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<生徒会長>
二階堂 大雅(ニカイドウ タイガ)
「お前が姫野をレイプして怪我までさせたんだ」
僕が?
レイプした?
なんでそんなことになってるんだ?
だって、あの時レイプされたのは、姫野じゃなくて
───僕なのに
「…ん」
「アリス!…大丈夫?!」
「あお先輩…?」
(ここは…)
「目が覚めたか」
「柏木先生…?」
保健室か…。
どれくらい経ったんだろう。
キョロキョロしていると柏木先生が教えてくれた。
「今は丁度5時間目が終わったあたりだな」
「そうなんですか…」
1時間くらい寝てたのか。
「具合はどう?」
「具合…今は大丈夫です、あお先輩心配おかけしました」
「とりあえず西園寺、お前はそろそろ授業戻れ」
「嫌です」
「あ?」
嫌って…先輩駄々っ子か。
「はぁ、有栖川が目覚めるまでの約束だったろうが、さっさと行け」
「…はぁ、アリスまた来るね」
「あ、はい」
そう言って先輩は僕の頭をひと撫でして出ていった。
「ため息つきたいのはこっちだっての」
先生はあお先輩が出ていったのを確認してから、近くの椅子に座った。
「気分は悪くないか?頭痛とか目眩とかはしてないか?」
心配そうな顔をして、おでこに手を置き熱を確かめる。
「はい、もう大丈夫です」
「そうか、でも急に倒れたらしいな、何があったか聞いてもいいか?」
「…はい」
─────
────
───
「…そうか、お前のされたこととあいつらが言ってたことが違うんだな?」
「はい」
細かいことは伝えず、大まかに何があったか伝えた。
(さすがにレイプされました、なんて言えないからな…)
「話してくれてありがとう、顔色がまだ良くないからお前はもう少し寝ていけ」
「…わかりました」
横になって先生を見る。
「僕は今の現状を”受けるべきこと”として何も言わずに受けていました、でも…根本的に違うなら僕はどうすればいいんだ…」
眠くて頭が回ってないせいか、言葉が溢れた。
「お前は何も悪くない、難しいことは起きてから考えよう」
「…はい」
その会話を最後に僕は意識を手放した。
「…ん」
目が覚めた。
「アリス?」
あお先輩だ。
「…頭、撫でてくれてたんですか」
「少し魘されてたからね…大丈夫?」
「はい、もう平気です…先輩授業は?」
「終わったよ、今は放課後」
放課後…そんなに寝てたのか。
「柏木先生が目が覚めたら帰っていいって言ってた、荷物持ってきてあるから帰ろう?」
「何から何まですいません…ありがとうございます」
あお先輩は優しく笑い、僕を起こすのを手伝ってくれた。
それから寮に戻り、自室前であお先輩と別れた。
「何かあったら連絡して」
そう言ってくれたあお先輩には後でちゃんとお礼をしなければ。
部屋に入った僕は制服のままベッドに横になった。
(どう、しようか…)
このまま体裁を受け続ければいいのか。
でも、あの会長の発言。
僕がレイプをされたのではなく、した側に勘違いをしていた。
きっと誰かが僕が悪くなるように言ったんだろう。
誰か、なんて1人しかいないけど。
”姫野晶”
きっと僕が彼を怒らせてしまったから、悪いように言われたんだろうな。
それほどのことをした記憶はないが、きっと僕が悪かったんだろう。
彼が学園に戻ってくるまで、あと1ヶ月くらいだったか…。
今の現状をみた彼は満足するのだろうか。
わからない。
(カメラ、触りたいな…)
疲れてきたのか現実逃避をしてしまう。
明日、写真部に行こうか。
なんだか久しぶりな気がする。
あれだけ寝たのに瞼も重くなってきた。
今日はもう疲れた、このまま寝てしまおうか。
(あ…制服…着替えなきゃ…)
そう思っても体が重くて動かない。
そうして僕は眠りに落ちていった。
翌朝、いつもより寝たせいか少し早く目が覚めてしまった。
あのまま寝てしまったから制服はしわくちゃだ。
予備の制服を出し、着ていたものはクリーニングに出すように準備する。
この学園は山奥にあり、学園内で大抵済むようにいろいろな設備がある。
もちろんクリーニングだってある。
本当に便利だ。
朝、登校する時出してこよう。
準備をしていると少しお腹が鳴った。
(そう言えば、昨日から何も食べてなかったな…)
普段から余り食べないので冷蔵庫には何も入っていない。
(途中で買って、適当なところで食べるか…。)
そうと決まればさっさと行ってしまおう。
そう思いドアを開ける。
「うおっ…!?」
(びっ…くりした…)
目の前には氷室玲二が立っていた。
「…何してるんですか?」
「…もう大丈夫なのか」
(昨日のことか…)
「もう、平気、驚かせてすみません」
「いや…大丈夫ならいい、学校行くのか」
「え、あ、うん」
だからチャイム鳴らさなかったのか…。
案外この人は優しい人なのかもしれない。
「えと、寄るところがあるんだけど…」
「ついて行く」
ですよね。
───
──
─
諸々の用事を済ませて登校する。
「アーリス、おはよう」
「あお先輩、おはようございます」
途中、あお先輩と合流した。
昨日のお礼を言い一緒に学校まで行った。
今日は周りの生徒が、遠巻きに様子を伺っているようで少し気味が悪かった。
「また後でね」
階段であお先輩と別れて教室へ向かう。
「昼に来る」
氷室玲二と教室前で別れる。
「紘!おはよう!もう体調はいいの?」
教室で転入生に話しかけられる。
周りの様子が違うだけで、いつも通りの日常。
…いつも通り?
いつからこれがいつも通りになった?
僕は体裁を受けてて、誰かと一緒にいたり、話しかけられることは無い。
それが僕の日常だったはずなのに。
でも、そうだ。
僕が受けてた体裁は、本当は違くて、だからどうしようってなって…。
…どうすればいいんだろう。
「…ろ……紘、大丈夫?」
「え、あ…」
「まだ体調悪いんじゃない?」
「えと、考え事してただけだから…」
なんだか急に、この場にいてはいけない気がしてきた。
いつも以上に居心地が悪い。
「…やっぱりちょっと、保健室行ってくる」
「え!大丈夫?ついて行こうか?」
「大丈夫だから…じゃあ」
「あっ!紘!」
転入生の声を背に、僕は早足で教室を出た。
早足だった足がいつの間にか走っていた。
早く、早く、息が出来ない、どうすれば、どうすれば、、
「あれー?アリスちゃんじゃん、そんなに慌ててどったのー?」
たどり着いたのは写真部の部室だった。
いつも通りそこには部長の高坂がいて、僕をからかって…僕の日常がそこにあった。
「いや、なんでも…」
「そ?写真撮りに来たん?」
はい、そう言って渡されたカメラ。
なんだか酷く安心してしまった。
呼吸を整えて定位置に座る。
でも写真は撮らずにカメラを眺めていた。
眺めながらこれからの事を考える。
この体裁は僕が望んでいたものではなかった。
会長が言っていたこと、あれは事実ではない。
その嘘が広がって得をするのは…彼しかいない。
姫野晶。
これは仕組まれていた可能性が高い?
でも、今更違いますなんて言ったところで誰が信用するだろう。
なら僕はどうすれば…。
昨日から考えてはいるが、何一つ打開策が見つからない。
これから何を、どうすれば…。
「アリスちゃん」
「……その呼び方やめろ」
「いいじゃん、アリスちゃん、かわいいし。俺は好きだよ」
「男にかわいいとか、言わないでくれ」
「えー?アリス、不思議の国のアリス。ウサギを追いかけて穴に落ちて、夢のような不思議な体験をしたら本当に夢でしたって話。アリスちゃんのこれも夢だったらどんなにいいんだろうね」
「…何が言いたい?」
そんなの1番僕が望んでいる結末だ。
全部全部、悪夢を見てるだけ。
目が覚めたら僕はまだ小さい子どもで、母親に慰めてもらう。
何度夢想したことか。
「アリスちゃんはさ、1人でどうにかしようとするから何も出来ないんじゃない?」
「……」
「誰かに頼るって、大変なことだけど必要なことだよ」
そんなこと、分かってる。
でも、頼れる人なんて…。
「今、紘ちゃんの周りには紘ちゃんを見てくれる人いるんじゃない?」
(みて、くれる人…)
心当たりはあった。
「どう?まずはその人たちに打ち明けるって言うのは」
「打ち明ける…」
できるだろうか。
上手く、話せるだろうか…。
「紘ちゃん」
「…なに?」
「俺はずっと紘ちゃんの味方でいたつもり」
「…っ!」
いつものからかってくる顔ではなく、真面目な顔の高坂。
「何かあったらいつでもおいで、ここは紘ちゃんの逃げ場だから」
「…高坂、あの」
───バンッ
僕が高坂にお礼を言おうとした時だった。
───バンッ
「紘!」「アリス!」
扉を開けたのは転入生とあお先輩だった。
そして後ろから少し焦った顔の氷室玲二。
「え…どうして、ここに…っ!」
言い終わる前にあお先輩が抱きついてきた。
「紘が保健室行くって言ったから様子見に行ったけど、先生が来てないって言うから…」
転入生が近づきながら説明してくれた。
(そういえば、そう言ったかも…)
「…こいつが俺にどこにいるんだって聞きに来たから、なんか体裁に巻き込まれたかと思ったんだ」
「そしたら西園寺先輩が通りかかって、居るとしたらここだろうって…」
なんで氷室玲二に聞きに行ったんだ?
あお先輩は僕が写真を撮ること知ってるから、気づくか…。
「アリス…」
あお先輩が僕から体を離して顔を見る。
「…」
「…?」
顔を見て黙る先輩に不思議に思う。
「また、考えすぎてるでしょ」
そう言われギクリとする。
あお先輩にはなんでもお見通しらしい。
「アリスは何もしなくていいよ、大丈夫だから」
大丈夫、あお先輩はいつもそう言ってくれる。
でも…。
「でも、あお先輩…僕は今まで体裁を受けてきた理由が意味が無くなった、これからどうすればいいのか分からないんです」
生徒会の皆が何か誤解をしている。
真実がねじ曲げられてる。
今更何を言おうと、きっと彼らに僕の言葉は届かない。
ならどうしたらいいのか。
「アリスはアリスのしたいようにすればいい、どんなアリスでも俺は味方になるから」
そう言って頭を撫でられる。
「さっきも言ったけど、俺もアリスちゃんの味方だよ~?」
「高坂…」
「ここはアリスちゃんの為の逃げ場なんだから、いつでも来て俺との仲を深めよう?」
いつもの様におどけてみせる高坂。
こんなに優しくされていいのかと、安心していいのかと思ってしまう。
でも、そんな余計なこと考えるよりも伝えたい言葉があった。
「ありがとう…」
こんな僕に優しくしてくれて、味方だと言ってくれて。
少しだけ肩の荷がおり頬が緩んだ。
二階堂 大雅(ニカイドウ タイガ)
「お前が姫野をレイプして怪我までさせたんだ」
僕が?
レイプした?
なんでそんなことになってるんだ?
だって、あの時レイプされたのは、姫野じゃなくて
───僕なのに
「…ん」
「アリス!…大丈夫?!」
「あお先輩…?」
(ここは…)
「目が覚めたか」
「柏木先生…?」
保健室か…。
どれくらい経ったんだろう。
キョロキョロしていると柏木先生が教えてくれた。
「今は丁度5時間目が終わったあたりだな」
「そうなんですか…」
1時間くらい寝てたのか。
「具合はどう?」
「具合…今は大丈夫です、あお先輩心配おかけしました」
「とりあえず西園寺、お前はそろそろ授業戻れ」
「嫌です」
「あ?」
嫌って…先輩駄々っ子か。
「はぁ、有栖川が目覚めるまでの約束だったろうが、さっさと行け」
「…はぁ、アリスまた来るね」
「あ、はい」
そう言って先輩は僕の頭をひと撫でして出ていった。
「ため息つきたいのはこっちだっての」
先生はあお先輩が出ていったのを確認してから、近くの椅子に座った。
「気分は悪くないか?頭痛とか目眩とかはしてないか?」
心配そうな顔をして、おでこに手を置き熱を確かめる。
「はい、もう大丈夫です」
「そうか、でも急に倒れたらしいな、何があったか聞いてもいいか?」
「…はい」
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「…そうか、お前のされたこととあいつらが言ってたことが違うんだな?」
「はい」
細かいことは伝えず、大まかに何があったか伝えた。
(さすがにレイプされました、なんて言えないからな…)
「話してくれてありがとう、顔色がまだ良くないからお前はもう少し寝ていけ」
「…わかりました」
横になって先生を見る。
「僕は今の現状を”受けるべきこと”として何も言わずに受けていました、でも…根本的に違うなら僕はどうすればいいんだ…」
眠くて頭が回ってないせいか、言葉が溢れた。
「お前は何も悪くない、難しいことは起きてから考えよう」
「…はい」
その会話を最後に僕は意識を手放した。
「…ん」
目が覚めた。
「アリス?」
あお先輩だ。
「…頭、撫でてくれてたんですか」
「少し魘されてたからね…大丈夫?」
「はい、もう平気です…先輩授業は?」
「終わったよ、今は放課後」
放課後…そんなに寝てたのか。
「柏木先生が目が覚めたら帰っていいって言ってた、荷物持ってきてあるから帰ろう?」
「何から何まですいません…ありがとうございます」
あお先輩は優しく笑い、僕を起こすのを手伝ってくれた。
それから寮に戻り、自室前であお先輩と別れた。
「何かあったら連絡して」
そう言ってくれたあお先輩には後でちゃんとお礼をしなければ。
部屋に入った僕は制服のままベッドに横になった。
(どう、しようか…)
このまま体裁を受け続ければいいのか。
でも、あの会長の発言。
僕がレイプをされたのではなく、した側に勘違いをしていた。
きっと誰かが僕が悪くなるように言ったんだろう。
誰か、なんて1人しかいないけど。
”姫野晶”
きっと僕が彼を怒らせてしまったから、悪いように言われたんだろうな。
それほどのことをした記憶はないが、きっと僕が悪かったんだろう。
彼が学園に戻ってくるまで、あと1ヶ月くらいだったか…。
今の現状をみた彼は満足するのだろうか。
わからない。
(カメラ、触りたいな…)
疲れてきたのか現実逃避をしてしまう。
明日、写真部に行こうか。
なんだか久しぶりな気がする。
あれだけ寝たのに瞼も重くなってきた。
今日はもう疲れた、このまま寝てしまおうか。
(あ…制服…着替えなきゃ…)
そう思っても体が重くて動かない。
そうして僕は眠りに落ちていった。
翌朝、いつもより寝たせいか少し早く目が覚めてしまった。
あのまま寝てしまったから制服はしわくちゃだ。
予備の制服を出し、着ていたものはクリーニングに出すように準備する。
この学園は山奥にあり、学園内で大抵済むようにいろいろな設備がある。
もちろんクリーニングだってある。
本当に便利だ。
朝、登校する時出してこよう。
準備をしていると少しお腹が鳴った。
(そう言えば、昨日から何も食べてなかったな…)
普段から余り食べないので冷蔵庫には何も入っていない。
(途中で買って、適当なところで食べるか…。)
そうと決まればさっさと行ってしまおう。
そう思いドアを開ける。
「うおっ…!?」
(びっ…くりした…)
目の前には氷室玲二が立っていた。
「…何してるんですか?」
「…もう大丈夫なのか」
(昨日のことか…)
「もう、平気、驚かせてすみません」
「いや…大丈夫ならいい、学校行くのか」
「え、あ、うん」
だからチャイム鳴らさなかったのか…。
案外この人は優しい人なのかもしれない。
「えと、寄るところがあるんだけど…」
「ついて行く」
ですよね。
───
──
─
諸々の用事を済ませて登校する。
「アーリス、おはよう」
「あお先輩、おはようございます」
途中、あお先輩と合流した。
昨日のお礼を言い一緒に学校まで行った。
今日は周りの生徒が、遠巻きに様子を伺っているようで少し気味が悪かった。
「また後でね」
階段であお先輩と別れて教室へ向かう。
「昼に来る」
氷室玲二と教室前で別れる。
「紘!おはよう!もう体調はいいの?」
教室で転入生に話しかけられる。
周りの様子が違うだけで、いつも通りの日常。
…いつも通り?
いつからこれがいつも通りになった?
僕は体裁を受けてて、誰かと一緒にいたり、話しかけられることは無い。
それが僕の日常だったはずなのに。
でも、そうだ。
僕が受けてた体裁は、本当は違くて、だからどうしようってなって…。
…どうすればいいんだろう。
「…ろ……紘、大丈夫?」
「え、あ…」
「まだ体調悪いんじゃない?」
「えと、考え事してただけだから…」
なんだか急に、この場にいてはいけない気がしてきた。
いつも以上に居心地が悪い。
「…やっぱりちょっと、保健室行ってくる」
「え!大丈夫?ついて行こうか?」
「大丈夫だから…じゃあ」
「あっ!紘!」
転入生の声を背に、僕は早足で教室を出た。
早足だった足がいつの間にか走っていた。
早く、早く、息が出来ない、どうすれば、どうすれば、、
「あれー?アリスちゃんじゃん、そんなに慌ててどったのー?」
たどり着いたのは写真部の部室だった。
いつも通りそこには部長の高坂がいて、僕をからかって…僕の日常がそこにあった。
「いや、なんでも…」
「そ?写真撮りに来たん?」
はい、そう言って渡されたカメラ。
なんだか酷く安心してしまった。
呼吸を整えて定位置に座る。
でも写真は撮らずにカメラを眺めていた。
眺めながらこれからの事を考える。
この体裁は僕が望んでいたものではなかった。
会長が言っていたこと、あれは事実ではない。
その嘘が広がって得をするのは…彼しかいない。
姫野晶。
これは仕組まれていた可能性が高い?
でも、今更違いますなんて言ったところで誰が信用するだろう。
なら僕はどうすれば…。
昨日から考えてはいるが、何一つ打開策が見つからない。
これから何を、どうすれば…。
「アリスちゃん」
「……その呼び方やめろ」
「いいじゃん、アリスちゃん、かわいいし。俺は好きだよ」
「男にかわいいとか、言わないでくれ」
「えー?アリス、不思議の国のアリス。ウサギを追いかけて穴に落ちて、夢のような不思議な体験をしたら本当に夢でしたって話。アリスちゃんのこれも夢だったらどんなにいいんだろうね」
「…何が言いたい?」
そんなの1番僕が望んでいる結末だ。
全部全部、悪夢を見てるだけ。
目が覚めたら僕はまだ小さい子どもで、母親に慰めてもらう。
何度夢想したことか。
「アリスちゃんはさ、1人でどうにかしようとするから何も出来ないんじゃない?」
「……」
「誰かに頼るって、大変なことだけど必要なことだよ」
そんなこと、分かってる。
でも、頼れる人なんて…。
「今、紘ちゃんの周りには紘ちゃんを見てくれる人いるんじゃない?」
(みて、くれる人…)
心当たりはあった。
「どう?まずはその人たちに打ち明けるって言うのは」
「打ち明ける…」
できるだろうか。
上手く、話せるだろうか…。
「紘ちゃん」
「…なに?」
「俺はずっと紘ちゃんの味方でいたつもり」
「…っ!」
いつものからかってくる顔ではなく、真面目な顔の高坂。
「何かあったらいつでもおいで、ここは紘ちゃんの逃げ場だから」
「…高坂、あの」
───バンッ
僕が高坂にお礼を言おうとした時だった。
───バンッ
「紘!」「アリス!」
扉を開けたのは転入生とあお先輩だった。
そして後ろから少し焦った顔の氷室玲二。
「え…どうして、ここに…っ!」
言い終わる前にあお先輩が抱きついてきた。
「紘が保健室行くって言ったから様子見に行ったけど、先生が来てないって言うから…」
転入生が近づきながら説明してくれた。
(そういえば、そう言ったかも…)
「…こいつが俺にどこにいるんだって聞きに来たから、なんか体裁に巻き込まれたかと思ったんだ」
「そしたら西園寺先輩が通りかかって、居るとしたらここだろうって…」
なんで氷室玲二に聞きに行ったんだ?
あお先輩は僕が写真を撮ること知ってるから、気づくか…。
「アリス…」
あお先輩が僕から体を離して顔を見る。
「…」
「…?」
顔を見て黙る先輩に不思議に思う。
「また、考えすぎてるでしょ」
そう言われギクリとする。
あお先輩にはなんでもお見通しらしい。
「アリスは何もしなくていいよ、大丈夫だから」
大丈夫、あお先輩はいつもそう言ってくれる。
でも…。
「でも、あお先輩…僕は今まで体裁を受けてきた理由が意味が無くなった、これからどうすればいいのか分からないんです」
生徒会の皆が何か誤解をしている。
真実がねじ曲げられてる。
今更何を言おうと、きっと彼らに僕の言葉は届かない。
ならどうしたらいいのか。
「アリスはアリスのしたいようにすればいい、どんなアリスでも俺は味方になるから」
そう言って頭を撫でられる。
「さっきも言ったけど、俺もアリスちゃんの味方だよ~?」
「高坂…」
「ここはアリスちゃんの為の逃げ場なんだから、いつでも来て俺との仲を深めよう?」
いつもの様におどけてみせる高坂。
こんなに優しくされていいのかと、安心していいのかと思ってしまう。
でも、そんな余計なこと考えるよりも伝えたい言葉があった。
「ありがとう…」
こんな僕に優しくしてくれて、味方だと言ってくれて。
少しだけ肩の荷がおり頬が緩んだ。
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