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第一章:暗中逍遥編

4話 少女と新たな絆

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「ん……はむっ……んんっ……!」

「んんんっ! ……ぷはっ、激し……んぐっ……んんっ」


 閉ざされたアリアの唇を啄む様に、また時折激しく貪る。

 そして息継ぎのタイミングを見計らい、隙を見て舌をねじ込んだ。


 アリアが驚愕で目を見開く。

 耐えるように膝に乗せられた手は、強く握りしめられている。


 私は彼女の固く結ばれた手に自分の手を重ねた。もう片方の手は彼女の肩に回して抱き寄せる。

 舌を動かすことなく、アリアの緊張が解れるのを待つ。

 浅く早い彼女の息遣いが耳元で聞こえる。


 ――チロリ。


 おずおずとアリアが私の舌先を撫でた。驚かせてしまわないようにゆっくりと、そしてだんだんと大きく舌を動かして絡め合う。


 唾液が零れ落ち、私達の口元を伝って流れていくが、そんなことさえ気にならない。


「ん……んん……ちゅぷっ……ん」

「はむっ……ちゅるるっ……ん……ぷはっ。アリア、どう?」

「なんだか、甘くて、嬉しくて……ぽわってします……」


 問いに答えるアリアは夢見心地な表情を浮かべている。人によってはだらしないと表現するだろう緩みきった笑みだが、私にはこの上ない程可愛らしく感じられる。


「もっと……あなたを感じたい……です。もっと……あなたに触れて欲しい……」

「アリア、杏よ。名前で……呼んで……」

「杏……杏……! もっと……一緒に……」

「ええ。わかってるわ……」


 私はアリアに一瞬触れ合うキスをすると、間髪入れずアリアの首もとに吸い付いた。


「ひゃうぅ――っ!」

「ん……ここは、どうかしら? んんっ……!」

「とろけちゃいます……。杏の優しさを……愛情を……感じるの……」

「なら、もっと……愛してあげる……」


 アリアを強く抱きしめてキスの雨を降らせる。

 頬を吸い、耳を食み、瞼にくちづける。


 唇が触れる度、ぎゅっとしがみついてくるアリアが愛しくてたまらない。歓喜のためか、それとも興奮のためか、彼女の白い顔が上気している。

 大きく可愛らしい目は熱を帯びたように潤み、熱い吐息を頬に感じる。

 私の心臓は全力疾走後のように早く打ち、アリアの鼓動も張り裂けそうなほど脈打っている。


 感情の高ぶりに呼応して、私の右脚も高熱を発し始める。あまりの熱さと痛さに本当に燃えているんじゃないかと錯覚するほどだ。


「杏……キス、して……! 熱いのが……とまらない……!」

「アリア――はむぅっ…………んんんんっ――!」


 求めてくるアリアに応え、本能のままにその口を塞ぐ。

 足元からこみあげてくる高熱が体の中を暴れまわり、雷に打たれたかのように体が痙攣する。


 次の瞬間、思考が爆発した。

 視界が真っ白になり、抱きしめたアリアの感触だけが意識を繋ぎ留める。


 私の右脚に潜む“何か”が吐き出した強力なエネルギーが、私の体を通ってアリアに流れていく。

 人の身では到底耐えきれない力にガクガクと全身が震え、世界がゆっくりと傾いていく。


 ――だめ……。落ちる……。


 同じように震えるアリアを強く抱きしめながら、苦しい程の快感の中で私は意識を手放した。





 気を失っていたのはそれほど長い間じゃ無いと思う。

 全身を包む倦怠感から、私はそう推測する。


 アリアも同じタイミングで目を覚ましたようで、焦点の定まっていない目でぼんやりと私を見つめている。


「おはよう、アリア」

「……おはよう、ございます」


 夢見心地で返事するアリアの髪を指で梳く。絹糸のような銀髪が、指の間を流れていく。


「ふあ……」


 アリアが気持ち良さそうに息を漏らす。目を細めて流れに身を任せるアリアが可愛らしく、思わず額にキスをした。


「あ……え? あれ、わたし……」


 それが引き金となったのか、アリアの意識が覚醒していく。

 今までの行為を少しずつ思い出したのか、顔がみるみる湯で上がっていく。


「ごめんなさい、は禁止よ」

「ごめんなさ――はうぅ……」

「私がアリアを求めたのよ。そこに罪悪感を感じないで」

「で、でも! でも――!」


 アリアは首が取れそうなくらい激しく頭を振った。

 長い髪が頬を打つが、絹のように滑らかなそれに痛みは感じず、むしろ心地よさすら与えてくれる。なんだか変な趣味に目覚めそう……。


 ただ、いつまでも新たな境地を開拓しているわけにはいかず、私はアリアに語りかけた。


「アリアは私と触れあったの、嫌だった?」

「そんなことないです! 本当に夢のようで、愛されているって感じて……とても嬉しかったです。」

「じゃあ、私がアリアに悪いことをしたに違いないって謝ったらどう思う?」

「それは……とても悲しいです……。わたしはとても嬉しかったのに、その事について申し訳なく思われるのは……辛いです……」

「そうよね。私も同じよ」


 その言葉にアリアはハッと顔を上げた。

 ずるい言い方になると思ったが、私は言葉を続ける。


「アリアは私に、そんな悲しい思いをさせたいのかしら?」

「違います! でもわたしは……わたしは……」


 きっと頭の中では罪悪感が色々な形で渦巻いているのだろう。

 私はそっとアリアを抱きしめて囁いた。


「私はアリアのことが好きなの。出会いは確かに特殊だったかもしれないけれど、私は確かにアリアを愛しているわ」

「杏……わたしも……大好き、です……」

「好きな人に嬉しく思ってほしい、好きな人を愛したいって思うのはおかしい?」

「おかしくないです。わたしも、杏に嬉しく感じてほしい……」

「とても嬉しいわよ。とても温かい……。ね、罪悪感なんて感じる必要ないでしょ?」

「うん……!」


 アリアの目尻から、涙が伝う。

 温かい涙を指で拭うと、自然と笑みが零れた。釣られるようにアリアも笑顔になっていく。


 心が通じ合ったことを理解した私達は、もう一度想いを確かめるように唇を重ね――――。


「あんず! たすけにきたよ!」


 飛び込んできた言葉に体が固まった。

 唇を離し、声が聞こえた方向にぎこちなく顔を向ける。


「あんず……そのこ……だれ?」


 その言葉には、一緒に過ごした頃の楽し気な響きは感じられない。

 表情の消えたあどけない顔に浮かぶのは、驚愕か怒りか悲しみか。


 最愛の人を救う為に駆け付けたミントが、冷ややかに二人を見下ろしていたのだった。
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