔を布でしばられた女性が運ばれてきた。みぐるみをはがされているらしい、きっとゴブリンの奴隷として使われるのだろう。哀れだ、と思いながら、彼は半ばあきらめていた。スキを見つけて逃げ出そう。最悪の場合、荷物をすてて。そうして、彼はしばらく待ち、夕暮れが来るのを待った。
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