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少女は再び目覚める
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神殿に着き、先ずは神官長の元に向う。
公爵家からの御布施を渡す為と、子爵夫人の病平癒をお願いするためだ。
勿論、女神の加護など信じてません。
神殿には、牢獄で出会った彼の消息を知るために来たのだから。
神殿の高官だった彼が、なぜ邪神様を崇拝するようになったかは知らない。
だが、彼は牢獄の中で、私の知らない事を沢山教えてくれたのだ。
神殿の大廊下を、案内役の神官と歩いていると、人々の視線が絡み付いてくる。
そんな中でも、私に絡んで来る者がいないのは、先代の公爵の睨みが効いているからだろう。
先代の公爵は、子爵家から母を拐うよに連れ出し、息子にあてがった人物。
そのようにして産まれた私を、彼は溺愛している。
前の人生で、半年後の建国祭で私の母は亡くなっていながらも、皇女の称号を授けられる。
先代公爵の要請に、皇家が答えたのだ。
ちなみに、どんな交渉をしたのかは不明
王都の邸で、皇家からの称号授与の使者を迎えた祖父は、ご満悦だったわ。
母は子爵家縁の私生児から、皇女になったのだ。
それは、同時に私の人生も変えてしまった。
祖父は、私を抱き締めて「我が家の皇女殿下」と言っていた。
それがどんなに危険な事なのか。
数年後に皇太子の婚約者に決まった夜、祖父と父は言い争っていたが、翌日、祖父は不振死を遂げたのだ。
廊下で、すれ違う人々が好奇な目で私を見る。
私は、微笑みを返す。
「お嬢様!」
「エラ、どうしたの?」
「いいえ、何でもありません。ほどほどにして下さい」
「侍女殿は、お嬢様の事が心配なのでしょう」
若い神官は、頬を染めなながらディスティニーに話し掛ける。
「心配?何が心配なの」
ディスティニーは、コクリと首を傾げる。
若い神官とエラは、困ったように苦笑いをしていたわ。
まあ、小さな事は良いわ。
何とかして彼を探さなくてはね。
運命を変える事が簡単な筈が無い。
それなのに、私の味方はエラのみだ。
それなのに、時間はどんどん進んで行く。
《カチッカチッカチッ・・・・》
時計の針が進む音が、私を脅迫するように聞こえてしまう。
「これは、これは、良く来て下さいました」
神官長室に着いた私達を、神官長は賑やかに迎えてくれた。
私は、丁寧に挨拶を告げる。
「突然の来訪を、お許しください」
同行しているエラが、公爵家からの御布施を渡す。
「今日は、知り合いの病の平癒を祈りに参りました」
「それは、良い心掛けです」
「もし、よろしかったら祈祷の後、神殿の見学をさせて下さい。神話や、神殿の構造に詳しい方だと有難いですわ」
面倒な注文にも神官長は、快く了承してくれる。
御布施を貰った後に、否なんて言わないだろうとは思っていたわ。
そして、邪神様は私に味方してくれた。
荘厳な祈りの場、ドウム型の天井はステンドグラスと、宗教画で装飾され、その様な場に佇む女神像は慈愛の笑みを称えている。
この場を訪れた参拝者は、女神の加護を信じるのだろう。
「公爵家のご令嬢から見てどう思いますか?」
黒髪の神官は、令嬢に尋ねる。
「お金の無駄ですね」
この時代の帝都の表側は、綺麗な街並みを保っているが、年々スラム街は広がっていた筈だ。
帝国の衰退と諸国からの思想が流入し、時代が濁流とかして帝国を呑み込もうとしている。
「政治をするのは宮廷の仕事です。神殿になにを求めますか?」
「神殿に求める物は有りません。女神の加護に助けを求める人間なんて滅べばいいと思っています」
ディスティニーは、黒髪の神官に、ニッコリと笑う。
「先生、意地悪な質問はそろそろ終わりにして下さい」
そして神官の手を取り、親指の付け根にある星形の痣を確認する。
邪神の信徒の印だ。
「俺が、お前の案内役になると、何故、解ったんだ」
「神殿で、厄介者扱いされていたと言ってたのは先生ですよ。それに、意地悪そうな笑いかたも、変わってないんでしょうね」
神官は、ニヤリと笑う。
「ちなみに何ですが、若い先生の姿が好青年に見えてしまい、辛いです」
「俺に何を望む」
「私の家庭教師になって下さい。許可ならお祖父様にお願いしますから大丈夫です」
「まあ、合格点だな」
「えっ」
神官は、胸元から一枚の手紙を取り出すし少女に見せる。
「これは、なんですか。我が家の押し印がありますけど」
ディスティニーは、手紙の内容を読み始める。
「家庭教師の紹介状ですね。しかもお祖父様からの。先生、なんて素早いんですか」
「俺は、一年前に記憶が戻っていたんだ。だが、いつまで待っても、お前は来ない。だから、俺から乗り込む事にしたんだ」
先生と再開した後、彼の案内で塔の最上階に向かった。
私に、見せたいものが有るらしい。
塔を登りきった頃には、日が傾き始めていて帝都は燃えるような夕日に照らされていた。
夕日に照らされた、帝都の家屋の煙突からは白い煙りがででいる。
夕食の支度を、しているのかも知れない。
その光景は、超巨大都市に人々が根付き生活している事を実感させるには、充分だろう。
「この景色を、お前に見せたかったんだ」
「まるで、炎に包まれてるみたい」
夕日で、帝都全体が燃えているみたいだ。
「炎に包まれたんだ。お前が死んでから数年後に帝都は炎に包まれた」
公爵家からの御布施を渡す為と、子爵夫人の病平癒をお願いするためだ。
勿論、女神の加護など信じてません。
神殿には、牢獄で出会った彼の消息を知るために来たのだから。
神殿の高官だった彼が、なぜ邪神様を崇拝するようになったかは知らない。
だが、彼は牢獄の中で、私の知らない事を沢山教えてくれたのだ。
神殿の大廊下を、案内役の神官と歩いていると、人々の視線が絡み付いてくる。
そんな中でも、私に絡んで来る者がいないのは、先代の公爵の睨みが効いているからだろう。
先代の公爵は、子爵家から母を拐うよに連れ出し、息子にあてがった人物。
そのようにして産まれた私を、彼は溺愛している。
前の人生で、半年後の建国祭で私の母は亡くなっていながらも、皇女の称号を授けられる。
先代公爵の要請に、皇家が答えたのだ。
ちなみに、どんな交渉をしたのかは不明
王都の邸で、皇家からの称号授与の使者を迎えた祖父は、ご満悦だったわ。
母は子爵家縁の私生児から、皇女になったのだ。
それは、同時に私の人生も変えてしまった。
祖父は、私を抱き締めて「我が家の皇女殿下」と言っていた。
それがどんなに危険な事なのか。
数年後に皇太子の婚約者に決まった夜、祖父と父は言い争っていたが、翌日、祖父は不振死を遂げたのだ。
廊下で、すれ違う人々が好奇な目で私を見る。
私は、微笑みを返す。
「お嬢様!」
「エラ、どうしたの?」
「いいえ、何でもありません。ほどほどにして下さい」
「侍女殿は、お嬢様の事が心配なのでしょう」
若い神官は、頬を染めなながらディスティニーに話し掛ける。
「心配?何が心配なの」
ディスティニーは、コクリと首を傾げる。
若い神官とエラは、困ったように苦笑いをしていたわ。
まあ、小さな事は良いわ。
何とかして彼を探さなくてはね。
運命を変える事が簡単な筈が無い。
それなのに、私の味方はエラのみだ。
それなのに、時間はどんどん進んで行く。
《カチッカチッカチッ・・・・》
時計の針が進む音が、私を脅迫するように聞こえてしまう。
「これは、これは、良く来て下さいました」
神官長室に着いた私達を、神官長は賑やかに迎えてくれた。
私は、丁寧に挨拶を告げる。
「突然の来訪を、お許しください」
同行しているエラが、公爵家からの御布施を渡す。
「今日は、知り合いの病の平癒を祈りに参りました」
「それは、良い心掛けです」
「もし、よろしかったら祈祷の後、神殿の見学をさせて下さい。神話や、神殿の構造に詳しい方だと有難いですわ」
面倒な注文にも神官長は、快く了承してくれる。
御布施を貰った後に、否なんて言わないだろうとは思っていたわ。
そして、邪神様は私に味方してくれた。
荘厳な祈りの場、ドウム型の天井はステンドグラスと、宗教画で装飾され、その様な場に佇む女神像は慈愛の笑みを称えている。
この場を訪れた参拝者は、女神の加護を信じるのだろう。
「公爵家のご令嬢から見てどう思いますか?」
黒髪の神官は、令嬢に尋ねる。
「お金の無駄ですね」
この時代の帝都の表側は、綺麗な街並みを保っているが、年々スラム街は広がっていた筈だ。
帝国の衰退と諸国からの思想が流入し、時代が濁流とかして帝国を呑み込もうとしている。
「政治をするのは宮廷の仕事です。神殿になにを求めますか?」
「神殿に求める物は有りません。女神の加護に助けを求める人間なんて滅べばいいと思っています」
ディスティニーは、黒髪の神官に、ニッコリと笑う。
「先生、意地悪な質問はそろそろ終わりにして下さい」
そして神官の手を取り、親指の付け根にある星形の痣を確認する。
邪神の信徒の印だ。
「俺が、お前の案内役になると、何故、解ったんだ」
「神殿で、厄介者扱いされていたと言ってたのは先生ですよ。それに、意地悪そうな笑いかたも、変わってないんでしょうね」
神官は、ニヤリと笑う。
「ちなみに何ですが、若い先生の姿が好青年に見えてしまい、辛いです」
「俺に何を望む」
「私の家庭教師になって下さい。許可ならお祖父様にお願いしますから大丈夫です」
「まあ、合格点だな」
「えっ」
神官は、胸元から一枚の手紙を取り出すし少女に見せる。
「これは、なんですか。我が家の押し印がありますけど」
ディスティニーは、手紙の内容を読み始める。
「家庭教師の紹介状ですね。しかもお祖父様からの。先生、なんて素早いんですか」
「俺は、一年前に記憶が戻っていたんだ。だが、いつまで待っても、お前は来ない。だから、俺から乗り込む事にしたんだ」
先生と再開した後、彼の案内で塔の最上階に向かった。
私に、見せたいものが有るらしい。
塔を登りきった頃には、日が傾き始めていて帝都は燃えるような夕日に照らされていた。
夕日に照らされた、帝都の家屋の煙突からは白い煙りがででいる。
夕食の支度を、しているのかも知れない。
その光景は、超巨大都市に人々が根付き生活している事を実感させるには、充分だろう。
「この景色を、お前に見せたかったんだ」
「まるで、炎に包まれてるみたい」
夕日で、帝都全体が燃えているみたいだ。
「炎に包まれたんだ。お前が死んでから数年後に帝都は炎に包まれた」
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