92 / 100
第92話 逸した好機
しおりを挟む
佐伯が立ち去ってから数分後。
森の中に倒れていた安藤が目を開けた。
彼は土を払って立ち上がると、スーツの撃たれた箇所を確認する。
生地には穴が開いていたが、その下に着込んだ防弾チョッキが弾を止めていた。
マッシュルーム状に潰れた弾を見て、安藤は小さく肩をすくめる。
(……油断したなぁ。まさか反撃されるなんて)
安藤は今の時点まで死んだふりをしていた。
村長の底力を目の当たりにしたことで正面戦闘は危険と判断し、再び奇襲の機会を窺っていたのである。
彼にとって予想外だったのは、村長が佐伯に敗北したことであった。
おかげで反撃の場は失われ、最後の収穫を取り損ねる事態となってしまった。
安藤は周囲を観察する。
夜闇の中で炎が赤々と猛っていた。
遠くからでも熱を感じるほどの規模にまで拡大している。
(残念だけどそろそろお開きかな)
安藤はまだこの状況を楽しみたかった。
しかし、理性では潮時だと理解している。
このまま岬ノ村に執着すれば取り返しのつかない領域まで踏み込むことになりかねない。
遊びで終わらせるなら、ここで離脱するのが最適だった。
そう自分に言い聞かせた安藤は足早に移動を始める。
黒煙を吸わないようにハンカチで鼻と口を押さえ、もう一方の手は短機関銃を持っていた。
些細な気配も逃さないように集中し、視線は絶えず獲物を探し求めている。
欲を言えば、佐伯を殺害してみたかった。
暴走していた装甲車も気になる。
殺し合っていた"みさかえ様"とピエロの男にも興味があった。
そういった本音を抑えて安藤は歩く。
己の衝動を我慢することは日常茶飯事で、別に苦しいとも思っていなかった。
それなりの時間をかけつつも、安藤は停めていた自分の車まで戻ってきた。
火災も付近にはまだ届いていなかった。
罠が張られていないことを念入りに確かめてから、彼は運転席に乗り込んでエンジンをかける。
彼の車は燃える森を軽快に下っていった。
なるべく安全なルートで進み、時には焼けた樹木を強引に踏破する。
安藤は岬ノ村との関与を警察側に知られたくなかった。
一連の行動を怪しまれると、これまで隠匿してきた"過去"を芋蔓式に暴かれる恐れがあるためだ。
証拠隠滅や口封じは彼の十八番ではあるもののそれにも限度がある。
混沌とする現場で県警に素性を明かす展開は避けたかった。
やがて安藤は山の麓に辿り着いた。
遠くの道路をパトカーと消防車の集団が走っている。
万が一にも見つからないように注意しつつ、安藤は目立たない道を選んで山から去った。
森の中に倒れていた安藤が目を開けた。
彼は土を払って立ち上がると、スーツの撃たれた箇所を確認する。
生地には穴が開いていたが、その下に着込んだ防弾チョッキが弾を止めていた。
マッシュルーム状に潰れた弾を見て、安藤は小さく肩をすくめる。
(……油断したなぁ。まさか反撃されるなんて)
安藤は今の時点まで死んだふりをしていた。
村長の底力を目の当たりにしたことで正面戦闘は危険と判断し、再び奇襲の機会を窺っていたのである。
彼にとって予想外だったのは、村長が佐伯に敗北したことであった。
おかげで反撃の場は失われ、最後の収穫を取り損ねる事態となってしまった。
安藤は周囲を観察する。
夜闇の中で炎が赤々と猛っていた。
遠くからでも熱を感じるほどの規模にまで拡大している。
(残念だけどそろそろお開きかな)
安藤はまだこの状況を楽しみたかった。
しかし、理性では潮時だと理解している。
このまま岬ノ村に執着すれば取り返しのつかない領域まで踏み込むことになりかねない。
遊びで終わらせるなら、ここで離脱するのが最適だった。
そう自分に言い聞かせた安藤は足早に移動を始める。
黒煙を吸わないようにハンカチで鼻と口を押さえ、もう一方の手は短機関銃を持っていた。
些細な気配も逃さないように集中し、視線は絶えず獲物を探し求めている。
欲を言えば、佐伯を殺害してみたかった。
暴走していた装甲車も気になる。
殺し合っていた"みさかえ様"とピエロの男にも興味があった。
そういった本音を抑えて安藤は歩く。
己の衝動を我慢することは日常茶飯事で、別に苦しいとも思っていなかった。
それなりの時間をかけつつも、安藤は停めていた自分の車まで戻ってきた。
火災も付近にはまだ届いていなかった。
罠が張られていないことを念入りに確かめてから、彼は運転席に乗り込んでエンジンをかける。
彼の車は燃える森を軽快に下っていった。
なるべく安全なルートで進み、時には焼けた樹木を強引に踏破する。
安藤は岬ノ村との関与を警察側に知られたくなかった。
一連の行動を怪しまれると、これまで隠匿してきた"過去"を芋蔓式に暴かれる恐れがあるためだ。
証拠隠滅や口封じは彼の十八番ではあるもののそれにも限度がある。
混沌とする現場で県警に素性を明かす展開は避けたかった。
やがて安藤は山の麓に辿り着いた。
遠くの道路をパトカーと消防車の集団が走っている。
万が一にも見つからないように注意しつつ、安藤は目立たない道を選んで山から去った。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
最終死発電車
真霜ナオ
ホラー
バイト帰りの大学生・清瀬蒼真は、いつものように終電へと乗り込む。
直後、車体に大きな衝撃が走り、車内の様子は一変していた。
外に出ようとした乗客の一人は身体が溶け出し、おぞましい化け物まで現れる。
生き残るためには、先頭車両を目指すしかないと知る。
「第6回ホラー・ミステリー小説大賞」奨励賞をいただきました!
皆さんは呪われました
禰津エソラ
ホラー
あなたは呪いたい相手はいますか?
お勧めの呪いがありますよ。
効果は絶大です。
ぜひ、試してみてください……
その呪いの因果は果てしなく絡みつく。呪いは誰のものになるのか。
最後に残るのは誰だ……
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる