18 / 22
第十七話 真の聖騎士
しおりを挟む封印騎士団支部で治療を受けたアズハスは、治療を受けている最中に使いの者から言伝を受け取っていた。
この町の『白の教団』を統括する司教からの召喚要請だ。
《魔導器》にる治療が一段落すると、アズハスは足早に司教が待つ教会の聖堂に向かった。切断さた骨も裂かれた内蔵も既に治療用魔導器のおかげで癒着し、後は魔導器使いが本来持つ自己治癒能力があれば一晩放置しても完治する。
鈍い痛みはまだ残るが、顔色一つ変えずに指定された場所に向かった。一般人が普段祈りを捧げる礼拝堂ではなく、教団の中でも限られた者だけが入ることを許されている聖堂だ。
司教の前で、アズハスは片膝を付いた。
「お初にお目に掛かります司教様」
「病み上がりで申し訳ないな、聖騎士アズハスよ。傷の具合はどうだ?」
「お気遣い感謝します。この傷は私の未熟の結果。ですが、治療士(治療魔導器を扱う者)のおかげで大事には至りませんでした。誠に感謝します」
「礼は私ではなく、貴殿の治療を行った者に言いたまえ」
挨拶代わりの言葉の交わしが終わると、司教は口火を切った。
「貴殿を呼びだした理由は既に分かっているか?」
「……反逆者コクエモミジの件に他なりません。私の未熟故に奴を取り逃がしてしまいました。申し訳ありません」
「気にするな、とはさすがに言えんが、気負いすぎるな。彼の反逆者が秘めていた実力は、我々の遙か上であった。聖騎士の位にある者であっても、一人で挑むには荷が重すぎた」
司教は、支部の保有する戦力のほとんどをモミジの討伐に向かわせ、そして壊滅した事をアズハスに伝えた。今頃、医務室で怪我人で溢れかえっている。アズハス治療を受けていたのは支部の奥にある個室であったために、彼にまで惨状の事実が届かなかったのだ。
「くっ……私が奴を討てていれば彼らが傷つくことは無かったというのに……」
「人は万能ではない。それは聖騎士であっても変わらん。貴殿はまさか、己が万能であると自負しているつもりか?」
己を責めるアズハスに対して、司教は厳しい言葉を投げた。
「い、いえ、その様なことは……」
「彼らは勤めを果たそうとした。結果に咎を負うとするのならば、教団の支部を統べる私に他ならない」
「──ッ!?」
酷なことを口にする傍らに、アズハスは司教の真意を読みとった。支部の騎士たちが傷ついたのは司教の責任であり、アズハスではないと言外に述べたのだ。
感銘を受けるアズハスに、司教は語りかけた。
「……もしそれでも貴殿が責任を感じているのならば、それを濯ぐ方法はただ一つだろう」
すなわち、コクエモミジの討伐に他ならない。
「しかし、非常に遺憾ですが私の実力で奴を討ち果たすのは不可能です」
実際に刃を交えたアズハスからして、モミジの能力は〝異常〟としか言いようがないほどだった。
《魔導器》に関する知識量。また、それを扱ってのける《魔力》の運用。加えて、純粋な剣技に《魔導器》と体術を融合させる技量。魔導器使いとしてのありとあらゆる能力がアズハスを上回っていたのだ。
「本部から同行してきた二人の騎士がいたはずだが?」
「片方の位は中級ですが、実力は双方共に上級騎士。その中でもトップクラスなのは間違いありません。ですが、彼女たちの力を借りたとしても奴を倒すのは困難を極めるでしょう」
言葉にするだけでも屈辱がこみ上げてくるが、アズハスはそれを理性で押さえ込み、客観的な意見を述べた。彼女たちの実力は確かだが、モミジと相対するにはやはり足りない。
予想では、モミジと互角に渡り合うには、最低でも聖騎士を後二名──欲を言えば三名ほど必要になってくると考えていた。
「……やはり手段は他にないようだな」
「司教様?」
アズハスの見解を耳にした司教は目を閉じていたが、やがて口を開いた。
「これは、封印騎士団を含む教団の中でも、ごく一部の者しか知らない事実。聖騎士であっても同じだ。故に、心して聞くがいい」
司教は深い決意をした顔になった。ただならぬものを感じたアズハスは、彼の言葉に深く頷いた。
──そもそも、封印騎士団が扱っている《魔導器》とはなんなのか。話はそこから始まった。
「古にあった女神と邪神の戦い──神剣戦争にて、女神が人間に分け与えた『力』。《魔導器》とはその『力』を元にして開発された武具だ」
では、逆に『力』とはなんだったのか。
それがすなわち〝始原〟の魔導器──《始原の理器》に他ならないのだ。
「では、まさかコクエモミジが持つ《七剣八刀》も!?」
「然り。この世に現存する全ての《魔導器》は、《始原の理器》を解析して生み出された模造品なのだ」
話はまだ続く──。
《始原の理器》は間違いなく邪神に対抗するための力を秘めていたが、人間が扱うには強力すぎた。与えられた力には限りがあり、扱える人間もまた限られていた。
そこで《始原の理器》を解析し、人が扱うために《魔導器》を開発した人間が存在していた。
その名は──クリムゾンと呼ばれる人物だ。
クリムゾンがどのような人間だったのかは不明である。ただ、彼は《魔導器》の開発理論と運用体系の〝祖〟を作り上げた人物なのは間違いなかった。
「ですが、どうしてその様な話が一部の人間にしか伝わっていないのですか?」
「クリムゾンの名が、教団の中で〝禁忌〟とされているからだ」
彼の功績は比類無きほどに大きかった。過去の神剣戦争を人が乗り越えられたのは彼が開発した《魔導器》の力があってこそなのだ。だが、人のみでありながら『神の力』を解き明かした彼の所業は同時に罪深い行いともされていた。
クリムゾンの功績である《魔導器》の開発は形を変えて歴史に残り、その裏にある、『個人が神の力を解析した』という事実は闇に葬られたのだ。しかし罪深い行いであったとしても、彼の功績に偽りはなく、限られた者にのみクリムゾンの名は伝わり続けているのである。
「……お話は分かりました。ですが、それを私に伝える意味はなんなのでしょうか」
「ここからが本題だ」
《始原の理器》の模造品である《魔導器》によって、人々は邪神に対抗する術を得た。しかし、そもそも《始原の理器》は女神が人間が扱うことを前提に与えられた『力』。決して、神の領域には届かない。
だが、人間でありながら、純粋に『力』を振るう者が存在していた。
「神から与えられた力──『聖なる剣』を振るう、世界の平和と秩序を守るための『騎士』」
司教の言葉を聞いて、アズハスは驚愕を抱きながら真実に至った。
「それが……『聖騎士』……!!」
アズハスは己の内側に〝恐れ〟とそれを上回る〝高揚〟が渦巻くのを感じていた。真実を知り、それを司教の口から聞かされた意味を理解したからだ。
「おそらく、〝洗礼〟は本部に護送した後に行われる予定であったのだろう。だが、事態は急を要する。些か異例な事ではあるが──」
司教はこの場で高らかに宣言した。
「──これより、騎士アズハスを『真の聖騎士』と認め、『聖剣』の授与を行う!」
0
お気に入りに追加
73
あなたにおすすめの小説
冷酷魔法騎士と見習い学士
枝浬菰
ファンタジー
一人の少年がドラゴンを従え国では最少年でトップクラスになった。
ドラゴンは決して人には馴れないと伝えられていて、住処は「絶海」と呼ばれる無の世界にあった。
だが、周りからの視線は冷たく貴族は彼のことを認めなかった。
それからも国を救うが称賛の声は上がらずいまや冷酷魔法騎士と呼ばれるようになってしまった。
そんなある日、女神のお遊びで冷酷魔法騎士は少女の姿になってしまった。
そんな姿を皆はどう感じるのか…。
そして暗黒世界との闘いの終末は訪れるのか…。
※こちらの内容はpixiv、フォレストページにて展開している小説になります。
画像の二次加工、保存はご遠慮ください。
俺と幼女とエクスカリバー
鏡紫郎
ファンタジー
憧れた世界で人をやめ、彼女と出会い、そして俺は初めてあたりまえの恋におちた。
見知らぬ少女を助け死んだ俺こと明石徹(アカシトオル)は、中二病をこじらせ意気揚々と異世界転生を果たしたものの、目覚めるとなんと一本の「剣」になっていた。
最初の持ち主に使いものにならないという理由であっさりと捨てられ、途方に暮れる俺の目の前に現れたのは……なんと幼女!?
しかもこの幼女俺を復讐のために使うとか言ってるし、でもでも意思疎通ができるのは彼女だけで……一体この先どうなっちゃうの!?
剣になった少年と無口な幼女の冒険譚、ここに開幕
箱庭から始まる俺の地獄(ヘル) ~今日から地獄生物の飼育員ってマジっすか!?~
白那 又太
ファンタジー
とあるアパートの一室に住む安楽 喜一郎は仕事に忙殺されるあまり、癒しを求めてペットを購入した。ところがそのペットの様子がどうもおかしい。
日々成長していくペットに少し違和感を感じながらも(比較的)平和な毎日を過ごしていた喜一郎。
ところがある日その平和は地獄からの使者、魔王デボラ様によって粉々に打ち砕かれるのであった。
目指すは地獄の楽園ってなんじゃそりゃ!
大したスキルも無い! チートも無い! あるのは理不尽と不条理だけ!
箱庭から始まる俺の地獄(ヘル)どうぞお楽しみください。
【本作は小説家になろう様、カクヨム様でも同時更新中です】
おもちゃで遊ぶだけでスキル習得~世界最強の商人目指します~
暇人太一
ファンタジー
大学生の星野陽一は高校生三人組に事故を起こされ重傷を負うも、その事故直後に異世界転移する。気づけばそこはテンプレ通りの白い空間で、説明された内容もありきたりな魔王軍討伐のための勇者召喚だった。
白い空間に一人残された陽一に別の女神様が近づき、モフモフを捜して完全復活させることを使命とし、勇者たちより十年早く転生させると言う。
勇者たちとは違い魔王軍は無視して好きにして良いという好待遇に、陽一は了承して異世界に転生することを決める。
転生後に授けられた職業は【トイストア】という万能チート職業だった。しかし世界の常識では『欠陥職業』と蔑まされて呼ばれる職業だったのだ。
それでも陽一が生み出すおもちゃは魔王の心をも鷲掴みにし、多くのモフモフに囲まれながら最強の商人になっていく。
魔術とスキルで無双し、モフモフと一緒におもちゃで遊んだり売ったりする話である。
小説家になろう様でも投稿始めました。
英雄王の末裔 ~青のラファール~
カザハナ
ファンタジー
ファラルクエトゥナと言う世界にかつて、英雄王と呼ばれる伝説上の存在がいた。彼は精霊王の娘と人間の間に産まれた精霊人で、各地に逸話を残し、精霊界の出入口とされる聖域の山を中心に土地を貰い受け、英雄を慕い付いて来た人達と共に村を起こしたとされる。その村は、出入りが厳しく千年以上を経た今でも場所すら特定されていない。冒険者や腕に自信のある者は勿論、一般の人々ですら憧れる場所。
英雄王の末裔は必ず一度は世界を旅する。これはそんな末裔の一人であるラファール=フォーゼの物語。
※他の英雄王シリーズとリンクしてます。
※不定期更新になります。
※一話が大体2000字前後です。
※ファンタジー小説大賞で登録してます!投票宜しくお願いします!!
引きこもり転生エルフ、仕方なく旅に出る
Greis
ファンタジー
旧題:引きこもり転生エルフ、強制的に旅に出される
・2021/10/29 第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞 こちらの賞をアルファポリス様から頂く事が出来ました。
実家暮らし、25歳のぽっちゃり会社員の俺は、日ごろの不摂生がたたり、読書中に死亡。転生先は、剣と魔法の世界の一種族、エルフだ。一分一秒も無駄にできない前世に比べると、だいぶのんびりしている今世の生活の方が、自分に合っていた。次第に、兄や姉、友人などが、見分のために外に出ていくのを見送る俺を、心配しだす両親や師匠たち。そしてついに、(強制的に)旅に出ることになりました。
※のんびり進むので、戦闘に関しては、話数が進んでからになりますので、ご注意ください。
ただの世界最強の村人と双子の弟子
ヒロ
ファンタジー
とある村にある森に、世界最強の大英雄が村人として生活していた。 そこにある双子の姉妹がやってきて弟子入りを志願する!
主人公は姉妹、大英雄です。
学生なので投稿ペースは一応20時を目安に毎日投稿する予定ですが確実ではありません。
本編は完結しましたが、お気に入り登録者200人で公開する話が残ってます。
次回作は公開しているので、そちらも是非。
誤字・誤用等があったらお知らせ下さい。
初心者なので訂正することが多くなります。
気軽に感想・アドバイスを頂けると有難いです。
異世界で穴掘ってます!
KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる