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笑う当主と踊る幽霊

番外編 舞台の裏側

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 「キース、これを見てちょうだい」

アルバニアは、地図をヒラヒラとしてキースの回りを跳び跳ねる。

「見せて見ろ」
当主様は何を思い付いたんだと思いながら、キースは、ヒョイとアルバニアから地図を取り上げた。

「なんだ、これは・・・・下手だな」

「フッッ・・・・地図よ。お城の隠れ通路の地図なの」

「で、何をしたいんだ」

「鬼ごっこよ。幽霊と騎士に鬼ごっこしてもらうの」


「俺の役目は?」
「そうね、まずはヒロインを保護して欲しいの」






 数日後キース達一行はある村にやってきた。

「リーダー、対象者の家が闇ギルドの連中に囲まれています」
手下Aが、キースに報告する。

「遅かったな、いや、状況を逆手にとるぞ」

キース達は、敢えて闇ギルドの者達が対象者の家に火を着ける事を黙認した。

キースは、燃え盛る炎の中に忍び込み対象者を救出したのだ。

ヒーローならば、闇ギルドの連中を倒し保護するのだろう。
しかし、対象者のその後の人生を考えると死んでしまった事にした方が楽なのだ。

闇ギルドは一度受けた仕事は、完遂するまで懲りずに刺客を送り続けるのだから。

闇ギルドが対象者が死亡したと思った真相だ。

保護対象者アリスが狙われたのは、姉の日記をギルバートより早く手に入れたからだろう。

その後、アリスはアルバニアと対面し計画に参加する事になる。





 その後、キースは幽霊に扮した手下達を管理しながら隠し通路の探索を始める。

そんなある日「リーダー、財宝部屋を発見しました」

アルバニアから、受け取った地図はある程度は役にたった。

しかし、所詮素人が書いた物だ。

微妙に、間違っていた。



 財宝部屋は確かに有ったが、盗賊泣かせの仕掛けも存在した。

罠を解除しかねると、隠し通路が崩落するのだ。

キースはその場での解除を諦め、後日に回す判断をくだす。


 その後の探索は、後宮にも及ぶ。


 その日キースは、隠し通路を使い王妃の部屋を目指した。

「リーダー、この部屋まずいですよ」
手下Aがキースに話し掛ける。

「確かに、森の魔女の部屋だな」
キースは目的の物を探し、回収を後日に回す事にする。





「キースさんおはようございます」

「よっ!おはよう」

この頃になると、アリスの様子も落ち着いて、キースとその仲間達に随分馴染んできた。



そして、いよいよ決戦の日を迎える。


 
 第二王子の婚約者と宰相家の三男の動向には、監視の目を光らせていたが、その日は怖い程に状況が整った。

「監視対象者が行動を起こしました」

「当主に知らせろ」

 

 俺達は、王族とその取り巻きの連中を良く思っていない。




 此処にいる奴らは、テアルスティア家の傘下の者だ。

特に、アルバニアは当主になってから人気がある。

アルバニアを陥し入れようとし、更にサイラスを堕落させたのだから。

まあ、サイラスの場合は自業自得だけどな。

親しかった者が、汚された気分になるのは仕方がない。

なんて言うか、真面目な嫁を堕落させた近所の主婦に向ける姑の憎しみだな。


そして、アリスの寂しさ、悲しみも解っている。

俺達は、同じ釜の飯を食った仲間だ。


「野郎ども決戦だ!!」

「オー!」「オー!」「任せろ!」
野郎どもの士気は高い。

「頑張ります!!」
アリス、頑張れ。



 テアルスティア家の諜報員が扮する幽霊どもを複数班に分ける。

混乱を目的とした班。

誘導を目的にした班。

お宝等の回収班。


「キースさん、お供え物を回収に行っても良いですか」
アリスに、尋ねられた。
「きっちり貰ってこい」
のりで答えてしまった。

まさか、あの真面目君があんな行動に出るなんて思わなかった。

法務局の室長、ジェラート・フォン・シェイク。



 実際に、計画は予定通り進んでいた。第二王子の婚約者と宰相家の三男を人目に触れるように城中を引き回した。

混乱を目的にした班は、愉快班になっていたが問題はなかったと思う。


 一番、手間をとったのは俺がいた回収班だ。
アルバニアに一番に重要視するように言われたお宝を入手するには、すべての罠の解除が必要だったからだ。

その代わり、全ての財宝を手に入れる事ができた。

後宮の方は問題無く終わる事ができたが、下見から少しの間で森の魔女がいるような部屋は更にヒドイ状態に進化していた。

何を目指しているんだ。


 回収が全て終わり、屋根の上で愉快班たちと合流すると建物からメイド姿の少女を俵のように担いで走っている男が見えた。


「リーダー、アリスが連れ去られました」

 誘導班の奴らがタイミング良く知らせに来たんだ。
あんな真面目そうな男が、まさかと思った。
まあ、直ぐに回収はしたがな。
後は、二人の気持ちしだいだ。

月の夜の空騒ぎ、正にそんな夜だった。

ヒロインと王子が恋に落ちた夜だったかもしれない。






 全てが終わった夜、キースは一人飲みに来ていた。

「ねぇ、トリスティヌに会っていく?」
女の子クラブのマダムがキースに尋ねる。
そう、ここは王都の花街にある女の子倶楽部。

少し離れた席では、ほろ酔いの客達が男娼にイタズラしている。

「仕上がったのか?」

「まだよ、遊んでいく?」

「俺にそっちの趣味は無い。飲みに来ただけだ」


「そう、残念。なら綺麗な子にお酌させるわね」
赤いルージュの唇で、華麗な笑みを作るマダムは驚く事にヴァジールとキースの学園での同級生だ。

「セイレーン!此方に来て」

「キースさん、お久しぶりですね」
キースは、目で挨拶を返す。

「なんか疲れてませんか?」
「一仕事が終わった後だ」
セイレーンは、水割りをキースの為に用意する。

「でも、キースさん、なんだか良い感じですよ」
セイレーンは、自然を装いもたれ掛かる。

「もしかして、楽しかった?」
「ああ、悪くなかった」


 キースは、何杯か水割りを飲むと最近の出来事に思いを馳せる。


「幽霊か、可愛かったな」

「何々、キースさんどうしたの?」
美しく男娼は、キースの瞳を覗き込む。

「いいや、別に」

「なんかキースさん、ステキです」

美しい男娼を片手に、夜は更けていくのだ。


 






















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