シケンカントク

浅野浩二

文字の大きさ
上 下
1 / 1

完全プラトニックなショートショート恋愛小説

しおりを挟む
ここはあるシケンのシケン会場。拓殖大学の六階。年に一度のシケンなので、受験生は、おちたら、もう一年同じことをやらなくてはならないし、やったからといって、学力が上がる、というわけでもないようなので、一年をこの日のためについやしてきた、のだから、もっとキンチョーしたフンイキでもいいと思うのだが、さほど、はりつめたフンイキではなく、またそうぞうしくもない。シケンカントクは四人で、ジャベール的な人はいなかったので、こちらもリラックスしてシケンという自分とのコドクな戦いに集中できた。若い、京本的なスポークスマンと、うるわしき、いとなやましげなる人がいた。私は、その時のシケンはおちて、同じ勉強をするはめになった。
 ある初夏の日、気がつくと私はその二人をイメージして、掌編小説をかいていた。
 彼らは試験がおわったら、いっしょに車で帰って行った。試験監督おわりの飲み会・・・ということで、これからカラオケスナックに行くらしい。
 スポークスマンの若い男が、
 「二日間、ごくろうさま。」
 と、ねぎらって、カンパーイ。ゴクゴクゴクッ。ウィー。ヒック。
「飲もおー。今日はーとこーとんもーりーあがろーよー(森高千里)」・・・てな具合でもりあがった。
 名前は、スポークスマンが「牧」で、
 女の人は「佐藤」・・である。
 彼は一曲うたったあと、カウンターでマスターと話している。彼は少しの酒ですぐ赤くなる。つかれて少しうつむきかげん。彼女はさりげなくとなりに座ってマスターに、オン・ザ・ロックを注文する。その声に彼はハッと気づいて目がさえる。彼はグラスを手でまわしながら、
 「グラスの底に顔があったっていいじゃないか・・・」
 と、わけのわからんことをつぶやきながら照れくさそうにしている。彼女のあたたかさが伝わってくる。
 「牧さん、おつかれさまでした。」
 「い、いえ。佐藤さんこそおつかれさまです。」
 彼女はおもしろがって、
 「私、忘れっぽいから、お酒がはいった時、言ったことや聞いたことって翌日になると、すっかり忘れてしまって、おもいだそうとしてもおもい出せないの。牧さんは知性的だから、そんなことはないでしょう。」
 彼「い、いえ。僕もまったく忘れっぽいです。」
 彼女、前をみてる彼を微笑みながら、じっとみすえて、
 「私、牧さん好きです。」
 と、きっぱり言った。他の人は離れた所にいて、カラオケをたのしんでいる。室内にひびくマイクの大きさは、彼女のコトバを消すのに十分だった。マスターは気をきかせて、さりげなく厨房に入っていった。スポークスマン、声をふるわせて、
 「ぼ、僕も佐藤さん。好きです。とってもすきです。」
 そのあと、マスターがもどってきて、二人はだまってのみつづけた。
 翌朝、社へ向かう途中の交差点で二人は出会った。彼は少し恥ずかしそうに、
 「おはようございます。」
 と言った。彼女も同じコトバを返した。彼女は空をみて、
 「私、きのう何かいったかしら。ぜんぜんおぼえてないわ。牧さんはおぼえていますか。」
彼は胸をなでおろし、ほがらかな口調ではっきりと言った。
 「僕もまったくおぼえていません。」
 彼はさらにつけ加えた。
 「さ。今週も一週間ガンばりましょう。」
 彼女も快活に「ええ。」と答えた。
 信号が青にかわった。
 人々はそれぞれの目的地へ向かって歩きだす。
 大都会の一日がはじまる。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

僕の女神さま

浅野浩二
恋愛
社内恋愛。シャイな男が同僚の女と大磯ロングビーチ物語で出会う。二人は親しくなる。

銀河鉄道の夜

浅野浩二
恋愛
夜の電車の中。優しい中年のおじさんと若いOLが隣り合って座っていた。OLはおじさんを好きになった。二人を乗せた電車は銀河へと飛び立っていった。爽やかショートショートファンタジー小説です。

完全なる飼育

浅野浩二
恋愛
完全なる飼育です。

駅にて「ショートショート恋愛小説」

浅野浩二
恋愛
駅にて「ショートショート恋愛小説」

身体の繋がりしかない関係

詩織
恋愛
会社の飲み会の帰り、たまたま同じ帰りが方向だった3つ年下の後輩。 その後勢いで身体の関係になった。

義姉の不倫をバラしたら

ほったげな
恋愛
兄と結婚したのにも関わらず、兄の側近と不倫している義姉。彼らの不倫は王宮でも噂になっていた。だから、私は兄に義姉の不倫を告げた……。

【完結】たぶん私本物の聖女じゃないと思うので王子もこの座もお任せしますね聖女様!

貝瀬汀
恋愛
ここ最近。教会に毎日のようにやってくる公爵令嬢に、いちゃもんをつけられて参っている聖女、フレイ・シャハレル。ついに彼女の我慢は限界に達し、それならばと一計を案じる……。ショートショート。※題名を少し変更いたしました。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...