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第6章

第十二話 謎が謎を呼んでいるらしいババァ

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  数奇な運命を辿り、ラウラリスよりも前に現世に転生を果たした部下がいた。彼は新たな生を得てからも変わらずラウラリスへの忠義を貫き、今日の平和を保つために裏社会で暗躍を続けていた。

 その最中、彼は『亡国を憂える者』とも相対した。既に老いに差し掛かっていた為に全てを討ち取るには至らず、それでも可能な限りを尽くしていた。

 彼は死の間際に、奇跡的に再会を果たした主君ラウラリスに残した言葉があった。

『亡国を憂える者』は、以前は日陰で亡国ていこくの皇帝を崇拝する小さな宗教に過ぎなかった。それが二十年前に突如として『亡国を憂える者』も名乗り、各所で破壊活動を行い始めた。

 これは言い換えれば、ただの無害だった集団に明確な『切っ掛け』が生じたということである。おそらくはかつての帝国が行っていた非人道的研究──『負の遺産』とでも呼べばいいだろう──と接触、あるいは記録を有した何者かが接触したと考えるのが妥当だろう。

 獣殺しの刃も、前身となった名も無き宗教集団については把握があった。にもかかわらず、被害を未然に防げなかった理由については今も不明とあった。

 おそらくであるが、二十年前に亡国の前身に接触した『何か』が関わっている。人なのか物なのかは不明だが、その『何か』ただの宗教組織であった集団に非人道的研究を授け『亡国を憂える者』へと変貌させたのだ。

 ──だが新たな疑問が生じてくる。

 皇帝であった頃のラウラリスは、そうした『負の遺産』を全て破棄していった。表向きには先行きが見通せず資源リソースの無駄遣いであると。裏にある真の目的は後世に伝えてはならぬとして。皇帝としての権力を遺憾なく発揮し、草の根を分けてでも徹底的に潰していった。捜索の範囲は国外にまで及び、結果として国を滅ぼすにまで至ったこともある。それほどまでに危険な遺産なのだ。

 無論、人の手で行われ以上は不備は必ず生じる。おそらく一つや二つはどこかしらに流出した可能性は視野に入れていた。こうしてラウラリスの目から逃れ遺された研究資料が、現代にまで伝わっていたというのであればまだ話はわかる。

 だがしかし、亡国が着手した『負の遺産』の数はあまりにも多すぎる。ほんの一冊や二冊で収まる量ではない。これほどまでの研究資料をどうやって秘匿し続けたのか。

(記録を残す『だけ』なら、不可能ではないんだろうが)

 『記録に特化した呪具』というのは、三百年前に確かに存在はしていた。ただ、負の遺産すべてを収めるとなると、最上位の希少品。しかもラウラリスが知る限りでは、不意の情報漏洩を防ぐための安全装置セーフティが設けられていたはず。

 少なくとも『今』に生きる人間が過去に保存された記録を閲覧するのは不可能であった。

(まさか、あの神様も似たような失敗をいくつもやらかすとは思えないしな)

 自身ラウラリスが知る『神』は、ちゃらんぽらんでお調子者には違いないだろうが己の職務に対しては忠実で完璧であるはずだ。先日の件についてはごくごく一部の例外に違いない。

 あるいはごく一部の例外はあろうとも、都合よい・・・・やらかしは絶対にないはずだ。

 他にも不自然な点がある。

 研究とはつまり、成功させるための試行錯誤。結果を出さなければ意味がない。あるいはその過程で副次的な成果を出すこともあるが、基本は理論の成立が目的だ。

 なのに、獣殺しの記録にある中で、かつての研究を完遂させた亡国の幹部な皆無であった。一定の成果を発揮し、被害を拡大化したことはあれど、求めていた理想に手が届いたという記録はついぞ見つからなかった。

 ただこれは、正確に資料に記されている訳ではなく『負の遺産』について知っているラウラリスだからこそ道きび出せた結論。読み取った資料が、帝国の時代に頓挫し失敗に終わった末路までなぞっているかのようだったから分かったことだ。

「どれだけ年数を重ねても結果が出ない、初めから間違った研究だったのか。──あるいは」

 謎が新たな謎を呼ぶ──話としてはありきたりだが、世の中というのは案外そういうふうにできている。一つの答えが出たところで、また謎が生じる。可能性はいくつか数えられるが、今の段階で絞り込むのは難しい。楽に答えにたどり着くことはできないものだ。

 最恐最悪と名高い皇帝の魂を宿していようとも、ラウラリスはただの人間だ。仮に今この瞬間に全盛期の力を取り戻そうとも、全知全能とは程遠い。今手元にあるモノで判断し事を為すのが限界なのだ。

 判断の材料が少ない状態で延々と考えても、正しい答えが出るはずもない。ただこのまま作業を継続しても、先入観が邪魔して効率が悪くなりそうでもあった。

 ふと、そこでラウラリスは思いついた。

「また、女性構成員の中でもケイン執行官の人気は非常に高く、その為か近頃はとある一般の女性と交流があることにヤキモキしている者も多いようで。私はケイン執行官が職務を全うされかつ幸せであるならどのような人と付き合おうが構いませんが──」

 まだクリンの話が続いていた。よくも一人ケインについてこれだけ話題が尽きないものだ。どうやら彼女はケインに対しては恋愛対象というよりも推し・・勢であるようだ。あくまでも遠目で眺めて一喜一憂するのが楽しいのであって、隣に立ちたいというタイプではないらしい。

 秘密結社の恋愛観にはほんの少し興味を抱かないでもないが。

「クリン、ちょいといいかい?」
「──こほん。はい、どう致しましたか?」

 ラウラリスに声をかけられ、クリンは咳払いをしてから対応する。どうやら己が語りに夢中になっていたことに気がついたようだ。誤魔化したいらしいがもはやどうしようもなく手遅れなのはご愛嬌。あえて触れてやらないのも優しさだ。

「探してきて欲しい資料があるんだが──」

 ラウラリスは先ほどに興味を抱いた資料をクリンに尋ねる。『亡国』に纏わるものであれば無差別に調べていいが、他の資料ともなれば別途に許可が必要であると聞かされている。それに沿って、クリンに希望を出す。

「…………ええそれでしたら。残念ながら一部については私の権限を超えていますが、大半はお出しできると思います」

「だったら可能な限りで構わないよ」
「承知いたしました」

 クリンは頷きを返してから場を離れ、しばしが経過すると数冊の本を抱えて戻ってきた。
 
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