少年と或る女

浅野浩二

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少年と或る女

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夏休みが終わり、ちょうど二学期が始まったばかりの九月上旬のことである。純は中学一年生である。ある日の放課後。純は、学校を終えて、家に帰るところだった。学校と純の家の間は、全く人家がなく、人もほとんど通らない、寂しい野道だった。竹薮が鬱蒼と茂っている。その道が学校へ行くのに一番、近かったからである。純は、トボトボと狭い曲がりくねった野道を歩いていた。家と学校の間には、寂れた廃屋があった。廃屋の近くを通り過ぎようとすると、中から、人の声が聞こえてきた。何事かと思って、純は、そっと気づかれないよう、身を潜めて中を覗いた。純は息を呑んだ。
裸の女を二人の男が、取り押さえ、女の手を後ろ手に縛り上げていた。
「や、やめてー」
女は叫んだ。だが男二人は、聞く耳を持たない。
「おい。喋れないよう口にガムテープを貼れ」
男の一人が言った。
「おう」
と言って、もう一人の男が、女の口にガムテープを貼った。女はモゴモゴと口を動かそうとしたが、声は出せなかった。男は後ろ手に縛られた裸の女を廃屋の柱の所まで連れて行くと、後ろ手に縛り上げた縄の縄尻を廃屋の柱にカッチリと縛りつけた。
「よし。これで、大丈夫だ」
男の一人が言った。
「早く、金を引きおろそうぜ」
「おう」
二人の男たちは、なにか焦っているような感じだった。
「ふふ。すぐに戻ってくるからな。戻ってきたら、たっぷり可愛がってやるよ。もし、キャッシュカードの暗証番号が、デタラメだったら、痛い目にあわすからな」
男の一人が不敵な口調で女に言った。
「さあ。早く行こうぜ」
男の一人が言った。
「おう」
もう一人の男が相槌を打った。男二人は、丸裸で、ガムテープを口に貼られ、柱に縛りつけられている女をあとに、急いで廃屋を出た。一人の男が、廃屋の後ろにとめてあったオートバイを出してきた。男はフルフェイスのヘルメットを被った。男はオートバイに跨ると、エンジンをかけた。もう一人の男はフルフェイスのヘルメットを被ると、後部座席に乗った。前の男は、エンジンを駆けた。エンジンは勢いよく始動した。オートバイは、猛スピートで走り出した。純は、緊張してドキドキしながら二人に気づかれないよう、廃屋の陰に隠れて、オートバイの行方を見守った。オートバイは、どんどん遠くに去っていく。
オートバイが角を曲がって、完全に見えなくなるのを確認してから、純は急いで小屋に入った。女は純を見ると、一瞬たじろいだ。
「大丈夫ですか?」
純は、急いで、女に駆け寄り、口に貼られたガムテープをはがした。女はプハーと息を吐いた。女はものすごく綺麗で、整った美しい顔に、アクセントのように右頬の真ん中に小さな黒子があった。
「あ、ありがとう。ボク。助かったわ」
女は、ほっと安堵したように言った。
「まってて下さい。すぐ縄を解きます」
そう言って純は、女の後ろ手を縄を解いた。カッチリと縛られていて、なかなか解きづらかったが、何とか解けた。
「ありがとう。助かったわ」
手が自由になった女は、純に礼を言った。
「ボク。携帯電話、もってる?」
女が焦った様子で聞いた。
「はい。持ってます」
「貸してくれない」
「はい」
純はカバンから、携帯電話を取り出した。そして女に渡した。女は、急いで、104に電話した。
「もしもし。みずほ銀行サービスセンターの電話場号を教えて下さい」
女は、すぐに純に振り向いた。
「ボク。ノートと鉛筆もっていない?」
「はい。持ってます」
純は答えて、すぐに、カバンから、ノートと鉛筆を取り出した。
「ありがとう」
女は礼を言って、104に電話した。
「もしもし。みずほ銀行サービスセンターの電話番号を教えて下さい」
「はい。0120―×××―××××です」
すぐにオペレーターが答えた。
女は携帯を耳に当てたまま、ノートに、みずほ銀行サービスセンターの電話番号を書いた。女は、電話番号を書き終えると、急いで携帯を切った。そして、ノートを見ながら、みずほ銀行サービスセンターに電話した。
「もしもし。私は、佐々木京子と申します。キャッシュカードを盗まれてしまいまして、暗証番号を知られてしまいました。すぐに、利用停止にしてもらえないでしょうか」
純は少し女に顔を寄せた。
「はい。わかりました。名前と支店名と口座番号を教えて下さい」
電話の相手が言った。
「名前は佐々木京子です。銀行は××支店で、口座番号は、××××です」
二、三分後、
「はい。了解しました。キャッシュカードは利用停止にしました」
電話の相手がそう言った。
「よかったわー。これなら、まずまだ降ろされてないわ」
女はほっと一安心したように言った。
「一体、どういうことなんですか?」
純が女に聞いた。
「あとで話すわ。それより君。名前は?」
「岡田純です」
「私は佐々木京子。助けてくれてありがとう」
京子はつづけて言った。
「ねえ。純君。ここから最寄りのコンビニに車で何分くらいで行ける?」
「そうですね。7分くらいの所にコンビニがあります」
「そう」
京子は何かを考えているようだった。
「純君。ちょっと協力してくれない。勇気がいるけど」
「ええ。何でもやります」
「ありがとう」
そう言うと京子という女は、純に、色々と計画を話した。
「彼らは、すぐに戻ってくるわ。近くのコンビニでキャッシュカードで金をおろしたら、今度はたっぷり私を弄ぶって言っていたから。それでね、彼らに見つからないよう、小屋の外に隠れてオートバイのナンバーをメモして、メールで知人に、送っちゃって欲しいの。キーをつけたままだったら、抜き取っちゃって欲しいの。そして、彼らのスキをついて飛び出して、彼らの顔も撮っちゃって、メールに添付して、すぐに知人に送って欲しいの。私、出来るだけ時間をかせぐから」
純は、
「わかりました」
と言って、うなずいた。
「じゃあ、時間がないわ。お願い」
そう言って京子は柱の前に座った。そして両手を背中に回して手首を重ね合わせた。
「さあ。手首を縄で巻いて」
言われて純は柱につながっている縄で京子の手首をグルグル巻いた。それを京子はグッと握った。あたかも後ろ手に縛られたように見える。
「さあ。純君。ガムテープを私の口に貼って」
言われて純は、ガムテープを京子の口に貼った。そして、急いで小屋の外に出て、木の陰に身を潜めた。その時、ちょうど、さっきのオートバイがやって来た。ちょうどギリギリだった。オートバイの男二人は、小屋の後ろに、オートバイをとめると、急いで、小屋に入った。二人は、後ろ手に縛られている京子を見ると、ほっとしたような表情で、裸で縛られている京子の前に仁王立ちになった。そして京子に近づくと、ベリッと京子の口のガムテープをはがした。
「おい。キャッシュカードの暗証番号どころか、キャッシュカードそのものが、使えないぞ。一体、どういうことなんだ」
男が京子に問い詰めた。だが京子は固く口を閉めて黙っている。
「まさか、使えないキャッシュカードを財布に入れているはずはないし・・・。一体、どういうことなんだ」
もう一人の男が問い詰めた。だが京子は答えない。
「答えないと痛い目にあわすぞ」
男の一人が威嚇的な口調で言った。
「おい。どういうことなのか話せ。可愛がってやりたいと思ってるんだぞ。痛い目にはあいたくないだろう」
男の一人が言った。だが京子は黙っている。
「それじゃあ仕方がないな」
そう言って、男たちは、京子の鼻をつまんだり、頬っぺたをつねったり、耳を引っ張ったりし出した。
「い、痛いー。やめてー」
京子は叫んだ。
「ふふふ。時間の問題で喋ることになるんだ。早く喋っちまいな」
そう言って、男の一人が、京子の足首に片足で乗り、柱をつかんでバランスをとり、全体重を乗せて、ユッサ、ユッサと体を揺すり出した。
華奢な女の足首に男一人の全体重がかかった。
「ああー。い、痛いー」
京子は、悲鳴を上げた。
「ほら。早く喋りな」
もう一人の男は、座って、京子の恥毛をプチッと引き抜き出した。
男達は、京子の苦痛を楽しむように、笑いながらジワジワと京子を責めた。

その時。純がパッと男達の前に躍り出た。そして、カシャ、カシャッっと何枚も携帯で写真を撮った。そして、急いで、カチカチと携帯を操作した。
「あっ」
男たちは思わず声を出した。男たちは、あっけにとられている。
「な、何をしているんだ。やめろ」
そう言って、男の一人が純から携帯を取り上げた。その時、後ろ手に縛られているはずの京子が、サッと立ち上がった。そして、急いで床に散らかっているパンティーをとって履き、ブラジャーもつけた。そして、そして純の後ろに回って、スカートを履き、ブラウスを着た。女は純の肩に手を置いた。
「ふふ。あなたたち、もう観念した方がいいわよ」
京子は勝ち誇ったように言った。
「一体、何をしたんだ」
男が純の襟首をつかんで、問い詰めた。
「純君。二人の写真、送った?」
京子が純に聞いた。
「うん」
純が答えた。
「おい。どういうことなんだ。何をしたんだ」
「あのね。あなたたちが、私を縛って、去ろうとした、ちょうど、その時に、この子が小屋に通りかかって私の叫び声を聞いたの。それで、この子の携帯で、すぐに、キャシュカードが使えないように銀行に連絡したの。あなたたちは、お金を引き出した後に、戻ってきて、私を弄ぶ予定だったでしょ。それで、この子に、協力してもらったの」
「クソッ。そういうことだったのか」
男の一人が口惜しそうに言った。
「ねえ。純君。キーはどうだった?」
「キーはついたままでした」
今度は純が話し出した。
「オートバイのキーは、ハンドルロックして、抜きとり、遠くに放り投げました。そして、ナンバーをメモして、「犯人」と書いて、携帯に登録してある全ての人の所に送信しました。そして、あなたたちの顔を写真に撮って、それも、今メールで送りました」
京子は、ふふふ、と笑った。
「さあ。どうしますか?陸運局に電話すれば、あなた方の住所と氏名は、わかりますよ。顔写真もメールで送信しちゃいましたから、もう遅いですよ。私たちを殺してしまいますか?でも、オートバイのナンバーと、あなた方の顔写真が、この子の知人達に送られちゃいましたから、私たちを殺しても、すぐ警察につかまってしまいますよ」
京子は強気に言った。
「ま、参ったよ。悪かった。どうか、警察には連絡しないでくれ」
男たちは土下座して謝った。
「じゃあ、私の財布、返して下さい」
男は京子に財布を返した。
「ふふ。残念だったわね。私から、お金をとり、私を弄ぶ両方の予定が出来なくなっちゃって」
京子は余裕の口調で言った。
「純君。キーは、どこら辺に投げた?」
京子が聞いた。
「さあ。わかりません。思い切り投げましたから」
純は言った。
「あなた達。これからどうします?」
京子が聞いた。
「キーを探してみます。見つからなかったらJAFに連絡して来てもらいます」
男は、情けなさそうな口調で言った。
「おにいさん」
純が男に向かって言った。
「なに?」
「本当はキーは放り投げていません。隠れていた木の根元に隠してあります。ちょっと、待ってて下さい」
そう言って純は小屋を出た。そしてキーを持って、すぐに戻ってきた。
「はい。おにいさん」
そう言って純は男にキーをわたした。
「ありがとう」
男はペコペコと頭を下げた。
「これに懲りて、もう悪いことはしないことね」
京子が言った。男二人は、情けなさそうに、オートバイに乗って、エンジンを駆け、走り去った。あとには純と京子が残された。

   ☆   ☆   ☆

京子は純を見た。
「ボク。ありがとう。君が通りかかってくれなかったら、私、もう少しで一文無しにされて、彼らに犯されまくられちゃうところだったわ。銀行には、私の全財産500万円が、入っていたの。もしかしたら、団鬼六のSM小説の悲劇のヒロインのように、彼らに檻の中で死ぬまで監禁される、地獄の人生になっちゃたかもしれないわ。純君は、私の命の恩人だわ」
そう言って京子は、純の手をギュッと握った。
「い、いえ」
純は赤くなって小さな声で答えた。だが純は引け目を感じていたのである。本来なら京子が裸にされて、縛られているのを見た時に、すぐに飛び出して、やめろ、と言うべきだと思ってたのに、それをする勇気がなく、男二人が、去ってから小屋に入って行った不甲斐ない自分を。確かに、すぐに飛び出せば、彼らに捕まってしまうだけで、彼らに気づかれないよう、様子を見て携帯で、警察に通報するのが、冷静な対応ではあるが。理屈ではなく、男二人に裸にされて、縛られている女を、黙って見ていた自分に、感情的に不甲斐なさを感じていたのである。だが、それとは裏腹に、男二人に裸にされて、縛られている京子に、純は興奮していたのも事実であった。純は、そんな刺激の強い光景を見るのは生まれて初めてだった。純は先天的に、縛られた女に、激しく興奮してしまう性癖だったのである。
「純君。家は近い?」
「ええ」
「じゃあ、行っていいかしら。純君のお父さんやお母さんにも、お礼を言いたいし・・・」
「あ、ありがとうございます。家は近いです」
「じゃあ、行こう」
そう言って、京子は純は小屋を出て、手をつなぎながら純の家に向かった。京子の手の温もりが何ともいえず心地よかった。15分くらいして純の家についた。純は鍵をとり出して玄関を開けた。
「どうぞ」
純は恥ずかしそうに京子に言った。
「お邪魔します」
京子は元気よく答えて純の家に入った。家には誰もいない。
「お茶を入れますから、座って待っていて下さい」
そう言って純は台所に行った。京子は居間のソファーに座った。純は、ポットとティーパックと、カップとソーサーとお菓子を盆に入れて、すぐにもどってきた。
「はい。どうぞ」
そう言って純はソファーに座って、紅茶と菓子を京子にすすめた。
「ありがとう」
京子は礼を言って紅茶をとって啜った。京子は家の中を見回した。
「お父さんは、仕事だよね?」
「ええ」
「お母さんは。買い物かな?」
「い、いえ」
純は、あらたまって、へどもどと言った。
「僕には母はいません。僕が二歳の時、死んでしまったんです」
「そうだったの。嫌なこと聞いちゃってごめんね」
「い、いえ。僕の方こそ、家に誰もいないと知っていながら、言わずに京子さんを連れてきてしまって、ごめんなさい」
「いいわよ。そんなこと」
「あ、あの。京子さん」
「なあに?」
「あの。僕、京子さんにお詫びしなくちゃならないんです」
「なにを?純君は私の命の恩人だというのに」
「い、いえ。僕、京子さんが裸にされて縛られるのを見て興奮してしまったんです。こともあろうに京子さんの命がかかっている時に・・・」
「ふふ。いいわよ。気にしてないわ。男の子はみんなエッチだもの」
純は恥ずかしそうに顔を赤らめた。
「純君。助けてもらったお礼に何かしたいわ」
「い、いいです。家に誰もいないと知りながら、京子さんを家に連れてきてしまったんですから。それだけでもう十分です」
純はもうしわけなさそうに言った。
「でも私の気がすまないわ。純君は命の恩人だもの。お願い。お礼をさせて」
京子の強気の言葉に負けて、純は京子のお礼を、素直に受けようと思った。純は気が小さいのである。純は、しばし考え込んだ。少しして、パッと素晴らしい考えが浮かんだ。純はそれを思いついたことに嬉しくなった。
「京子さん」
「なあに。何か、お礼、思いついた?」
「ええ」
純は頬を赤くして言った。
「それは、なあに?お金だったら、100万円までなら出すわ」
「い、いえ。お金じゃありません」
「じゃあ、なあに?」
「あ、あの。一種に大磯ロングビーチに行って貰えないでしょうか。それがお願いです」
純は顔を赤くして言った。京子はニコッと笑った。
「いいわ。いつがいい?」
「いつでもいいです」
「じゃあ、明日は日曜だから、明日でいいかしら?」
「ええ」
大磯ロングビーチは9月の二週目の日曜日までやっている。ちょうどギリギリである。
「純君。私のこと、人に言わないでね。恥ずかしいことだから人に知られたくないの」
「ええ。誰にも言いませんとも」
京子は時計を見た。
「純君。ごめんね。銀行でキャッシュカードを使えるように手続きしなくちゃならないわ。私、銀行に行かなくっちゃ」
京子が言った。
「わかりました。時間をとらせてしまってすみません」
「じゃあ、明日の朝、9時に大磯駅で会いましょう。それでいい?」
「ええ」
京子は立ち上がろうとした。
「あ、あの。京子さん」
純はあわてて言った。
「なあに?」
「あ、あの。サインして貰えないでしょうか?」
そう言って純はカバンから手帳を取り出して開いた。京子は、ふふふ、と声を出して笑った。
「明日、たっぷり会えるじゃない」
「で、でも・・・。お願いです」
純は強く要求した。純は女と付き合ったことがないから、女の心理がわからないのである。学校でも女生徒と話したことなど一度もない。内気で無口なので女の友達など一人もいない。京子は、助かったお礼のために、今は純に親切にしてくれている。純は京子を熱烈に好いているが、しかし京子が本心で純をどのように思っているのかは、全くわからない。純は顔にも、そんなに自信がない。もしかすると、今日、帰ってから、気が変わってしまって、子供の付き合いなど面倒くさいと思って、明日は来なくなって、もう会えなくなるかもしれないと、咄嗟に、おそれを感じたのである。京子は、ふふふ、と笑いながら、差し出された純の手帳にサラサラッとサインした。字はちょっと崩れていて、いかにもサインらしかった。
「あ、ありがとうございます」
純は深々と頭を下げた。憧れの女優のサインを貰ったような最高に心地いい気分だった。「じゃあ、明日の9時に大磯駅でね。純君」
そう言って京子は純の家を出た。

   ☆   ☆   ☆

京子が帰った後、純はしばらく、最高の快感の余韻に浸っていた。しかし、しばしして、机に向かって勉強を始めた。純は勉強熱心で、将来は東大文科Ⅰ類に入ることを目標としていた。だが明日、京子のビキニ姿を見られると思うと興奮してなかなか集中できなかった。夕方になって、父親から、メールが来た。
「今日も遅くなる。夕食はコンビニ弁当で我慢してくれ。父」
と書いてあった。いつものことなので純は慣れている。純は自転車で最寄りのコンビニに行き、弁当を買った。そして家に持って帰って一人で食べた。そして風呂に入って、パジャマに着替えた。明日、うんと楽しむため、早めにベッドに乗って布団をかぶった。
ちょうどその時、父親が帰ってきた。純は階下に降りた。
「お帰りなさい」
純が言った。
「ただいま」
父親が言った。
純は挨拶だけすると、またすぐに部屋に戻って、ベッドに寝て、布団をかぶった。

純は、運動が苦手で嫌いだった。体力(特に持久力)が無いので、サッカーとか、バスケットとか集団のスポーツは、全然、ダメだった。4キロのランニングもいつもビリだった。しかし、純は水泳だけは好きだった。ずっと以前に、手塚治虫の「海のトリトン」を読んで、海のロマンスに憧れてしまったのである。もちろん、それだけではない。夏という太陽が照りつける季節、そして夏の海に、そして夏の無限の青空に、純は激しい官能を感じていたのである。それは誰でも、感じることであろうが、純の場合は特別、それが強かった。純は、体が弱く、アレルギー体質で、冷え性で、血行が悪く、冬は純にとって、地獄の辛い季節だった。以前、一度、父親にスキーに連れて行ってもらったこともあるが、雪山は純を魅さなかった。スキーで多少、滑れるようになっても、面白いとは思わなかった。スキーは高い位置から、低い位置へと、一方向にしか進められない。そして、滑り終わったら、おしまいである。それが純には面白くなかった。さらにスキーは位置エネルギーを利用しているのも、嫌な理由だった。人は誰しも、鳥になって、大空を飛びたいという願望をもったことがあるだろう。しかし純は飛行機に乗りたいとも、飛行機を操縦したいとも思わなかった。飛行機にはエンジンがついているからである。エンジンなしで自力で空を飛びたいのである。その点、ハングクライダーは、上昇気流という自然のエネルギーを利用してはいるが、エンジンなしで空を飛べるという点で純は、一度、ハンググライダーを操縦してみたいとも思っていた。鳥になって空を飛びたい、と思うのと同様、魚になって、大海原をどこどこまでも泳げるようになりたいと思っていた。これは鳥になるのとは違って、努力すれば、ある程度は実現可能なことである。実際、島から岸へ、60kmもの距離を15時間かけて、泳ぎきる遠泳の出来る人もいるのである。魚になりたいという願望のため、水の中でも自由に泳げるようになりたい、とも純は思っていた。魚は海面の上を泳いだりはしない。水の中を泳ぐのが魚である。水の中を泳ぐといえば、スキューバダイビングやスキンダイビングなどがある。しかし、純は、スキューバダイビングには全然、魅力を感じなかった。酸素ボンベという道具を使わないで、水の中を泳ぎたいのである。なら、スキンダイビングはどうかといえば、これは多少は魅力を感じたが、やはり、それほど、やってみたいとは思わなかった。スキンダイビングもシュノーケルとフィンという道具を使っているからである。純が身につけたいと思っていたのは、人工的な道具を使わない、素潜りであった。しかし、これも、あまり純を魅さなかった。素潜りでは、どう頑張っても、呼吸を止めていられる時間は、一分間が限界だった。たった一分間しか、水中で泳げないのでは、面白くないからである。
純は、水中の背泳ぎのバサロ泳法には魅力を感じていた。そのように、色々と願望があったが、現実には純の泳力は、理想とする目標とは、ほど遠く、50mをクロールで泳ぐのが精一杯だった。平泳ぎなら、50m以上、泳げたが、純にとっては、水泳といえばクロールだけだった。平泳ぎなんて、カエルみたいで格好良くないと純は思っていた。背泳ぎも魅力を感じなかった。仰向けで泳ぐ魚などいないからである。バタフライは、バタバタと激しい泳ぎ方で、これも魅力を感じなかった。というより、一度、バタフライで泳いでみようとしたことがあったが、全く泳げなかった。やはり魚になれる感覚を味わえるのは、クロールだけだと思っていた。水の上を泳ぐという点では、魚ではないという矛盾はあったが、感覚としては違和感がなかった。しかし、純が夏の海に魅せられるのには、水泳が上手くなりたいという願望の外にも大きなものがあった。それは海水浴場に来るビキニ姿の女たちである。母親を知らずに育った純は、女に餓えていた。一度でいいから、ビキニ姿の女性と海水浴場に行きたいと、純は熱烈に思っていたのである。海は、生物、生命の母親であり、女の子宮も生命の源である。現実の嫌いな純にとっては、夏の海と、ビキニ姿の女は、甘えたい、そこに戻りたい、という欲求をかきたてるという点で、共通しているものだった。それらは、二つ一緒になって、激しく純を魅了した。純は夏は、熱心に近くのプールへ行って水泳の練習をした。海には自転車で30分で行けた。しかし純は海水浴場には、どうしても入れなかった。海水浴場に来る客は、男も女も、みんな友達と一緒で、一人だけで海の家に入ったら、暗い性格の少年と思われるのが、怖かったのである。それでも純のビキニ姿の女に憧れる想いは強かった。それで、一度、大磯ロングビーチに行ってみた。大磯ロングビーチのポスターは、毎年、綺麗なビキニ姿の女の人だった。湘南で最大級のリゾートプールである。市営プールと違って、ビキニ姿の女の人も、来ていそうな雰囲気である。そして海の家に入るよりは、まだ入りやすい。そう思って純は、一度、勇気を出して大磯ロングビーチに行ってみたのである。行って吃驚した。予想以上に、女は海水浴場、同様、ほとんど全員、セクシーなビキニ姿である。純は、激しくそそり立った、おちんちんをなだめるのに苦労した。しかし、来場客は、恋人とか、親子とか、友達とか、複数人で来ていて、一人で来ている客は一人もいなかった。純は、監視員や、客たちに、一人ぼっちで来ている友達のいない、暗い内気な少年と思われるのが、死ぬほど怖かった。それで、一度、行っただけで、それ以後は、行くことが出来なかった。それが明日は京子という、絶世の美女と行けるのである。そう思うと、純は、興奮してなかなか寝つけなかった。

   ☆   ☆   ☆

日曜日になった。
空は雲一つない晴天である。吸い込まれそうな無限の青空の中で、早朝の太陽が今日も人間をいじめつけるように、激しく照りつけていた。純は、海水パンツや、タオルなどをスポーツバッグに入れて、家を出た。そして東海道線に乗った。大磯駅に着いたのは、8時半だった。大磯ロングビーチは朝9時からである。大磯駅から、ロングビーチへの直通バスが一時間に三本、出ていた。電車は15分に一本の割合でやってくる。電車が来るたびに純は緊張した。今度ので、京子は来るか。三回待ったが、京子はやってこなかった。純はだんだん不安を感じはじめた。もしかすると京子は来てくれないかもしれない、のではと不安になりだした。

京子は、助けてもらったお礼として、今日、大磯ロングビーチに来てくれると約束してくれた。純は京子を熱烈に好いているが、しかし京子が本心で純をどのように思っているのかは、全くわからない。もしかすると、昨日、帰ってから、気が変わってしまって、子供の付き合いなど面倒くさいと思って、今日は来てくれないかもしれないと、咄嗟に、昨日、感じたおそれを再び感じ出したのである。

四回目の下りの電車が来た。
「どうか京子が来てくれますように」
と純は祈った。電車のドアが開いた。
「純君―」
そう言いながら、薄いブラウスにフレアースカートの京子が手を振って、満面の笑顔で、小走りに走ってきた。純は、ほっとした。と同時に最高に嬉しくなった。純も、
「京子さーん」
と手を振った。
「純君。待った?」
京子が聞いた。
「いいえ。前の電車で着いたばかりです」
純は答えた。
「そう。それはよかったわ」
京子は嬉しそうに言った。二人は大磯駅の改札を出て、ロングビーチ行きのバスに乗った。純と京子は並んで座った。純が窓側で京子が通路側である。
「嬉しいです。京子さん。京子さんが来てくれて」
純は恥ずかしそうに小声で言った。
「私が来ないんじゃないかと思ったの?」
京子はニコッと笑った。
「い、いえ。そんなことはありません」
純は焦って首を振った。
「ふふ。今日はうんと楽しみましょう」
京子が言った。すぐにバスが発車した。

10時少し過ぎにロングビーチに着いた。もうビーチの中は人でいっぱいだった。キャッ、キャッと騒ぐ客たちの歓声が聞こえてくる。京子と純は、チケット売り場で、入場券を買った。
「大人一人と子供一人」
と言って京子がチケットを買った。
「はい。純君」
そう言って、京子は純に、子供用の一日券を渡した。二人は建物の中に入っていった。建物の中には、セクシーなビキニ売り場がある。京子はどんなビキニなのだろうかと思うと純はドキンとした。それだけで、おちんちんが固く大きくなり出した。京子は、ビキニ売り場には目もくれなかった。家から水着を持ってきているのだろう。

男性更衣室と女性更衣室の前で、二人は別れた。純は慣れているので、すぐにトランクス一枚になって、バッグに洋服を詰め、更衣室を出てきた。京子はまだいなかった。純は京子がどんな水着を着てくるのか、胸をワクワクさせながら京子を待った。五分くらいして、京子が女子更衣室から出てきた。
「ああっ」
出てきた京子を見て、純は思わず声を洩らした。セクシーなビキニで、京子の美しいプロポーションにピタッとフィットしていたからである。純のおちんちんは一瞬で固く大きくなった。
「ふふ。どうしたの?」
京子がドギマギしている純に聞いた。
「あ、あまりにも美しいので、びっくりしちゃったんです」
純は思わず本心を言った。人間は、あまりにも強い衝撃を受けると、茫然自失して、ウソを考えるゆとりがなくなってしまうものである。
「ふふふ」
と京子は笑った。
「じゃあ、純君。荷物、一緒に入れましょう」
そう言って京子は、300円のロッカーを開けた。純と京子は、それぞれのカバンをロッカーに一緒に入れた。二人は手をつないで本館の建物を出た。

京子と純は手をつないで、ビーチサイドを歩いて行った。
「おおっ」
芝生に寝転がっていた三人の男たちが、一斉に、京子を見た。
「すげー美人」
「超ハクイ」
「あれで子持ちとは信じられないな」
「いや。彼女の子供とは限らないぜ。甥とか、親戚の子かもしれないじゃないか」
「そうだよな。子供を産んだら、あんなプロポーションでいられるわけないよな」
「ナンパ防止のために、知人の子供を連れてくることって、結構あるんだよな」
男たちは口々に言い合った。京子は噂されるのを嫌がる意思表示のように早足で歩いた。

純は京子と手をつないで、シンクロプールの前のリクライニングチェアに座った。
「京子さん。来てくれてありがとうございます。最高に幸せです」
純はあらたまって言った。
「なに言ってるの。純君は私の命の恩人じゃない。来なかったらバチが当たるわ」
京子はあたりを見回した。
「いいリゾートプールね。外国の高級リゾート地に来たみたいな気分だわ」
「京子さん。日焼けするの嫌じゃないですか?」
「ううん。全然、大丈夫よ」
そう言いながら京子は日焼け止めのスプレーを体に振りかけた。
「はい。純君も」
そう言って京子は純の体にもスプレーを振りかけた。
「純君」
「何でしょうか?」
「どうしてプールにしたの?」
「そ、それは。プールや海が好きなんで・・・。それと京子さんのビキニ姿が見たくて・・・。僕、京子さんのような綺麗な人と一度でいいから、大磯ロングビーチに来たかったんです。その夢がかなって、今、最高に幸せです」
京子はニコッと笑った。
「純君は泳げるの?」
「ええ。ほんの少しなら」
「どのくらい?」
「クロールなら50mが精一杯です。平泳ぎなら、200mくらいです。これじゃあ、泳げるとは言えませんね」
「それだけ泳げれば、十分、泳げると言えるわよ」
「でも持久力が全然なくて、運動神経が鈍くて、練習しても、なかなか上手くなれないんです」
「純君の泳ぎが見たいわ。見せて」
「は、はい」
純は、水泳帽を被り、ゴーグルをした。そして25mのシンクロプールに入って、クロールで泳いだ。一往復した。純は、息継ぎは問題なく出来たが、まだ、クロールの水のキャッチが十分、出来てはいなかった。京子に速く泳ぐ姿を見せたかったが、ムキになって速く泳ぐと、バシャバシャと、みっともない泳ぎになってしまう。それで、速く泳いで見せたい気持ちを押さえてスピードを少しおとして、スムースに見えるよう、でも、ある程度、速く、25mのシンクロプールを一往復した。その後、平泳ぎをした。平泳ぎは、上手く泳げるので、思い切り速く泳いだ。そしてプールから上がった。純はゴーグルをとった。
「うまいわ。純君」
京子は笑って、パチパチと手をたたいた。
「京子さんは、泳げますか?」
「ええ。ほんのちょっと。でも下手よ。子供の頃、夏に家族と海に行って遊んだのと、小学校と中学校で、体育の授業の時に水泳があったから。平泳ぎは少し出来るわ。でも純君の方が私より上手いわ。私、クロールは全然、出来ないわ」
そう言って京子はニコッと笑った。
「僕、子供の頃、海にほとんど行かなかったので、小学校の時は全く泳げませんでした」
「純君。一緒に泳がない?」
「ええ」
純と京子は、シンクロプールに入って、平泳ぎで、ゆっくり泳ぎ出した。純は京子のスピードにあわせて、横に並んで泳いだ。純も京子も水から顔を出して泳いだ。泳ぎながら、時々、お互いの顔を見て笑いあった。
25m泳いで、ターンすると、純は、面白いことを思いついて、嬉しくなった。純はスピードをおとして、京子の真後ろを泳いだ。水中に顔を入れると、ビキニに覆われた京子の尻や太腿が、もろに見える。尻や太腿は水の力によって揺らいだ。平泳ぎで、足で蹴る時、両足が大きく開いて、ビキニに覆われた女の股間が丸見えになった。それはとても悩ましく、純は激しく興奮した。純の股間の一物は、すぐさま勃起した。京子は、見られているとも知らず、大きく股を開いて泳いだ。

一往復して、元の場所に着くと、京子はプールから上がった。純もプールから出た。そして、二人はプールの縁に並んで座った。
「ああ。疲れた。泳ぐの久しぶりだわ。中学校の体育の授業の時、以来だわ」
京子が言った。
「でも、ちゃんと泳げるじゃないですか」
純は、チラッと京子の体を見た。ビキニが水に濡れて収縮し、股間と胸にピッタリと貼りついて悩ましい。体から滴り落ちる水滴も。それは、ただの水滴ではなく、京子の体についていた水なのである。

太陽は、かなり高く昇っていた。客もそうとう多くなっていた。流れるプールには、多くの男女や子供が、歓声を上げながら、水に流されながら泳いだり、ゴムボートに乗って、楽しんでいた。

「純君。今度は、流れるプールに入らない」
京子は、ニコッと笑って聞いた。
「はい」
純は笑って答えた。
純と京子は、手をつないで、流れるプールに向かった。純は、子供のようにウキウキしていた。流れるプールは陸上競技のトラックのような楕円形のプールである。流れるプールは、けっこう、速度がある。流れるプールでは、流れの方向に従って、泳がなくてはならない。
純は京子と一緒に流れるプールに入った。
流れるプールは、自力で泳がなくても、水に体をまかせていれば、水の流れによって、流されるので、泳いでいるような感覚になる。泳げば、流れる速度に泳ぐ速度が加わって、速く泳げているような感覚になる。そんなところが、流れるプールの面白さである。
純は、京子と手をつないで、しばらく流れにまかせて、水の中を歩いた。
「気持ちいいわね。純君」
京子が、ニコッと微笑んで言った。
「ええ」
純は微笑んで答えた。
しばし水に押されながら歩いた後、京子が立ち止まった。
「純君。ちょっと、ここで止まってて」
「え?」
純には、その意味がわからなかった。京子は、つないでいた手を放し、水を掻き分けながら歩き出した。水の速度と、水を掻き分けながら歩く速度で、京子は、どんどん進んでいき、二人の距離は、どんどん離れていった。純は、意味も分からず、京子に言われたように、立ち止まっていた。かなりの距離、離れてから、京子は、後ろを振り返って、純に手を振った。
「純くーん。私を捕まえてごらんなさい」
そう言うと、京子はまた、水を掻き分けながら、歩き出した。純は、京子の意図がわかって、可笑しくなって笑った。水中での鬼ごっこ、である。純は、ゴーグルをつけて、京子に向かって、泳ぎ出した。だが、人が多いため、ぶつかってしまい泳げない。仕方なく、純も、京子と同じように、水を掻き分けながら歩き出した。地上と違い、水の抵抗があるため、なかなか、速く進めない。京子は、捕まえられないよう、キャッ、キャッと、叫びながら、逃げた。だが、そこは、やはり大人と子供の差。本気で京子が逃げると、京子との距離は、全く縮まらない。それどころか、どんどん離れていってしまう。これでは、純は、いつまで経っても純をつかまえられない。それを慮って、京子は、純が何とか、自分をつかまられる程度の速度に手加減したのだろう。だんだん京子との距離が縮まっていった。もう三メートル位になった。幸い、近くに人があまりいなかったので、純は、平泳ぎで全力で泳ぎ出した。水の中から、必死で、逃げる、ビキニ姿の京子の体が、はっきりと見える。純は、可笑しくなって、ふふふ、と笑った。
「京子さん。つーかまえた」
そう言って、純は、タックルするように、京子の体を、ギュッと抱きしめた。京子の体に触れるのは、これが初めてである。それは、あまりにも柔らかい甘美な感触だった。捕まえられて、京子は、
「あーあ。つかまっちゃった」
と、口惜しそうに言った。
二人は顔を見合わせて、ふふふ、と笑った。
「じゃあ、今度は、京子さんが鬼です。僕をつかまえて下さい」
純が言った。
「わかったわ」
京子は立ち止まった。純は、水を掻き分けて進み、京子から少し離れた。
「さあ。京子さん。もういいですよ」
京子は、ニコッと笑って、水を掻き分けて、純を追いかけ始めた。純もつかまえらないよう、必死で水を掻き分けて逃げた。純には、京子に捕まえられたくないという気持ちと、その反対に、京子に捕まえられたいという逆の気持ちもあって、それが面白かった。何より京子が自分を追いかけてくれるのが嬉しかった。純は全力で水を掻き分けて逃げた。だが京子も全力で水を掻き分けて、純を捕まえようと追いかけてくる。そこは大人と子供の差。本気で京子が追いかけると、純との距離は、どんどん縮まっていった。純は必死で逃げた。二人の距離はだんだん縮まっていった。ついに、京子は純をつかまえた。
「純君。つーかまえた」
そう言って、京子は、後ろから純の体にヒシッと抱きついた。京子の柔らかい胸のふくらみの感触が、純の背中にピッタリとくっついた。それは、最高に気持ちのいい感触だった。
「京子さん。ちょっと、疲れましたね。少し、休みませんか」
「ええ」
二人は流れるプールから出た。
二人は、ビーチパラソルの下のリクライニングチェアに座った。京子の体からは、水が滴り落ちている。それはとても美しい姿だった。純には、京子が、陸に上がった人魚のように見えた。

「純君。今度は、あれをやらない?」
そう言って京子が、ウォータースライダーを指差した。
「はい」
純は二つ返事で答えた。
純と京子は、手をつないでウォータースライダーの所に行った。
ウォータースライダーはスリルがあって面白いので、いつも行列が出来ている。一人乗りと、二人乗りのゴムボートがあったが、大磯ロングビーチには、みな友達と来ているので、ほとんど全員が二人乗りだった。それで純は、二人乗りで、楽しんでいるカップルや親子などをうらやましく見るだけだった。一人で乗っても、さびしいだけである。なので純はウォータースライダーに乗ったことが一度もなかった。だが今回は京子がいる。純は得意そうに列の後ろに京子と手をつないで並んだ。純たちの番がきた。二人乗りのゴムボートの後ろに京子が乗り、純は、その前に乗った。京子は純をギュッと抱きしめた。京子の大きくて柔らかい胸のふくらみが純の背中に当たった。それは、すごく心地よい感触だった。ゴムボートが、水の流れと共に、遊園地のジェットコースターのように勢いよく、曲がりくねった水路の中を滑り出した。京子は、キャッ、と言って、純をガッシリ抱きしめた。純は、この時、生きているという実感を生まれてはじめて味わった。
「これが生きているということなんだ」
と純は思った。もし、京子と出会わなければ、孤独な純は統合失調症になったかもしれない。ウォータースライダーは無事に滑り降りた。
「スリルがあって、怖かったけど凄く楽しいわね」
京子が言った。
「ええ」
純が笑って答えた。

純と京子は、再び、ビーチパラソルの下のリクライニングチェアに座った。

「京子さん。お腹空いてませんか?」
純が聞いた。
「ええ」
「じゃあ、何か食べましょう。京子さんは、何を食べたいですか?」
「私は、何でもいいわ。純君と同じ物を食べたいわ」
「わかりました」
そう言うと純は、パタパタと小走りに食べ物売り場に走って行った。純は、何にしようかと、迷って、しばし色々と食べ物売り場を回ってみた。そして、結局、焼きソバとオレンジジュースを買った。

純が、焼きソバを持って、もどる途中、一人でいる京子に、見知らぬ男が京子に近づいて声をかけていた。気の小さい純は、少し離れた所で立ち止まって様子をうかがった。
「あ、あのー。お姉さん。もしよろしかったら僕と・・・」
「ごめんなさい。彼氏がいるの」
「えっ」
男は首を傾げた。
「純くーん」
京子は離れて焼きソバを持って立っている純に声をかけた。純は京子の所にやって来た。「すみませんでした。お子さんがいらっしゃるとは知りませんでした・・・。あまりに若く見えるもので・・・。ちなみにご主人は?」
男はそっと周りを見回した。
「今日はこの子と二人で来たんです」
男は首を傾げた。男はしつこくねばった。
「もしかして、ご主人と離婚した未亡人とか・・・」
男は小さな声で聞いた。夫がいなければ、付き合おうという魂胆だろう。
「いえ」
「では、ご主人とは仲が悪くて離婚協議中とか・・・」
「いえ」
「では、今日はご主人は仕事とか・・・」
「いえ」
「ごめんなさい。この子が私の彼氏なんです」
「は、はあ」
男は、首を傾げながら、ついにあきらめて去っていった。
純は、テーブルに焼きソバと、オレンジジュースを置いた。
「ありがどう。純君」
そう言って京子はニコッと笑った。

その時、傍にいた別の男が京子に声をかけてきた。
「あ、あのう」
京子は携帯を持った男に呼びかけられた。
「何でしょうか?」
「写真とってもいいでしょうか?」
「ええ。いいわ」
「ありがとうございます」
「ただし条件があるんですけど・・・」
「何でしょうか?」
「この子と一緒に写してくれませんか」
「それは・・・ちょっと残念・・・だけど・・・仕方ない。わかりました。まあ、人妻というのも面白いですし・・・」
「ボク。綺麗なお母さんで、いいねー」
男は純を見て言った。純は恥ずかしくなって顔を赤くした。
男は、携帯でカシャっとカメラを撮った。
「いやー。でも、子供を産んでも体が崩れませんね。抜群のプロポーションですね」
そう言って男は去っていった。
純は焼きソバをテーブルに置いてリクライニングチェアに座った。
「焼きソバにしたけれど、よかったでしょうか?」
純が聞いた。
「ええ」
京子はニコッと笑って答えた。二人は、焼きソバを食べ出した。
「おいしいわ」
京子が微笑んで言った。
純もニコッと笑って、焼きソバを食べた。

純に今まで思ってもいなかった疑問が、突如として純に起こった。京子は若く見えるので、今まで、てっきり独身の女だと思っていた。それは、今まで、全く考える余地さえない事だった。しかし、考えてみれば、京子が独身である保証はない。もしかすると、結婚していて、夫がいる可能性だって、なくはない。さらには、もしかすると、子供だって、いるかもしれない。純は勇気を出して京子に聞いてみた。

「あ、あの。京子さんは、結婚してるんですか?」
純が聞いた。
「ごめんね。純君。ちょっと言えないの」
「京子さんは何歳なんですか?」
「何歳に見える?」
「20代に見えます」
「よくそう言われるわ」
と言って京子はニコッと笑った。
「ということは、もっと上なんですね」
「ふふふ・・・」
京子は、いわくありげに笑った。
「子供はいるんですか?」
「ごめんね。純君。それも、ちょっと言えないの」
京子は答えなかった。だが、答えないということが、すでに何かある、という答えになっていた。何事でも、言いにくい事というのは良くないことがあるからである。
子供は幼い時に死んだのかも・・・。
子供は別れた夫にひきとられているとか・・・。
ともかく純は、少しがっかりした。若く見える京子は、てっきり独身の女だと思っていたからである。それなら、歳が離れていても京子と恋人として付き合える可能性があると思っていたからである。しかし、もしかすると京子には、夫も子供もいるのかもしれない。そして、明るい楽しい家庭生活をしているのかもしれない。京子は、助けてもらったお礼として、嬉しそうに振舞っている演技をしているのかもしれない。そう思うと純は、さびしくなった。だが実際のところはわからない。夫は、死んで未亡人なのかもしれないし、夫とは離婚して、子供は夫と暮らしているのかもしれないし、また好きな彼氏がいるのかもしれない。そういうケースでも、結婚や子供のことは、語りたくないだろう。だが、もしかすると京子は、まだ独身なのかもしれない。ともかく京子が話してくれない以上、純には、何が何だかわからなかった。
「ああ。おいしかったわ」
京子が焼きソバを食べおわって言った。
「純君。また、遊ぼう」
京子が言った。
「はい」
純は答えた。二人は立ち上がった。

「今度は波のプールに行かない?」
京子が言った。
「はい」
そうして踵を返した時、目の前で、若いカップルが、ピースサインをしてニッコリ笑っていた。その二人に、OISOと書かれた青いTシャツを着た男が、デジカメを向けている。「大磯でカシャ」である。土曜と日曜は、大磯ロングビーチは入場客がたくさん来て混む。よく言えば賑やか、である。それで、土曜日と日曜日には、入場客の写真を撮って、大磯ロングビーチのホームページに、その日のうちにアップしていた。これは、土曜日と日曜日だけ行われていた。平日はない。写真を撮って欲しければ、「撮って下さい」と一言いうだけで、撮ってもらえるのである。
「純君。一緒に、写真、撮ってもらおうか」
京子が嬉しそうに言った。
「でも、ネットにアップされますよ。大丈夫ですか?」
純は聞き返した。
「ええ。大丈夫よ」
京子は笑顔で、あっさり言った。純はこれには驚いた。もし、京子が結婚していたり、子供がいたりしたら、他人の子と一緒に楽しそうにしている写真を撮られるのは、夫や子供に見つかったら、どういうことなのかと聞かれて、出来にくいはずである。仮に夫に見つからなくても、友達や知人に見つかれば、夫に報告されて知られてしまう危険がある。だか、それは京子は大丈夫らしい。なら、京子は、結婚しておらず、子供もいない可能性もある。それとも京子は、未亡人とか、あるいは離婚した、とかの複雑な事情があるのかもしれない。
「写真、撮って下さい」
京子は、カメラを持っている青いTシャツの男に言った。
「はい。わかりました」
と言って、男は、カメラを覗きながら、少し後ずさりした。京子は純と手をつないだ。そして、お互い、反対の手で、ピースサインをした。
「では、撮りますよー」
男が言った。京子は笑顔をつくった。純も笑顔をカメラに向けた。
カシャ。
写真が撮られた。
男は、近づいてきて、撮った写真を二人に見せた。仲のいい親子という感じの写真が撮れていた。
「お二人の関係は?」
男が聞いた。京子は純の顔を見た。
「恋人にする。それとも親子にする?」
京子は、嬉しそうに純に聞いた。
「ええっ・・・」
純は驚いて口が聞けなかった。
「じゃあ、ジャンケンしよう。私が勝ったら、親子で、純君が勝ったら、恋人ということにしよう」
京子が言った。純はまた驚いたが、京子は、
「ジャンケン・・・」
と声をかけて、拳を振り上げた。
純はつられて反射的に、京子に合わせて拳を振り上げた。
「ポン」
二人の手が振り下ろされた。
純はパーを出し、京子はチョキを出した。
「私の勝ちね。じゃあ、間柄は親子ね」
京子は、写真を撮った男に、
「間柄は、親子です」
と、あっけらかんと答えた。
「では、今日中にアップします。どうもありがとうございました」
そう言って写真を撮った男は去っていった。
「京子さん。間柄は親子なんて言って本当にいいんですか?写真の下に書かれますよ」
純は眉間を寄せて京子に聞いた。
「ええ。大丈夫よ」
京子はあっけらかんと答えた。京子に夫や子供がいるのなら、写真は公開されない方がいいし、ましてや間柄は親子などと出鱈目なことはしない方がいい。純は京子が何を思っているのか、ますます分らなくなった。

その時。
「おおっ」
と大きな歓声が上がった。すぐ近くのダイビングプールで、一番高い所から男が飛び込んだのである。ダイビングプールでは、多くの人が集まって、飛び込む人を見ていた。
「純君。ちょっと見ていかない」
京子が聞いた。
「ええ」
純が答えた。二人は手をつないで、飛び込みを見た。純は京子の手をギュッと握った。二人は、しばし、飛び込む人を見た。
純は最高に嬉しかった。純は母親を知らずに育ってきたため、女と手をつないだことが一度もない。今まで、余所の子が母親と手をつないでいる姿を見ると、うらやましくて仕方がなかった。それが今、京子という絶世の美女と手をつないでいるのである。まさに夢、叶ったりだった。純は、飛び込みを見ながら、しばしその心地よさに浸っていた。飛び込みは、女性でも結構、飛び込む人がいた。
「京子さんも飛び込んでみませんか?」
純が、笑いながら悪戯っぽく言った。
「えっ。ちょっと怖いわ。私、飛び込みしたこと一度もないもの」
「大丈夫ですよ」
純は笑って言った。
「じゃあ、純君が飛び込んだら、私も飛び込むわ」
「わかりました」
そう言うと、純は、飛び込み台に昇っていった。そして飛び込みを待つ人のあとに純は並んだ。純は、以前、飛び込みをしたことがあったので、怖くはなかった。四人、飛び込んだ後、純の番がきた。純は思い切り、踏み切って空中に飛んだ。トボーン。無難に飛び込んだ。飛び込みも、足から垂直に飛び込まないと、腹や顔を打ってしまい、勇気がいる。純は、水中から浮き出て、プールサイドに辿りつくと、すぐに京子の所にもどってきた。
「さあ。飛び込みましたよ。今度は京子さんの番ですよ」
純は得意げに言った。
「わ、わかったわ」
京子は、そう言うと、飛び込み台に昇っていった。そして飛び込みを待つ人のあとに並んだ。三人、飛び込んだ後、京子の番になった。京子は、飛び込み台の縁に直立した。京子のビキニ姿はこの上なく美しかった。

「おおっ」
飛び込みを見ていた男達は、一斉に歓声を上げた。
「すげーハクイ女」
「すげー美人」
「超美人だな。女優なみの顔に、モデルなみのプロポーションだな」
男達は口々に言った。
「ちょっと待てよ。あの女。どこかで見た覚えがあるような気がするな」
男の一人が言った。
「えっ。ということは本当にモデルか?」
「何の雑誌で見たんだよ?」
男の仲間が聞いた。
「うーん。えーと。何の雑誌だったかなー。ちょっと、思い出せないなー」
男は思い出せない苦しさに唸りながら言った。
「他人の空似じゃないの?」
仲間が言った。
「いや。確かに、あの人だと思う。だって右の頬っぺたに黒子があるから」
「じゃあ、本当にモデルか。あれだけ綺麗なら無理ないよな」

聞いていた純も驚いた。確かに京子ほど綺麗なら、モデルであっても何の不思議もない。京子はモデルなのだろうかと、また京子に対して疑問が起こった。京子は、しばし、緊張した面持ちでプールを見ていたが、無難に飛び込んだ。水の中から浮き上がって顔を出すと、京子は、笑顔で純に手を振った。そしてプールサイドに泳いできて、純の所に戻ってきた。
「どうでしたか?」
純が聞いた。
「怖かったわ。プールの中にちゃんと入ってくれるかなって心配になっちゃったわ」
京子が言った。
「上から見るとプールが小さく見えちゃいますからね」
純が言った。

その後、二人は、またウォータースライダーで遊んだ。ウォータースライダーは面白いため、三十人以上も、待つ人の列が出来てしまう。純と京子は、何回も繰り返してウォータースライダーに乗った。そうこうしているうちに日が暮れだした。
時計を見ると、もう五時近くになっていた。ちらほらと人々は帰り支度をしていた。
「純君。残念だけど、もう時間だわ。もう、帰りましょう」
「はい」
二人は手をつないで、本館の建物に向かった。
「京子さん。今日は最高に楽しかったです。どうも有難うございました」
「私もすごく楽しかったわ。有難う」
そう言って京子はニコッと笑った。
純と京子は更衣室とロッカーのある本館に入った。コインロッカーに入れていた、二人分の荷物を出して、二人は、それぞれ男性更衣室と女性更衣室に入っていった。
純はシャワーを浴び、ドライヤーで髪を乾かして、服を着て、更衣室を出た。そして、京子が出てくるのを待った。五分くらいして、京子は、着てきた薄いブラウスとフレアースカートを着て出てきた。二人は手をつないで大磯ロングビーチの建物を出た。

そして送迎バスに乗って大磯駅に着いた。
「純君。お腹へったね。何か食べていこう。純君は何を食べたい?」
京子が聞いた。
「何でもいいです」
純が答えた。駅前には、一軒、焼き肉屋があった。
「純君。焼き肉、好き?」
「ええ」
「じゃあ、あの店で食べよう」
二人は、焼き肉屋に入った。二人は向かい合わせにテーブルに着いた。ウェイターがやって来て、メニューを差し出した。
「さあ。純君。好きなものを選んで」
京子はメニューを純の方に向けた。純は、これとこれとこれ、と言ってロースとカルビと卵スープとキムチとコーラを指差した。
「じゃあ、ロースとカルビと卵スープとキムチとコーラ二人分」
と京子がウェイターに注文した。ウェイターは、焜炉のスイッチを入れて厨房に戻っていった。そしてすぐにロースとカルビと卵スープとキムチとコーラを二人分持ってきた。京子は熱くなった焜炉に肉を乗せていった。肉はすぐに焼かれていった。
「さあ。純君。食べて」
言われて純は、焼かれた肉を食べ出した。京子はスープやキムチを食べるだけで、あまり焼き肉を食べようとしない。
「京子さんも食べて下さい」
と純が言っても、京子はあまり、肉を食べない。純に多く食べさせたいという思いからだろう。仕方がないので、純は焼かれた肉をどんどん食べていった。結局、純が、ほとんど二人分の焼き肉を食べた。純は、謎の京子、がどんな素性の女なのか、全くわからず、知りたくなった。結婚しているのか。子供はいるのか。いないのか。自分のことをどう思っているのか。本当にモデルなのか。等々。それで京子に聞いてみた。
「僕、京子さんが好きです」
「ありがとう。私も純君が好きよ」
「あの。さっき、ダイビングプールに京子さんが立った時、男の人たちが話していたのを聞いたんですけど、京子さんはモデルなんですか?」
「・・・ふふふ。さあ。どうかしら」
「じゃあ、京子さんの写真集とか、あるんですか?」
「あったらどうする?」
「京子さんの写真集、ぜひ欲しいです」
「わかったわ。ちょっと恥ずかしいけど、昔、私の写真集が出版されたことがあるの」
「えー。すごいですね。まだありますか?」
「あるわ」
「ぜひ欲しいです」
「・・・わかったわ。家に帰ったら小包で送るわ」
「ありがとうございます」
「でも、あんまり見ないでね。少し見たら捨てちゃってくれないかしら」
この発言の意味は全くわからず、純は、その理解に苦しんだ。
「どうしてですか。捨てるもんですか。なぜ捨てなければならないんですか?」
「だって恥ずかしいもの・・・」
純ははっと気がついた。もしかするとヌード写真なのかも。
「わ、わかりました。少し見たら捨てます」
と純はウソをついた。

焼き肉屋を出ると、二人は大磯駅で上りの切符を買った。すぐに上りの東海道線が来て、二人は乗った。純は、京子の写真集が手に入れられることが嬉しくて、それで頭がいっぱいで、電車の中では、ほとんど京子と話さなかった。藤沢駅に着いた。
「私、小田急線に乗り換えなくちゃ」
京子が言った。
「あっ。そうですか」
「純君。今日は本当に楽しかったわ。ありがとう」
「僕もです。写真集、送って下さいね」
「ええ」
そう言って京子は電車を降りた。ドアが閉まって電車が発車すると、京子は、笑顔で、純が見えなくなるまで手を振り続けた。

   ☆   ☆   ☆

一人になった純に、色々なことが頭を駆けめぐった。まず単純に、携帯をロッカーの中に入れずにプールに持っていっていれば良かったことを後悔した。そうすれば京子のビキニ姿がたくさん撮れたのである。純は今まで、いつも一人でプールに入っていたため、勝手に他人のビキニ姿の女の写真は撮れないので、携帯はロッカーに入れるのが、当たり前という感覚になっていたのである。しかし、写真集を送ってくると、京子は言ったし、大磯でカシャ、で撮ってもらった写真をパソコンで見ることも出来る。大磯でカシャ、は一枚だけである。純は京子が、間違いなく写真集を送ってくれることに、祈りたいほどの気持ちだった。京子の、住所とか、携帯の電話番号とか、メールアドレスとか、も聞きたいとは思っていた。しかし、京子が純をどう思っているのかは、わからない。純は、人に恩着せがましくするのや、しつこくするのは嫌いなので、二人の男に襲われている京子を救ってあげたからといって、京子に、携帯の電話番号を聞くことも出来にくかった。もしかすると、京子の方から教えてくれるかも、とも期待してはいた。しかし残念ながら、京子は言わなかった。聞けば教えてくれたかもしれない。しかし、今日、京子と楽しい一日を過ごせたのは、二人の男に襲われている京子を救ってあげたことに対しての京子の、お礼である。今日一日だけ、お礼として、付き合ってくれたのであって、もしかすると京子には愛する夫も子供もいるのかもしれない。そんなことを思うと、京子の携帯の電話番号やメールアドレスを聞きだすことも出来にくかった。それは今でも後悔していない。一日だけでいいから、京子のような綺麗な女性と大磯ロングビーチに行きたい、という長年の夢が叶ったのだから。純は、そういう控えめな性格だった。しかし、もしかすると、京子が送ってくれると言った写真集の小包に京子の住所が書いてあるかもしれない。と純は思った。というより、普通、郵便では、差出人の住所は書くのが普通である。そうすれは京子の住所がわかる。純はそれに期待することにした。

   ☆   ☆   ☆

純は電車の中でそんなことを考えていた。
家に着いたのは7時30分だった。
「日焼けしたな。プールか海に行ってきたのか。もう9月になっているのに、まだやっているプールがあるのか?」
と、酒を飲みながらテレビを見ていた父親が聞いた。
「大磯ロングビーチに行ってきました」
と純は答えた。
「今日は、オレはもう夕食は食べてきた。すまないが夕食は、コンビニ弁当でも買ってくれ」
と父親は言った。
「僕も夕食は外で食べてきました」
純は言った。
「ああ。そうか。それはちょうどよかった」
そう言って父親は観ていたテレビを消して、自室に行った。純は、風呂に入って石鹸で体を洗った。そしてパジャマに着替え、自分の部屋に入った。純は、すぐにパソコンを開いた。そして、大磯ロングビーチのホームページを見た。大磯でカシャ、で京子と純が手をつないで笑顔でピースサインを出している写真が綺麗に写っていた。間柄は、親子となっている。あらためて写真で見る、京子のビキニ姿は美しかった。ジャンケンで、間柄を親子とするなど、子供のようで、京子は一体、何を考えているのか、さっぱり純にはわからなかった。しばらく純は、京子のビキニ姿を眺めていた。昼間、大いに遊んだ疲れから、純はすぐに眠りについた。

   ☆   ☆   ☆

翌日になった。月曜日である。純は気を引き締めて学校に行った。教室に入ると同級生の一人がやって来た。
「おい。純。昨日、大磯でカシャ、で、お前が、綺麗な女の人と手をつないでいる写真を見たぜ。親子と書いてあったけど、お前に母親はいないのに、どういうことなんだ?」
と聞かれて純は返答に窮した。純は、
「親戚の人だよ」
と答えておいた。真面目な純だが、京子が小包を送ってくれるかどうかが気になって仕方がなく、授業も上の空だった。その日は、小包は来なかった。まあ、それは純も予想していたことだった。京子が家に帰った日曜の夜に送っても、翌日にはつかない。次の火曜日も来なかった。その次の水曜日も。京子は本当に写真集を送ってくれるだろうか。純はだんだん心配になってきた。木曜日の学校から帰った後、郵便ポストの中に、小包を見つけた時、の純の喜びといったら、たとえようがない。純は小躍りして喜んだ。ただ非常に残念なことに、差出人の住所は書いてなかった。純は、小包を部屋に持っていくと、胸をワクワクさせながら小包を開いた。

小包を開いて純は吃驚した。それは京子のSM写真集だった。200ページほどある写真の全部が、京子の写真だった。純は興奮しながらページをめくっていった。始めは、普通の服を着た写真であって、次には服を着たまま、後ろ手に縛られて畳の上に正座させられている写真で、それから、上着は着たままで、パンティーを膝の上まで中途半端に脱がされている写真だった。京子は、女の恥ずかしい所を隠そうと、腿をピタッと閉じ合わせていた。羞恥心に頬を赤く染めている。それからは、丸裸にされて、胡坐縛り、柱縛り、爪先立ち、駿河問い、吊り、とありとあらゆる恥辱のポーズの写真がつづいていた。女の恥ずかしい所は、股縄をされていたり、京子が腿をピタッと閉じていたり、女の羞恥心を煽るため、悪戯っぽく、女のアソコに、わざと小さな布が置かれていたりしていた。純は激しく興奮した。おちんちんは激しく勃起した。
発行年は、平成×年と書かれてあるから、今から8年前に撮影された写真ということになる。だが見た目は、昨日の京子とほとんど変わらない。
小包には、京子のSM写真集と一緒に、一枚の手紙が添えられていた。
それにはこう書かれてあった。
「純君。この前の日曜日は楽しかったわ。約束した私の写真集を送ります。恥ずかしい写真集なので、送ろうか送らないか迷いました。でも純君との約束は守らなくては、と思いました。あまり見ないでね。また、あまり写真集ばかり見て、勉強がおそろかにならないようにしてね。佐々木京子」

あまり見ないでね、と書いてあるが、純は食い入るように京子のSM写真集を見た。京子は丸裸にされて、後ろ手に縛られて、様々な、つらそうな格好にされている。京子は眉を寄せて苦しげな表情をしている。全身には珠の汗が吹き出ていた。純は性格が優しかったので、何とか助けてあげたいと思った。しかし、京子は写真の中なので、どうすることも出来ない。また、純は助けたいという気持ちだけではなかった。純は、京子が苦しむ姿に激しく興奮していたのである。いじめたい、という気持ちと、助けたい、というアンビバレントな二つの感情があった。純はハアハアと息を荒くしながら、激しく勃起した、おちんちんをさすりながら、裸で様々な格好に縛られている京子を食い入るように見た。

その時、携帯のメールの着信音がピピッとなった。父親からだった。
「今日は遅くなる。すまんが夕食はコンビニ弁当で済ましてくれ。父」
と書いてあった。父親はいつも帰りが遅い。

純は、自転車で近くのコンビニに行き弁当を買った。そして家でコンビニ弁当を食べた。食べ終わると、純は急いで自分の部屋にもどって、ベッドに寝転がって、再び京子の写真を見入った。
その日、純は枕元に、その写真集を置いて寝た。純にとって、その写真集は宝物だった。その日、純は激しい興奮でなかなか眠れなかった。
父親は夜中、純が蒲団に入ってから帰ってきた。いつものように酒を飲んで酔っていた。家に帰ってからも、ビールを数本飲んでから寝た。

   ☆   ☆   ☆

翌朝になった。サラリーマンは、夜は遅くなってもかまわないが、遅刻は許されない。父親はスーツを着て、降りてきた。昨夜、酒を呑んだためか、二日酔いの頭を振った。
「おはよう」
純が挨拶した。
「おはよう」
父親が返事した。二人は食卓についた。朝食は毎日、同じで、コーヒーにトーストに、サラダにゆで卵だった。
「いただきます」
純は、元気に言って、トーストを食べ出した。純が嬉しそうなので父親は首を傾げて純を見た。
「純。なんだ。何かいいことがあったのか」
「ううん。別に」
純は笑顔で答えた。純の内気な性格は十分知っている父親なので、それ以上、聞き出そうとはしなかった。
「そうか。最近、お前が何かソワソワしているから、気にかかっていたんだ。何か嬉しいことがあったんだな」
父親が聞いた。
「ま、まあね」
純は、あやふやに答えた。
「そうか。それは、よかったな」
食事がすむと、純は京子の写真集を引き出しの奥に仕舞った。そして、父親に、
「行ってきまーす」
と言って、純は元気に家を出た。
だが純は授業中も京子の写真集のことが気になって仕方がなかった。


学校が終わった。純は急いで家に帰った。何だか、家に置いてある写真の京子が、家で純の帰りを待っている新婚の妻であるかのような心地いい快感が起こった。部屋に入ると、引き出しを開けて、SM写真集を取り出して、京子をじっくり見た。
「ただいま。京子さん。会いたかったよ」
純は写真の京子に話しかけた。
「お帰りなさい。私もよ」
写真の京子が返事したような気がした。京子の写真の一枚は、裸で、爪先立ちで吊られていて、つらそうな格好である。純はその写真をしげしげと眺めた。
「長い間、爪先立ちで、つらかったでしょう」
「いいの。優しい純君が私を守ってくれるから、つらくはないわ」
京子がそう言ってるように純には聞こえた。
「僕が、京子さんを守ってあげるよ」
「ありがとう」
「でも、本当のこと言うと、僕は京子さんがいじめられて苦しんでいる姿にすごく興奮しちゃうんです」
「いいの。私もいじめられることが嬉しいの。純君のような優しい子に、うんといじめられたいわ」
そんな会話が、純と写真の京子とで交された。純はもう、写真の世界に完全に入り込んでいた。純は、SM写真集を机の上に置いて、勉強を始めた。勉強熱心な純の勉強は夜中までつづく。純は、一時間くらい勉強して、頭が疲れてくると、写真集を開いて、京子を眺めて、一休みした。そしてまた勉強をはじめた。

日が経つにつれ、純の苦悩はつのっていった。純は、また、どうしようもない苦悩に悩まされ出した。授業中も、一人でいる時も、京子のことで頭がいっぱいになってしまった。
「どうしたんだ。純。この頃、ソワソワして授業に集中してないぞ」
と担任教師に注意された。
「何かあったのか」
と聞かれたが、
「何でもありません」
と純は言った。

純の京子に対する思慕の情は、どんどん募っていった。
「会いたい。もう一度、京子に会いたい」
純は、日を増すごとに、自分の気持ちが抑えられなくなってしまった。とうとう、純はある行動を決意した。それは、京子のSM写真集を出版した出版社に行って、憧れの京子に、何とか会えないか、会えなくても、京子に関する事を何でもいいから知りたい、という行動である。
ある日。純は、出版社の住所をたよりに電車に乗って出版社に行った。数日前、京子のSM写真集のおくづけ、に書いてある出版社の電話番号に電話して事情を話したのである。
「行ってもいいですか」
と聞いたら、しばししてから、
「×日に来れますか」
と聞いてきた。
「はい」
と純は答えた。

×日は、風邪をひいたので休むと学校に連絡して、出版社に向かった。そこは、神田川の見える都心の一角のビルの一室だった。ドぎついSM写真集を作っているような出版社なので、チャイムを鳴らすのが、かなり怖かった。ヤクザと関係のある出版社なのではないかとも思った。任侠とか仁義とか書かれた書が額縁に納まって飾られ、オールバックや角刈りの頬に傷のあるガラの悪い男達が出てくるのではないか、と一瞬、不安になった。つまり暴力団事務所がイメージされたのである。
だが純は勇気を出してチャイムを鳴らした。戸が開いた。若い社員が出た。
「いらっしゃい」
ワイシャツを着ていて、ヤクザそうではなく、オフィスも普通の会社のようで純は、ほっと安心した。
「お邪魔します」
純はペコリと礼儀正しくお辞儀した。純は来客用のソファーに座らされた。オフィスには5人、社員がいた。社員の一人がソファーの前のテーブルに茶を持ってきて座った。
「この前、電話で連絡した者です。岡田純といいます」
純は自己紹介した。
「ああ。わかってるよ」
社員は答えた。純は京子のSM写真集をカバンから出した。かなり恥ずかしかった。
「あ、あの。電話でお話した通り、この女の人について知りたくて、何でもいいですから、何か、知っていたら教えてくれませんか」
純はさっさく用件を言った。
「ああ。わかってるよ」
社員は答えた。
「君。その女に会いたいほど、その女が好きなんだろう」
「え、ええ」
純は真っ赤になって答えた。
「今日、学校はどうしたの」
「風邪をひいたので休むと連絡しました」
「確かに、かなりの熱だね。じゃあ、ぜひ、こっちから君に頼みたいことがあるんだ。おそらく君なら引き受けてくれると思ってね。用意もしてあるんだ」
「何なのですか。その頼みって」
「すぐにわかるさ。もうちょっと待ってて」
社員は意味ありげな様子で笑った。純には何のことだか、さっぱり分からなかった。
「君。学校で、彼女とか、憧れてる女の子とか、いないの」
「いません」
社員は腕時計を見た。
「もう、そろそろだな」
社員は独り言のように言った。その時、ピンポーンとチャイムが鳴った。
「やっ。来たな」
社員は、立ち上がって、ドアの所に行き、開けた。
「お久しぶりです」
そう挨拶して一人の女が恭しくオフィスに入ってきた。純は吃驚した。何と、女は純の憧れの京子だったからである。
「やあ。よくいらっしゃいました。さあさあ、こちらにどうぞ」
男に誘導されて、京子は純の座っているソファーの所に来て、テーブルの反対側の、ソファーに純と向かい合わせに座った。社員は、女の隣に座った。純は何が何だか、わけが、わからなくて緊張して、頭が混乱していたが、京子の顔を見ずにはいられなかった。
「純君。久しぶり」
京子はニコッと笑って、純に挨拶した。
「お久しぶりです。京子さん」
憧れの京子を前にして純は心臓がドキドキしてきた。
京子の大きな胸はブラウスを盛り上げ、大きな尻はタイトスカートをムッチリと張らせていた。その下からは、しなやかな足がつづいている。京子は足を揃えて慎ましく座っている。
「はは。驚いたかい。君の事を彼女に電話で伝えたんだよ。彼女に会いたいと電話までしてくる熱烈なファンがいるって、伝えたんだよ」
社員は、くだけた口調で説明した。純は納得した。しかし純は首を傾げた。なぜ出版社がそこまで親切にしてくれるのか、そして、なぜ京子が、わざわざ来てくれたのか、という疑問である。それを察するように編集者の社員は話し出した。
「もちろん、ここは会社だからね。会社は利益を上げることしか考えてないから、親切心だけで君の願いを叶えてやったわけじゃないんだ。会社はいつも、売れる事しか考えてないからね」
男の説明に純は納得した。では、一体、何の目的かという疑問が次に来た。男はつづけて話した。
「彼女の緊縛写真集は人気があってね。もう一度、設定を変えて撮影することになったんだ。それが今日なんだ」
男は言った。
純は驚いた。
ということは今日、また京子の裸の緊縛姿が撮影されることになる。美しい、爽やかなカジュアルな服を着ている憧れの京子が、これから惨めに脱がされていって、恥ずかしい裸にされると思うと純の股間が熱くなり出した。
「それでね。今回は、美人家庭教師の課外授業というタイトルで、生徒が女教師役の彼女をいじめる、という設定でいこうということに決まったんだ。そんな役を引き受けてくれる少年はなかなか、見つからないからね。そこで君に目をつけたんだ。君なら、やってくれるかもしれないって思ってね。どうだね。やってくれないかね。いくらか謝礼はするよ。君の顔はわからないように、撮る角度に気をつけて、後ろか、斜め後ろから撮るよ。少しでもわかりそうなものには目にモザイクを入れるから」
男は身を乗り出して純に聞いた。純は極度の緊張で、どう答えていいのかわからなかった。まさか、こんなことになるとは予想もしていなかった。
「ははは。電話で頼んだら、迷っちゃうんじゃないかと思ってね」
と社員は笑って言った。なるほど、と純は思った。こうやって、お膳立てしておいて、彼女に会ってしまえば、もう後には引けにくくなる。京子は男の隣でニコッと笑っている。
「私も、大人の人ばかりの中でいるより、純君がいてくれる方が安心だわ」
京子も純を促した。自分が彼女の緊縛写真の中に入るのは、人に知れたらと思うと、確かに少し怖くはあったが、それ以上に、京子と一緒に写真の中に納まって、それが写真集として形のある物になって、ずっといつまでも残ると思うと、その幸福感の方がずっと、怖さをはるかに上回った。
「わかりました。とても嬉しいです。よろしくお願い致します」
そう言って純は深々と頭を下げた。
「ありがとう」
編集者が喜んで言った。
「私も嬉しいわ。よろしくね」
京子もニコッと笑った。純も何だかほっとした。

   ☆   ☆   ☆

「よし。じゃあ、すぐに撮影場所に行こう」
男は携帯をポケットから取り出した。
「もしもし。これから撮影場所に行くからね。撮影お願いしたいんだけど。すぐ来てくれないかね。すまないが縄師のNさんを乗せてきてやってくれないかね」
電話の相手の返事を、ウンウンと肯きながら、聞いてから、
「有難う。よろしく頼むよ」
と言って携帯電話を切った。次に男はまた電話した。別の人のようである。
「もしもし。今日の撮影が決まってね。今、カメラマンに連絡したところなんだ。すぐにカメラマンが車で来るから」
そう言って男は電話を切った。そして携帯をポケットに入れた。
「今、カメラマンと縄師に連絡したんだ。カメラマンが車で、縄師のNさんを乗せて、一緒に撮影場所に行くから。30分位で、撮影場所につくだろう。待たせちゃ悪いから、さあ。すぐ行こう」
男が立ち上がったので、京子も立ち上がった。純も立った。
「じゃあ、撮影に行ってきます」
男はオフィスの中の他の社員に向かって言った。
「おお。頑張ってきて」
社員の一人が言った。京子と純は、男の後についてオフィスを出た。男は駐車場に止まっている車の後部座席を開けた。
「さあ。乗って」
男は、京子と純を見て言った。京子が後部座席の奥の方に座った。
「さあ。君も乗って」
男に言われて、純も後部座席に乗った。純は憧れの京子と、久しぶりに隣り合わせになって、緊張で心臓がドキドキした。男は後部ドアを閉めると、運転席に乗り込み、エンジンをかけて、車を出した。こんなことになろうとは全く予想していなかったので、純は極度に緊張した。性欲よりも、これからどうなるのかという緊張感でいっぱいだった。
「今日は何処で撮影するんですか」
京子が運転している男に聞いた。
「前回と同じレンタル撮影スタジオです」
男は運転しながら答えた。純は横目でチラッと隣の京子を見た。ブラウスの胸の所が乳房に押し上げられて膨らんでいる。タイトスカートが大きな尻によってパンパンに張っている。それにつづく太腿からヒールへと流れるような美しい脚線美である。純は、それを見て激しく興奮した。やがて車はあるビルの前で止まった。ビルの前には二人の男が立っていた。二人は、それぞれ大きなカバンを持っていた。
「はい。着きました。降りて下さい」
男に言われて純と京子は降りた。男は車を駐車場に泊めると、二人の男の所に行った。
「やあ。どうも。お待たせしてしまい申し訳ありません」
編集者は、二人の男に挨拶した。
「いや。待ってないよ。我々もちょうど今、着いたところだから」
男の一人が言った。
「こちらの人がカメラマンのKさん」
「こちらの人が縄師のNさん」
と編集者は、純と京子に二人の男を紹介した。編集者は携帯をポケットから取り出した。
「もしもし。今日、予約していたM社です。今、スタジオに着きました」
相手と少し話して編集者は携帯を切った。そして皆に言った。
「スタジオの管理人が5分ですぐ来ますから」
編集者は、皆に向かって言った。すぐに車が来た。男が降りて、やってきた。スタジオの管理人だろう。
「お待たせしました」
そう言って管理人の男は編集者に鍵を渡した。
「はい。スタジオの鍵です。今日はどの位の時間、ご使用になられますか?」
管理人の男が聞いた。
「そうだね。予約では、5時間という予定だったけれど、延長するかもしれないな」
編集者が言った。
「そうですか。では、撮影が終わりましたら、また電話して下さい。すぐ来ますので。では、ごゆっくり」
そう言って管理人の男は車で去って行った。
「じゃあ、入りましょう」
編集者は皆に言って、スタジオの戸を開けた。カメラマン、縄師、京子、純の四人は編集者についてスタジオに入っていった。
「今日はこの部屋で撮影します」
そう言って編集者は、ある部屋を開けた。そこには机と椅子のある床の部屋と、畳の和室の二部屋があった。
「じゃあ、今回は、美人家庭教師と教え子で、美人家庭教師が、教え子に、いじめられるという設定でいきますから」
編集者が言った。
「まず、少年が机に座って教科書とノートを開いています。その横で、家庭教師が厳しい表情で、足組みして、アンテナペンで教科書を指し示す写真を撮って下さい」
編集者はカメラマンに言った。
「さあ。純君。机について」
言われて純は学生服のまま机についた。
「ノートや鉛筆などの小道具は机の中に入っているから、それを出して」
純は机の引き出しを開けた。中には、ノートや鉛筆などの小道具が入っていた。純はノートと鉛筆を出して、勉強しているポーズをとった。
「じゃあ、京子さんは純君の横に座って」
編集者が言った。京子は純の横に、純の方を向いて座った。
カメラマンのKは、純の斜め後ろに三脚を立てて、カメラをセットした。純の顔は見えず、純の方を向いている京子の顔がカメラに写っているアングルである。
「じゃあカメラマンのKさん。これで撮影おねがいします」
編集者のHが言った。
「京子さん。ちょっと居丈高に、アンテナペンで教科書を指して」
カメラマンに言われて京子は、アンテナペンで教科書を指した。
「そうそう。叱ってるような表情で、口を開いて」
言われて京子は口を開いた。
「うーん。ダメだなー。口を開いてるだけで。もうちょっと本当に叱ってるような気分になって」
カメラマンが注意した。
「すみません」
京子は謝って、スーハースーハーと深呼吸して、再び、アンテナペンで指して、口を開いて、教え子を叱るポーズをとった。
「よし。そのまま」
カシャ。カシャ。
カメラマンがシャッターを切った。カメラマンは三脚の位置を変えて、カメラをセットした。
カシャ。カシャ。カシャ。
「うん。いいのが撮れた」
カメラマンは、ともかくやたらと何度も撮る。それは当然のことで、カメラマンは何枚も撮って、一番、写りがいいのを選ぶからである。
「じゃあ、今度は教え子が教師を縛り始める所を撮って」
編集者が言った。
「こういう風に撮って」
そう言って編集者は、皆に、ある写真を見せた。それは、正座した女が、後ろ手に縛られて、男が女の後ろで縄尻をとっている写真だった。女は服を着ているが、怖がった顔で、男は女の背中を踏んで、縄尻を引っ張っていた。いかにも、これから何をされるかわからない恐怖感に脅えているといった雰囲気がよく出ていた。
「さあ。京子さん。正座して。さっきのつづきと見えるよう机の近くに座って」
編集者が言った。京子は机の近くに正座して座った。
「じゃあ、縄師のNさん。彼女を後ろ手に縛って下さい」
言われて縄師のNは、ホクホクした顔つきで彼女を後ろ手に縛り、胸を挟むように胸の隆起の上下を二巻きずつ縛った。
「さあ。純君。彼女の縄尻をとって、彼女の背中を踏んで」
編集者が言った。純は言われたように京子の背後に回った。そして縄尻をとった。何だか、念願の京子を捕まえたような気になってきた。
「京子さん。ごめんなさい」
そう言って純は縄尻をとったまま、片足を京子の背中にそっと乗せた。
「あん」
純の足が京子の背中に触れると、京子は、思わず小さな声を出した。
「あっ。京子さん。ごめんなさい」
純は足をそっと離した。
「いいのよ。思わず声を出しちゃったけど。遠慮なく踏んで。縄も引っ張っていいわよ」
言われて純は京子の肩を足で踏んだ。純は京子の体の柔らかさにドキドキした。カメラマンが三脚の位置を色々と変えて、カメラのファインダーを覗いた。正座した京子はカメラの方を向いている。その後ろで、純が京子を縛った縄の縄尻をとって、京子の背中を踏んでいる。いかにも、教え子が、美人の家庭教師をつかまえた図である。
「京子さん。口を開けて、つらそうな顔をして」
カメラマンが言った。京子は、言われたように、口を開けて、眉を寄せて、つらそうな表情をつくった。
「うーん。イマイチだな。純君。もっと思い切り背中を強く踏んで、縄を強く引っ張ってみて」
純はカメラマンの指導に忠実に、京子の背中を強く踏んで、縄尻をグイグイ引っ張った。
「ああー」
京子がつらそうな喘ぎ声を出した。
「そうそう。その表情。いいよ」
カメラマンが言った。
パシャ。パシャ。パシャ。
カメラマンがシャッターを切った。
「よし。オーケー。お疲れさん」
カメラマンが言った。純は、ほっとして、京子の背中を踏んでいた足を降ろし、縄尻を離した。編集者がカメラマンの所へ来て、撮った写真を見た。
「純君。ちょっと来て」
編集者に呼ばれて純はカメラの所に行った。縛られた京子の苦しげな顔がリアルに撮れていた。最初の三枚は、純の顔が、写真の上枠の上に、はみ出ていたが、後の三枚は、純の顔も写真の中に入っていた。
「君の顔も写った写真も撮るけど、いい?写真集には使わないで記念にあげるよ。万一、君が了解してくれるなら目にモザイクを入れたのを出したいんだけどね」
「ええ。かまいません」
純は答えた。
「口のマスクとか、サングラスとかをかけると、もっと隠せるんだがね。写真の意図からしておかしくなっちゃうからね。まさか家庭教師の教え子がサングラスをかけていては可笑しいからね。写真を撮るアングルで顔が隠せるようにするから」
編集者は言った。純はそれほど自分の顔が出るのが嫌ではなかった。写真集を見るのは、大人のマニアだし、女の素性を知りたいとは思っても、男の素性を知りたがる人はいないだろう。それより憧れの京子と一緒の写真集が出来る事の方が嬉しかった。

「じゃあ、次は、座っている女の家庭教師を生徒が後ろから胸を触ったり、スカートの中に手を入れて悪戯している姿だ」
編集者が言った。
「純君。彼女の後ろに座って」
言われて純は、京子の背後に座った。背中では手首がカッチリと縛られている。
「京子さん。あなたは横座りになって」
言われて京子は後ろ手に縛られたまま横座りになった。
「さあ。純君。片手で彼女の胸を触って、片手を彼女のスカートの中に入れて」
言われて純は恐る恐る背後から手を伸ばして左手で京子の胸を触り、右手を京子のスカートの中に入れた。純にとって女の胸を触るのは生まれて初めてだった。柔らかい胸の隆起の感触がこの上なく甘美だった。純は右手を京子のスカートの中に入れた。そして京子の太腿の上にそっと手を乗せた。しなやかな京子の太腿の柔らかい温もりが伝わってきた。確かに、これは女を縛った男が、女に最初にする行為だった。
「ごめんなさい。京子さん」
純は京子の胸と太腿を触っていることを謝った。
「いいの。気にしないで。遠慮しないで触って」
京子が言った。
「じゃあ、これで撮るから」
カメラマンが言って、三脚を京子の前に立てた。純の顔は京子の後ろに隠れて見えない。触っている男の顔が見えない方がエロチックである。
「さあ。京子さん。悶えた顔をして」
カメラマンが言った。京子は口を半開きにして、眉を寄せ、悶えた表情をした。
「そう。いいよ」
パシャ。パシャ。
カメラマンがシャッターを切った。
「じゃあ、今度はパンティー一枚になって、今と同じ構図の写真を撮るよ」
編集者が言った。縄師のNが来て、京子の縄を解いた。

縄師は京子のブラウスを脱がせ、スカートを脱がせた。そして、ブラジャーを外した。京子の豊満な乳房が顕になった。腰にとどくほどの長いストレートの髪が美しい。縄師は縄を持って京子の背中に回った。そして京子の両手を背中に回して、手首を重ね合わせた。縄師は京子の重ね合わせた手首を縛ると、その縄を前に回して、京子の乳房を挟むように乳房の上下を、それぞれ二巻きずつ、カッチリと縛った。縄に締め上げられて、乳房が上下の縄の間から、搾り出されているかのように、クッキリと弾け出た。華奢な二の腕は、縄が食い込んで窪んだ。京子はパンティー一枚だけである。

いよいよ京子が裸になりだしので、純は激しく興奮した。
「さあ。純君。さっきと同じように、後ろから、彼女の胸を触って」
編集者が言った。純は京子の背中にピタリと体をくっくけた。そして、両手を前に回して、京子の豊満な乳房を触った。
「ああっ」
触った瞬間、京子が思わず、声を出した。
「ご、ごめんなさい。京子さん」
純はあわてて謝って、手を引こうとした。
「いいの。思わず、声を出しちゃったけど。気にしないで。好きにして」
京子が言った。純はほっとした。京子の柔らかくて温かい乳房の感触が最高に心地いい。
「京子さん。じゃあ、また、悶えた顔をして」
と編集者が言った。京子は言われたように口を半開きにして、苦しげに眉を寄せた。
「そうそう。その表情」
カメラマンがそう言ってシャッターを切ろうした。
「ちょっと待って」
編集者がカメラマンを制した。
「純君。ちょっと京子さんの乳房や乳首を揉んでみて。乳首が立ってないから。揉めば乳首が立ってくるから。悶えた表情も演技じゃなくって本当に興奮してた方が、もっと迫真にせまったいい表情が出るから。ちょっと、京子を後ろから弄んで本当に興奮させてみて」
編集者が言った。
「いいのよ。純君。遠慮しないで好きなことをして」
京子が言った。編集者は等身大の鏡を持ってきて、京子に向くようにして、少し離れた位置に置いた。今まで見えなかった京子の正面が純に見えた。
「こうすれば自分の恥ずかしい姿が見えるから、より興奮するだろう。純君。さあ、やって」
編集者が言った。
「ご、ごめんなさい。京子さん」
純は、京子に謝って、ゆっくり乳房を揉み出した。そして乳房を指先でスッとなぞったり、乳首をつまんだり、弄くったりした。純にとって、女の体を触るのは生まれて初めてだったので、純はビンビンに勃起して、夢中で京子の乳房を愛撫した。純は、こういう悪戯を想像で、していたので、初めてでも上手かった。純はさらに首筋をくすぐったり、尻を触ったり、脇腹をくすぐったりした。
「ああー。か、感じちゃうー」
京子は、ハアハアと喘ぎ声を出し始めた。乳首が大きく尖り出した。純は京子の後ろにいるので京子の乳首は見えないが、乳首の感触でわかった。純は大きくなり出した乳首をさらに、つまんだり、コリコリさせたりした。乳首は、それにともなって、さらに大きくなっていった。

京子は、少し後ろ手に縛られた手首を動かそうと揺らした。だが手首は縄でカッチリ縛られているために、はずれない。それは京子もわかっているはずである。京子は拘束されて弄ばれていることに、被虐の快感を感じているかのようだった。
「ああー。か、感じるー」
京子は、激しく悶え声を出した。
「よし。いいよ。その調子。演技よりずっといい。本当の表情が出ているよ」
カメラマンが言って、ファインダーを覗いた。
パシャ。パシャ。
カメラマンはシャッターを切った。
「じゃあ、次は。京子が足をM字に大きく開いて、純君がパンティーを触っている図を撮るから」
編集者が言った。京子は、ハアハアと息を荒くしながら、膝を立てて足を開いていった。京子の前の鏡に京子の白いパンティーが現われた。京子はもう我を忘れて本気で興奮しているかのようだった。
「純君。まずパンティーを肉ごとつまんで」
編集者が言った。
「京子さん。ごめんなさい」
純はそう言って、京子のこんもりしたパンティーを肉ごとつまんだ。
「ああっ」
京子が反射的に声を出した。
カシャ。カシャ。
カメラマンがシャッターを切った。
「よし。じゃあ、次はパンティーの中に手を入れて」
編集者が言った。
「京子さん。ごめんなさい」
純が言った。
「いいのよ。純君。遠慮しないで」
京子が言った。純は、片手で京子の乳房を触って、片手をそっと京子のパンティーの中に入れた。いやらしい図である。京子は、
「ああー」
と鏡を見て、パンティー一枚で後ろ手に縛られて、股を開いている自分の姿を見て、苦しい喘ぎ声を出した。純は、パンティーの中の柔らかい温かい肉の感触に激しく興奮していた。
「京子さん。もっと足を開いて、足首をピンと伸ばして。女は興奮すると足首を伸ばすでしょ」
カメラマンがファインダーを覗きながら言った。カメラマンに言われて、京子は足首を爪先までピンと一直線に伸ばした。
「そうそう」
パシャ。パシャ。
カメラマンがシャッターを切った。
「ようし。じゃあ、このポースでの撮影はこれでおわりだ」
編集者が言った。
純は、ほっとしたように京子のパンティーから手を出した。

「じゃあ、今度は畳の部屋に行こう」
編集者が言った。編集者と緊縛師とカメラマンと京子と純は、隣の畳の部屋に行った。パンティー一枚で後ろ手に縛られて移動する京子は、他の四人が服を着ているのに、一人だけパンティー枚で、惨めそうだった。畳の部屋には、真ん中に大黒柱があり、天井には梁があった。
「では、縄師のNさん。京子さんの後ろ手の縄を解いて、元にもどして下さい」
編集者が言った。縄師は、言われたように、京子の胸の縄を解いて、後ろ手の手首の縄も解いた。これで京子はパンティー一枚の自由な身になった。京子の手首にはクッキリと縄の跡がついていた。自由の身になっても、京子は恥ずかしそうに、手のやり場に困っていた。自然と片手を顕になった乳房へ、そしてもう片方の手はパンティーの上を覆っていた。
「では、今度は、手首を頭の上で縛って、天井の梁に吊るして下さい」
編集者が言った。京子は両方の手を前に差し出した。縄師は、京子の手首を縛った。そして、椅子を持ってきて、椅子の上に乗り、縄尻を天井の梁に通して、引っ張った。引っ張るのにつれて京子の手首が、どんどん高く上がっていき、頭の上まで引き上げられた。さらに縄師は縄を引いた。京子の腕がピンと伸び、縄がピンと張った。そこで縄師は縄を梁に結びつけた。

京子は、まさに縄で吊るされた形になった。大きな二つの乳房が隠しようもなく顕になっている。京子は頬を赤くした。縄師は、椅子をどけようと、椅子を持って離れようとした。
「待った。椅子はそのまま京子の横に置いといて」
編集者が言った。縄師は椅子を残したまま離れた。純は疑問に思った。椅子は、京子を吊るすための道具であり、吊るしてしまえば、何も無い方が、女が救われようがなく見える。だが、その疑問はすぐにわかった。
「純君。椅子の上に立って」
編集者が言った。純は言われて、椅子の上に立った。
「純君。では、カメラに後ろを向いて、梁に結びつけられている縄を両手でつかんで」
言われて純は両手で、梁に結びつけられている縄を両手でつかんだ。あたかも純が椅子に乗って京子を吊るしているかのような図になった。
「そうそう」
編集者は納得したように言った。
「では、カメラマンさん。これで撮影おねがいします」
編集者は言った。カメラマンは、純が、京子を縄で吊るしている図が上手く収まる位置に三脚を立て、カメラのファインダーを覗いた。
カシャ。カシャ。
カメラマンはシャッターを切った。純がパンティー一枚の京子を吊るしている写真が撮られた。
「じゃあ、今度は吊るされた京子を純君が後ろから、悪戯している写真を撮るから。純君は京子の後ろに回って」
編集者が言った。純は編集者に言われたように京子の背後に回った。
「さあ。後ろから、京子の胸を揉んで」
編集者が言った。言われて純は京子の背後から、京子の乳房に手を当てた。
「ああっ」
京子は思わず声を出した。
「ごめんなさい。京子さん」
純は咄嗟に謝った。
「いいの。純君。私、純君にいじめられる事が嬉しいの。遠慮なく、好きなことをして。うんといじめて。私が喘ぎ声を出しても続けてやって」
京子が言った。
「あ、ありがとうございます。京子さん」
純は言った。そして、京子の乳房を両手で揉んだ。
「ああー」
京子は眉を寄せて、苦しそうな顔で口を半開きにした。
パシャ。パシャ。
カメラマンがシャッターを切った。吊るされて、後ろから男の手が女の体を這い回るという図は、極めてエロティックで読者を興奮させるものである。純も、だんだん興奮してきた。
「さあ。今度はこれを使って、京子をくすぐって」
そう言って編集者は、純に二本の筆を渡した。
純は、二本の筆をとって、京子のガラ空きの脇の下を筆の先で、くすぐった。
「ああー」
京子は、体を捩って悶えた。元々、こういうスケベな悪戯に関しては、純は想像力豊かである。
「いいよ。その責め」
編集者が言った。
パシャ。パシャ。
カメラマンがシャッターを切った。
「じゃあ、今度は、片手で京子の乳房を揉み、片手を京子のパンティーの中に入れて」
編集者が言った。
純は筆を畳の上に置き、片手で京子の乳房を揉み、片手を京子のパンティーの中に忍び込ませた。
「ああー」
京子は、体を捩って悶えた。極めてエロティックな図である。
「いいよ。そのポーズ」
編集者が言った。
パシャ。パシャ。
カメラマンがシャッターを切った。いかにもエロティックな図である。
「純君。じゃあ、今度はパンティーを下げていって」
編集者が言った。純は京子の後ろで屈んで、京子のパンティーのゴムの縁をつかんでパンティーを下げて行った。パンティーが膝の上まで降りた時。
「ストップ。そこで止めて」
と編集者が言った。
純は、降ろしかかったパンティーを膝の上で止めた。この方が、いかにも脱がされかかっているように見える。SMのエロティックな写真を見る人が興奮するのは、女の惨めな姿に対してであるが、さらには、そういう写真を撮ろうとする見えざる製作者のスケベな精神に対しても、読者は興奮するのである。
「いいよ。それで」
編集者が言った。
パシャ。パシャ。
カメラマンがシャッターを切った。
パンティーを脱がされかかった京子の写真が撮られた。
「純君。立って。そして、片手を京子の乳房に当て、片手を京子のアソコに当てて」
編集者が言った。
純は立ち上がった。そして、片手を京子の乳房に当て、片手を京子のアソコに当てた。覆うように、ほんの少し触れるだけだった。裸の女を後ろから、弄んでいるようにも見え、また、裸の女の恥ずかしい所を、読者に見せないよう隠しているようにも見えて、両方に解釈できる図である。
パシャ。パシャ。
カメラマンがシャッターを切った。
「よし。純君。じゃあ、今度は前に来て」
編集者が言った。純は言われて京子の前に回った。編集者は椅子を京子の前に置いた。
「さあ。これに座って」
編集者が言った。純は椅子に座った。編集者が純に、細い、しなる竹の棒を渡した。
「さあ。これで京子の体を突いて」
編集者が言った。
「いいのよ。純君。やって」
京子が純の躊躇いを察するように先回りして言った。純は竹の棒の先で、京子の乳房や乳首を捏ねくりまわした。
「ああー」
京子は思わず、悶え声を出した。
パシャ。パシャ。
カメラマンがシャッターを切った。純はカメラに対して背中を向けているので、顔は見えない。頭の後ろが見えるだけで安全である。それは、いかにも、まだセックスを知らない子供が、大人の女にする最もエッチな行為に見えた。実際、純はまだセックスを知らない。こういう悪戯が一番、純には興奮するのである。純が竹の棒の先で京子の乳首を転がしている内に、だんだん京子の乳首が勃起してきた。
「よしよし」
編集者はニヤリと笑って、京子の前に行き、京子の勃起した乳首の根元を糸で括った。そして、その先を純に手渡した。
「さあ。これを引っ張って」
編集者が言った。
「い、いいのよ。純君。遠慮なく引っ張って」
京子が言った。
「ごめんなさい。京子さん」
そう言って純は、糸を引っ張った。糸が京子の乳首から純の手へと、ピンと一直線に張った。京子の乳首が引っ張られて、それにつれて、京子の乳房がせり上がっていった。
「じゅ、純君。遠慮しないで。思い切り引っ張って」
京子が言った。純は、京子に言われて、糸を強く引っ張った。糸がピンと一直線に張った。京子の乳首が強く引っ張られて、重力で下垂した乳房の下が持ち上がり、京子の乳房は乳首を頂点とした円錐形のようになっていった。
「ああー」
京子が思わず声を出した。
「痛くないですか。京子さん」
純が聞いた。
「大丈夫。何でもないわ」
京子が言った。
「よし。カメラマンさん。これで撮影おねがいします」
編集者が言った。
パシャ。パシャ。
カメラマンはシャッターを切った。純が余裕で座って、京子の乳首に糸をとりつけて、引っ張っている図の写真が撮られた。いかにも子供が、大人の女を、意地悪く、いじめている図である。
そのあと、京子の縄を解いて、今度は、京子のパンティーを脱がして丸裸にして、後ろ手に縛り、床に寝転がして、京子の片足を梁に吊り上げた。そして純が京子の顔を踏んでいる写真や竹の棒で、京子を突いている写真など様々な格好の緊縛写真を撮った。

「よし。もう、これぐらいでいいだろう」
編集者が言った。
やっと撮影が終わった。編集者は携帯を取り出して、スタジオの管理者に電話した。
「やあ。撮影は終わったよ」
編集者が言った。
「では、すぐ行きます」
管理者が答えた。直ぐに、スタジオの管理者が車で来た。
「どうでしたか。出来は?」
管理人が聞いた。
「ああ。最高にいいのが撮れたよ」
編集者は言った。
「じゃあ、今日の仕事はこれで、おわりにしよう。どうも有難うございました」
編集者は、カメラマンと縄師に礼を言って、金をわたした。
「では、私は出版社にもどるけど、純君と京子さんはどうするかね」
編集者は、京子と純に聞いた。
「私は電車で帰ります」
京子が言った。
「純君はどうする?」
編集者が聞いた。
「ぼ、僕も電車で帰ります」
純が答えた。
「そう。じゃあ、少ないけど、今日の謝礼」
と言って、編集者は、京子と純に封筒を渡した。純は封筒を覗いた。五万円あった。
「うわあ。こんなに。たくさん。どうも、ありがとうございます」
純は礼儀正しく頭を下げて礼を言った。編集者は嬉しそうに笑って、車に乗った。
「京子さん。ぜひ、また撮らせて下さいね」
そう言って編集者は、エンジンをかけて車を出して去っていった。

   ☆   ☆   ☆

あとには、京子と純が残された。純は、京子と二人きりになって照れくさそうにモジモジしていた。
「あ、あの。今日はどうも有難うございました」
純は照れくさそうに京子に頭を下げた。
「ねえ。純君。ちょっと、お茶でも飲んでいかない」
京子が笑顔で言った。
「は、はい」
純は、ドキンとして心臓が高鳴った。実は純は、その言葉をかけられるのを心待ちにしていたのである。二人は、夕暮れの街を歩いた。
「純君。何か食べたい物ある?」
「い、いえ」
本当は、お腹が少し減っていたのだが、遠慮した。純は照れ屋なのである。
「ここでいい?」
京子が、ある喫茶店の前で止まった。
「え、ええ」
純は顔を赤くして答えた。二人は喫茶店に入った。京子と純は窓際のテーブルに向かい合わせに座った。ウェイターが来た。
「何にいたしますか?」
ウェイターが聞いた。
「純君。何がいい?」
京子は笑顔で聞いた。
「こ、紅茶をお願いします」
純は声を震わせながら言った。
「じゃあ、紅茶二つと、チーズケーキ二つ」
京子はウェイターに言った。
「はい。かしこまりました」
そう言ってウェイターは厨房に向かった。すくに、ウェイターは、紅茶とチーズケーキを持って来た。
「純君。今日はありがとう」
京子はチーズケーキを切りながら言った。
「い、いえ。僕の方こそ、本当に有難うございました」
純も京子に合わせるようにチーズケーキを切りながら言った。
「でも、純君に、裸の恥ずかしい姿を見られちゃって、悪戯されちゃって、恥ずかしいわ」
京子は、スプーンで紅茶をかきまぜながら言った。
「ご、ごめんなさい」
純は、京子にした数々の悪戯を思い出して赤面した。
「ふふ。いいのよ。私、純君にいじめられるのが、すごく嬉しいんだから。今日は最高に興奮しちゃったわ。いじめる人も、大人の男の人ばかりだと、やっぱり、少し怖いわ。裸にされて縛られちゃったら、何をされるかわからないもの。完全に我を忘れて、身を任せることは、どうしても出来ないわ。その点、純君のような、かわいい子にいじめられるのなら、安心して、我を忘れて、身を任せることが出来るもの」
この京子の発言に純は喜んだ。
「京子さん」
純が真顔で京子を見た。
「なあに?」
「どうして、写真集の小包に、京子さんの住所、書いてくれなかったんですか?」
純は強い語調で聞いた。
「ごめんなさい。それは。純君の気持ちを知りたかったの。もしかすると純君は、私のことを知るために、出版社に電話してくるかもしれないかなって思って。まさにそうなって、私、すごく嬉しいわ。そこまで私のことを想っていてくれたなんて」
「そうだったんですか」
純はほっとして紅茶を一口、啜った。
「京子さん。僕、大磯ロングビーチで京子さんと別れてから、毎日、京子さんのことばかり想っていました。僕、京子さんが好きです」
「それは嬉しいわ。ありがとう。私も純君が好きよ」
そう言って京子は紅茶を一口、啜った。
「ねえ。純君。また、いじめてくれない。今度は二人きりで」
京子は身を乗り出して言った。
「は、はい」
純は有頂天になった。
「ありがとう。ふふ。今度は純君にどんな、悪戯をされるか、楽しみだわ」
京子は無邪気に笑った。純は、京子と二人きりで、誰にも見られずに、心ゆくまで京子に悪戯できると思うと、有頂天になった。
「あ、ありがとうございます。まるで夢のようです」
純はペコペコ頭を下げた。純は、まるで、欲しくてしょうがない玩具を手に入れた子供のような気分だった。
「じゃあ、純君の連絡先を教えて」
そう言って京子は携帯電話を取り出した。そして純に渡した。携帯は、電話帳登録画面だった。
「純君。純君の携帯のアドレス入力してくれる?」
京子が言った。
「は、はい」
純は喜び勇んで、自分の携帯番号とメールアドレスを京子の携帯電話に入力した。そして京子に返した。
「あ、あの。僕にも京子さんの連絡先を教えてもらえないでしょうか?」
純は遠慮がちに、おそるおそる聞いた。
「えっ。そ、それは・・・」
京子は眉を寄せて困惑した表情になった。
「ダメでしょうか?」
純がもの欲しそうな口調で聞いた。
京子は、しばし迷って考え込んでいるようだったが、しばしして、やっと決断したらしく、パッと顔を上げて純を見た。
「わかったわ。いいわよ。じゃあ、純君の携帯、貸して」
京子が言った。
「はい」
純は喜んでカバンから携帯を取り出し、京子に渡した。京子は純の携帯を受け取ると、ピピピッと操作して、純に返した。純はすぐに携帯を見た。京子の携帯番号とメールアドレスが入力されていた。
「あ、ありがとうございます。京子さん」
純は、ペコリと頭を下げて礼を言った。

「純君のお父さんって、どんな人?」
京子が聞いた。
「しがない会社員です」
「純君は、父子家庭だから、母親の愛に餓えているのね」
「は、はい。そうです」
「学校で好きな女の子はいないの?」
「いません」
「どうして?」
「みんな明るくて、僕みたいに暗い性格じゃ、とても彼女なんて作れません」
純はそう言って、チーズケーキを切って一口、食べた。
「京子さんは、結婚してるんですか。それとも一人暮らしですか?」
今度は純が京子に聞いた。
「ふふふ。どっちだと思う?」
京子が逆に聞き返した。
「一人暮らしだと思います」
純は自信をもって答えた。
「どうしてそう思うの?」
京子は純の目を見つめながら聞いた。
「だって、結婚してたら、夫とのセックスで満足できるんじゃないでしょうか。僕が好きだとか、わざわざ僕に会いに来てくれるなんて、性欲が満たされていないんじゃないでしょうか?」
「ふふふ。そうよ。その通りよ。一人暮らしよ」
京子は紅茶を啜りながら言った。

二人はチーズケーキを食べた。
「じゃあ、今度いつか、どこかで会いましょう」
京子が言った。
「はい。ありがとうございます」
純はペコリと頭を下げて礼を言った。二人は喫茶店を出た。少し行くと、地下鉄の駅が見えてきた。
「じゃあ、私、ここで地下鉄に乗るわ。この道をもうちょっと行けば、JRの××駅が見えてくるわ」
京子が言った。
「今日は本当にありがとうございました」
純は深々と頭を下げた。
「さようなら。気をつけてね」
京子は笑顔で手を振って地下鉄の入り口に入って行った。
純はウキウキしてJRの駅に向かった。
その晩、純はなかなか眠れなかった。

   ☆   ☆   ☆

翌日になった。
純は授業中も上の空だった。その日の晩、純は京子にメールを送った。
「京子さん。愛してます。純」
と、極めて簡単なメールだった。純は控えめな性格なので、すぐにメールを送ることを躊躇っていたのである。純はホクホクした。京子が、どんなメールを返してくれるかと思うと。だが、一日経っても、二日経っても、メールの返事は来ない。純はだんだん焦り出した。もしかするとメールアドレスを京子が書き間違えたのかもしれない。そう思って純は、京子に電話してみた。
「はい。マクドナルド××店です」
純は驚いた。
「あ、あの。そちらに佐々木京子さんという女の人はいませんか?」
「は?アルバイトの人ですか?」
「は、はい。右の頬っぺたに黒子のある人です」
「いや。いません」
「そうですか。わかりました」
まさか。電話番号も間違えるはずなどない。と、純は疑念が起こってきた。それで、もう一度、メールを送ってみた。
「そちら様は佐々木京子さまでしょうか。もしかするとアドレスが間違っているかもしれませんので、間違っていた場合はご返答いただけると幸いです」
すると、すぐに返事のメールが返ってきた。
「間違いです」
とだけ書かれていた。純は頭が混乱した。電話番号もメールアドレスも間違えるとは、考えられない。これは、間違えたのではなく、京子が故意にデタラメを入力したのだ。純はそう思った。ガッカリした。京子は、笑顔とは裏腹に純とは、もう会いたくないのだと、思っていたのだ。それから純の失意の日が続いた。京子の写真を見るのも嫌になった。大人はずるい。純にとって京子は女神のような存在だった。純の京子に対する想いは宗教の信者の想いにも近かった。その気持ちが一挙に逆転したのである。それは、愛情の法則であって、いくら相手が美しくても相手が自分に好意を持っていないのであれば、自分も相手に好意を持つことは出来なくなる。
純は京子のことは忘れて勉強に打ち込むことにした。しかし、さびしい。そんな、むなしい日々が続いた。
ある時、純が机に向かって勉強していると、携帯電話がピピピッと鳴った。発信者非通知なので、誰だか分からない。
「はい。もしもし。岡田純です」
「あっ。純君。元気?京子です」
それは忘れもしない京子の声だった。純は吃驚した。嬉しさもあったが、口惜しさもあった。
「京子さん。電話番号もメールアドレスも違うじゃないですか。どうして、わざとデタラメ入力したんですか?」
「テヘヘ。ごめんね。怒った?」
「いえ。でも、さびしいです。どうしてデタラメ入力したんですか?」
「ごめんね。純君に電話番号やメールアドレス教えちゃうと、それにふけって、勉強が疎かになるんじゃないかと思ったの」
「そうですか」
純はさびしそうに答えた。
「それと、純君が毎日、電話かけてきたら、私も困っちゃうから、どうなるか、咄嗟にわからなくて、デタラメ入力しちゃったの。ごめんね」
「そうですか。わかりました。でも、電話してくれて、ありがとうございます。ものすごく嬉しいです」
「純君。今週の日曜、あいてる?」
「ええ」
「じゃあ、今週の日曜、会ってくれる?」
「ええ。どこで会うんですか?」
「あの。日曜日、純君のお父さん、家にいる?」
「いえ。土曜から父が大阪に出張しますので、日曜はいません」
「じゃあ、今週の日曜日、純君の家に行くわ。楽しみにしてるわ」
そう言って京子は電話を切った。

なにはともあれ純は嬉しくなった。
鉛筆を握る手に力が入った。京子は一人暮らしである。ということは、おそらく独身だろう。純は将来、東大法学部を主席で卒業して、大蔵省に入り、大蔵官僚になって、京子にプロポーズしようと思った。歳の差はあっても、そんなことはどうでもいい。学校での勉強も、今まで以上に熱が入った。教師の喋ることは、一言残らずノートした。純の夢想は、京子との結婚に変わった。ハネムーンはハワイに行こうと思った。なぜ純がハネムーンをハワイにしたかというと、純は数年前、父親と一緒に一週間のハワイ旅行をしたことがあって、それでハワイを気に入ってしまったからである。純は京子との結婚生活を想像してワクワクした。ワイキキビーチでうつ伏せに寝ているセクシーなビキニ姿の京子が、
「ねえ。あなた。オイル塗って下さらない」
と頼み、純はウキウキして、オイルを塗る。サーフィンをしたりする。十分、新婚旅行を楽しむ。そして帰国する。純は寛容なのでセレブな京子に多少は浮気をすることも許す。しかし料理だけは、ちゃんと作るように命じる。京子が風呂に入っている間に、京子の服をとってしまって京子を困らす。京子が寝ている間に裸にしてしまう。いきなり襲いかかって、後ろ手に縛り上げる。そんなことを純は想像した。そんな事を想像すると純は、大蔵官僚にならなくてはと、ますます勉強に熱が入った。

   ☆   ☆   ☆

日曜日になった。
純は、京子が来るのを今か今かと待っていた。純の父親は昨日から仕事で出張していて、いない。昼頃になった。ピンポーン。チャイムが鳴った。純はワクワクしてドアを開けた。薄いブラウスにフレアースカートの京子が立っていた。
「こんにちは。純君」
京子は微笑んでペコリと頭を下げた。久しぶりに会えた京子に、純は小躍りして喜んだ。
「やあ。どうも、わざわざ来て下さって本当に有難うございます。最高に嬉しいです。さあ。どうぞ。中へ入って下さい」
「じゃあ、お邪魔します」
そう言って京子は家に上がった。純は京子を居間に案内した。京子は純にすすめられてソファーに座った。
「お父さんは?」
京子はキョロキョロ家の中を見た。
「父は仕事で昨日から大阪に行っています」
純は答えた。純は、台所に行って、紅茶を持ってきた。京子は紅茶を一口、啜った。
「京子さん。来て下さってありがとうございます。本当に嬉しいです」
純は京子の隣に座って、京子の手をヒシッと握った。
「いえ。いいの。それより、この前は、携帯とメールをデタラメ入力しちゃって、ごめんね」
「いえ。いいです。気にしてません」
「ありがとう。純君。もっと怒ってるかと思ってたの」
「いえ。今日、京子さんが来てくれただけで、僕はもう最高に幸せです」
「ありがとう。純君。じゃあ、お詫びも兼ねて、この前の約束通り、純君にいじめられるわ。さあ。私を好きにして」
京子が言った。純はゴクリと唾を呑み込んだ。しばし京子をじっと見つめていたが、純は、京子が来てくれたことの嬉しさ、や、さみしさからジーンと涙が溢れ出てきた。純は、堪らなくなって、わっと、京子に抱きついた。
「ああっ。京子さん。好きです」
純は叫んで、京子の胸に顔を埋めた。京子は、ふふふ、と笑って、純の頭をやさしく撫でた。しばし純は、そのままでいた。純は至福の思いだった。やっと京子と二人きりになれたのである。純は、ずっと京子に抱きついていたいと思った。
「純君。この前のお詫びをしたいわ。私をいじめて」
京子が言った。だが純はどうしていいか、わからない。京子をいじめることなど優しい純には出来なかった。
「どうすればいいんですか?」
純が聞いた。
「私を裸にして。そして縛って」
京子がねだるように言った。だが、気の弱い純は、自分の意志で京子の服を脱がすことなど出来ない。撮影の時は縄師が京子を裸にしたり縛ったりと、お膳立てしてくれたから京子を弄ぶことが出来たのである。それを覚ったかのように京子は、ふふふ、と笑った。
「じゃあ、私が脱ぐわ」
そう言って京子は服を脱ぎ出した。京子はブラウスを脱ぎ、スカートを脱いだ。そして、ブラジャーを外し、パンティーも脱いで丸裸になった。そうして京子は、カーペットの上にペタンと座り込んだ。
「は、恥ずかしいわ」
そう言って京子は両手を背中に回して、背中で手首を重ね合わせた。
「ふふふ。さあ。純君。縛って」
京子は、ねだるように言った。これで純も京子を縛る決心が出来た。
「じゃあ、縛らせてもらいます」
そう言って、純は背中で重なり合っている京子の手首を麻縄で縛った。これでもう、京子は手が使えなくった。
「ふふふ。純君に縛られちゃった。恥ずかしいわ。怖いわ。あんまりいじめないでね」
京子は笑って言った。相手がおとなしい純なので、京子は安心しているのだろう。無防備な様子である。だがピッチリと太腿を閉じ合わせている。
「京子さん。恥ずかしいですか?」
「え、ええ」
「じゃあ、パンティーを履かせてあげます。立って下さい。恥ずかしいでしょうから後ろを向いて下さい」
言われて京子は後ろ向きに立ち上がった。大きな尻が純の目の前でムッチリと閉じ合わさっている。純は京子の脱いだパンティーを拾うと、京子の足を通して、スルスルっと上げて、ピッチリと京子にパンティーを履かせた。京子は再びペタンと座り込んだ。
「あ、ありがとう。純君。純君って優しいのね」
そう言って京子はニコッと微笑んだ。純の目の前には京子の豊満な乳房が丸出しになっている。思わず純はそれを見てゴクリと唾を呑み込んだ。
「ああっ。好きです。京子さん」
純はそう言うや、京子に抱きついて、顔を胸の谷間に埋めた。
「ああっ。温かい。柔らかい。好きです。京子さん」
純は興奮しながら叫んだ。京子は純に抱きつかれた拍子に、そのまま床に仰向けに倒れた。純はしばし、京子の胸に顔を当てて、京子を抱きしめていたが、少しすると、顔を起こして、京子の乳首をチューチュー吸いだした。それは、大人のペッティングというより、母親の母乳を求める赤ん坊のようだった。実際、純は生まれて此の方、母親を知らない。
「ふふ。純君の甘えん坊」
京子がからかうように言った。
「そうです。僕は、甘えん坊なんです」
純は開き直って言った。しばし、京子の乳首を吸った後、身を起こして、パンティー一枚で、後ろ手に縛られ、仰向けに寝ている京子の体をしげしげと眺めた。京子の体は美しかった。
スラリと伸びたしなやかな脚。細い華奢なつくりの腕と肩。細くくびれたウェスト。それとは対照的に太腿から尻には余剰と思われるほどたっぷりついている弾力のある柔らかい尻の肉。パンティーは、はち切れんばかりに、その大きな尻の肉を収めて女の腰部を美しく整えている。それらが全体として美しい女の肉体の稜線を形づくっていた。純は、しばし、ゴクリと唾を飲み込んで、美しい人形のような京子の体を眺めていたが、その柔らかい肉の感触を調べるように、そっと京子の体のあちこちを触りだした。純は、京子の腹や太腿、など京子の頭の先から足の先までを隈なく触っていった。そして、京子の体をペロペロ舐めた。
「ふふふ。京子さんのお臍」
「ふふふ。京子さんの足の指」
などと言いながら。
それは、まるで欲しがっていた玩具を手に入れて有頂天になっている子供のようだった。
京子は、
「ふふふ。くすぐったいわ」
と言って身を揺すった。
「ああっ。京子さんは僕の物だー」
純は耐え切れなくなったかのように、叫んで、京子をあらためて抱きしめた。純はしばし、京子を抱きしめていたが、思い立ったように、パッと京子から離れた。そして、急いで、京子のハンドバックを開けた。中にはハンカチとコンパクトと財布しか入っていなかった。純は急いで財布を開けた。中には三万円の札と小銭だけしか入っていなかった。携帯電話は無い。京子の身元を確認できる物が何も無い。
「京子さん。どうして携帯も持ってこなかったんですか?」
純が聞いた。
「テヘヘ。縛られて、純君に身元を知られたくなかったから、何も持って来なかったの」
京子は笑いながら言った。
「京子さん。僕はどうしても、あなたと、また会いたいです。身元を教えて下さい」
純は尋問するように言った。
「それは許して」
京子が落ち着いた口調で言った。
「いや。教えて下さい。僕はどうしても、京子さんとの縁を切りたくない」
純は真剣な口調で言った。
「お願い。それだけは許して」
京子が言った。
「そうですか」
純は諦めたような、しかし強気な口調で言った。純は京子のパンティーをスルリと抜き取った。京子は丸裸になった。純は縄を手にして、京子の足首をムズとつかんで京子の両足首を纏めて強く縛った。
「な、何をするの?」
京子が聞いた。
「京子さんが逃げられないようにして、そして、京子さんを拷問するためです。京子さん。僕は、京子さんが住所と電話番号を言うまで拷問します」
「や、やめて。純君。許して」
京子は脅えた口調で言った。
「ダメです。これだけは。やめて欲しかったら、住所と電話番号を喋って下さい。そうすれば直ぐ止めます。さあ。どうですか」
純は問い詰めた。
「ゆ、許して。お願い」
京子は悲しそうな顔で純に訴えた。
「そうですか。それでは拷問します」
そう言って純は、京子の脇腹をコチョコチョとくすぐり出した。
「あはははは。や、やめてー。純君」
京子は、身をくねらせながら訴えた。だが純は京子の訴えなど無視して、くすぐり続けた。京子は、苦しそうに笑いながら、身をくねらせながらも、
「やめてー」
と言うだけで口を割ろうとしない。しばしして、純はふーと溜め息をついて、くすぐりをやめた。
「この程度の責めじゃダメなようですね。じゃあ」
と言って純は、京子の乳首をコリコリと指先でくすぐり出した。
「な、何をするの?」
京子が聞いた。だが純は答えない。純は黙って乳首を乳首や乳房をくすぐり続けた。
「ああっ」
京子は、眉を寄せて苦しげな喘ぎ声を出した。同時に、京子の乳首が大きく勃起してきた。「よし」
純は、くすぐりを止めた。そして糸を持ってきて、京子の勃起した乳首の根元に巻きつけた。
「な、何をするの?」
京子は、不安げな表情で純を見た。純は答えず、乳首の根元を巻いた糸の両側を引っ張っていった。だんだん乳首の根元が引き絞られて、縊れていった。
「ああっ」
京子は、脅えた表情で声を出した。だが純は容赦なく、どんどん引っ張っていった。乳首の根元は、益々、縊れていった。
「い、痛いー」
京子は、大きな声を出した。だが純は止めない。さらに強く引っ張っていった。
「や、やめてー。純君。お願い」
京子は辛そうな顔で訴えた。
「住所と電話番号を言って下さい。言ったら直ぐ止めます」
純は何としても京子の身元を吐かせたい一心で真剣そのものだった。
「さあ。早く言って下さい。言わないと乳首がちぎれちゃいますよ」
そう言って純は、さらに強く糸を引っ張った。だが京子は、
「許して。お願い。許して」
と哀願するばかり。とうとう京子は、
「痛いー」
と叫んでクスンクスン泣き出した。純はとうとう、諦めて糸を緩めた。純は、京子の体に傷をつけることは出来なかった。

しかし京子の身元を吐かせることも諦められない。純は京子をうつ伏せにした。
「な、何をするの?」
京子が脅えた口調で聞いた。純は、京子の背中で後ろ手に縛られている右手の人差し指と中指をつかんで、グイと開き出した。指裂きである。
「さあ。京子さん。身元を言って下さい」
そう言って純は、さらにグイグイと京子の指を開いていった。だが、今度も、京子は、
「ああー。痛いー」
「許してー。お願い」
と泣き叫ぶばかり。かなりの時間、責めたが京子は喋ろうとしない。純は仕方なく諦めて、指裂きを止めた。

純は、やれやれといった表情で立ち上がって、居間を出た。そして、椅子と縄とハサミを持って戻ってきた。純は椅子を京子の隣に置いた。そして純は、持ってきた縄の片端に小さな輪を作った。そして、もう一方の縄の先端を、作った輪の中に通して、首吊りの縄のようにした。そして純は、その縄を京子の首に巻いた。
「こ、今度は何をするの?」
京子は脅えた表情で純を見た。
「今度こそ、京子さんの身元を吐かせるんです」
そう言って、純は縄尻を持って、椅子の上に乗り、天井の梁にひっかけた。そして椅子から降りて、縄の先を京子の足首を縛っている縄に通した。
「さあ。京子さん。うんと頭と足を高く上げて体を反らして下さい」
純が命令的な口調で言った。
「な、何をするの?」
京子は脅えた顔つきで、純に聞くだけで、頭と足を上げようとしない。
「それでは、仕方ありませんね」
そう言って、純は京子の肩と足首を持ち上げて、上半身を思い切り反らせた。
「な、何をするの?」
京子は脅えた口調で聞いた。純は黙って、高く上がっている京子の足首の縄に、梁から回してきた縄をカッチリと結びつけた。縄がピンと張った。京子は、うつ伏せで、顔と足を高々と上げている、苦しい弓反りの姿勢になった。純はパンパンと手を払って、ドッカと京子の前のソファーに座った。
「ああー」
京子は悲鳴を上げた。京子は後ろ手に縛られて、腹だけ床につけた、激しい弓なりの姿勢である。しかし、その姿勢をやめて、高々と上がった頭や足を少しでも降ろしたら、首が絞まってしまう。そのため、京子はどんなに苦しくても、弓なりに反った姿勢を保たなくてはならない。
「ああー。純君。お願い。やめて。こんなこと」
京子は叫んだ。だが純は、ふふふ、とふてぶてしく笑った。
「ふふふ。やめて欲しかったら、京子さんの住所と電話番号を言って下さい。そうしたら、すぐに縄を解きます」
純はふてぶてしく言った。これは賢い責め方だった。乳首責め、や、指裂き責めと違って、純の意志で責めるわけではない。純はただ見ているだけでいいのである。京子の意志がどこまで耐えられるかにかかっている。しかし、こんな苦しい姿勢をいついつまでも続けられることが出来るはずがない。時間の問題で京子は、根を上げるだろう。純はそれを、眺めて待っているだけでいいのである。純は立ち上がってキッチンに行き、オレンジジュースとスナックを持ってきて、ドッカと京子の前のソファーに座った。そして、さも余裕綽々のように、足を組んで、ジュースを飲みながら、目の前の京子を見た。京子は激しく体を反っている。全身がプルプル震えている。
「じゅ、純君。お願い。許して」
京子は、体をヒクヒクさせながら悲しそうな目で純を見て訴えた。
「京子さん。これは遊びじゃなく本気です。僕はあなたの身元がどうしても知りたい。今日は父が帰ってきませんから、喋るまで一日でも、二日でも、責め続けます。いずれ時間の問題で、喋ることになるんだから、はやく降参しちゃいなさいよ」
純は、ジュースを飲みながら、ふてぶてしい口調で言った。純は、さも余裕を示すかのように、煎餅を口に入れて、ゆっくりポリポリ噛んで音をさせた。京子は、激しく体を反らせて、全身をプルプル震わせている。
「純君。私を好きなだけ鞭打って。純君の奴隷になります。どんなみじめな姿にも、どんな責めも受けます。だから、この責めだけは、許して」
京子は声を震わせて言った。だが純は、黙って京子を見ながら、ジュースをゆっくり飲んだ。
かなりの時間が経った。京子の体からは脂汗が沸々とにじみ出てきた。純は、京子が相当なハードマゾだと思った。京子は激しく体をガクガク震わせて、
「許して。許して」
と叫び続けるだけである。
「仕方がないなあ」
純は、やれやれといった様子で立ち上がった。純は蝋燭を二本もってきた。そして、その一本を京子の足を吊っている縄に結び付けた。そして、京子の首にかかっている縄の方にも同じように、蝋燭を一本、結びつけた。
「な、何をするの?」
京子は、不安に脅えた目を純に向けた。
「こうするんですよ」
そう言って純は、ライターをポケットから取り出して、蝋燭の芯に点けた。蝋燭に火がぽっと灯った。純はすぐにまた、ソファーに戻ってドッカと座った。熱せられた蝋燭が溶け出して、ポタポタと蝋涙が滴り落ち出した。足の方の蝋燭は、京子の尻に滴り、首の方の蝋燭は、京子の背中に滴り落ち出した。
「ああー。熱いー。純君。お願い。やめてー」
京子は、悲鳴を上げて叫んだ。だが、どんなに身をくねらせても、蝋燭の灯った縄もそれにともなって共に動くので、蝋涙は、容赦なく京子の尻と背中に滴り落ち続けた。ただでさえ、辛い、弓反りの責めに、さらに蝋燭責めが加わった。京子は、
「熱いー。やめてー」
と、激しく身をくねらせながら叫び続けた。だが、純は悠揚とした表情で、苦しみにのたうつ京子を眺めている。
「お願い。純君。やめてー」
京子は、身をくねらせながら叫び続けた。
「やめて欲しかったら、京子さんの身元を言って下さい。そうすれば、すぐにやめますよ」
純は冷徹に言った。しばしの時間が経った。京子の尻と背中は、蝋涙でいっぱいになった。だが京子は、身をくねらせて、許しを乞う悲鳴を上げつづけるだけで、降参しようとしない。純は、いいかげんイライラし出してきた。純は、立ち上がり、ハサミと手鏡を持って、身をくねらせている京子の所に行った。そして、ふっと息を吹きかけて、蝋燭の火を消した。これで、蝋燭責めはなくなった。しかし、苦しい弓なりの責めはつづいている。純は京子の顔の前に座った。
「も、もう、許して。純君」
京子は、弱々しい瞳を純に向けた。
「ずいぶん、頑張りますね。京子さん。でも僕は、あなたの身元を絶対、知りたいから、必ず喋らせますよ」
そう言って純は、手鏡を京子の顔の前にさしだした。
「こ、今度は何をするの?」
京子は、脅えた口調で聞いた。
「本当は、こんな事、したくないんですけどね。京子さんが喋らない以上、仕方がありません」
そう言って純は、京子の長い黒髪の一部をつかんで、それをハサミで挟んだ。
「さあ。喋って下さい。喋らないと、髪を切っちゃいますよ」
「ゆ、許して。純君。それだけは。お願い」
京子は、弱々しい瞳を純に向けた。
「髪は女の人の命ですからね。でも、京子さんが喋ってくれない以上、仕方がありません」
そう言って、純はハサミをジョキンと閉じた。京子の髪の一部がバッサリと切れて床に落ちた。
「ああー」
京子は弱々しい瞳を純に向けた。純はまた、京子の長い黒髪の一部をハサミで挟んだ。
「さあ。これで脅しじゃないってことがわかったでしょう。喋らないと、髪を全部、切っちゃいますよ」
純は冷めた視線で京子を見て、冷徹な口調で言った。
「許して。お願い。純君」
京子は、涙をポロポロこぼしながら訴えた。京子は女の命である髪を切られても、喋ろうとしない。
ここに至って純は、はっと気がついた。
『京子には、どうしても身元を言えない何かの事情があるんだ』
純はそう確信した。
純は、急いで京子の足首を縛っている縄を解いた。縄の緊張がとれて、京子は、長い間、反っていた足をどっと床に落とした。そして高く上げていた顔も床に落とした。純は、京子の首にかかっている縄をはずした。
「ありがとう。純君」
京子は、そう言うと、グッタリと床にうつ伏せになった。純は京子の後ろ手の縄も解いた。これで京子は完全に自由になった。だが京子は、長い時間の疲れから、床にうつ伏せになって、グッタリしている。
「ごめんなさい。京子さん。京子さんには、どうしても身元を言えない何かの事情があるんですね」
純は、グッタリと、うつ伏せになっている京子の尻と背中にいっぱいにこびりついている蝋涙を丁寧に剥がしていった。そして、風呂場に行って、湯を入れた洗面器とタオルを持ってきた。京子は、長い時間、激しく体を反った苦しい姿勢をしていた極度の疲労のため、全身が珠の汗でいっぱいだった。純は、タオルを湯に湿して、京子の汗まみれになった体を丁寧にふいた。京子は長い時間の拷問で、グッタリして微動だにしない。純は、京子にパンティーを履かせ、ブラジャーをつけた。純は敷布団と掛け布団を持ってきた。そして、敷布団を京子の横に敷いた。そして京子を敷布団の上にのせて、掛け布団をかけた。
「京子さん。ごめんなさい。京子さんには、どうしても身元を言えない何かの訳があるんですね。それを気づくことが出来ずに、さんざん苦しめてしまって」
純は看病人のように京子の横に座って言った。
「いいの。気にしないで」
京子は微笑して言った。
「どうして、どうしても言えない事情がある、と言ってくれなかったんですか」
純が聞いた。
「ごめんね。純君。純君に、デタラメの携帯番号と、メールアドレスを言ってしまって、純君を困らせてしまった、お詫びをしたかったの」
京子が答えた。純は、床にある、切られた京子の髪の束を見た。
「京子さん。ごめんなさい。京子さんの大切な髪を切ってしまって」
純は頭を下げて謝った。
「いいの。少しだし、全然、目立たないわ」
「もし僕が気づくのが遅かったら、もっと切っていたかもしれません」
純は悄然とした表情で言った。
「もう、京子さんの身元を聞きだすことはしません。ゆっくり休んで下さい」
そう言って、純は、せめてものお詫びのように、京子の体を優しく揉みほぐした。
「もう、こんなことしたら、京子さんと会えないかもしれません。これは京子さんの記念として、大切にとっておきます」
そう言って純は、床にある京子の髪を集めて拾った。
「ううん。全然、気にしてないわ。純君とは、また会いたいわ」
京子はニコッと笑って言った。
「ありがとうございます」
そう言って純は京子の手をギュッと握った。京子も純の手をギュッと握り返した。

その日、京子と純は、近くのレストランで食事をした。食事中、京子はとても嬉しそうだった。
「純君。学校は楽しい?」
「ええ」
「お父さんには、私のこと、言わないでね」
「はい」
「食事とかは、どうしてるの?」
「ほとんどコンビニ弁当です」
「掃除は?」
「たまにしてます」
「純君は将来、何になりたいの?」
「東大に入って、大蔵省の官僚になりたいです」
「ふふ。すごいのね」
「そして京子さんと結婚したいです」
京子は、ふふふ、と笑った。
「それは無理よ。歳が離れすぎているもん」
「愛し合うことに年齢は関係ないと思います」
純は真面目な口調で言った。
なごやかな話をして、純は京子と別れた。
家に帰って、純はゴロンとベッドに寝た。京子が、何故、身元を明かしてくれないかが気になって仕方がなかった。

   ☆   ☆   ☆

月曜になった。
三時間目の体育の授業の時。ランニングしていると。
「おい。あそこの木の陰に女がいるけど、じっと純の方を見ているぞ」
同級生がそう言って指差した。言われて純が視線を向けると、何と京子らしき女がいた。サングラスをかけて、帽子を被っていたが、体つきといい、ちょっとした仕草で京子とわかった。女は、純と視線が合うと、気まずそうに去っていった。純は吃驚した。
その日の夜、京子から電話がかかってきた。
「純君。こんばんは」
「京子さん。今日、体育の時間に僕を見ていたの、京子さんですよね」
「ええ。気づかれないようにしようとしたけど、ばれちゃったわね」
京子は笑いながら言った。
どうやら、京子はかなり純に好意を持っているようである、と純は不思議に思った。

   ☆   ☆   ☆

そんなある日のことである。純の父親が電車の脱線事故で死んでしまったのである。青天の霹靂だった。一瞬のことだった。
純はこれで父親も母親もいない天涯孤独の身となった。純は父親の兄である伯父の家に移り住むことになった。純の一番近い親戚は、この伯父夫婦しかいなかったのである。ほとんど話したこともないし、伯父夫婦には、不良の高校生の一人息子がいた。叔父の家は寒い北海道である。純は気が進まなかった。だが、仕方がない。
そんな時、京子から、電話がかかってきた。
「純君。お父さんが亡くなっちゃったのね」
「ええ」
「明日、純君の家に行ってもいい?」
「ええ」
翌日は、祝日で学校は休みだった。
純はどうして、京子が、父親が死んだことを知っているのか疑問に思った。その日の夜は、将来に対する不安で心配で、なかなか寝つけなかった。

   ☆   ☆   ☆

翌日になった。
昼過ぎに京子がやって来た。
純は、京子を家に通し、紅茶を出した。
「純君。もう、本当のこと、言うわ」
そう言って京子は話し始めた。
「・・・私ね。純君の本当の母親なの」
純は吃驚した。
「ええー。どういうことですか?僕の母親は、僕が二歳の時に死んでしまったんです。僕は、父からそう聞かされました」
「それは、ウソだわ。純君を傷つけないための」
「どういうことですか?」
「私、純君を産んだけれども。その翌年に、バブルがはじけて。お父さんの会社が倒産しちゃったの。そして多額の借金を抱えて。豪華な家も売り払って。自己破産して生活保護になったの。職安で仕事を探してまた、働き出したけど、ゼロからの出発でしょ。給料も少ないし、生活が苦しくなっちゃって。それで共働きしなくてはならなくなったの。私、パートをするようになって。純君も育てなくてはならない、と思うと。家庭が嫌になっちゃったの。私っていい加減な女なのね。私、割りのいいアルバイトとして、SM写真集のモデルに応募したの。アダルトビデオの女優にもなったわ。その生活の方が面白くなっちゃってSMの世界にどんどん入っていっちゃって。純君と、お父さんに黙って、家出してしまったの。それ以来、お父さんには会わす顔がなくて、ずっと連絡しなかったの」
「そうだったんですか。じゃあ、僕は本当のお母さんにエッチなことをしてきたんですね。これって完全な近親相姦ですね。恥ずかしいです」
「でも近親相姦と知っても、そんなに恥ずかしくないでしょう」
「ええ」
「それは、私が純君とずっと、離れていたからよ」
「どういうことですか?」
「血のつがった親ではあるけれど、育ての親ではないからよ。近親相姦という感覚は、物心つく幼児の頃から、ずっと一緒に暮らしてきた育ての親に対して起こる感情なのよ」
「そうですね。でも、どうして京子さんは、僕の母親であることを言ってくれなかったんですか?」
「それは、私には、純君の母親の資格がないと思ったの。純君を見捨ててしまって、すまないと思っていたから、その罰として純君にいじめられたかったの」
「そうですか」
「私が、二人の男に小屋で襲われていたでしょ。あれは実は、お芝居だったの。純君と関わる機会が持ちたくて。あの男二人は、出版社の社員なの」
「そうだったんですか」
「ねえ。純君。これからは、一緒に暮らさない?」
「それは、願ってもない嬉しいことです。でも、どうして、父に会おうとしなかったんですか?父は、、きっと京子さんを許してくれたと思います」
「純君のお父さんは、もっと、真面目で誠実な女の人と再婚するかもしれないし。その方が、純君にも、お父さんにも、いいと思っていたの。純君のお父さんは謹厳な人だから。私、家を出た後、一度だけ、純君のお父さんに電話したことがあるんだけど、『君とは会いたくない。君には母親の資格がない。純にも決して近づかないでくれ』と言われたの」
「そうだったんですか」
「ねえ。純君。私が、今、住んでいるアパートを引き払って、ここで暮らしてもいい?」
「願ってもないことです」
京子は、住んでいたアパートを引き払って、純の家に越してきた。
こうして純は母親と繰らすようになった。
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