上 下
20 / 953
3章 勇者との出会い

勇者御一行

しおりを挟む
Dランクに上がり、数日だったある日。Dランク上位の討伐依頼をこなして、そろそろCランク依頼に取り掛かろうとギルドを訪れていた。

「マルコイ。ちょっといいか?」

するとバーントに声をかけられた。手招きされるのでカウンターに近づいていく。

「この前言っていた勇者御一行の件だが、近々王都に着くらしいぞ。この間も言ったが、くれっぐれも問題を起こすなよ。」

「バーントのなんで美女じゃないんだよおっさんよ。そんなに何回も言わなくても大丈夫だって。もうどっちかというと言われ過ぎて問題起こした方がいいのかなと思うくらいだよ。」

「当たり前のようにそんな名前で呼ぶなっ!すっごい名前の長い人みたいじゃないかっ!てか何回言われたとしても問題起こそうなんて思わないで!」

本当にこんだけ言われると逆に問題起こした方が面白いんじゃねとか思ってしまう。

「ところでその勇者様御一行はいつくらいにこっちに着くんだ?」

「早ければ今日明日にも着くらしいぞ。」

「は?じゃあもっと早くわかったんじゃ?」

「それが昨日の夕方にウルスートから早馬が来て、王家への手紙とその旨を伝えて帰って行ったらしい。」

「はあ?正式な訪問とかじゃないわけ?」

「勇者は平和の象徴でウルスート神聖国が直接関与するわけじゃないと。たまたまウルスート神聖国で現れたってだけでウルスート神聖国だけの勇者じゃないっ事なんだろ。」

なるほど。勇者はウルスート神聖国のものだが、表向きはどこにも属してないので国境超えてどこにでも行くし、どの国も支援をしろってことか。
なんともまあ面の皮の厚いこって。
たとえ唯一無二のスキル【勇者】を発現したとしても、そんな首輪をつけられるのであればお断りである。

「わかってるよ。俺も別に誰彼構わず突っかかるわけじゃないよ。俺が突っかかるのは、おっさんみたいな理不尽な存在だけだよ。」

「なぜに理不尽っ!」

「受付に座っているその存在自体がだ。」

勇者ね。模倣も出来そうにもないし面倒だから近づかない方がいいだろうな。
勇者が王都にいる間はなるべく依頼を受けて王都を離れるようにして会わないようにしとかないとな。






「ようやく見えてきたな。あれが王都セイウットか。」

「は~、ようやく野宿から開放されるわね。」

「ほんとだよ。野宿なんて眠れないし、とてもじゃないけど慣れるもんじゃないよ。この世界の人達は当たり前にやってるんだから感心するよ。」

「卓様、もう王都も近いので迂闊な発言は控えてください。」

「わかってるよガーノスさん。僕達が異世界人だって事はくれぐれも言うなってことでしょ。僕だって元の世界に戻りたいからね。昔読んだラノベみたいにもっとチートなスキル持ちで無双し放題なら考えるけど、スキルも貧弱だし自由もない。こんなとこ1日でも早く戻りたいからちゃんと言うこと聞きますよ。」

「それな。俺も勇者なんて言われてるけど、ウルスートの騎士団長が相手だと負けるしな。野宿も勘弁してほしいから、さっさと元の世界に返して欲しいぜ。」

「正人様も卓様も、この世界の常識から考えると逸脱したスキルを持たれていますけどね。わかっていただけたならよろしいです。」

正人達勇者はウルスート神聖国から半年程前に強制的に召喚されていた。
元々は日本の高校生で仲のよかった4人組だったが、放課後校舎に4人でいるところを召喚された。
最初こそラノベで読んだ事のあるような展開に喜んでいた。

力をつけて魔王を倒す。そこまではよかったのだが、異世界人であるとこを隠すことや、スキル確認のためにウルスートでギルドカードは作成したものの冒険者として活動することを禁じられたり、勝手が違うことに反発しウルスートから離反することを考えていた。

しかし元の世界に戻るためにはウルスート神聖国に従うしかなく、ガーノスという法皇の監視の元で勇者として仕方なく活動していた。

勇者である五十棲正人と賢者の財前卓はいざとなれば離反することもやむなしと思ってはいるが、一緒に召喚された聖騎士の鬼頭あやめと聖女の一ノ瀬恵は、元の世界にいる家族に会いたくて早く帰りたがっているし、一ノ瀬恵に関しては毎夜泣いているのを知っていたので無茶もできずにいた。

法皇と交わした約束として魔王を倒せば元の世界に返してもらえるらしい。
その約束を信じて今は強くなるために訓練をしていた。

「はあ~、やっと着いた。ところで入るのには身分証がいるみたいだけど、そこんとこ大丈夫なん?」

「法皇様より、ウルスート神聖国の身分証をいただいています。それを提示しますので大丈夫ですよ。」

問題なく王都に入った4人は今後の拠点とする宿を決める。
そして男女で別れた後に正人達の部屋に集まっていた。

「モンスター討伐は明日からでしょ?今日は自由行動でいいの?」
鬼頭あやめがガーノスに確認をする。

「そうですね。明日までは自由行動にしましょう。あやめ様はどうされるんですか?」

「ここは屋台とか色々と見て回る所があるんでしょ?最近恵が元気ないから2人で遊んでこようと思って。」

「お二人でですか?」

「【聖騎士】を持ってる私をどうにかできる男がいると思う?それにせっかく遊びに行くのにお供は連れて行きたくないもの。恵行きましょ。」

「いいの、あやめ?」

「いいって。せっかく大きな街に着いたんだから楽しみましょう。」

「ガーノスさん、いいですか?」

恵が申し訳なさそうにガーノスに問いかける。

「そうですね。あまり遅くならないようにお願いしますね。」

「はいはい。」「はいわかりました。」 

そして2人は冒険者の衣装から普段着に着替えて王都観光に出かけることにした。



王都を見て回っていた2人は屋台のある西方広場に着いていた。

「見て恵!すっごいわね!これ縁日の出店よりたくさんあるんじゃない?」

「本当!こんなにすごいなんで思ってなかったよ。」

「ほら?ポテトもあるし!ハンバーガーやホットドッグはないのかしら?」

多くの屋台に感動していると、不意に近くから声が聞こえた。

「異世界の知識?」

そこには銀髪の少し眠そうな目をした同じ歳くらいの少年がいた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

旦那様、どうやら御子がお出来になられたようですのね ~アラフォー妻はヤンデレ夫から逃げられない⁉

Hinaki
ファンタジー
「初めまして、私あなたの旦那様の子供を身籠りました」  華奢で可憐な若い女性が共もつけずに一人で訪れた。  彼女の名はサブリーナ。  エアルドレッド帝国四公の一角でもある由緒正しいプレイステッド公爵夫人ヴィヴィアンは余りの事に瞠目してしまうのと同時に彼女の心の奥底で何時かは……と覚悟をしていたのだ。  そうヴィヴィアンの愛する夫は艶やかな漆黒の髪に皇族だけが持つ緋色の瞳をした帝国内でも上位に入るイケメンである。  然もである。  公爵は28歳で青年と大人の色香を併せ持つ何とも微妙なお年頃。    一方妻のヴィヴィアンは取り立てて美人でもなく寧ろ家庭的でぽっちゃりさんな12歳年上の姉さん女房。  趣味は社交ではなく高位貴族にはあるまじき的なお料理だったりする。  そして十人が十人共に声を大にして言うだろう。 「まだまだ若き公爵に相応しいのは結婚をして早五年ともなるのに子も授からぬ年増な妻よりも、若くて可憐で華奢な、何より公爵の子を身籠っているサブリーナこそが相応しい」と。  ある夜遅くに帰ってきた夫の――――と言うよりも最近の夫婦だからこそわかる彼を纏う空気の変化と首筋にある赤の刻印に気づいた妻は、暫くして決意の上行動を起こすのだった。  拗らせ妻と+ヤンデレストーカー気質の夫とのあるお話です。    

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな

カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界 魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた 「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね? それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」 小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く 塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう 一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが…… ◇◇◇ 親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります (『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です) ◇◇◇ ようやく一区切りへの目処がついてきました 拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです

全校転移!異能で異世界を巡る!?

小説愛好家
ファンタジー
全校集会中に地震に襲われ、魔法陣が出現し、眩い光が体育館全体を呑み込み俺は気絶した。 目覚めるとそこは大聖堂みたいな場所。 周りを見渡すとほとんどの人がまだ気絶をしていてる。 取り敢えず異世界転移だと仮定してステータスを開こうと試みる。 「ステータスオープン」と唱えるとステータスが表示された。「『異能』?なにこれ?まぁいいか」 取り敢えず異世界に転移したってことで間違いなさそうだな、テンプレ通り行くなら魔王討伐やらなんやらでめんどくさそうだし早々にここを出たいけどまぁ成り行きでなんとかなるだろ。 そんな感じで異世界転移を果たした主人公が圧倒的力『異能』を使いながら世界を旅する物語。

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

処理中です...