奇妙な生霊

ショー・ケン

文字の大きさ
上 下
1 / 1

奇妙な生霊

しおりを挟む
 あるカフェで二人の男女が話している。男が相談を受ける側。女は相談をしている。
「やっとみつけたのよ、私の大事な人、私の好きな人、他人のこと、すきになれなかったのに」
「そうなんだ、で、何がそんなに問題なの?」
「……」
 女性はふさぎ込んだように悩みこんでいる。男は、思い切っていってみた。
「いいじゃない、あたってくだければ、俺がいつだって相談にのるから」
 実はこの男女もともと恋人同士で、しかし女性がどうしても本当には好きになれないといって、ずいぶん前に、学生時代に分かれたのだ。彼女はこういっていたのだ。
“あなただけじゃない、私は人に興味をもてないの”

 ギギ、男は姿勢を変え、その反動で椅子がずれる。
「それで、何なのよ?その“雲のような存在”って、幽霊じゃあるまいし」
「……」
「まじ?」
「もっと、怖い存在かも、でも私、その人の事だけが好きになれたの、ずっと気づかなかったけど、今までずっと一緒にいてくれた人、でもね、私彼に思いをよせすぎて、生霊が飛んじゃったみたい、でも、あなたが私を受け入れてくれることは、きっと悲劇にもなる」
「……??」 
 どきっとした。両手をにぎりしめ、じっくり見つめられる。
「ねえ、お願いよ、私がもし失敗しても、あの人がきえていなくなっても、あなただけは、私の選択をうけいれてね」
「あ、ああ、わかったよ」
 そういうと、彼女は男のすぐ後ろに微笑みかけた。
「??」
 男が振り返る。そこには何もいない。
「どうしたんだよ、そんなごまかさなくたって、俺は君のことうけいれるから」
「そうよね、じゃあ、私の傍にきて、私の唯一愛することのできたひと」
 足音がしてふりかえる。そこには、今男と向かい合ってすわっていたはずの真顔の人、ある女性が立っていた。
「ゴクッ……」
 男は息をのむ、それもそのはず、そこには彼女そのものがたっていた。姿勢を直して正面の彼女をみる、また後ろをみる、同じ人物が同時に存在していた。
「私ね……私の事、大好きになったの、それでね、生霊がとんじゃって……でも生霊も私の事が好きみたいで、だから、初めは知人や友人がが私のいるはずのない場所で私を目撃していたんだけど、だんだん私のそばで私自身の目にふれるようになってきて……いわゆるドッペルゲンガーっていうの?それに生霊、私はふたつの霊体験を同時に体感したのよ、きっと私はこのままどうにかなってしまう……だって、彼女を受け入れたら彼女は私のすぐそばにくるとわかっていたから、でもあなたの前なら、それも怖くない……ドッペルゲンガーを見た人間は死ぬ、私は私を愛し、そのことで私は消滅する、でも、私のこと、忘れないでね」
 二人は、お互いに手を伸ばし、そして、ふっと、男の前で姿を消してしまった。

 ふと、男は周囲を見渡す。そしてポツリ呟いた。
「あれ?今の今まで誰かと一緒にいたはずなんだが……誰だったかな、俺の事を好きな人だったはずだけど……いや、そんな人いないか」
 男はどうやら、今まで唯一本気で好きになった異性の事を忘れてしまったようだった。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

受け継がれるローファー

ハヤサカツカサ
ホラー
「校舎にある片方だけのローファーの噂のこと知ってる?」 高校説明会後の自由時間。図書室で一冊の本を開いた少女の頭の中に、その言葉を皮切りに一人の女子高校生の記憶が流れ込んでくる。それはその高校のとある場所に新しいままであり続けるローファーに関するものだった。ローファーはなぜ新しくなり続けるのか? その理由を知って、本を閉じた時何かが起こる! *心臓が弱い方はあらかじめご遠慮ください

妹を止めたい姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
主人公の田澤茉由(たざわまゆ)は妹の田澤美寿(たざわみよ)のとあることを手伝っていたのだが……

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

意味がわかるとえろい話

山本みんみ
ホラー
意味が分かれば下ネタに感じるかもしれない話です(意味深)

意味がわかると怖い話

邪神 白猫
ホラー
【意味がわかると怖い話】解説付き 基本的には読めば誰でも分かるお話になっていますが、たまに激ムズが混ざっています。 ※完結としますが、追加次第随時更新※ YouTubeにて、朗読始めました(*'ω'*) お休み前や何かの作業のお供に、耳から読書はいかがですか?📕 https://youtube.com/@yuachanRio

ほんのちょっこし怖いな?というお話

まこさん
ホラー
めちゃくちゃ怖くはないけど、考えたらほんのちょっこし怖いな?と感じる様な短いお話。

香一 乙輪 心の闇短編集

香一 乙輪
ホラー
人間の怖い話、人の闇を書いた短編小説集

生きている壺

川喜多アンヌ
ホラー
買い取り専門店に勤める大輔に、ある老婦人が壺を置いて行った。どう見てもただの壺。誰も欲しがらない。どうせ売れないからと倉庫に追いやられていたその壺。台風の日、その倉庫で店長が死んだ……。倉庫で大輔が見たものは。

処理中です...