ファンタジー短編集

ショー・ケン

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天使狩り

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 ある日、ラッパをふく天使が降り立った。聖書にいわれるように。善き人々を迎えに来たのだろうか?むろん信仰深き人々は彼らをうけいれた。それから四半世紀がたったころだった。

 しかし、人々の中に疑念が生じたのはそのころからだった。いつまでたっても終末も災厄も訪れない。人々は“天使は悪をあぶりだそうとしている”と噂した。そのせいであちこちで“天使狩り”と呼ばれるものが起きていた。それは人に化けた天使をわりだし、自分が天国に行けないと思っているものや、心にやましいことがある者たちが起こす神への反乱ともいえるものだった。

 天使もまた狡猾だった。その時点ではただのうわさだったが、天使たちはある“悪の根源”を人に植え付ける能力をもっているとされた。それは“死者”に関わる能力とされた。実際、天使が降り立ってから、犯罪や事件は増えた。その代わり、一向に災害は増えなかった。人々は、お互いを疑いあうようになったが、なんとしてでも何が原因でも“悪の行い”を犯してはいけなかった。

 そんな世界でも彼女、ガルドは幼いころから賢明に生きていた。人々の善性を信じ、信心深い神父の父と、教師の母とともに。天使は悪いものを滅ぼす。だから、よきものとして、家族を守りたかった。


 成人すると探偵として生計をたてていた。日々の暮らしは浮き沈みがあったが、彼女には支えがあった。不倫調査や猫探しの仕事を終えると、彼にあいにいく。
「やあ、ガルド」
 バーによると、ヨルンがすでにこの場所にきていた。ヨルンは、警察にしつこく取材するようになって知り合った。当人いわく“自分の両親を失った事件の解決”のために刑事になったというが、いつもひょうきんな感じだし、ウソもいうから本当かウソかはわからなかった。
「今日も綺麗だね」
 彼は、人を差別も区別もしなかった。そこが不安でもあったが、彼は常に人の“良い行い”をメモするクセがあった、聖書をよむと、“善い行いをした人”を記す書物があるとされていて、彼女はこっそり、彼こそが天使なのではないかとおもっていた。

 その日も楽しい話をすると、彼女は酒よりかれによってずっとみつめた。しかし、しばらくして彼女が酔いつぶれると彼は場所を移した。最近何かを隠しているような気がする、数十分もすれば戻ってくるはずだが、その日、実はお酒を飲んでいるふりをして、こまめにトイレにいってすべて吐いていた。頭はすっきりしていて、ガルドは彼を追った。どうやら、誰かとあっているらしい、情報屋だろうか?いや、あれは刑事だ、何度か現場でみたことがあった。

 そういえば、近頃街で“アンチアポカリプス”の話も活発にでている。アンチアポカリプスは、天使狩りの過激派だ。天使狩りとは、裁きを下す天使を人間の手で裁くことによって最後の審判そのものを止めようと考える人間たちだ、彼らは“罪のない人間などいない”と主張する。彼について、悪い噂があった。どうやら“アンチアポカリプス”なのではないかと。

 彼のことを調べるために情報屋にも接触した。そうしたものは自分のプライドから長らくさけていたものだったが、四の五の言ってられない。少し彼が心配だったのだ。

 彼が調べていることを追っていくと、どうやら“天使狩り”について調べているようだった。日をまたいで、熱心に彼のことを調べた。警察官にわいろをおくって、彼の資料について調べてくるように尋ねた。その資料の写真を受け取ると、自身の目を疑ってしまった、
(まさか、ウソでしょ?)
 彼が刑事として調べていたのは、“天使狩り”に関わる事件、主に“魔女狩り”にもにて、疑わしきものを罰する犯罪についてのものだ、その資料を確認すると、携帯を確認し、“あるアプリ”を起動する。そのアプリは、実家に設置してあるカメラを起動するものだ。映像をみると、あまりに変化がなく、寒気がはしって、彼女はある場所へむかった。


 彼女がその家につくと、すでに家はあらされており、玄関を開けると血痕が廊下のあちこちにある。見覚えのある家、そして、恋人と向かうはずだった場所。
「ヨルン!!まって、お願いよ!!」
「ガルド、ようやくここへきたか」
 母親が、ヨルンに襟首をつかまれている。母親が叫んだ。
「来ちゃだめだ!!こいつは化け物だよ!!もうお父さんはやられた!!どのみちこいつらは天国にはいけない!!」
 たしかに、父はベッドの上で倒れている。声も聞こえない。すでに手遅れかもしrね愛。
「何を……しているの?」
「何って……復讐さ、15年前の事件のな……あの時、俺の両親の命をうばった“天使狩り”の」彼女は、頭を抱えた。やはり、資料で見た情報の通り、彼は暴走している。
「怪しいと思ったんだ、お前は赴任したそばからやけに親しく話しかけてくるし、何かを隠しているって、1か月前に知り合ったが、ちょうど俺がここへ来たばかりだ、俺を疑っていたな!?俺が復讐をすると!!」
「いいえ、何の証拠があるの!?」
「証拠ならある!!」
 彼は写真をポケットから出して拳銃をこちらにも、母にも向けながら叫んだ。
「探偵に頼んだ、俺をずっと尾行していただろう!?」
「違うわ!!聞いて!!情報屋よ!!情報屋に聞いたの!!あなたがきっかけになるって、情報屋いわく、あなたの近くで“天使狩り”は行われつづけてきた、実際あなたの近くに“天使”はいる、でも、未だに人間は天使を狩ったことなどないけど……あなたが真実を知って、天使に優しくしたなら私たちは天使に迎えられ、そして願いが叶うって、だから家中にカメラをしかけた、お願いよヨルン!!ここで我慢をすれば、あなたは、私たちは天国にいける、最後の審判の“裁かれない側”になれるのよ!!」
「誰の?誰の願いがかなう?」
「え?」
「そいつだよ、誰の願いが叶うって?」
「私のじゃないの?」
「いいや、それはきっと情報屋の願いだ、お前は美しいから、そう、お前は美しい、俺を嫉妬させた!!俺をだました!!」
「私は……」
 彼は、再びガルドに銃口を向けた。
「褒めているんじゃないぞ、この疑い合う世の中にあって、お前は自分の美貌を武器にしないわけはない、そして俺の悪い噂は……お前が流したんだろ!!!!俺は他人もお前も疑わないようにしていたのに!!お前は疑った!!!俺は俺を疑っていきてきた、俺だけ生き残ってしまった事件を悔いて、ずっと生きてきた、これで天使に殺されるなら、本望だ!!」
「いいえ!!私は今回が初めてよ!!彼と取引したのは、アンチアポカリプスたちが活発になっていて、情報屋もアンチアポカリプスに脅されていて、だから、私は取引したの、どうせなら、“より良い解決法”があるって、聴いて!!」
「だが、なぜあれがある?あの家のあちこちの、監視カメラ……やはり……お前はあの事をしっていた、なのに、なのに」
「知らなかったわ、そんな事、それより、あなたはどうして両親をしらべていたの?」
「復讐だ……俺はこのために刑事になった、あの事件の“犯人”を見つけ出すために」
 ヨルンに、ガルドは銃口をむけた。こんな事になるとは思っていなかった。自分はただ、彼の善性を天使にみせようとしただけだ。
〈ズドンッ!!!〉
目をつぶると同時に、銃声が響いた。それは、ヨルンがつかんでいた母親に向けて撃たれたものだった。
「そん……な」
 彼は、ガルドにも拳銃をむけた。だが恐ろしい格好だった、彼は拳銃を二丁もち、片方の銃口をガルドに、片方の銃口を自分の口にむけて大口をあけていた。
「ふん、悪い夢さ、もしこれが“審判”というなら、初めからすべてきまっていたのだ、誰が生き延びるかってことも」
〈ズドン!!!〉
 鈍い銃声が響いた。目をつぶって床に崩れ落ちたが、二人の男女が交互に声をかけてくれた。目を開けると制服がみえた。
「大丈夫!?」
 どうやら、男女の警察官がかけつけたようだ。犯人が死んでいることを確認すると、男性の警察官は連絡を取りに外に出て行った。

 しばらくして、女性警察官が、ヨルンにだけ“本当の顔”をみせた。天使などという響きにそぐわない、顔中目で埋め尽くされたような顔を、そして女性にもどるとその天使はいった。
「“よかったわ、彼が悪におちてくれて……ありがとう、あなたが善と悪とをわけてくれたので、ようやく選ぶべき人を決められた、良い人が多すぎて、判断にこまっていたのよ、これからあなたは極楽へつれていきましょう”」
 ガルドは絶望に打ちひしがれながらも、それでも笑った。うそをついていた母と、醜い恋人、その両方の真実をしることができたのだから。それに、彼女が純潔である方法は一つしかない。
「最後に……悪の根源をおしえてあげましょう」
 彼女いわく、“天使の振りまく悪の根源”とは、“死者についての記憶そのもの”を改ざんする。ガルドは知っていた。両親は常に家にいたから、大規模な犯罪を犯すことなどできなかった。そして、あの資料をつくったのが、ヨルンであり、何も証拠などはなく、ただ推測をもとに、仮説を立てただけの資料だった。そして彼の両親が死んだ原因は“天使狩り”などではなく“事故”だということも知っていた。それでも天使を恨んではならなかった。

 あるいは彼は、わざと自分から悪へ落ちる道を選んだのかもしれない、そう信じるほどに彼女はまだ“善”を信じていた。



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