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第二十話 八刃は届かず、八魔を超えて
しおりを挟む戦闘は、開始から常にモミジの優位で進んでいた。
──優位のまま、膠着していた。
(思ってた以上に難敵だな、こいつら)
全ての手札を晒しておらず、《月読》限定という話にはなるだろうが、モミジは戦闘を開始してから、一切手加減せずに戦っていた。本気で戦っていながらも、騎士たちを倒せずにいた。
ミラージュたちにとってモミジの戦闘力は予想外であったかもしれないが、逆にモミジにとってもミラージュたちが見せるこの粘りは予想外であった。
(おそらく、攻めよりも守りに意識が傾いてるんだろう。とすると・・《月読》の弱点がバレてるな)
《月読》は〝汎用多刃形態〟の名の通り、使い勝手の良い攻守のバランスが取れた形態だ。時に相手に牙を剥く刃として、時に相手の牙を防ぐ盾として機能している。
だが、バランスの良さを重視したためにどうしても犠牲にしなければならない点があった。
それが、〝突出した攻撃力〟の欠如である。
防御に関してならば、浮遊剣そのものの強度。二本以上で展開する魔力壁。そして八本を同時に使用する《八咫の鏡》。これらのお陰でモミジが《七剣八刀》で具現できる《魔導器》の中では屈指を誇る。ただ逆を言うと、これらを充実させたために《月読》には一撃に秀でた攻撃力が無いのである。どこまでいっても、《月読》の攻撃は『剣』によるものに限られてくる。
八本の浮遊剣による多重攻撃に、モミジ本人の技量が合わされば、大概の相手は問題なく対処できる。しかし、堅い守りを前にするとどうしても攻めて欠く。
「はっ、だったら──これでどうだ!」
防御を重視し持久戦に持ち込んでいる以上、何かしらの策を弄している可能性が大きい。ならばその防御ごと圧殺する、攻撃力を重視した形態で攻めるまでだ。
モミジは八本の浮遊剣を背後に回すと、魔力を高ぶらせた。
「広域殲滅形態《天照》──起動!」
同一規格であった八本の剣が、四種類八本の《魔導器》へと変貌する。
八本の剣を背に宙に浮かぶモミジの姿は、天の使いか、悪魔の化身にも見えるかもしれない。その光景に息をのむ騎士三人。
モミジは《雷の魔導器》を彼らに向けた。
「吹き飛べやぁ!」
叫び声と共に発せられる雷撃。寸前、アズハスが他の二人よりも前に飛び出し、《意趣返し》を起動。反射力場を盾のように前面展開し、モミジから発せられた雷撃を防御した。
《意趣返し》の能力は、受け止めた攻撃を倍返しにする反射力場の形成。その反射倍率はある程度自由に制御でき、魔力を最大限に注ぎ込めば、受けた攻撃を四倍にして返すことも可能だ。逆に魔力を減らせば、反射係数を減らしてただの〝壁〟としても扱えるが、これまで殆ど使用することはなかった。
だがこの時、アズハスは持ち味である反射能力ではなく、普段はしない〝力場の維持〟そのものに魔力を注ぎ込んでいた。リィンからの指示で、この形態になった状態でモミジの攻撃を防ぐ場合は力場の維持に専念するように言われていたからだ。
指示された当初は疑問に思っていたが、実際に雷撃を受け止めて理解した。なにせ、全力で防御に集中しなければ、容易く打ち破られてしまうほどの攻撃力を秘めていたからだ。
「まだまだ行くぞぉぉ!」
今度は《火の魔導器》が、文字通り炎を吹いた。雷を防御することに集中していたアズハスは、直後に襲いかかる炎の猛威を前に歯噛みをする。直前に消費した魔力をまだ補充できず、形成していた魔力の力場が極端に弱まっていたからだ。
「さがれ、アズハス殿!」
背後から叩きつけられた声に、アズハスは咄嗟に後方に飛び退く。入れ違いにミラージュが飛び出た。
風を纏う《空牙》を切り上げの要領で振るえば、魔力を帯びた竜巻が現れた。紅蓮の炎は竜巻の上昇気流によって巻き上げられ、ミラージュたちに届くことはなかった。だが、それでも膨大な熱量の残滓は彼女たちに届き、肌をじりじりと熱する。
「ちっ、マジで堅いな。だったらこいつで──」
「させないよ! 発射ァッ!!」
三度に攻撃を重ねよとするモミジよりも先んじ、リィンが発砲。出鼻をくじかれるモミジだったが即座に《氷の魔導器》による氷の防壁を展開し、飛来する弾丸は着弾の瞬間に爆炎を発したが、半透明の氷壁を溶かすまでには至らず、モミジに届くことはなかった。
──リィンの意図は攻撃を中断させることでも、彼の防御を貫くことでもなかった。
モミジの視界は爆炎によって発生した〝煙〟で覆われていた。彼女が発射したのは榴弾ではなく、『煙幕弾』だったのだ。
「いろいろと考えるもんだ・・まぁ、無駄なんだが」
《風の魔導器》で周囲に風を起こし、漂う煙幕を一気に吹き飛ばした。晴れた視界のなか、空中のモミジへ剣を振り上げて飛びかかってくるミラージュとアズハスが目に映る。モミジはそのまま暴風を発生させると、二人に対して叩きつけ弾き飛ばす。
辛うじて受け身を取りながら地面に着地する二人だが、衝撃は殺しきれずに即座に体勢は整えられなかった。そこへ追い打ちをかけるように、モミジは雷の《魔導器》を向けた。
「おっと」
攻撃を中断し、モミジは炎を推力代わりにしてその場から少しだけ移動する。直後に、彼がいた場所を、リィンが放った弾丸が通り過ぎる。
モミジは険しい視線をリィンに向けた。彼から意識が向けられることに気が付いたリィンは、銃口を下げるとその場から急いで離脱する。
モミジも好んで幼なじみを傷つけたいとは思っていなかった。
ただ、この戦場でモミジがもっとも警戒しているのはリィンだ。先ほどから見せる優れた援護能力や高い魔力生成力もそうだが、もっと懸念すべき点は別にある。
実際に刃を交じ合わせたミラージュとアズハス。そして昨日に使った《八咫の鏡》をどこからか観察し、《月読》の特性を推測。それを元に作戦を立てたのだ。実際に聞いたわけではないが、彼女の仕業だろうとモミジは確信していた。
モミジは、幼なじみであるリィンの類稀なる頭脳を高く
評価し、同時強く警戒していた。それ故に、必要以上に時間を要すれば、モミジが思いもしなかった打開策を導き出す可能性すらあると考えているのだ。
「ちょっと痺れるが、我慢しろよ!」
口では軽く言いつつも、リィンを狙う雷撃の出力はアズハスがどうにか防いだ最初の一撃とほぼ同格。直撃すれば、通常の人間ならほぼ即死か半身不随。魔導器使いの頑強な躯でも、数日から一週間近くは身動きが取れなくなるほどの威力であった。
リィンの《魔晶細胞》は優れた魔力生成力を有しているが、一方で極端に高い身体活性能力は持ち合わせていなかった。並の魔導器使いよりは優れているが、ミラージュとアズハスと比べれば数段落ちする。《タケミカズチ》の雷撃を回避するにはあまりにも不足していた。
だが、リィンに雷撃が届く寸前で聖騎士が割り込み、力場を形成して雷撃を防ぐ。だが、今度は魔力の練りが甘かったのか、雷撃は力場を粉砕し、アズハスとリィンに襲いかかった。威力はほぼ減衰しつつも二人は衝撃の余波に薙ぎ払われた。
「この際だ、二人纏めて──」
「そうはさせん!」
無防備になったリィンとアズハスに魔導器を向けようとするが、それよりも早くにミラージュが襲い来る。既に刀の間合いに入り込んでいた。
(この距離まで気が付かなかった!?)
ミラージュは魔力の動きによってモミジに感づかれるのを避けるために、間合いのギリギリまで《魔晶細胞》を抑えていたのだ。そして、一瞬で距離を詰められる位置に到達した瞬間に、全身の《魔晶細胞》を一気に活性化させ、モミジの知覚を越えて接近したのだ。
気づくのが遅すぎた。
離脱する時間も、《魔導器》で迎え撃つ時間も──無い!
モミジは寸前でに身を捻った。
振るわれた白刃は、僅かにモミジへ届かず空を切る。
「まだ──だッ!」
瞬間的な活性で得られる魔力で生み出した風は、そのほぼ全てを推力に費やしていた。そうでなければ、不意を打ったとしてもモミジの知覚を超えた斬撃を放てないと危惧していたから。
結果として、その一刀も回避され、それでも彼女は最後に残った風を操り、刀を加速させた。
予想外の切り返しに、モミジは反射的に《魔導器》の刃で直接受け止めようと──。
バギンッ!
彼女が振るった刀は、モミジが防御の為に構えた《魔導器》を刀身半ばで打ち砕き、その先にある彼の頬を浅く切り裂いていた
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