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火曜日・二人の未来その4
しおりを挟む「あ~舞ちゃんねー……なんかトシも浮足立ってたわね~……振られちゃったけど」
利佳子も初めての弟の彼女とのやり取りに緊張したが、隆太朗が場をやんわりとさせてくれた事を覚えている。
「この時も『隆太朗くんも彼女できたら連れてきたらいいのよ』って言われたんだよね」
「……私、結構ひどい……?」
「いや、仕方ないよ~酷いなんて思ってない」
ぎゅ~っと手を握られた。
「……でも、みんな周りは同じ制服着た子達で付き合ったり色々してたのに……私なんかの事……そんなのって……」
何か自分が気付いて、距離を置いておけば隆太朗はもっと幸せな青春があったのではと思ってしまう。
「なんで!? 高校三年間、初恋のお姉さんの事をずっと好きだった~って俺にはいい思い出だよ。こんなに沢山の思い出があるんだよ」
思いもよらない言葉だ。
春夏秋冬、沢山の思い出が写真になって残っていた。
「これ、二人で撮ってもらえた卒業の時」
卒業式のあと、利紀と隆太朗は利佳子の元へやってきて校門の前で写真を撮った。
何故かその時に『今日は二人で撮ってください』と隆太朗に言われたのを覚えている。
利佳子は写真が苦手なので、いつも逃げていたがこの時はさすがに断れなかった。
「俺の大事な写真なんだ。高校卒業して大人への第一歩! ってね」
隆太朗はワインをグーッと飲んだ。
「こっからは、トシとも大学と製菓学校で進路も違って……あんまり遊べなくなったけど……でもたまに利佳子に会えるの楽しみに頑張ったよ」
利紀と卒業後に立場的な距離はできた。
それでも、季節の行事のような時にはいつも一緒に過ごして写真も撮った。
製菓学校を卒業した時も、パティスリーに就職が決まった時も。
利佳子の家でパーティーをして、お祝いもして……。
その記念の時には、隆太朗と利佳子の写真があった。
少年が大人になっていく……と利佳子も思う。
「ごめん、ストーカーみたいだよね」
「そ、そんな風には思わないわ……でもずっと気付かずに私……」
気付かない……?
違う……いつからか、彼が来ることを楽しみにしていた自分が……いたような気がする。
お土産を買って帰れば、彼の笑顔に会える。
堅物で仕事命で弟を守ってきた利佳子ブレインの癒やしでもあった……。
「成長日記見るみたい?」
「……そう……そうね……そういう部分もある……でも」
「いいんだよ。そういう利佳子が好きだから」
抱き寄せられてキスをされる。
優しくて、子供じゃない大人の男の……胸のなか。
「利佳子は無自覚鈍感素敵お姉さんだから、俺いつ誰かに奪われるんじゃないかってヒヤヒヤしてたんだよ」
「もう……ずっと一人よ」
無自覚に……彼を想ってた?
これが恋という気持ちなのだったら……私はいつから彼に恋をしていたんだろう……?
ズキリ、と胸が痛む。
それに気付いたとしても……いえ、気付いたからこそ終わらせなきゃいけない。
「うん、よかった」
「ね! 付き合ってみたら、大した事ない女だって、もうわかったわよね? もう遊びは終わりなの……」
恋に気付いた焦りから、一気に言った。
もう、終わりにしなくちゃいけない。
そっと離れると、いつも笑顔の隆太朗の顔が寂しさでいっぱいの顔をした。
『これで最後』という話を始めた事に、隆太朗も気付いたのだ……。
「明日で終わりってこと……? だよね、やっぱり……」
唐突な本題。
隆太朗がタブレットの電源ボタンを押して、画面は真っ暗になる。
楽しい写真は消えて、真っ暗の画面に二人の顔が少しずつ映っていた。
心臓がキリキリと痛む。
でも、そこで利佳子ブレインを無理矢理に動かす。
最初から決めていた事だ。
「……そうね……そうよ」
「そっか……そうだよね」
傷ついた顔。
でもきっと自分も同じ顔。
「……当然だよね。俺はまだまだパティシエ見習いで、全然稼ぎも悪いし……」
「そんな……」
そんな事は関係ない。
そんな事、お金なんか関係ない。
ずっとずっと頑張ってわかったのだ。お金はきっと、なんとかなる。
言いそうになって、もちろん脳内で強制的に却下する。
「違うの……でも……ダメなのよ……」
「うん……わかってる……お見合いしてみたら、いいと思うよ」
ズキン! と心臓に衝撃が走った。
「……知ってたの? ……利紀ね」
「ごめん。利佳子の様子が変だったのと……トシもなんかメールで落ち込んでてさ、理由を俺が聞いたんだ」
余計な事を言った……と利紀の落ち込んだ顔が思い浮かぶ。
「……謝る事はないわ……お見合いっていうか……違うの。会わないわ」
「……でもイケメンで仕事も立派だったって聞いたし……」
「……りゅう……」
「会ってみたらいいと思う」
「……!」
隆太朗が言う言葉が胸に刺さる。
何故、刺さるのかわからない。
……なのに、痛くて苦しい……。
「……どうして、どうしてそんな事言うの?」
止められなくて、言ってしまった。
「……それは、俺は利佳子が好きだから、大好きだから幸せになってほしいから……」
隆太朗が下を向く。
いつも自分をまっすぐ見ていた瞳が、曇って下を向く。
「じゃあ、そんな事言わないで……」
「利佳子」
自分で言っていて矛盾してる。
関係をやめるって言ったくせに、何を言ってるのか……。
たかが、他の男と会ってみろと言われただけで……。
『こんなに利佳子に会えて喜ぶ男は、世界で俺だけでいいな』
あの時の言葉が胸を刺す。
「利佳子」
伸ばしてきた手を押しのけてしまった。
「いや……っ」
「聞いて、ごめん。俺嘘ついた」
「いいえ、いいの……私、もう帰るわ」
自分でもわけがわからない。
動揺を見られたくない。
帰ろうと立ち上がった。
すぐに隆太朗も立ち上がる。
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