上 下
892 / 953
戦いの準備

その男は‥

しおりを挟む
遠くから剣戟の音が聞こえてくる。

「2人とも急ぐぞ!戦いが始まってる!上位種が出てなければいいが‥」

「わかった。でもマルコイさん、何でそんなに見ず知らずの人を助けるために必死なんだ?」

ラケッツさんは傭兵だ。

もし必要であれば他人であろうと護る事もするだろう。

だがそれは依頼があれば‥だ。

そんなラケッツさんから見たら赤の他人を助けるために必死な俺は不自然に映るだろう。

確かに俺も普通は赤の他人を助けるために、ここまで必死になる事はない。

困っている人がいて報酬度外視で助けようとしている人がいる。
理由はそれだけだ。

ただそれがあの人と重なっただけだ。

俺たち3人はモンスターの声がする場所へ全力で駆け出した。






その男は普通の冒険者だった。
多少見た目は普通の冒険者に比べて強面だったが。

それでも普通に依頼を受け、それを完了して冒険者ランクを上げてきた。

少し普通と違うところがあるとすれば、見た目は強面だったが中身の信念が冒険者になった時から変わっていない事だろう。

男が冒険者になった理由‥

それは弱者を助けるというものだった。

困っている人を助ける。

それは簡単なようで難しい事だった。

最初の頃は助けようにも自分の力不足で助けられず悔しい思いをしたこともあった。

しかしそれで諦めるような事はせず経験を積み、力をつけて戦ってきた。

冒険者ランクも上がり、今ではBランクという高ランクまで辿り着いた。

しかしそんな事に満足する事はなく、ただ自分の手の届く範囲で助けられる人を助けてきた。


彼が幼い頃に見た、村を救うために命を賭した父親の影を追いかけるように。


その日彼はとある港町に着いた。

そこから彼の出身地であるエルフェノス王国の王都に行くためだ。

長年王都で活動していたが、今回知人に頼まれた護衛依頼を引き受け、遠方まで遠出していたのだ。

「よし、王都に戻る前にギルドに寄って行くか?」

「そっすね、依頼も終わったし急ぐ旅でもないっすからね。」

「兄貴の事だ、またここでも塩漬け依頼を片っ端から片付ける事になるだろうな。」

「違いない!あっはっはっは!」

「うるさいぞ、お前ら。塩漬け依頼ってのは誰も受け手がいないからそうなったんだぞ。依頼をした人は誰も受けてくれないから困ってるはずだ。それを放っておく訳にはいかんだろ。」

「へいへい。それじゃあギルドに行くとしましょう!」

男は2人の青年を連れていた。

元々護衛依頼で一緒になったソロ冒険者だったのだが、旅を続けるうちに兄貴と呼び始め依頼が終わってもついてくる事になってしまった。

まあ男は彼らはDランク冒険者だから、一人前になるまでは行動を共にしてもいいとは思っていた。

自分を冷やかし笑いながらギルドに向かっている2人を見て思わず笑みを浮かべる。

(そういえば彼も最初は彼らのようだったな‥)

彼は以前出会った青年の事を思い出していた。



「兄貴!あれじゃないっすか?」

彼が昔の思い出に耽っていた時、片方の青年が冒険者ギルドの建物を見つけて走り出した。

「おい、待てよお前!兄貴、ちょっと俺たちで先に行って見てきますぜ!」

そう言ってもう1人の青年もギルドに向かい走り出した。

やれやれ‥

まだまだ落ち着きがないな‥

男は思い出した青年の事を頭の隅に追いやり、大股で2人を追いかけるのだった。




「兄貴!」

ギルドの扉を開け中に入ると、片方の男が走り寄ってきた。

「どうした?」

走り寄ってきた青年の顔が真剣な表情をしていた。

何か困難な依頼があったのだと予測する。

「それが‥ちょっとこいつを見てください。」

彼は案内した依頼板に貼っている一枚の依頼書を指差す。

そこには『オークの村調査依頼』と書いてあった。

依頼内容はここから北西にある小さな村の側にオークの村ができ、そこを調査若しくは討伐してほしいという依頼だった。

しかしその依頼書に書いている報酬額が討伐はもちろんのこと、調査依頼だとしても満足できる金額ではなかった。

これではおそらく誰も引き受ける人はいないだろう。

オークの村は下手したらオークナイトやオークアーチャー、オークマジシャンがいる場合がある。
ましてやオークジェネラルなどいれば自分でも手に余るかもしれない‥

彼はそう思い共に行動している青年達に声をかける。

「お前達はこの街で待ってろ。さすがに複数のオーク相手じゃお前らを護りきれるかどうかわからん。」

彼の中には依頼を受けないという答えはなかった。

自殺願望があるわけではない。
だから明らかに自分の身の丈に合わない依頼を受けるような真似はしない。

その代わり依頼を共に受けてくれる仲間を探す。

そうやって弱者を助けてきた。

今回の依頼は自分1人では危険かもしれない。

しかし今から仲間を探す暇はない。
今日にでも村がオークに襲われるかもしれないのだ。

彼は窓から差し込む光を反射させながら、依頼板に貼ってある依頼書を取りギルドの受付に持って行くのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな

カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界 魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた 「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね? それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」 小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く 塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう 一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが…… ◇◇◇ 親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります (『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です) ◇◇◇ ようやく一区切りへの目処がついてきました 拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです

全校転移!異能で異世界を巡る!?

小説愛好家
ファンタジー
全校集会中に地震に襲われ、魔法陣が出現し、眩い光が体育館全体を呑み込み俺は気絶した。 目覚めるとそこは大聖堂みたいな場所。 周りを見渡すとほとんどの人がまだ気絶をしていてる。 取り敢えず異世界転移だと仮定してステータスを開こうと試みる。 「ステータスオープン」と唱えるとステータスが表示された。「『異能』?なにこれ?まぁいいか」 取り敢えず異世界に転移したってことで間違いなさそうだな、テンプレ通り行くなら魔王討伐やらなんやらでめんどくさそうだし早々にここを出たいけどまぁ成り行きでなんとかなるだろ。 そんな感じで異世界転移を果たした主人公が圧倒的力『異能』を使いながら世界を旅する物語。

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

処理中です...