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水曜日お家デート・その1
しおりを挟む繋いだ手は離れる事なく、隆太朗の部屋に着く。
「おじゃまします」
「はい、いらっしゃいませ! スリッパ、新品なのでどうぞ」
「えぇ! わざわざ!?」
「はい~だって、男連中はいっつも裸足になるからスリッパなくって」
そう言って、可愛らしいピンクのスリッパを出してくれた。
新築のマンションで、モノトーンの家具でまとめられた部屋。
独身用にしては、台所が広いことが決め手だったという。
朝から晩までパティシエ見習いとして働いているのに、家でもお菓子作りの研究をしているそうだ。
立派なオーブンは祖父母からのプレゼントらしい。
家族から大事に愛されている事が、飾られた家族写真からも伝わってくる。
そして部屋じゅう、良い香り。
「いい香りね」
「えへへ! ビーフシチュー作りました」
「まぁ、すごいわね」
つい年下部下を見るような上司目線で言ってしまった! と思う。
「褒められて嬉しい。利佳子ちゃん、あとでタクシー呼ぶから楽しんでってくださいね」
「そんな事まで気を遣わなくていいのよ」
まだ、どんな風に接したらいいのかわからない。
でもいつまでも仕事モードなのは疲れてしまうような気がした。
「あと、隆太朗君、敬語は遣わなくていいわ。自然に話しましょう」
隆太朗の顔が緩む。
「利佳子ちゃん……いいの? 嬉しいです……いや、嬉しい」
「あ、あと、そのちゃん付け!」
「うん?」
「ちゃん付けされるなら、まだ呼び捨ての方が……いいかも」
「じゃあ……利佳子」
「……~~~~んーーやっぱり……」
自分で言ったくせに、言われて恥ずかしくなってしまう。
「どっち? 利佳子ちゃん? 利佳子?」
「ど、どっちでもいいわ」
こんな事で動揺していてはいけない! と利佳子は冷静を装う。
「利佳子、ご飯食べよ?」
ぎゅっとまた両手を握られる。
利佳子がコートを脱ぐと、今日は白のニットを着ていた。
「あ……シチューで汚れちゃったりしないかな? あの……俺の部屋着で良ければ貸すけど、どうする?」
「このままでもいいけれど……」
「でもリラックスできなくない!? せっかくだし」
「……じゃあお借りしようかしら……」
「うん! 買って洗濯したばっかりだから」
「ありがとう、私も考えが甘かったわ。反省するわ」
また可愛らしくない事を言ってしまった……と利佳子は思うが隆太朗はニコニコしている。
洗面所で着替えるダブダブのスウェット。
隆太朗の匂いがする。
こんな体験は初めてだった。
「こんなの……こんなの……恋人……? これが……」
……利佳子ブレインは、この感情を処理できず保留にした。
「利佳子さんが……俺の……スウェット着てる……」
「おっきいわね」
「すごい……夢みたい……」
「え?」
「い、今から準備するね! 座ってて!」
そして、準備ができた利佳子を椅子に座らせて隆太朗はサササっと夕飯の支度をする。
テーブルフラワーも可愛い。
「とても素敵だわ……トシにも見習わせたい」
「えへへ、俺は利佳子さんの台所とか綺麗でセンス良くて見習ってたんだよね! この北欧ブランドは真似しちゃった」
「いやだわ、仕事ばっかりで台所なんか全然」
「全部素敵だよ、利佳子さん、利佳子ちゃ……利佳子は。さぁどうぞ」
利佳子の三段階呼び。
綺麗にもられたビーフシチュー。
オススメのパン屋さんのパン。
サラダにワイン。
「美味しい!!」
「ほんと? 嬉しい」
「すごいわね、圧力鍋?」
「そうそう。これインスタの男料理タケオのレシピでね! 簡単だけど美味いの!」
「あ、タケオって知ってるわ!」
利佳子も時短レシピなどを見るのは大好きだ。
美味しい食事に、会話も年齢差も感じなく楽しい。
いつの間にか緊張は解けていた。
弟の友達として、何度も会ってご飯を食べたりしてきた。
でも2人きりは初めて……でもなかった気がしてきた。
「そういえば、初詣は利紀が迷子になって……探しながら甘酒一緒に飲んだよね」
「そうだよ。その前のクリスマスパーティーでも、利紀の買い忘れたシャンパンを一緒に買いに行ったんだよ」
「あぁ、そうだわ」
「夏の花火でも、あいつ迷子になってくれてさ~」
「えっ!? なってくれてって……わ、わざとだったの!?」
「俺ずーっと好き好きアピールしてたけど、全く気付いてなかったもんねー……」
全く気が付いていなかった。
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