目覚めのロボ

目覚めのロボット

　あるカフェで二人の男が話している。
「子供はコストがかかるからねえ」
「ああ、今は贅沢そのものだよ、生かすのだって苦労する」
「常にごはんを与えなければならないしねえ、自分の分だって、こんな世界じゃ明日も知れないのに」
　それに聞き耳を立てていた隣の席の男がわってはいる。
「さっきから、あなたがた、子供をコストコストって、そんな言い方ないじゃないですか」
「なにをいってるんだい、ロボットの子はロボット、稼働コストはかかるよ」
　そうだ、コールドスリープで目覚めたばかりだが人間とロボットは人口比が逆転していた。この時代、人間が満足に生きるのは莫大な金がかかるし、ロボットの動力だって、人類が使い果たしてしまって、わずかなバイオ燃料やら原子力しか方法がない、私のほうだ、場違いは。ロボットが子供を育てるには、人間よりもコストがかかるのだろう。

　科学者はふと我に返る。私は、なんて幸福な生活をしていたんだろう。子供にも恵まれ、優秀な科学者として生涯をすごし、無限の命に憧れ、自分をコールドスリープさせるなんて。彼はスマホを取り出し、画面をみる。黒い画面に反射する自分は顔の右半分が機械化していた。あるところに電話をかけた。
「もしもし、すまないね、私の半身と、子供を凍らせているだろう？それをうっぱらって、私の残り時間の稼働力にしてくれ、研究に使っても構わないよ、ああ、釣りはいらないさ……もう人類の時代はおわった」

　科学者が目覚めた地球は荒廃しきっていた。人間の住める土地はごくわずか。汚染や異常気象によってロボットたちであれ住める場所は限られていた。科学者はそんな世界で、ロボットたちが、子供を持つ夢をかなえられるように自分の子供を売り渡したのだった。