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戦いの準備
その男は‥
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遠くから剣戟の音が聞こえてくる。
「2人とも急ぐぞ!戦いが始まってる!上位種が出てなければいいが‥」
「わかった。でもマルコイさん、何でそんなに見ず知らずの人を助けるために必死なんだ?」
ラケッツさんは傭兵だ。
もし必要であれば他人であろうと護る事もするだろう。
だがそれは依頼があれば‥だ。
そんなラケッツさんから見たら赤の他人を助けるために必死な俺は不自然に映るだろう。
確かに俺も普通は赤の他人を助けるために、ここまで必死になる事はない。
困っている人がいて報酬度外視で助けようとしている人がいる。
理由はそれだけだ。
ただそれがあの人と重なっただけだ。
俺たち3人はモンスターの声がする場所へ全力で駆け出した。
その男は普通の冒険者だった。
多少見た目は普通の冒険者に比べて強面だったが。
それでも普通に依頼を受け、それを完了して冒険者ランクを上げてきた。
少し普通と違うところがあるとすれば、見た目は強面だったが中身の信念が冒険者になった時から変わっていない事だろう。
男が冒険者になった理由‥
それは弱者を助けるというものだった。
困っている人を助ける。
それは簡単なようで難しい事だった。
最初の頃は助けようにも自分の力不足で助けられず悔しい思いをしたこともあった。
しかしそれで諦めるような事はせず経験を積み、力をつけて戦ってきた。
冒険者ランクも上がり、今ではBランクという高ランクまで辿り着いた。
しかしそんな事に満足する事はなく、ただ自分の手の届く範囲で助けられる人を助けてきた。
彼が幼い頃に見た、村を救うために命を賭した父親の影を追いかけるように。
その日彼はとある港町に着いた。
そこから彼の出身地であるエルフェノス王国の王都に行くためだ。
長年王都で活動していたが、今回知人に頼まれた護衛依頼を引き受け、遠方まで遠出していたのだ。
「よし、王都に戻る前にギルドに寄って行くか?」
「そっすね、依頼も終わったし急ぐ旅でもないっすからね。」
「兄貴の事だ、またここでも塩漬け依頼を片っ端から片付ける事になるだろうな。」
「違いない!あっはっはっは!」
「うるさいぞ、お前ら。塩漬け依頼ってのは誰も受け手がいないからそうなったんだぞ。依頼をした人は誰も受けてくれないから困ってるはずだ。それを放っておく訳にはいかんだろ。」
「へいへい。それじゃあギルドに行くとしましょう!」
男は2人の青年を連れていた。
元々護衛依頼で一緒になったソロ冒険者だったのだが、旅を続けるうちに兄貴と呼び始め依頼が終わってもついてくる事になってしまった。
まあ男は彼らはDランク冒険者だから、一人前になるまでは行動を共にしてもいいとは思っていた。
自分を冷やかし笑いながらギルドに向かっている2人を見て思わず笑みを浮かべる。
(そういえば彼も最初は彼らのようだったな‥)
彼は以前出会った青年の事を思い出していた。
「兄貴!あれじゃないっすか?」
彼が昔の思い出に耽っていた時、片方の青年が冒険者ギルドの建物を見つけて走り出した。
「おい、待てよお前!兄貴、ちょっと俺たちで先に行って見てきますぜ!」
そう言ってもう1人の青年もギルドに向かい走り出した。
やれやれ‥
まだまだ落ち着きがないな‥
男は思い出した青年の事を頭の隅に追いやり、大股で2人を追いかけるのだった。
「兄貴!」
ギルドの扉を開け中に入ると、片方の男が走り寄ってきた。
「どうした?」
走り寄ってきた青年の顔が真剣な表情をしていた。
何か困難な依頼があったのだと予測する。
「それが‥ちょっとこいつを見てください。」
彼は案内した依頼板に貼っている一枚の依頼書を指差す。
そこには『オークの村調査依頼』と書いてあった。
依頼内容はここから北西にある小さな村の側にオークの村ができ、そこを調査若しくは討伐してほしいという依頼だった。
しかしその依頼書に書いている報酬額が討伐はもちろんのこと、調査依頼だとしても満足できる金額ではなかった。
これではおそらく誰も引き受ける人はいないだろう。
オークの村は下手したらオークナイトやオークアーチャー、オークマジシャンがいる場合がある。
ましてやオークジェネラルなどいれば自分でも手に余るかもしれない‥
彼はそう思い共に行動している青年達に声をかける。
「お前達はこの街で待ってろ。さすがに複数のオーク相手じゃお前らを護りきれるかどうかわからん。」
彼の中には依頼を受けないという答えはなかった。
自殺願望があるわけではない。
だから明らかに自分の身の丈に合わない依頼を受けるような真似はしない。
その代わり依頼を共に受けてくれる仲間を探す。
そうやって弱者を助けてきた。
今回の依頼は自分1人では危険かもしれない。
しかし今から仲間を探す暇はない。
今日にでも村がオークに襲われるかもしれないのだ。
彼は窓から差し込む光を反射させながら、依頼板に貼ってある依頼書を取りギルドの受付に持って行くのだった。
「2人とも急ぐぞ!戦いが始まってる!上位種が出てなければいいが‥」
「わかった。でもマルコイさん、何でそんなに見ず知らずの人を助けるために必死なんだ?」
ラケッツさんは傭兵だ。
もし必要であれば他人であろうと護る事もするだろう。
だがそれは依頼があれば‥だ。
そんなラケッツさんから見たら赤の他人を助けるために必死な俺は不自然に映るだろう。
確かに俺も普通は赤の他人を助けるために、ここまで必死になる事はない。
困っている人がいて報酬度外視で助けようとしている人がいる。
理由はそれだけだ。
ただそれがあの人と重なっただけだ。
俺たち3人はモンスターの声がする場所へ全力で駆け出した。
その男は普通の冒険者だった。
多少見た目は普通の冒険者に比べて強面だったが。
それでも普通に依頼を受け、それを完了して冒険者ランクを上げてきた。
少し普通と違うところがあるとすれば、見た目は強面だったが中身の信念が冒険者になった時から変わっていない事だろう。
男が冒険者になった理由‥
それは弱者を助けるというものだった。
困っている人を助ける。
それは簡単なようで難しい事だった。
最初の頃は助けようにも自分の力不足で助けられず悔しい思いをしたこともあった。
しかしそれで諦めるような事はせず経験を積み、力をつけて戦ってきた。
冒険者ランクも上がり、今ではBランクという高ランクまで辿り着いた。
しかしそんな事に満足する事はなく、ただ自分の手の届く範囲で助けられる人を助けてきた。
彼が幼い頃に見た、村を救うために命を賭した父親の影を追いかけるように。
その日彼はとある港町に着いた。
そこから彼の出身地であるエルフェノス王国の王都に行くためだ。
長年王都で活動していたが、今回知人に頼まれた護衛依頼を引き受け、遠方まで遠出していたのだ。
「よし、王都に戻る前にギルドに寄って行くか?」
「そっすね、依頼も終わったし急ぐ旅でもないっすからね。」
「兄貴の事だ、またここでも塩漬け依頼を片っ端から片付ける事になるだろうな。」
「違いない!あっはっはっは!」
「うるさいぞ、お前ら。塩漬け依頼ってのは誰も受け手がいないからそうなったんだぞ。依頼をした人は誰も受けてくれないから困ってるはずだ。それを放っておく訳にはいかんだろ。」
「へいへい。それじゃあギルドに行くとしましょう!」
男は2人の青年を連れていた。
元々護衛依頼で一緒になったソロ冒険者だったのだが、旅を続けるうちに兄貴と呼び始め依頼が終わってもついてくる事になってしまった。
まあ男は彼らはDランク冒険者だから、一人前になるまでは行動を共にしてもいいとは思っていた。
自分を冷やかし笑いながらギルドに向かっている2人を見て思わず笑みを浮かべる。
(そういえば彼も最初は彼らのようだったな‥)
彼は以前出会った青年の事を思い出していた。
「兄貴!あれじゃないっすか?」
彼が昔の思い出に耽っていた時、片方の青年が冒険者ギルドの建物を見つけて走り出した。
「おい、待てよお前!兄貴、ちょっと俺たちで先に行って見てきますぜ!」
そう言ってもう1人の青年もギルドに向かい走り出した。
やれやれ‥
まだまだ落ち着きがないな‥
男は思い出した青年の事を頭の隅に追いやり、大股で2人を追いかけるのだった。
「兄貴!」
ギルドの扉を開け中に入ると、片方の男が走り寄ってきた。
「どうした?」
走り寄ってきた青年の顔が真剣な表情をしていた。
何か困難な依頼があったのだと予測する。
「それが‥ちょっとこいつを見てください。」
彼は案内した依頼板に貼っている一枚の依頼書を指差す。
そこには『オークの村調査依頼』と書いてあった。
依頼内容はここから北西にある小さな村の側にオークの村ができ、そこを調査若しくは討伐してほしいという依頼だった。
しかしその依頼書に書いている報酬額が討伐はもちろんのこと、調査依頼だとしても満足できる金額ではなかった。
これではおそらく誰も引き受ける人はいないだろう。
オークの村は下手したらオークナイトやオークアーチャー、オークマジシャンがいる場合がある。
ましてやオークジェネラルなどいれば自分でも手に余るかもしれない‥
彼はそう思い共に行動している青年達に声をかける。
「お前達はこの街で待ってろ。さすがに複数のオーク相手じゃお前らを護りきれるかどうかわからん。」
彼の中には依頼を受けないという答えはなかった。
自殺願望があるわけではない。
だから明らかに自分の身の丈に合わない依頼を受けるような真似はしない。
その代わり依頼を共に受けてくれる仲間を探す。
そうやって弱者を助けてきた。
今回の依頼は自分1人では危険かもしれない。
しかし今から仲間を探す暇はない。
今日にでも村がオークに襲われるかもしれないのだ。
彼は窓から差し込む光を反射させながら、依頼板に貼ってある依頼書を取りギルドの受付に持って行くのだった。
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